生きるとは一体。 作:ホットケーキで殺人
クラス代表は一夏に決まった。
俺とオルコットが辞退したことによる予定調和とも言える。
あのあと一夏とも試合をしたが、零落白夜がどれほどのものかと思い、斬られにいったら一撃で倒されてしまったからな。
辞退せざる得ないのだよ。
これにはシルバークローズも苦笑していたな。
千冬さんから通信簿の一撃を受けたが、流体ナノマシンのお陰で全然痛く無いので問題ない。
巫山戯るな、と憤慨する一夏に再戦を申し込まれているが、正直めんどくさい。
千冬さんの実戦なら死んでいるぞ、という言葉を使ったゴリ押しで黙らせておいた。
死人に口無し。
そうこうして一夏が渋々ながら代表を承認して席に着くと、オルコットがクラスメイトに対して謝罪を始めた。
要約すれば、日本を侮辱してごめんなさい、ということだ。
俺にも謝ってきたが、正直言ってその必要はない。
侮辱には侮辱を。
あの場でやったのはそれだけだ。
◇◇◇◇
マヌケが見つかったようだ。
恐らく飛行訓練の授業中に部屋に忍び込み、いろいろと調べようとしたようだな。
かんざっしーの方だけにしておけばいいものを。
俺のキャリーバッグを開けたのが運の尽きだ。
「……」
スヤスヤと眠る会長さんをかんざっしーのベッドへ移す。
代表であり当主であり生徒会長ともなれば、暇なのだろうか。
賢者の石に取り込んでもいいが、彼女の持つ専用機の処理が面倒だ。
今回は止めておこう。
既に主成分は分解されているはずだが、一応窓を開けて換気をする。
睡眠ガスが無くなってしまった。
また補充しなければならないが、学園では作れない。
困ったな。
とりあえず外出届けを出しに行こう。
◇◇◇◇
外出届けだが、条件を出された。
一夏と模擬戦をすることだ。
それも剣一本で戦えというらしい。
「どうして俺に剣を使わせようとするのです? オルコットとの戦闘では不十分ですか?」
「……弟の友人にこんなことは言いたくないが、お前はとても胡散臭い。
教官、教師としてそれなりにやってきた私だが、お前の考えていることは全く読めん。
だから行動から見極めるしかないのだ。
楯無の件もそうだ。
まあ、セリシアとの模擬戦で見せた剣は悪くなかった。
だがあいつでは力不足だ。
私が見極めたいところだが、せっかくなので男同士、全力を出して戦うといい」
剣は心を映す鏡、ってあの道場で言っていたな。
人間は見ないのだろうか。
「せめて短剣にしてくれません? 出来れば片刃の」
「……まあいいだろう」
これも外出のためだ。
万が一ダメだと言われても、No.7とNo.18を使えばどうとでもなる。
一夏へは千冬さんが伝えるとのことで、一足先にアリーナへ向かう。
「酷い武器だ」
まさか廃棄予定の打鉄のブレードを刀で斬って、これを使えと渡されるとは思わなかった。
確かに短剣で片刃だけどさ。
こんな取り回しの悪い即興品を渡されるなら、素直に竹刀で打ち合っていた方が良かったかも知れない。
「何だか悪いな、無理やり連れてきたみたいで」
「気にするな。 これくらいどうにでもなる」
試合開始のブザーが鳴る。
さあ、どこまでやれるかな。
◇◇◇◇
箒との訓練の成果なのか、それとも雪片弐型のリーチや零落白夜への恐れからか、中々踏み込めない。
何度か突きや斬撃を当てているが、相手の損害は微々たるものだ。
さすが元白騎士というべきか。
右から左への横薙ぎをスレスレで躱し、踏み込んで顔目掛けた刺突を放つ。
一夏が咄嗟に仰け反ったことで刃は届かない。
続けて刺突を放つと、体ごと後退していく。
間髪入れずに短剣を投げた。
「うぉっ!?」
意表を突けたようだが、雪片弐型で弾かれてしまう。
瞬間加速を使って弾かれた短剣を掴み取り、地面へ降りる。
仕切り直しだ。
「……凄いな。 どこで教わったんだ?」
「説明書を呼んだのさ」
『詳しく』
だが断る。
無駄口を叩きながら、再度切り結ぶ。
まあ打ち合う訳じゃない。
一歩後退したり、半身になったり、受け流して直撃を躱す。
千冬さんは刀身を斬ったが、柄には何もしていない。
短剣にしては長い柄が苛立ちを誘う。
そんな感情を乗せて突きを放ったのがいけなかった。
「そこだ!」
しくじったか。
一夏は一撃貰うことを承知で、零落白夜を発動させて斬撃を放つ。
スラスターを使って白式を飛び越えるように飛翔するが、胴体を浅く雪片弐型に斬られる。
随分多くエネルギーが持って行かれたな。
直撃して全損するのも頷ける。
『そこまで!』
千冬さんの声が響き、試合終了のブザーがなる。
時間切れか。
いやぁ、零落白夜は強敵ですね。
◇◇◇◇
外出許可が降りたのはいいが、面倒なことになった。
シルバークローズと俺は千冬さんのおかげで学園所属となっている。
だが、そう簡単に分かりましたと言えないのが世の常らしく、数多くの企業からうちに所属してくれ、という申請が来ているらしい。
俺がシルバークローズを受け取る前から、水面下で俺の専用機の開発をしていた企業も少なくないとか。
だが無意味だ。
整備を我が社で、という企業もいるらしい。
だが無意味だ。
整備なら俺一人で十分である、というか俺以外出来ない。
俺以外が近づくと球状に変化した装甲が機体を包み込んでしまって、弄れるのはカスタムウイングぐらいだ。
人見知りな妹みたいと整備科の先輩が言っていたが、どちらかと言えば犬か猫の類だろう。
どちらにも懐かれたことはないし、チャットとはいえ、内面の一部を知っている身からすれば、可愛げなんてものは存在しない。
「どこかへ所属しない限り、お前は狙われることになるぞ。
IS学園とて一枚岩ではない。
稼働データを公開すればいくらかはマシになると思うが……」
模擬戦で何かを感じ取ったのか、千冬さんの態度がどこか柔らかい。
まあどうでもいいことだ。
今来てる申請の中で、一番悪質なところを教えてもらう。
「……夢見工業だ。おそらく生徒に協力者がいるだろう」
明日のニュースが楽しみだな。
◇◇◇◇
「違うのよ簪ちゃん! これは、その、有機君の正体を掴むというかなんというか」
「……」
「気がついたら眠っていたのよ! 本当よ、本当なのよ信じて簪ちゃん!」
睡眠ガスは無色無臭で三分ほど時間を掛けて眠るように作られている。
暗部の人間なら三分もあれば異常を感知して逃げると思っていたのだが、意外だ。
さて、やはり会長さんとかんざっしーは姉妹らしい。
それにしても起きるのが早いな。
丸一日は寝たきりになるガスだったが、相手が暗部の人間となれば数時間しか持たないようだ。
当主ともなれば、毒物への抗体を持っていてもおかしくない。
かんざっしーの足にしがみつく先輩だが、冷たい視線を受けて泣きそうになっている。
無断で人のベッドを占領するからそうなるのだ。
しかも水着にエプロンという格好で。
蔑みを受けても仕方無い。
それにしてはどこか生暖かい目付きに見えるが。
「先にシャワー使ってもいいか?」
「……うん」
「待って有機君! あなたには謝罪と聞きたいことが──」
「私よりあの人がいいんだ」
「!? 違うのよ簪ちゃん! これはお仕事、いや親睦くぁwせdrftgyふ──」
訓練の時もそうだったが、中々愉快な人だ。
脱衣所で端末を取り出し、No.18とNo.7へ追加任務を与える。
お土産よろしく。
◇◇◇◇
俺への勧誘が大幅に減ったらしい。
八つ橋美味しいです。
国からの勧誘と自分達が誠実であると自覚しうる企業だけが残った、と千冬さんは言う。
まあお断りだがね。
それより正当防衛の上限を教えてほしい。
「殺しはダメだ。 五体満足で無力化するのが望ましい」
千冬さんは八つ橋を頬張りながらそう言った。
「無力化した数時間後に死んだ場合はどうなります?」
「……無力化した手段にもよるが、持病でもない限り過剰防衛になるだろう。 なぜこんなことを聞く?」
「なんとなくですよ」
明日は晴れ時々殺人、なんてね。
◇◇◇◇
日曜日となり、モノレールに乗ってIS学園の外へ。
今頃、部屋中にバラ撒いたナノマシン群が各所に仕掛けられた隠しカメラや盗聴器を無力化させているだろう。
既に設置場所は特定してある。
かんざっしーのメガネに仕込まれたものを除けば、今日で片付くだろう。
歩きながら周囲を探ると、護衛とも監視とも言える人間が五人ほどいるのが分かる。
ナイフやスタンガンなどを持った人間を見つけ次第、俺から遠ざけてくれているようだ。
そういうことしてるから俺を見失うんだがね。
工事中と描かれた看板とカラーコーンに囲まれているマンホールから下水道へと降り立ち、No.18に用意させた睡眠ガス発生装置や重金属刃、ラボにて生成したシルバークローズの予備装甲などを拡張領域へ仕舞っていく。
『これはいいものだ』
ISコアにもこれの素晴らしさが分かるようだ。
消臭用のナノマシンを使い、外へと戻って衣料品を買い漁っていると、何やら女性に絡まれた。
「これを運びなさい! 男でしょ!」
ちょうどカメラの死角だったので、左手で首を引っ掴み、右手で口を塞ぐ。
右手の平からブレードが飛び出し、女の前歯を粉砕しながら直進、喉へと突き刺さる。
先端部からナノマシンが流れこんでいく。
スリーカウントで生体組織が水分とその他の成分に分離し、衣服と粉末が床へと落ちた。
ちょっと臭うので衣服の棚を崩して埋める。
ハンカチで手を拭っておくことも忘れない。
まあ服屋で服に埋もれて死ねるのなら、店員としては本望だろう。
◇◇◇◇
モノレールを使い、IS学園へ戻る。
降りてすぐツインテール少女を見つけた。
既視感を覚え、訪ねてみるとなんと鳳鈴音とのこと。
中国代表候補生として転入するらしい。
「あんた変わった? なんか表情が読めないわね」
「無表情ではないはずだが?」
「そうなんだけど……なんか笑ってるけど笑ってないみたいな感じ」
「あぁ、しばらく前に顔の筋肉を一新したからな。 表情筋が前ほど馴染んでないんだろう」
「あはは! あんたにしては面白い冗談ね!」
◇◇◇◇
翌日。
鈴の転入は割と噂になっているようで、それは一組も例外ではない。
そこへ颯爽と現れる時の人、鳳鈴音。
昨日聞いていたが、二組の代表になったことを表明し、一夏へ宣戦布告をしている。
それを一夏に似合わないと言われて素に戻るあたり、変わらず単純な奴だ。
食い下がる鈴だったが、千冬さんに頭を叩かれ、退散してく。
SHRの始まりだ。
◇◇◇◇
食堂にてカレーうどんを食べる。
カレーラーメンにしなさいよ、と鈴に言われたが俺はうどんの方がいい。
ラーメンの具とカレーは合わない。
完全論破した俺は空いている席へ向かう。
鈴はラーメンの乗ったお盆を持ったまま一夏達を待つらしい。
恋心は伸びたラーメンさえも受け入れるというのか。
俺が席に着くと、ちょうど一夏達が食堂へと来て鈴と合流したようだ。
そのまま近くのテーブルに座り、あっという間に修羅場が作り出される。
誰が一夏にISを教えるか、という話らしい。
モテる男は辛いね。
俺なんかは専用機のお蔭で勝ったとか、オルコットの弱みを握っていただとか、そういう陰口ばっかりだぜ。
そういう奴らには、俺に代わってNo.18とNo.7がお仕置きよ。
親族共は死体すら残るまい。
二人には仕事を与え過ぎかな?
まあその日のノルマさえ終えれば好きに観光なり休むなり言ってあるし、バイタルに異常はないから大丈夫だと思うが。
そんなことを考えていると、一夏がおもむろにお盆を持って席を立ち、俺の座っているテーブルへ来た。
「どうした?」
「どうしたもこうしたもあるか……最近付き合い悪いぜ?
というか助けてくれ」
「一人選べば済む話だろう」
「選ぶって……でもなぁ」
「ちょっと一夏! せめて一言言ってから立ってよ!」
「そうですわよ!」
「そうだぞ一夏!」
三人が追いついてきた。
まあすぐそこだし当然か。
「待てって、落ち着けって。
有機だって友達なんだ、一緒に食べたっていいだろ?」
「……まあ鬼道なら」
「むしろ一緒ではないことに驚きですわ」
「自分から混ざらないのは変わってないわね」
騒がしい食事は嫌いなんだけどな。
食事は、なんていうか。
そう、誰にも邪魔されず、自由じゃなきゃいけないのだよ。
まあ手遅れみたいだが。
「俺のことは気にしなくていい。
で、一夏は誰にするんだ?」
「いや、皆で訓練すればいいだろ?」
「私一人で十分だ!」
「あたし一人で十分よ、この二人より強いしね!」
「……」
箒と鈴同様反論すると思っていたオルコットだが、何やら考え込んでいる様子だ。
「セシリア? セシリアはいいのか?」
一夏がそう聞くと、オルコットは顔を上げた。
「いえ、遠距離武器への対応は──私より有機さんの方が適役かも知れません。
もちろん、私も協力は惜しみませんが」
「有機が?……あぁ、そういえば全然当たってなかったな。
コツでもあるのか?」
「あたしも試合映像見たわよ。
あれどうなってるのよ」
「……私も不可解に思っていた。
専用機とはいえ、乗って間もない機体でああも簡単に躱せるものなのか?」
生身で出来ることはISでも出来る。
が、生身で銃弾が躱せるといっても信じないだろうな。
となると……理攻めか。
「理論上のことを言うなら、射線と射手の視線、射撃姿勢を崩すのが重要だな。
ISのハイパーセンサーを使えば、理論上は三百六十度に狙いを付けることが出来るが、それで動く相手に当てられるかと言えば難しい。
その辺はオルコットが詳しいだろう」
「えぇ、両目で捉えて、射撃姿勢を保ちながら撃つのが一番命中率が高いですわね」
「このように、ISは機械としては優秀だが人間が追いつけていない。
付け込む隙はそこにある」
「へぇ、有機は理論派なのね」
「視線っていうのは分かりやすいな」
「一理あるが、あの空中起動は一体どうやって……白兵戦闘は文句無しだが」
「言ってることは正しいのですが、どこか納得出来ませんわね」
四人は三者三様の反応を見せる。
一部疑惑の芽が芽吹いているのは少々頂けないが、俺は一応とはいえ数少ない男のIS適合者だ。
まともじゃないのは周知の事実。
受け入れられるかは時間が解決してくれるだろう。
「有機も訓練に付き合ってくれよ」
「暇だったらな」
手早くカレーうどんを完食し、残っていた水を飲み干してお盆を手に席を立った。
そんな俺を見た後に時計を見て、四人が慌てて昼食を食べ始める
時間は有限だ。
◇◇◇◇
重金属刃の実験がしたいが、生半可な施設では甚大な被害が予想される。
ISを穴だらけにするために作った装備だから、IS学園で使うこと自体間違いとも言えるが。
この学園の整備室、実験室の強度では耐えられまい。
予備の重金属刃を人間が持つようにデチューンし、シルバークローズの拡張領域に入れておくとしよう。
整備室のログを消して置くことも忘れない。
まあ素材の希少さから情報が漏れたところで作れるかどうかは疑問だが。
さて、これでISが使えないような閉鎖空間でも何とか戦えるだろう。
計算通りの威力なら一撃で建物が崩れるがね。
興味を持ったかんざっしーに、自衛目的ならISで十分では?と聞かれたので、懇切丁寧にこの重金属刃の素晴らしさを語る。
「こいつの比重は鉛の3倍、硬度と弾性を最高のレベルで両立した、
重金属のチューブ構造結晶の刀身を持っている。
刃の代わりにこれまたスペシャルな重金属が貼り付けてあり、
衝撃で爆発し1000℃を超える熱と針状の結晶破片を斬撃の軌道上に飛散させ、
当たりさえすれば刀身の長さを超えて対象を2つに斬ることが可能だ。
絶対防御はもちろんのこと、
宇宙衛星やスペースシャトルなら両断は出来ずとも穴だらけに出来るだろう。
どんな名刀も使い手が未熟ではナマクラとかいうが、
俺からすれば人が刀に合わせること自体愚かなことだ。
人が刀に合わせるのではない。
刀を人に合わせるのだ。
この刀に求められるのは刃を当てることだけ、まさしく究極の刀というわけだ。
この優れた元素達をナノマシンで繋ぎ合わせた一品、言うなれば星の刃と言える。
スターブレード!
いい響きだ」
いくつか理解出来るところがあるのか、かんざっしーの目が光る。
高周波ブレードの魅力を語ってきた。
あれはいいものだ。
ほう、ライトセイバー?
映像資料もある?
それは楽しみだ。
◇◇◇◇
饒舌を披露したことで喉が乾いたので自販機へ向かう。
すると目を腫らした鈴が一夏の部屋から出てきた。
昼はあんなに賑やかだったのに、落ちるのが早いな。
まあセカンド扱いじゃ険悪にもなるのも仕方あるまい。
俺も旧型、二番手とNo.3にからかわれることがあった。
だからぶっ殺したんだが……鈴が一夏を殺すなんてことはまずありえんだろうな。
愛があると殺せなくなるのか、面倒だな。
「有機……ごめん、ちょっと愚痴聞いて」
「だが断る」
なんでよー!と言って追ってくる鈴が聞いてもいないのに愚痴を吐き出していく。
やはり酢豚だったか。
弾が一応伝えていたはずだが、奢る方に曲解するとはな。
奢ってもらった飯ほど不味いものはない。
「……あんなに頑張ってきたのに。 学園まで来て……」
粗方愚痴を吐き出すと、今度は悲しみが表に出てくる。
お涙頂戴は天然もの同士でやって欲しいものだ。
人工的に培養された俺には荷が重い。
約束自体は覚えていてもらったことを思い出したのか、鈴は気持ちを切り替えた。
あの時、一夏が耳にイヤホンを差していたことは話さない方がいいな。
「聞いてもらってスッキリしたわ、ありがと! またね!」
次はない方がいいんだがな。
◇◇◇◇
武器の元ネタはパワポケ11の犬井より。
まあ冗談らしいですが。