生きるとは一体。 作:ホットケーキで殺人
No.18とNo.7の任務が完了したようだ。
あの二人はドラマやマンガと違って対象を取り逃がすということがない。
一度の襲撃で必ず殺し、形跡を残さず撤退しているから、二人の情報が拡散せず、スムーズに事が運んだのだろう。
特にNo.7の監視カメラへの工作や目撃者の始末などには目を見張るものがある。
後天的に身につけたものだと思うが、一体どこで……映画だと?
ハリウッドも馬鹿に出来んな。
さて、新しい戸籍とのどかな田舎に新居を用意してある。
そこでのんびり過ごすといい。
まあ数十人の役人を消す為に数百人を殺したのだから、事件そのものは残り、これからも調査や警戒がされるだろう。
やがてはあの二人や俺という人物に辿り着くかも知れないが、その時は日本をドンパチ賑やか盛り上げてやればいいさ。
男が乗れるISレベルの兵器をばら撒くってもいいかも知れんな。
◇◇◇◇
クラス対抗戦が始まった。
一夏対鈴という、どこか悪意めいたものを感じる第一試合だ。
アリーナの観客席には満員という程ではないが、それなりに来賓が詰めかけている。
こいつらを一掃した時、世の中にどれくらいの混乱を引き起こすことが出来るのだろうか。
まあ大した結果にはなるまい。
どうせやるならもっとド派手にやるべきだ。
国連会議とかな。
「一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」
「そんなのいらねえよ。全力で来い」
オープンチャンネルで二人の会話が聞こえてくる。
ISの絶対防御も完璧じゃない、だって?
そんなのは周知の事実だ。
試合開始のブザーが鳴り、二人は動き出す。
双方の武器がぶつかり合う。
距離を取ったところで一夏君吹っ飛ばされたー!
おや、形態端末にシルバークローズからのメールだ。
中身は鈴の機体について。
あの機体は甲龍というらしい。
燃費と安定性を重視、か。
夢のない機体だな。
だが見えない砲撃というのは中々面白い。
攻めあぐねていた一夏だが、ふと何かを思い出したような仕草をした途端、砲撃を躱し始めた。
まあ視線の先に砲撃が来ると分かれば、躱すのは簡単だ。
一夏は本気を出すと宣言し、瞬間加速で甲竜へ迫る。
とりあえず零落白夜を当てれば勝ちが見える、そういう戦況を常とする一夏と戦うのはそれなりのプレッシャーがある。
約束がどうとかで感情がごっちゃごっちゃの鈴にはきつい相手だろうな。
おや、またシルバークローズから着信だ。
『警告、衝撃にそななn』
何やら手元が狂ったようなメールが来たなと思ったら、文字通りアリーナに大きな衝撃が走る。
遮断シールドをぶち抜くほどのレーザー、束さんだな。
おっとまた着信だ。
『無人機の先制攻撃だべ!』
当たってないぜ束さん。
だが楽しそうで何より。
生徒達が耳鳴りのしそうな甲高い悲鳴を上げ、我先にと出口へと殺到する。
席が空いたので、最前列へと向かう。
「ダメだよゆっきー! 逃げなちゃ!」
袖を余らせた生徒が俺を引き止める。
感動的だな、だが無意味だ。
逃げる気が無いのに逃げす為に動くとかマジナンセンス。
誰かの食べかけのポップコーンを拾い、最前席へ向かう。
ブラックペッパーか、いいセンスだ。
無人機がこちらに砲門を向けてきた。
お前もブラックペッパーの良さが分かるようだな。
放たれたレーザーを跳躍して躱す。
席から席へと跳び跳ねるのは中々爽快だ。
足場にした席が蒸発していく。
さすがは兎印のレーザーといったところか。
数年前に足を取り替えていなかったら避けられなかっただろうな。
何やら箒が叫んでいるようだが、忙しくてよく分からん。
『すまん有機! そのまま引き付けてくれ!』
一夏からのプライベート通信がかかって来た。
通信は出来るのにチャットが出来ないというのは少々残念だな。
それに引きつけているつもりは無く、間接的な束さんとのスキンシップみたいなものなんだが。
無人機は龍砲を使って加速した一夏に切り伏せられ、活動を停止、爆発した。
巻き込まれた一夏がぶっ飛んでいるが、まあ大丈夫だろう。
負けたら爆発。
さすがは束さん、様式美を分かってらっしゃる。
◇◇◇◇
クラス対抗戦は中止になった。
負傷した一夏は英雄!
共闘した鈴も英雄!
叫んだ箒はヒロイン!
無人機の注意を引きつけた俺は変人。
そういう認識が広まっているらしい。
事情聴取を受けた際、人外めいた身体能力を追求されたが、千冬さんを例にして押し切った。
同じこと出来る人間がいるのに、俺だけ妙な扱いをされるのはおかしい。
天然ものの人間と俺とでこんなにも思いが違うとは思わなかったよ。
スタントマンだってきっと同じことが出来るぜ。
◇◇◇◇
シャワーを浴びていると、急に目がおかしくなった。
視えない。
真っ暗だ。
体内の余剰ナノマシンを目に集中させて、ようやく見えるようになった。
安心したのも束の間、目眩が襲ってきた。
そして吐血!
なんてことだ。
体内のナノマシン群を使って体を調べてみると、どうも胃に異常があるようだ。
潰瘍している部分があるな。
割と万能なナノマシンだが胃を治すのは難しい。
ナノマシンは胃酸に対して無力なのだ。
粘液の分泌量を増やしたり、消耗するのを承知で粘膜代わりに使うしかない。
いっそ胃を取り換えるか……考えておこう。
しかし、目と胃が同時に機能不全とはな。
シルバークローズの生体維持機能も、劣化までは止められないのか。
ここ数年は劣化も無かったから、もしやと思っていたが……。
今や俺に残された生体組織は、ナノマシン集合体で作られた部位より少ないのかも知れない。
束さんが悲しまなければいいが。
かんざっしーが俺の目を見て驚いている。
どうしたのか聞いてみると銀色らしい。
余剰ナノマシンの輝きだな。
ちょっとした遊び心で、目を光らせてみる。
かんざっしーが怯みを見せた。
「くっ、凄まじいパワーを感じる」
実際は0+ナノマシンなんですけどね。
さて、どうしたものか。
◇◇◇◇
「ゆーくんおひさー」
二度目の夢に現れた機械仕掛の兎さん。
これは運命ですかな?
「必然ですぜ!」
またも電脳世界へ引きこまれたらしい。
無人機壊れちゃって残念でしたね。
「あれは使い捨てみたいなものだから問題ないよ!
こっちも迷惑掛けちゃってごめんね。
ゴーレムがゆーくんのことを敵性兵器と認識しちゃったみたいでね。
止めようと思ったんだけど、
まさかISを使わずに躱し続けるとは思わなかったから見入っちゃったよ。
いっくんもゆーくんも恰好良かった!」
直線的な射撃を躱すだけならISは必要ない。
というか躱せなかったら俺もう死んでるからな。
あの時殺しといて良かったぜ本当。
「ところでゆーくん、体は大丈夫?」
ついさっき視力を失いましたぜ。
「え?」
そして血を吐いた。
「──そんな馬鹿な!
シルバークローズにはゆーくん用に調整した常時発動型の生体維持機能があったはず!
ここに来ている時点で同期だって完璧なはず! どうして!?」
テロメアがやばいんだよね。
健全なテロメアを新品のポッキーに例えるのなら、俺のテロメアにチョコなどない。
受精卵の状態から三週間で五歳児レベルまで急速成長した反動なのだろう。
結局のところ寿命ってやつ?
「ダメだよゆーくん、諦めたら!
束さんは諦めないよ、ゆーくんには長生きしてもらうんだから!」
束さんは優しいな。
「そう思ってくれるのはゆーくんとくーちゃん、
いっくんにちーちゃん……いやちーちゃんは違うか。
箒ちゃんは……箒ちゃん……箒ちゃーん!」
いつの間にやら現れた夕日に叫ぶ束さん。
その後ろ姿はどことなく哀愁を誘う。
「とにかくゆーくん、待っていてね!
必ず助けてみせる!」
とか言っておきながら手に持ってるのは何ですか?
「ふふふ、今回は体調が悪いみたいだから見逃してやろうサトシ、いやシルバー!
だが忘れるな!
私のスピアーにはがむしゃらと電光石火、そして気合のタスキがあることを!」
マジかよ、俺のポッポと同じ構成じゃないか。
◇◇◇◇
見える、見えるぞ!
どうやら感度は良好なようだ。
ISに合わせたナノマシンが俺に適応するか不安だったが、こうしてみると冒険してみて正解だったな。
さすがはドイツの科学力だ。
常時発動していると目への負担が大きく、視力を失うらしいが、ナノマシンに慣れている俺にとって出力を調整することなど容易いことだ。
そんな俺の金眼デビューは無人機との大立ち回りもあってか、中々好評なようだ。
レーザーで目をやられた、という設定も中々受けている。
まあ半数以上は冗談だと分かっているようだがな。
レーザーがあの距離で拡散する訳ない。
「諸君、おはよう」
織斑先生の登場で教室が静まり、皆が席に着く音が聞こえる。
今日からは本格的な実践訓練をするらしい。
「それでは山田先生、ホームルームを」
「は、はい!」
織斑先生の話が終わり、ホームルームが始まる。
「今日は転校生を紹介します!しかも二名です!」
クラスメイト達がざわつき始めたが、転校生が入ってきたことで静かになる。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。
この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
中性的な顔立ちで鮮やかな金髪を後ろで束ねた転校生だ。
情報にあったバストがないように見える……制服の下に細工をしているのか。
間を置いてクラスメイト達の歓喜の叫びが上がり、十秒程続いたそれを織斑先生が静めた。
似たような顔をした生徒なら、他の組や先輩達の中にいるだろうに。
「挨拶をしろ、ラウラ」
「了解しました、教官」
続けて自己紹介をするのはドイツ産の強化遺伝子試験体のラウラ・ボーデヴィッヒだ。
織斑先生を教官と呼び、従っている。
それ以外はどうでもいい、といった様子だ。
「ぶべっ」
乾いた音と重なるようにして、一夏がマヌケな声を上げた、
ラウラに叩かれたのだ。
「私は認めない。 貴様があの人の弟であることなど認めるものか!」
そう言い放ち、ラウラは次に俺の方を向いた。
赤い右目を大きく見開いている。
それが何を意味するかはよく分かる。
俺の両目が羨ましいのだろう。
「貴様、その目はッ」
「ふふふ。
俺の、何だって?」
「──座れ、ラウラ」
「ハイ、教官!」
ラウラは何か言うより早く、千冬さんに命じられて彼女は去っていった。
千冬さんの命令には絶対なようだ。
まるで犬だな。
首輪はされていないようだが。
まあこのサイズなら問題ないだろう。
◇◇◇◇
トラブルはあったものの、ホームルームは終わった。
一夏が頬を抑えていることを除けば、だ。
「織斑、それと鬼ど……あー、いやなんでもない。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
なんで俺の方を向くんですかね。
まあ仕事が無いに越したことはない。
「有機、一緒に行こうぜ」
「だが断る。俺はもう下に着ているからな。制服を量子化すればそれで終わりさ」
「いや、でも数少ない男子だぜ?」
「悪いが妖精の相手をする気はない。 奴らは嘘吐きだからな……二人で仲良くやってな」
「あ、おい!」
立ち去る際、シャルルの顔が青ざめているが見えた。
妖精云々が通じなかったら恥ずかしかったが、どうやら通じたようだ。
最近でははっきり女性、男性と描写されがちだからな。
光球に羽ぐらいが丁度いい。
さて、俺は政治に興味はない。
データが欲しければ一夏だけにしておけ、とラファールに送っておこう。
もっとも、シルバークローズは俺の体と同じで、検査やハッキングに対して偽の情報を送るように設定されている。
おまけに俺以外の整備を受け付けない。
まともなデータが取れるとは思えないけどね。
あぁ、全身のレントゲンだけは勘弁な。
右腕のブレードが映っちまう。
◇◇◇◇
ラファール・リヴァイヴが構えるグレネードランチャーから放たれた榴弾が、鈴とオルコットを吹き飛ばした。
元代表候補生というだけあって、山田先生の練度は高い。
専用機持ちが撃墜されたのを見て、多くの生徒たちが呆然としている。
機体のスペックだけが全てではない。
そういうことを教えるための模擬戦なのだろう。
それにしたって二人の連携は酷かったな。
『全くお笑いですな』
おっとシルバークローズも苦笑している。
まあ俺も二人の立場であれば連携なんてしないだろうがね。
「では専用機持ちをリーダーに、分かれて実習を行う。 速やかに移動しろ」
千冬さんの指示を受けて、生徒達がそれぞれの専用機持ちのもとへ向かう。
「ゆっきーよろしく~」
「よ、よろしくお願いします」
どうも気弱そうな女子集団が俺の元へ集まってきた。
まあ強気だったり活発な女子は一夏やデュノアに向かうからな。
こうなるのもある意味当然か。
「馬鹿どもが! 出席番号順に一人ずつ班に入れ! これ以上もたつくのならば延々と走らせるぞ!」
千冬さんの怒鳴り声を受け、女子生徒達が慌てて並び直していく。
ある者は喜び、ある者は落胆している。
『無常なり』
さて、実習の始まりだ。
一人ずつ打鉄を使って装着、起動、歩行をさせる。
もたつく生徒がいたので、俺なりのアドバイスをする。
「目を閉じて十頭身になった自分をイメージしろ。さあ歩け」
「……歩けたけど何だか釈然としない」
「それがISだ十頭身」
「私は十頭身って名前じゃないわよー!」
ノリが良くて結構。
◇◇◇◇
午後からは午前に仕様したISの整備実習の時間だ。
整備といっても、これといった損傷もなく、バラしてまた組み立てるようなものだが。
まあ気負う必要は全くない。
無理に職人になろうとなんてしなくてもいい。
マニュアルを見ながらどこにどの部品を使うのか確認しながら作業をすれば、整備なんてものは誰にでも出来る。
不器用だというのなら、マニピュレーターとAIに指示だけ出していればいい。
そういう説明をすると、実習というから夜更かしして勉強したのが馬鹿馬鹿しくなったようで、
女子生徒達は和気藹々と整備に取り掛かっていく。
これが自主性の尊重というやつだ。
ドイツの方も似たようなことをやってる。
放任っぽく見えなくもないが。
まああのISに仕込まれているものを考えてみれば、他人と関わりたくないというのも頷ける。
「さすがですね教官」
「……何が言いたい」
「教え子なのでしょう? あの欠陥品……いや、兵器か。 先生もモノ好きですね」
「あれは人間だ。お前だって人間だ。それを間違えるな」
本当に人間ならここでお涙だぜ。
観客席の防壁が展開されないのは仕様です。