「やー……すっごい並んでるねー」
微妙な距離感の一矢とミサとは違い、ウィルと夕香はネバーランドを満喫していた。とはいえやはり大混雑もあってか一つのアトラクションを利用する度に多くの時間を並ばなくてはいけないのはネックだ。少しずつしか進まない列を見ながら夕香は肩を竦める。
「日差しも強いからね、平気かい?」
「まあ、これくらいならどうってことないかな。けど髪が日焼けすんのはヤダなー」
夏の季節はやはり燦々と輝く太陽の日差しはどうしても強い。太陽を見やりながら夕香を気遣うウィル。熱中症になったら大変だ。ウィルの気遣いに夕香は心配するなとばかりに軽く笑いながらでも毛先を指で弄る。
「帽子でも持ってくるべきだったよ。一応、スプレーはしてあんだけどねー」
「スプレーか……」
失敗した、とばかりに首を振っている夕香。一応、髪にも使用できるUVカット効果の高い日焼け止めスプレーは使用したが髪を心配するなら手っ取り早いのは日傘や帽子の類、もしくはUVカット機能のある洗い流さないトリートメントの類だろう。しかしウィルはスプレーの類は好きではないのかどことなく微妙な反応を見せる。
「無臭の奴使ってるよ。あんまりベタベタ匂いつけんのは好きじゃないし」
「それは良かった。僕は君の元々の甘い匂いの方が好きだからね」
その微妙な反応を見てか、使用したスプレーについて教えるとウィルはどこか嬉しそうに微笑を浮かべる。
「ふーん……だったらもっと近くでかいでみる?」
すると夕香はウィルの言葉に目を細めると、挑発的な笑みを浮かべながらウィルに首筋を向けて指先でなぞる。その妖艶で挑発的な仕草はなんと男を惑わす事だろうか。ウィルはそのまま吸い込まれる様に首元に顔を近づけようとした瞬間……。
「──うぉほんっ! んんっ!! ごほごほっ!! えふんっ!! はあぁぁぁんっ!!?」
ウィルが夕香の首元に近づこうとした瞬間に後ろの方で妙にうるさい咽込むような声が聞こえ、挑発する夕香の匂いをかごうと顔を近づけたウィルは動きを止めると後ろの方を見やる。
「あー大変っ! 飲み物を咽込んじゃったんだネーっ!? 大変だァーっ!!」
ウィルにつられて夕香も背後を見やると、人混みでハッキリ見えないが何かごまかすように説明的に、だが妙に棒読みで大声を上げる少女が咳き込んだであろう少女を頭の抱えて、此方からは背を向ける体勢になっていた。
しかし顔を隠すように頭を抱えられている少女は今すぐにでもこちらに向かって来ようとばかりに暴れているように見えるのは気のせいだろうか?
ウィルも夕香も変な人達だとは思うが、別にさほどの興味もない為に再び列に集中する。とはいえ先程の妙な横やりのようなものがあった為、ウィルは夕香の匂いを近くでかげなかったが。
・・・
「あーっ、美味しいぃっ」
ネバーランドのフードコートではワークボットが提供した特大のホットドックをかぶりついた翔やレーア達とは別行動中のヴェルがほくほく顔を浮かべて満悦な様子だ。
「ほらシュウジ君も食べてみてっ」
そのまま子供のように瞳を輝かせながらまた新たに提供されたホットドックを隣に立っているシュウジへ向ける。
「やっぱり美味しいものを一緒に食べてる時って幸せだよねっ」
ありがとうございます、とヴェルからホットドッグを受け取ったシュウジはヴェルと一緒にホットドッグを食べると、ヴェルは無邪気で輝かしい笑顔をシュウジに向ける。こうしてみるとどちらが年上なのか分かりはしない。
(やっぱりヴェルさんのこういう姿の方がらしいよな)
ヴェルの笑顔につられるようにシュウジも微笑を浮かべる。正直、ヴェルの一挙手一投足に気を取られていてホットドッグの味に集中できない。以前、エロ本が見つかった時、しばらく人を誘惑しようと様子がおかしかったが、やはりヴェルはこういった無邪気な姿がとても似合う。
「……どうしたの?」
「いや、なんでもないっすよ」
しばらくホットドッグを満悦な笑みで食べていたヴェルだが、ふとシュウジの視線に気づいたのか、不思議そうな様子で首を傾げながら尋ねる。だがシュウジはふと柔らかな笑みを浮かべながら首を横に振る。ヴェルに今、思ったことを伝えれば恥ずかしがってこうして無邪気に食べ物を頬張っている姿を見せてくれないかもしれないと考えたからだ。
「それよりほかにも食べるところはありますし、そっち行きましょう」
「うんっ! 行こっ!」
いっぱい食べる君が好き、とはよく言ったものだ。ヴェルの姿を見ているとそう思う。シュウジは他の飲食店に向かおうと提案すると、ヴェルは嬉しそうに頷きながらシュウジの腕に自身の腕を絡めて一緒に歩き出す。
(……こういうのをデートっつーのかな。まっ……悪いもんじゃねえか)
ふとシュウジは腕を組んで寄り添って歩くヴェルを見やりながら漠然と考える。
今までなんだかんだでヴェルとデートした事はなかったが、これはそうと言えるのではないだろうか。ヴェルもヴェルでそれもあってか今日はいつも以上にテンションが高い。そんなヴェルを一瞥したシュウジは微笑をこぼしながら、ならばヴェルを満足させねばと最寄りの店へ向かう。
しかしこの男、自分のエロ本が一因で弟分達が微妙な距離感になっていることは夢にも思っていなかった。
・・・
「はぁっ……こんな筈じゃなかったんだけどな……」
売店でワークボットから飲み物を買ったミサはドリンクカップを両手にベンチに腰掛けて、重い溜息をついてしまう。今日のネバーランドは良いものにしようと思っていたが、この様だ。
「それで何があったんですか?」
ミサの隣には咲とコトが挟むように座っており、ずっと様子がおかしいミサに咲が尋ねる。咲とコトがミサについて来たのは様子のおかしいミサを心配してのことだった。
「……なんにもないよ」
しかしミサは咲の問いかけに首を横に振ってしまう。焦ったり動揺する事はあっても一矢との間に決定的な何かがあったわけではないのだ。
「……咲ちゃんやコトちゃんはそれぞれ恋人が出来て、なにか変わった事はある?」
何もない訳がない、咲やコトが更に追及しようとするが、その前にミサは二人に対して問いかけると厳也、そして影二とそれぞれ交際して何か変わったのかを考える。
「その……付き合い始めて厳也さん、ナンパをやめてくれたんです」
まず初めに答えたのは咲であった。ジャパンカップなどでも厳也がナンパをするところは見てはいたし、知ってはいたのだがその厳也がナンパをやめたと言うのだ。確かに今日、このネバーランドで一緒にいるとき、厳也は一度たりともナンパをしていなかった。
「私の方も影二さんは仕事が終わった後も気遣って連絡をくれるんです」
そしてコトも影二について答える。アイドルと言う立場上、やはり嫌な仕事、辛い仕事もあるがそれでも影二はコトを気遣って連絡をくれた。それが何より救いになってくれていたのだ。
「……私達は……何にもない」
二人とも恋人の話をする時、少女らしくはにかんだ可憐な姿を見せている。二人のそんな幸せそうな顔を見たミサの表情はどんどん暗いものになっていく。
「一矢は変わらないんだよ、付き合う前と接し方が……。それが凄く不安になる」
かつて一矢の部屋に訪れた際も眠ってしまった一矢の寝顔を見て、同じことを呟いた。一矢は変わらない。恋人となったとしても一矢の態度に何か変化が起きた訳じゃない。それが何より不安になってしまうのだ。
「お互いの気持ちは分かってる筈なのにね……。でもそれが見えないから怖いんだ。私は一矢に恋人として見られてるのかなって……」
それでも一矢は自分を想ってくれているのは分かる。しかしどうしようもなく不安は出てきてしまう。一矢の接し方が交際する以前の仲間、友達への接し方と何ら変わらないからだ。自分は一矢にとって特別な存在でいられているのかと悩んでしまう。
いつもと変わらないガンプラに関わり、ガンプラバトルを行う日々。そんな日々は確かに毎日が楽しいが、それでもデートをしたりと恋人らしい行動がしたいと思うのは年ごろの少女として何らおかしなことではないはずなのだから。