4月1日。俗にいうエイプリールフールと呼ばれる日だが、正直二十歳を過ぎてまでそんな事を気にする様な奴はごく一部だろう。
俺だって子供の頃は堂々とウソをつける日だなんてはしゃいでいたこともあったがいまではその日に限らず自分自身に嘘をついて生きている。
まあだから俺にとっては只の何でもない一日に過ぎない…………はずだった。
その日はいつもと同じようにブラウザゲーム「艦隊これくしょん」をやっていた。
四月に入ったので勲章を入手する為2-5のボスをいつも通り撃破し、いつも通りドロップ画面を眺めていると突然モニター全体が真っ白になった。
「ふっふ~ん、卯月でっす!このタイミングでうーちゃんをドロップするなんて司令官は幸せ者だぴょ~ん!」
「…………は?」
確かに聞き覚えのある声だがそんなセリフは聞いたことがない。アップデートで限定ボイスやエフェクトが追加されたのだろうか。
そんな風に考えていると卯月が続けて喋りだした。
「そんな司令官にうーちゃんからプレゼントがあるっぴょん。」
あ、その一言を聞いて俺は次のセリフをすぐに予想できた。
「どうせうそぴょんとか言うんだろ?運営もよくやるわ、まさか今日の為だけにドロップボイスまで変更するなんて。」
そう運営を皮肉りつつ次のセリフを待っていると突然自宅のインターホンが部屋に響く。
「あ?うるせぇな、こっちは取り込み中だっつーの。」
せっかくのレアボイスを最後まで聞かないのは勿体無いのでPCの音量を上げインターホンを気にせず目の前のモニターに集中することにした。
それから何度かインターホンが鳴り響くが全て無視しているとそのうちインターホンは音を鳴らすことを諦めた…………が。
「ぷっぷくぷぅ~!!うーちゃんを無視するなんてひっどいぴょん!」
直後に卯月の怒鳴り声が聞こえた……
「は?いったい誰の悪戯だ?」
近所迷惑だと怒鳴り散らしてやろうと玄関へ向かい扉を開けると理解出来ない光景が俺の目の前に広がっていた。
「あー!やっと出てきた、うーちゃん待ちくたびれたぴょん。」
「あ……あ………………はぁあああぁぁ!?」
架空の存在である艦娘、駆逐艦卯月が何故かAmazonの段ボールを抱えてむくれたまま立っていた。
「いや……なんで……なんでお前がここに?」
俺の問いに卯月は更に機嫌を悪くし乱暴に段ボールを俺に押し付けて言った。
「うーちゃんプレゼントがあるってちゃんと言ったぴょん!なのにピンポンしても全然出てこないなんていじめだぴょん!」
現実世界にAmazonの段ボールもって来るなんて想像できるか!!
っていっても話が進まなそうなので仕方なくこっちが折れることにした。
「あー……わるかったよ。んで、どうやって来たんだ?」
すると卯月は頭に指を当てて暫く考えた。
「う~ん……………………気合いだぴょん。」
「もう少しまともな答えは無いのかよ!気合いで次元を越えられるなら世界中の科学者がアニマル○口みたく喧しくなっちまうだろうが!」
全く科学をなんだと思っているんだ…………
「だってだって、うーちゃんだってどうやって来たのかわからないんだぴょん!」
玄関前で喚き出す卯月のこえを聞いたお隣さんたちが扉からこちらを覗き込んでいた。
「ま……まあ、取り敢えず中に入れ。」
このままでは最悪通報されそうな気がしたので今は卯月を部屋へ入れ落ち着いて話し合うことにした。
「ふっふっふ~、司令官の部屋に潜入成功だぴょん。」
靴を脱いだ卯月は含み笑いをしながらこそこそと部屋の奥へ入っていった。
「これは潜入とは言わん……ってそれはいい。兎に角今の状況を整理するぞ。」
そう言って卯月の方を見るとこそこそとベットの下を捜索し始めていた。
すかさず俺は奴の襟首を掴み座布団まで引きずっていった。
「うびゃあ!?いきなり何するぴょん!」
「うるさい、お前が勝手に人の部屋を漁るからだろうが。」
そう叱りつけると卯月はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱりあの中にえっちな本を隠してるんだぁ~、間違いないっぴょん!」
「誰がそんなベタな場所に隠すか!ってちがう、そうじゃない。」
卯月にニヤニヤと見られ俺は少し照れながらも強引に本題へ戻した。
「と、とにかくだ。お前はどうやって来たのか分からない訳だ。」
「だからさっきからそういってるぴょん!」
卯月はそういって頬を膨らまし不満を露わにしているが構わず続けた。
「で、現実世界にお前がいることは通常ありえない。つまり…………」
色々と考え可能性が高い結論が一つ浮かんだ。
「これは夢だ!」
完璧な推理だと我ながら思ったがすぐに卯月から異議が飛んできた。
「ぷっぷくぷぅ~!うーちゃんはここにいるぴょん!夢じゃないっぴょん!」
と言ってに左から張り手も飛んできた。
「いってぇっ!?なにすんだてめぇ!」
突然の張り手に反射的に手が出そうになったが流石に少女に手を上げるのは不味いと俺の理性が何とか抑えてくれたようだ。
しかし卯月の猛攻はこれでは終わらなかった。
「夢だと痛くないって聞いたぴょん!だから夢なら司令官もいたくないはずだぴょん!」
続けて右、左と俺の頬が何度もその小さな手で叩かれていく。
俺はたまらず卯月の両腕で脇を抱え上げる。
「わかったわかった認めよう、確かに痛いからこれは夢じゃないな。」
俺がそういうと卯月はようやく腕を振り回すのをやめた。
「やっと分かってくれたぴょん。じゃあ早くプレゼントを開けるぴょん!」
卯月に言われ、俺はようやく段ボールの存在を思い出した。
「そういやこれは一体何が入っているんだ?」
その質問に卯月は待ってましたと言わんばかりに箱を開け中身を取り出すとフラスコのような物を俺に突き付けてきた。
「これはウソ800っていう飲み薬だぴょん。」
「あー、大体わかった。つまりそれ飲むと言った事が嘘になるってやつだろ?」
「うぇ~、先に言っちゃ駄目だぴょん……ってかなんで知ってるんだぴょん?」
やっぱりそうなのかよ……完全に秘密道具じゃねーか……。
「この薬の効果は今日一日だから目一杯楽しむといいぴょん。」
ん?今日一日だけか……何に使おうか。
薬を飲みながら考えるが正直特にこれと言ってしたい事が無いな……ん、そういえば瞬間移動とかもできるのか?
「よし、俺は今キッチンの前にいない。」
そう言って一度だけ瞬きをするとさっきまで卯月を見ていた俺の視界はキッチンの下の収納棚を見ていた。
「おお、これは便利だな。よ~し、俺はアメリカのホワイトハウスにはいない。」
と言って何度か瞬きをしたが景色が変わる事はなかった。
「行った事無い場所は無理か……まあいいや、一日限りだし適当に考えるか。」
そういいつついつも通りの生活を過ごそうとする俺を見て卯月は目を丸くした。
「司令官は欲が無いんだねぇ?」
「そうか?普通だと思うが。」
卯月は俺の発言に首を全力で振った。
「いやいやいや……ありえないぴょん!普通どこか遠くへ旅行に行ったり遊園地を只で貸切ったり色々するぴょん!」
そういうものかと納得しつつぼーっとしていると俺は一つだけ思いついた。
「卯月の希望はそんな感じなのか?」
卯月はふんすと鼻を鳴らすと自信満々に答えた。
「うーちゃんだったら絶対に遊園地のアトラクション全制覇するぴょん!」
「そうかぁ、そうだな。」
そういって俺は上着を羽織り立ち上がこう言った。
「俺と卯月とドリームワールドの従業員だけはドリームワールドにはいない。」
「へぇ!?」
卯月が変な声をあげてる間に俺たちはドリームワールドの入場門の前に来ていた。
「よし、ちゃんと卯月も来てないな。」
「え……いきなりどうした……ぴょん?」
唖然とする卯月に向かって俺は軽く答えた。
「あ?遊園地なんて一人で行ってもしょうがねーだろーが。」
「いや、そもそもさっきまで行こうとなんてしてなかったぴょん。」
「まあせっかくだしな。ほら、ここは金がかかるからさっさと帰るぞ~。」
「あ……ああ!ちょっと待つぴょん!しれぇ~かぁ~ん。」
一人で先に入場門を通って行く俺に気づいた卯月が慌てて駆け寄ってきていた。
「さて、どれから乗るんだ?付き合ってやらないから何も選ぶなよ。」
どこまで嘘になるか解らないから凄まじく喋り難い!なんだ今のセリフ!?傍から見たら頭おかしいレベルのツンデレだぞ?幸い卯月がすぐに順応してくれたからまだましだが……それとも俺だけ変に聞こえてるのか。
「じゃ~あじゃ~あ……これが乗りたいぴょん!」
そういってパンフレットに指さしたのは大雷山。
「しょっぱなから易しいな、大丈夫か?」
「うーちゃんこういうのには強いんでっす。心配ないぴょん!」
自慢げに答える卯月を見つつ俺は駆逐艦だしこれくらいの速度は平気かと納得した。
そして二人だけを乗せた大雷山がアラートと共に発進する。
坂道を登っていき頂上まで到着し、そこから一気に山を周りを下っていく。
「うっびゃああぁあぁ!きっもちぃ~ぴょ~ん!!」
「ぐっ……なかなかに激しいな……あ。」
つい呟いてしまった直後、機体は慣性を無視して急減速をしたかと思うとそのままのろのろと進みだした。
「…………しれぇ~かぁ~ん。」
「あ、わり…………。」
このままでは卯月にずっと睨まれたままなので速さを戻す為に少しばかり大袈裟に言ってみる。
「あ~あ、遅すぎて止まって見えるぜ。」
その数瞬後、のろのろと動いていた機体はまるで挑発に乗ったかのように全力で……いや、全力どころか本来の4倍もの速度で走行し始めた。
「ややややややりすぎだぴょぉぉぉぉぉぉんん!!!?」
「わわわわわわりりりぃぃぃぃぃ!!!」
そこから三十秒間、地獄を乗り越え何とか無事生還出来たが二人は既に憔悴しきっていた。
「ちょっ、ちょっと休憩しないぞ…………。」
「も、もうだめだぴょん…………休憩するぴょん。」
俺らが次に歩き出したのはそれから一時間後であった。
時間が正午近くになり大雷山と同じ西部地区にある食事処「大食熊」へ向かっていると卯月が何かを思いついたように大声を上げた。
「どうした卯月?」
「どうしたもこうしたもないぴょん!さっき司令官がうーちゃん達の体調が悪いって言えば一時間も無駄にならなかったぴょ~ん!!」
あ、確かに……まああの時はそんなこと考える余裕も無かったからしかたないと思うがな。
「ま、それは次の時だな。取り敢えず今は二人で大食熊行くのやめようか。」
「ぷっぷくぷぅ~……」
いまは頬を膨らませてるが飯でも食えば機嫌も良くなるだろう。
大食熊へ着きメニューを開き店員を呼ぶ。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ。」
「うーちゃんはぁ……チキンカレーとぉ、チョコレートシフォンケーキが良いぴょん!」
「俺は…………ポークカツカレーの中辛は要らないのでラージも無しで。」
よく分からなくなってくるがこれでだいじょうぶか?
「…………かしこまりました。」
良かった、大丈夫だったようだ。
俺は無事に届いたポークカツカレーを食べ終わると食休みをする暇も無く卯月に次のアトラクションへ引きずられていった。
その後も俺たちは次々とアトラクションを制覇していった。
宇宙山脈が真っ白になったり、原生林クルージングに鮫が出現して襲って来たり。
飛沫山では上からバケツを被ったみたいにずぶ濡れになったり等、色々トラブルはあったものの何とか今日中にドリームワールドのアトラクションを制覇を達成させることが出来た。
「んーっ!楽しかったぴょん!しれぇ~かぁ~ん、ありがとぴょん!」
「ん…………」
最初はただの気まぐれだったが満足そうに伸びをする卯月を見て俺はここに連れて来て良かったと思えた。
そんな満足感にいつまでも浸っていたかったが、無情にも時間は進んでいく。
「本日はドリームワールドにご来園頂き、誠に有難う御座いました。ドリームワールドは、午後十時をもちまして閉園となります。またのご来園を心よりお待ちしております。」
「………………」
「………………」
閉園…………か。
「しれいかぁ~ん……」
寂しそうな顔はお前には似合わねぇよ。っとは言えない、そのままの言葉でいえないなら言っても俺が納得出来ない。
「くそっ…………!」
今はただただウソ800を恨めしく思いながら俺は少し荒っぽく卯月の頭を撫でた。
「少し痛いぴょん……しれぇ~かぁ~ん。」
「ん、すまん…………俺と卯月はまだ俺の家に着いていない。」
そうして瞬き一つすると俺の見慣れた風景が広がっていく。
二人はそれぞれ適当に敷かれている座布団に腰を降ろしお互い口を開かず俯いていた。
そうして静寂が一時間程流れたところで漸く俺から切り出す事にした。
「卯月、お前はどうしてこっちへ来ようと思ったんだ。」
「それは……私たちは司令官の姿も性格も分からないぴょん。それでも司令官の指示には従うしかない......だからうーちゃんは命を任せられる司令官か知りたかったんだぴょん……。」
「そうだったのか…………それで、やっぱり戻るのか?」
「…………戻るぴょん。私の生きるべき道は向こうだから……でも……。」
卯月は僅かに肩を震わせながら続ける。
「司令官と一緒に居た今日はとっても楽しかったぴょん……それを
............俺だってそうだ。たった一日とはいえ今なら言える。卯月と過ごした今日は今までの腐りきった人生とは比べ物にならないくらい充実していた。
だけど卯月には帰りを待つ仲間がいる、姉妹がいる。だから俺の我儘なんかで引き留める訳にはいかない。
でもこのまま別れたら次に会える可能性なんてほぼゼロだろう…………ん?そうか!
「卯月!俺がそっちにっていうのはどうだっ?」
「…………だめだぴょん。」
「なんでだ!?出来ないのか?」
「たぶん出来るぴょん……」
「それなら何故っ?」
卯月は俯いたまま続ける。
「こっちは……危険……だからっ。」
「危険?それくr」
俺の言葉を遮るように卯月が叫ぶ。
「司令官が良くてもうーちゃんが司令官を危険な所へ連れて行きたくないんだぴょんっ!!」
それは俺がただの人間だからか……砲撃一発で軽く吹き飛ぶ脆弱な人間だからかっ!ならば…………
「俺が弱い存在じゃなければいいんだな?」
「ど、どういうk…………はっ!?駄目だぴょんっ!安全を捨ててまで戦地へ赴くなんてバカのすることぴょん!!」
俺のやろうとしている事に気づいた卯月は必死に止めようとするが俺はそれに反論する。
「バカで結構だ!じゃないともう会えなくなるかもしれないんだぞっ、卯月はそれでいいのかっ?」
「それは…………うーちゃんもやだ…………けどっ……!」
「俺はいやだね、そんなこと…………だからっ。」
そういって俺は大きく息を吸い、目を見開き大声で叫ぶっ!
プライドや意地なんかに拘らず、卯月と共に生きたいという思いだけを込めて言葉を紡ぐ!
「俺は、絶対に卯月に付いて行かない!」
2355 元の世界の背景が徐々に離れていく。
「俺は、絶対に艦娘にならないっ!」
2356 体の構成が少しづつ人間とは異なる物になっていく。
「俺は!絶対に卯月より先に沈むっ!」
2357 外見が急激に変化していく。
「俺はぁっ!絶対に卯月を護らない!」
2358 腰と左手、そして両足に艤装が現れる。
「おれはぁっ!!卯月のいる世界が平和にならないように戦わないっ!!」
2359 世界が光に包まれる。
0000 新たな仲間を発見しました!
~1年後~
「卯月、出撃でぇ~す。がんばるぴょん!」
「夕月、出撃するっ!卯月、油断するなよ?」
「も~う、こっちじゃうーちゃんの方がおねぇちゃんなんだからもっと頼りにするぴょんっ!」
「ああ、頼りにしてる。だがな卯月、俺はお前と共に居たいからこの道を選んだ。だから心配なのは妹としてでは無く俺としてなんだ。」
「うぅ…………それはわかったから一々言わないでほしいぴょん、流石に照れ臭いぴょん……」
「ふふ、そうか……俺もだ。」
「相変わらず卯月ちゃんと夕月ちゃんは仲が良いにゃしぃ。夕月ちゃんはおねぇちゃんにももっと甘えてほしいのよ~?」
「なに、睦月姉ちゃんと如月姉ちゃん程ではない。それに最初の頃は姉ちゃん達には甘えっきりだったからな、これからは俺が姉ちゃん達を護っていく番だ。」
「あらぁ、夕月がそんなこと言ってくれるなんて~、成長したのねぇ……嬉しいわぁ。」
「そうだよねぇ……卯月姉ぇが夕月を連れて来たての頃なんか凄かったからねぇ。」
「む、確かに当時は一杯一杯だったがそんなに酷かったか?」
「いやぁ~……ねぇ。あそこまで卯月姉ぇ以外眼中に無いんじゃあねぇ……あたし等もお手上げだったからねぇ。」
「うぅ......その時は本当に済まなかった……。」
「べつに気にして無いわよぉ。今はこうやって気兼ねなく話せるようになったしねぇ。」
「そうそう!夕月ちゃんも大変だったんだろうし仕方無かったんだにゃあ。」
「うーちゃんも、夕月が皆と仲良くなれてよかったぴょん!」
「それも全て姉ちゃん達が俺を見限らずにいてくれたおかげだ……っと深海棲艦のお出ましだ。」
「左舷に敵艦だクマ!」
「よ~し、睦月、砲雷撃戦始めるよ♪」
「魚雷って太いわよねぇ……さあ、いくわよっ♪」
「砲雷撃戦、開始するぴょん!」
「んじゃぁあー、そろそろ本気だぁーっす。」
「この体にて、仲間の障害を取り除く!」
「「暁の水平線に勝利を刻め!!」」
このような短編をここまで読んでいただきありがとうございます。
三日前に唐突に思いつき、二日前に突然書き上げる完全突貫工事なのでこちらの短編では今後も本編以上に設定などはあまり考えられていないと思いますので、短編については本当に暇がある時にでも読んでやろうかなくらいの気持ちで見て頂けると幸いです。
おまけ
一年後の登場艦隊
旗艦 球磨
随伴艦 睦月 望月
如月 夕月
卯月