再オープンしたネバーランドは元々注目されていたテーマパークということもあって、この日、まさに大混雑となっていた。どこを見渡しても人しかおらず、夏の季節も相まって熱気が凄まじい。
「やれやれ、こう人が多いとうんざりするね」
ネバーランドにはウィルの姿があった。どうやら今日はオフのようで、再び来日したようで人と人の隙間を縫うように歩きながら嘆息している。
「じゃあ、なんでわざわざここに来たのさ」
「折角、日本にまで来たんだ。つまらない場所には行きたくないだろう? このネバーランドは世界的にも注目されているからね」
そんなウィルの隣で夕香は彼が奢ってきたドリンクをストローで啜りながら尋ねる。以前、ウィルからメールでの遊びの誘いに乗ったら訪れた先はこのネバーランドであった。
再オープンする当日に来れば大混雑は予想出来るはずだ。すれ違い人混みを避けながら夕香は問いかけると、ウィルはネバーランドの目玉でもあるネバーランドを運営するワークボット達を見やる。
「ところでドロシーさんは? いないじゃん」
「……君はどういう意味でここに誘ったのか分かっていないのかい? 彼女をここには連れて来ていないよ」
ふと夕香は周囲を見渡し、ウィルの付き人であるドロシーがいないことに触れる。とはいえ、今日、夕香をネバーランドに誘ったのは単純に遊ぶためではないのだ。それが分かっていない様子の夕香の鈍感さにはウィルも呆れてしまっている。
「ふーん……そんなにアタシとデートしたいんだ。期待しても良いのかなー?」
「今日という日を忘れられなくしてあげるよ」
ウィルの言動から何となしに察しはついているのだろう。悪戯っ子のような笑みを浮かべる夕香の問いかけに、望むどころだとばかりに自信に満ちた笑みを見せると夕香を連れてネバーランドを散策する。
「──……いけません……。いけませんわ……」
「あっちゃー……あれ完全にデートよねぇ……」
そんなウィルと夕香を物陰にしがみつくように様子を伺っているシオンと裕喜がいた。
こうやって隠れている時点で夕香にはここに訪れていることは知らせていないのだろう。二人とも変装ようなのか、眼鏡を着用している。
「これは由々しき事態ですわ。夕香があのパツキンに誑かされてしまいますわ」
「でも夕香的には玉の輿じゃないかな?」
物陰からじーっと眉間に皺を寄せて夕香達のことを見つめているシオンだがその隣で裕喜は冷静に呟いている。この二人が何故、今この場にいるのか? それは単純に夕香とウィルのことが気になってのことだろう。
「夕香はわたくしのライバルですのよ……。こ の わ た く し の っ ! ……ライバルであるわたくしに注目するのならまだしも恋愛事に現を抜かすなど……っ!!」
「あれ、でもシオンってコイバナとか好きじゃないの? いつも何だかんだで凄い聞いているイメージがあるけど」
「それとこれとでは話が違いますわっ!!」
物陰にしがみついている手に力が籠る。ぐぬぬっ……と悔しそうな顔を浮かべるシオンに裕喜は尋ねる。夕香からも聞く事であるが、シオンは年頃からか妙に恋愛関係に興味を示している。今回のウィルと夕香もそのうちに入るのではないかと思うわけだが、シオンにとって他の恋愛事と夕香はどうやら別物らしい。
「夕香に下手なことをしてみなさいな、絶対に許しませんわよ……っ!」
(……シオンでさえこれなんだから、イッチが知ったらどうなるんだろ……)
夕香に自分達の存在を悟られないようにつかず離れずの距離を保っているものの今にも射殺さんばかりにウィルを見つめているシオンを横目に裕喜は一矢に発覚したらどうなるのだろうと苦笑するのであった。
・・・
その一矢もまたネバーランドに訪れていた。元々、人の多いところは好きではない為にいつも以上にその顔は顰めてしまっていた。近く委は厳也と咲。そして影二とコトがおり、トリプルデートといったところか。
「……なにかあったのかのぉ……?」
「さあな……」
厳也達や影二達はデートらしく寄り添って仲睦まじい姿を見せているのだが、一矢とミサはそうでなかった。互いに気まずそうにそっぽを向いており、二人の間にはなんとも微妙な距離感がある。流石に二人の間に流れる雰囲気は傍から見ても分かるのか厳也と影二は気に掛けるが、二人に聞いたところで何でもないと言われてお終いだった。
(……折角、華々しくお披露目が出来ると思ったんだけどな)
とはいえ何より当人達がこの雰囲気について思うところがあるのだろう。一矢は今にもため息を零しそうな勢いだ。一矢はそのまま腰部のベルトに取り付けたガンプラの持ち運び用の小型ケースを撫でる。
このケースに入っているのはゲネシスブレイカーではなかった。いや今まで一矢が使って来たどのガンプラでもない。ついに一矢が今まで作成していた新ガンプラがここに収められているのだ。今回のネバーランドで鮮やかなデビュー戦が飾れると思ったのだが、これではそんな気分にもなれなかった。
「……ねえ、俺なんかした?」
いい加減、この微妙な雰囲気を払拭したい一矢はミサに尋ねる。なにかしてしまったのであれば、その事について考えることも出来るが……。
「なんかしたって言うか……。なにもしてないって言うか……」
一矢の問いかけにミサは何とも言えない様子でこちらを見つめる一矢の顔を見つめると、やがて耐え切れない様子で視線を伏せてしまう。
「ごめん、何か飲み物買ってくるよっ」
しかしそんな返答では到底、一矢は納得できるはずがない。ハッキリと言ってほしい、とさらに追及しようとする一矢だが、ミサはそれを察知してか、それだけ言い残して駆け出してしまう。
「私、ちょっと行ってきますっ」
「なら私もっ!」
この人混みの中では駆け出したミサを追うのは難しい。辛うじてまだミサの姿が見えるなか、その後を咲とコトが後を追い、その場には男性陣のみが残ってしまった。
・・・
「こんなにたくさん人が一杯いるとどれだけイベントに参加してくれるのか分かりませんね」
一方、別の場所ではあやこが隣に立っている翔に人混みを見ながら苦笑した様子で声をかける。これだけの人数がいるのだ。誰がガンプラファイターでもおかしくはない。どれだけのファイターが参加するのか翔も微笑を浮かべている。
「暑いぃぃ……っ」
「なにやってるんだお前は……。来ない方がよかったんじゃないか?」
しかしそんな翔の腰回りには風香がだらしなくしがみついており、今にも夏の暑さに溶けてしまいそうなほどばてている。あまりの姿に翔は呆れ交じりに声をかける。
「何言ってるの!? ネバーランドは風香ちゃんと翔さんが出会った記念すべき場所なんだよ! ここで翔さんとお互いを知り合って、愛を深め合って……」
「良いからしっかり歩け」
翔がネバーランドに行くと聞けば、案の定、風香もこうしてついてきた。ネバーランドは風香にとって翔と知り合った思い出の地。やはり思い入れは強いようだ。しかし翔は腰に抱き着いてうっとりとしている風香を無理やり立たせる。
「でも暑すぎ……。もしも風香ちゃんに何かあったらそれは世界にとって大きな損失なんだよ、まったく……」
翔に抱き着いていられなくなった風香はそれはそれで不満そうにしながら、文句を燦々と輝く太陽を見やってブツブツ呟いている。
「そう言えば、レーアさん達はどうしたんですか? さっきまで一緒だったのに……」
だがこんなことを言えるくらいなら大丈夫だろう、と翔は気にした様子はない。そんな翔にあやこは気になっていた事を尋ねる。そう、ネバーランドにはこの三人で訪れた訳ではない。レーア達も一緒に来ていたのだ。しかしレーア達の姿はどこにも見当たらない。
「……はぐれたか……?」
翔もレーア達のことは気になっていたようで周囲を見渡すが、やはりこの人混みでレーア達を見つける事は出来ない。
(……レーア)
だが翔が気になっていたのはそれだけではない。以前、弁当を届けに来たとき、妙な様子を見せたレーア。あれからレーアは翔の顔を見る度にどこか辛そうな顔をしていた。それがどうにも気になってしまうのだ。