生きるとは一体。   作:ホットケーキで殺人

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 午前の授業が終わり、昼休みになると一夏に昼飯を誘われた。

 シャルルの歓迎会も兼ねているらしい。

 

「ほう、妖精が何を食べるか興味が湧いてきたぞ」

  

「まだ言ってるのか? というかなんで妖精?」

 

「待って一夏! いいんだよ! 僕はいいんだ、気にしてないから!」

 

 箒、鈴、セリシアと合流し、屋上へ向かう。

 イメージしていたカビと鳥の糞だらけの屋上と違い、清潔感溢れる庭園めいた場所となっていた。

 これの管理は大変だろうな。

 箒が弁当を広げ、鈴がタッパーを取り出し、セリシアはバスケットをあざとく掲げる。

 この三点が作り出すトライアングルに一夏は囚われてしまった。

 可哀想に、善意で包囲されるとは。

 銃口を向けられるより辛いだろうな。

 

「有機君、それで足りるの?」

 

 購買のパンを順調に食べ進めていると、シャルルが声を掛けてきた。

 俺の体は機械組織が増えたせいで、ぶっちゃけもう生体組織から作るエネルギーだけでは足りない状況にある。

 結果、特定の有機物を賢者の石を介して分解、抽出、合成して作ったエネルギーパックを一日二回摂取する必要があるのだ。

 逆に言えば、それさえ摂取していれば食事の量は問題にならない。 

 例えコッペパン一個だとしてもだ。

 胃を休ませる必要もある。

 

「あぁ足りるとも。 むしろシャルル君は思ってたより食べるようだね。

 その細さからして、食事制限でも掛けているのかと思っていたよ」

 

「あはは、それはさすがに辛いというか無理だよ。

 それにまだまだ成長期だからね。

 ちゃんと食べなきゃ大きくなれないよ」

 

「これ以上大きくなるのか? それでは胸が苦しくなるな」

 

「む、胸っ!? あ、いや、そうだね。 服のサイズとか大変だね」

 

「……ブラジャ」

 

「しゃ、シャツとかね! 胸板とか憧れちゃうよ!」

 

 胸筋を鍛えるとバストアップにもなる、とは言わないでおこう。

 ちょうど鈴がこちらへ向かってきた。

 

「ほら、有機にもあげるわ。パンだけじゃ力が出ないわよ」

 

「残念だが箸がないで遠慮するよ」

 

「じゃああたしの使いなさいよ」

 

「間接キスで一夏に嫉妬でもさせるつもりか?

 やめておけ、男はベロチュー以外には振り向かん」

 

「べ、ベロチューってあんた。

 そういうことを言うのならもう少し顔に出しなさいよ。

 この前の実習で何も感じなかった訳?」

 

「俺が性欲を感じるとしたら特殊な薬品が必要になるな。

 そういう風に出来ている」

 

「……自分を物みたいに言うのは変わってないのね。

 ほら、あたしは気にしないからちゃっちゃと食べなさい」

 

「では遠慮無く」

 

 白飯に合いそうな味付けだ。

 むしろ白飯がないと濃すぎるな。

 白飯を用意すると尚良と伝える。

 

「あー、やっぱりそうよね。 ありがと、参考になったわ!」

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

「一夏!?」

 

 想い人の悲鳴を聞いて、鈴が一夏の元へと向かう。

 原因はセリシアのサンドイッチか。

 手間の掛からないサンドイッチが不味く出来るということは、そこに確かな悪意がある。

 暗殺指令でも受けて毒でも盛ったのかな?

 まあ一夏には飲むナノマシンブルーベリー味を渡してある。

 そう簡単には死なないさ。

 

「……凄いね」

 

「あぁ凄まじい。 凄まじい悪意だ」

 

「あ、そっちじゃなくて、いやそっちも凄いんだけど、鈴とのやり取りがだよ」

 

「鈴との?」

 

「うん。 なんか親友って感じがして。

 女と男の友情って成立しないと思ってたんだけどね」

 

「親友、か」

 

 それこそ男の女の友情と同じぐらい成立しないと思うけどな。

 おっとシルバークローズからメールだ。

 

『同意』

 

 お前には同意して欲しくなかったな。

 

◇◇◇◇

 

 放課後。

 一夏に誘われて、アリーナへ向かう。

 正直腹、というか胃が凄く痛いので動きたくないが、診察されて病院に輸送されたら非常に面倒だ。

痛覚を断てば気にならないが、それでは胃の状態が分からなくなる。

 今日は耐えるしかない。

 

「何故こんなところで教師など!」

 廊下を歩いていると、何やらドイツ軍人の声が聞こえてきた。

 話からして、千冬さんにまたドイツで教官をやって欲しいようだ。

 となると俺が通り抜けても問題ないな。

 俺の問題じゃないし。

 

「ここの生徒はISをファッションかなにかと勘違いしている。

 そのような程度の低い者たちに教官が時間を──」

 

「そこまでにしておけよ、小娘」

 

 千冬さんの睨みつけるは、攻撃力どころか素早さまでガクッと下げるからな。

 後に響くぜ。

 

「止まれ鬼道」

 

 ラウラの後ろを通り抜けようとすると呼び止められる。

 二段階下がった素早さでは逃げ切るのは無理か。

 

「約束があるんですが」

 

「いいから止まれ……ラウラ、お前はいつの間に随分と偉くなったな。 十五歳で選ばれた人間気取りとは笑わせる」

 

「わ、私は……」

 

 ラウラ越しに、千冬さんから目を通じて何やら伝わってくる。

 まあ意味なんて分からんが。

 シルバークローズの拡張領域内にて死蔵していたウサミミを取り出し、ラウラの頭に乗せてみる。

 消沈気味に俯いているラウラはそれに気がつかない。

 目の前で見ていた千冬さんは、口元を引き攣らせている。

 

「うっ、ふくくっ」

 

 見た目からはイメージ出来ない声が漏れている。

 以前一夏が言っていた、日常生活ではズボラというのも間違いではないのかも知れない。

 

「しかし教官、私は、うっ!?」

 

 ラウラが顔を上げた瞬間、凛々しい顔へと戻るのはさすがといったところか。

 だが、揺れたウサミミを見てくわっと目が見開いている。

 それに気圧されたように怯むラウラ・ボーデヴィッヒ。

 その動きに連動して揺れるウサミミ。

 崩壊していく千冬フェイス。

 ウサミミにこんな効果があったとは驚きだ。

 結構やばい感じに引き攣った千冬さんの笑顔を見て、ラウラはそこに本気の怒りとやらでもイメージしたのか、逃げるようにその場を去った。

 

「……ん?」

 

 が、数歩進んで頭部の違和感に気がついたのか、ラウラが立ち止まる。

 俺は逃げた。

 千冬さんも逃げた。

 アリーナで叱られることになったが、何かを思い出してニヤニヤしていると一夏が指摘したことで千冬さんが抜刀。

 白式と生身で打ち合うとは。

 さすが世界最強だ。

 あの動きは脳にインストールしても再現出来ないだろうな。

 せっかくアリーナまで来たので、ISを展開する。

 変化させた装甲を使って擬似的なワイヤーブレードとして操作する。

 これが中々面白い。

 しばし楽しんでいると、ブルーティアーズが降下してきた。

  

「……有機さん、少しよろしいかしら」

 

「おやオルコットさん。 どうかしたのか?」

 

「さ、さん? 呼び捨てて貰って構いませんわ。 私に勝ったのですから」

 

「自分を敗者と思っているのなら、勝者にどうこう言うのはおかしいなぁ、オルコットさん」

 

「くっ、的確に私のプライドを刺激しますわね。 ですが乗りませんよ」

 

「おやおや、それでは祖国の民衆に示しが付かないな」

 

「ふ、ふふふ。 乗りませんよ、乗りませんよ挑発には!」

 

「で、結局何の用だ?」

 

「……実は──」

 

 偏光射撃についての相談だった。

 シルバークローズはレーザーとは無縁の機体だが、装甲の変化が偏光に繋がるものがあれば、と思ってのことらしい。

 情報によれば、ブルーティアーズの偏光射撃は最大稼働時に可能とされるようだ。

 これはオルコットも分かっていることだろう。

 

「余り言い触らさないで欲しいことだが、この装甲はナノマシンと金属の合金で出来ている。

 ナノマシン操作に慣れた俺だからこそ、スムーズな変化が出来るようなものだ」

 

「ナノマシンを……もしや何か持病がお有りですの?」

 

「体の半分以上がナノマシンと言ったら信じるか?」

 

「さすがにそれは……いえ、もしそうだとしても、私は驚きませんわ」

 

「まあそんなことはどうでもいい。

 このISの稼働率はPICやスラスター以外にナノマシン操作によって変動する。

 同様に、ブルーティアーズの稼働率もピット操作や射撃によって変動するはずだ。

 必ずしも命中させることが全てではないだろう。

 偏光すれば当たるような射撃、偏光すればより有効な牽制になるような射撃等々。

 まあこの辺りは俺が言うまでも無く、分かっていることだと思うがね」

 

「そうですわね……ですが、勝者からの肯定というのは心強いものですわ。

 やる気が出てきましたわよ!」

 

 そう言って、ブルーティアーズは飛び去っていった。

 ワンテンポ遅れてシルバークローズへ送られてきた感謝のメッセージを思念操作で削除する。

 勝者から肯定、か。

 俺の知る肯定は実験成功を意味するものだ。

 敗者は処分される。

 それだけのこと。

 君達は恵まれているな。

 失敗しても、死なないのだから。

 

◇◇◇◇

 

 自室へ戻る道中、一夏から通信が掛かって来た。

 部屋に呼ばれたのでそこへ向かう。

 デュノアと同部屋になったと聞いたが、ボロでも出したのか?

 入室すると毛布で体を隠したデュノアがいた。

 

「あの三人を呼びたくなってきたな」

 

「待ってくれ有機! そんな恐ろしいことを言わないでくれ!」

 

 一応、修羅場を想像することは出来るみたいだな。

 問題はそうなってもに気がつかないことか。

 

「それで、俺を呼んだのは何の用だ?」

 

「あぁ、実は、その、落ち着いて聞いて欲しいんだが──」

 

「いいんだよ一夏、多分有機君はもう気づいている」

 

「そうなのか?」

 

「あぁそうだ。 そいつが女の体に男の心を持っているという話だろう?」

 

「ちょ、違うよ! 僕、いや私は女の子だよ!」

 

「そうやって自分を抑えるのはさぞかし辛かっただろう。

 大丈夫だ、そういう女性の団体が世の中には幾つもある。

 きっと優しく受け入れてくれるさ」

 

「い、一夏ぁ……一夏は信じてくれるよね? 僕女の子だよね?」

 

「あ、あぁもちろんだ。 俺は信じる」

 

 見つめ合う二人。

 俺はしばし間を置いてから拍手をした。

 我に返って赤くなる二人、青春だね。

 

「それで本題は? あぁ、昼ドラチックな中身なら話す必要はない。

 二度手間だからな。 何をしたいのかハッキリ言え」

 

 一夏は学園の特記事項を使うつもりらしい。

 原則的に外的介入が許可されない環境を利用し、学生の内は安全だという案だ。

 

「碌でもない親のために不幸になる必要なんてない! ここにいろ、シャルロット!」

 

 よくまあそういう文面が思いつくものだ。

 姉と二人で生きて来ただけあるというものか。

 シャルロットの方も嬉しそうだ。

 一夏が言葉を付け足していく。

 俺にデュノアの正体がバレないよう協力して欲しいとのこと。

 

「結局のところ現状維持か。 それで満足か?」

 

「満足っていうか……俺にはこれぐらいしか思いつかなかった」

 

 シャルロットの方へ視線を向けるが、これと言った意思表示はない。

 一夏の案に賛成といったところか。

 

「個人の策が組織に通じることは少ない。

 お前はデュノア社にIS学園という組織で対抗することにしたが、それでは温い。

 もっとシンプルで確実で猿でも分かる方法がある」

 

「それって一体?」

 

「焼き払うことだ」

 

◇◇◇◇

 

 結局、一夏とシャルルから賛同を得ることは出来なかった。

 シャルルを救う話をしているのに、会社の人間も死なせたくないなどとは贅沢な話だ。

 ラボの主砲であり潜行の主軸とも言える、七連装回転式レーザー砲で蒸発させてしまえばそれで終わりだというのに。

 悪は滅び、悲劇のヒロインが救われる。

 ヒーローであるレーザー砲は無機物なので、面倒な後始末に関わることもない。

 何の問題があるというのか。

 いや、問題だらけなのは分かってる。

 だがどうせ問題になるなら、派手なものを選びたいものだ。

 

 まあ結局殺るんだけどな。

 賛同が無いからと言って、止める理由にはならない。

 殺るのが俺なら、殺ると決めるのもまた俺なのだ。

 レーザー砲は使わんよ。

 趣味で作ったドロイドが暴走して自爆するだけさ。

 

 部屋へ戻ると、何やら神回がどうとか興奮した様子でかんざっしーが特撮を勧めてくる。

 タイミングが悪いな。

 だがまあ、彼女に勧められたSF映画からドロイド制作の決めたのも確かだ。

 今日は付き合うとしよう。

 だがその前にドライヤーを改造して作った電磁波照射装置でいろいろ処理しないとな。

 俺の制服ならともかく、かんざっしーの制服に隠しカメラと盗聴器を仕掛けるとは。

 IS学園の闇は深い。

 

◇◇◇

 

 学年別トーナメントで優勝すると、一夏、またはデュノア、そして俺と付き合えるらしい。

 まるで熱血青春系のマンガでありそうな話だ。

 男口調のヒロインが勝負に勝ったら交際してくれだとか、勝ったらヒロインに告白する決意をするだとか。

 そういうストーリーを想像していると、新聞部がコメントを求めてきた。

 

「俺の妻となる者は、この世のモノとは思えないおぞましきものを見るだろう」

 

「え、えー……」

 

「どうせ捏造するんだ。

 こういう対応をされるのは慣れているだろう?」

 

 そう言って教室から追い出すと、袖を余らせた生徒──本音から鬼畜と言われる。

 いいね。

 語呂で選んだ鬼道という苗字も、鬼畜と言われると選んだ甲斐が合ったというものだ。

 いくら機械寄りな人間だからとはいえ、起動有機は俺もどうかと思っていたし。

 

◇◇◇◇

 

 食堂に向かっていると、シルバークローズからメールが来た。

 

『学年別トーナメントはタッグ戦になる模様』

 

 そうか、タッグになるのか。

 組みたい相手は特に居ないが、こういうのは一夏が苦労しそうだな。

 いや、今の状況だとシャルロットと組むのが一番有力か。

 問題を先送りにしている限り、二人の相互依存が無くなることはないだろう。

 そんな二人を救うため、根本的問題を爆破する。 

 俺って友情に厚かったんだな。

 今なら道徳のテストで3ぐらいは取れそうだ。

 ふと、足を止める。

 廊下の先に、見慣れた集団が見えた。

 箒が、オルコットが、鈴が、そしてシャルロットが一夏を中心に歩いている。

 遠目に見ても騒がしそうにしているのが分かる。

 平常運転だな。

 いや、オルコットは一歩引いた位置で、いつもより静かな様に見える。

 シャルロットを警戒しているのか?

 まあ箒と鈴が積極的過ぎるだけかも知れないが。

 どちらにしても──そう、データ取りという側面があったとしても、一人の男を国の代表候補三人とISの母の妹が囲むこの状況……マスコミが飛び付きそうな絵面だな。

 混ざるべきではないと思い、踵を返した。

 それにしても、何故俺の所には誰も来ないのか。

 誠に遺憾である。

 まあそうなったらそうなったで、また局を一つ消すことになっていただろうがね。

 No.18とNo.7が居ない今、出資者に脅迫状を送って親族を一人ずつ消していくのは難しい。

 次からはレーザーを収束させて糸通し気分で消してみようかな。

 斜めに照射しながら薙いでビルをぶつ切りってのも面白そうだ。

 悲劇惨劇ってのは話題性があるからな。

 

「愚かな奴らだ」

 

 背後から声が聞こえた。ラウラだ。

 俺が足を止めないと分かると、やや小走りで後を追ってきた。

 歩幅に差があるようだ。

 エネルギーパックをケチるからこうなる。

 

「奴らには国の代表候補としての自覚がない。

 言動が国の品格を貶めている。

 ドイツ軍にあのような者がいれば、即座に除隊しているところだ」

 

「除隊では生温い。

 新兵器の的にでもしてしまえ」

 

 返答が意外だったのか、ラウラが目を見開くのが見える。

 

「……意外だな。

 奴らを庇うとばかり思っていたぞ」

 

「友人なのは確かだが、庇うほど入れ込んではいない。

 それに俺がドイツ軍人なら言った通りにするだろう。

 まあドイツ人の価値観など知らんがね」

 

「今のドイツはそこまで過激ではない。

 だがまあ、身内を裁くのは簡単だ。

 やろうと思えば出来る」

 

 俺が歩くのを止めると、ラウラも合わせて立ち止まる。

 適当に歩いていたせいか、周りには人気が無い。

 遠目に歩く生徒が見える程度だ。

 

「それで、結局何が言いたいんだ?

 学生らしく陰口を楽しみたいなら他を当たるんだな」

 

「そんなつもりは毛頭ない。

 聞きたいのはお前の目についてだ」

 

「やらんぞ。

 これが無いと何も見えないからな」

 

「貰ったところで私にはもう無用なものだ。

 聞きたいのは入手先だ。

 一体どこで手に入れたのだ?」

 

「自家製だ」

 

「……何?」

 

「ドイツにそういうナノマシンがあったことは知っているし、

 ちょっぴり電子的な覗きをして設計図や実験データを盗み見たことは認めよう。

 だが丸パクリでは能がない。

 稼働率の調整はもちろんのこと、発光機能に角膜保護、乱視矯正に視力の倍率調整の他、

 携帯端末とリンクしてモニターとしての機能を追加しておいた。

 実に快適で助かっている。

 ドイツ人の合理性にはいつも驚かされる」

 

「……にわかには信じ難いが、どうも嘘を吐いているようには見えんな。

 道化か狂人という可能性もあるが」

 

「信じる必要は無い」

 

「いや、私は信じよう。

 個人でナノマシンを生産していることに思うところはあるが……今はいい。

 これを見てくれ」

 

 そう言って差し出されたのは、タッグトーナメントの申請書だった。

 

「話が早いな。

 発表はもう少し後かと思っていたが」

 

「やはり知っていたか。

 これは教官が渡してくれたのだ。

 他の生徒と違って、お前の実力は疑う余地がない。

 少々悪ふざけが目立つが、許容範囲だ。

 私と組め」

 

「くだらんな、このタッグトーナメントは祭りのようなものだ。

 まともに付き合う意味などない」

 

「それについては私も同意する。

 だが合法的に織斑一夏と戦うには、これが一番都合が良いのだ」

 

「温いな」

 

「……なんだと?」

 

「お前は軍の命令でここに来て、都合がいいから私念を晴らそうとしているようだが……

 無意識の内に、学園の秩序を優先する程度には学生として染まっているようだな。

 一夏に何やら用があるよう見えたが、実際は大した用じゃなさそうだ」

 

「──ふざけるな!」

 

 試験管ベイビーとはいえ、女性が感情的になりやすいのは変わらないな。

 ラウラの声はよく響く。

 

「あの男のせいで、教官の名誉は傷付けられたのだ!

 この怒りを、温いだなどとは言わせん!」

 

「ならば何故、手段を選んでいるのかね?

 軍属だからか?

 それとも教官とやらに気を使ってるのか?

 どちらにせよ他人を省みた行動というのは後手に回りやすいものだ。

 デュノアがいい例だ。

 お前が手段を選んでいる限り、いずれ奴と同類になりかねないぞ」

 

「私が、奴と、同類、だと?

 馬鹿な、ありえん」

 

「ならば勇気を示せ。

 実にシンプルなことだ」

 

「知ったような口を、お前に、お前に私の何が分かる!」

 

「知らんな。

 尻込みしているお前が間抜けなのだよ」

 

「……私とて許されるなら、とうの昔に仕掛けている!」

 

「それが温いというのだ。

 どう転がっても問題になるのは分かり切ったことだ。

 許される許されないの話ではない。

 ──それともお前は、人の目と前例が無いと戦えないのか?」

 

「っ、挑発には、乗らんぞ!」

 

 そういって、ラウラは俺に指を突きつけてきた。 

 デュエルディスクが似合いそうなポーズだ。

 

「まずはお前を教育してやる。

 私と戦え、鬼道有機!」

 

 言っていることがイギリス人と同じだな。

 これがEUの結束か。

 

「私が勝てばペアを組め。

 もし勝負から逃げるようなら、その目のことをバラすぞ」

 

 バレたところで問題はないが、まあいい。

 実験にはいい機会だ。

 

「いいだろう。だが、手続きは全部お前がやるんだぞ?」

 

「チッ、一々癇に障ることをっ!」

 

 そう悪態を吐いて、ラウラは踵を返した。

 果たして彼女にアリーナの予約が取れるのだろうか?

 ちょっとした楽しみが出来たな。

 

◇◇◇◇

 

 No.18とNo.7は、無事引っ越しが完了したようだ。。

 さっそくご近所とも仲良くなったようで、いろいろと助けられているようだ。

 随分と人間らしいな。

 人間ではないくせに。

 細菌兵器に適応した二人は劣化することがない。

 ワクチンでは細菌を中和することは出来ても、細胞を活性化させることが出来ないのだ。

 

「やってられんな」

 

 便器に溜まった血を見て、思わずそう呟いた。

 胃潰瘍が広がってきた影響か、目眩と吐血の頻度が上がってきた。

 かんざっしーにはバレていないが、本音っちぃが怪訝な顔をして臭いを嗅いで来た。

 消臭したとはいえ、吐息に含まれる血の臭いまでは消すことが出来ていないのだろう。

 ──思い返してみれば、ここ最近はどうも言動が荒っぽくなっていた気がする。

 言動に影響が出る程度には、ストレスを感じているようだ。

 消費される体内のナノマシン量も日に日に増えてきている。

 ナノマシンそのものは割と簡単に生成出来る。

 だが一つの肉体が許容出来るナノマシンには限界があり、消費され排出されるナノマシンの量がそれに近づきつつある。

 まだまだ余裕はあるが、もし限界を超えるようなら──爆発オチを用意して置かなければな。

 

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