「……落ち着いた?」
あれから時間も経ち、泣きじゃくっていたミサも漸く落ち着き始めると、それを見計らった一矢に声をかけられコクリと頷く。
「……ゴメン、変なとこ見せちゃって……」
「良いんだ。ミサがそんな姿を見せてくれて嬉しかったし」
一矢に抱きしめられながら腫れあがった目を擦りながら先程までの自分を思い出してどこか恥ずかしそうに頬を染めるミサに一矢は優し気な笑みを見せながらその背中を撫でる。
「……そうだ、ミサに見せたいものがあるんだけど」
するとここで一矢はミサを抱きしめたまま自身の携帯端末の立体画面を現す。そこに表示されていたのは、ロボ太が自分達にあてた詩であった。
・・・
「……そっか……。ロボ太、私達に……」
一矢がミサに見せたのはトイボット日和の投稿であった。ベッドの上で一矢の隣に座るミサはロボ太の自分達へ向けた詩に再び目尻に涙を浮かべる。
「……俺、シュウジ達やロボ太と再会する未来を諦めない。その未来を現実にして見せる」
今、改めてミサへ決意を口にする。もう迷うことなく強く言い放つ。
「……うん。私も目指すよ。一矢と……望んだ未来を現実に変えるために」
シュウジ達との別れも悲観し過ぎていたのかもしれない。確かに別れは辛いがそれでもう二度と会えないと決めつけるには早計だと思う。人類が夢見て来た宇宙への進出が今、進められているように諦めなければ叶える事はある筈だ。
「……ミサ、少し付いてきてくれるか?」
立ち上がった一矢はミサに手を伸ばす。今日、この場に訪れたのはミサの為もあるが、何より彼女を迎えに来たのが大きな目的だからだ。
「少しどころかずっと付いて行くよ!」
伸ばされた一矢の手を嬉しそう微笑むと、ミサらしい活気に溢れた笑みと共に一矢の手を掴んで立ち上がる。お互いに笑みを交わし合いながら一矢はミサの手を引いて、移動を始めるのであった。
・・・
「おっ、来たな」
一矢達が移動したのは、イラトゲームパークであった。もうそこにはかつてのウィルとのリマッチの時のように多くの人で賑わっており入店した一矢達にカドマツが出迎える。
「もう大丈夫なのか?」
「……ああ、もう大丈夫。ごめん」
一矢とミサのここ最近の様子を知っていたカドマツはかつてのように活気を取り戻した一矢達の表情を見て、尋ねると心配させてしまったことを詫びる。
「いや良いんだ。ロボ太の件も俺はお前さん達に責められたって文句は言えないからな」
「カドマツもロボ太も最善のことをしたんだ、責めるなんて出来ないよ。だから……俺……いや俺達も自分が出来る最善の事をしようと思う」
一矢達を危険に晒すだけではなく、結果としてロボ太を失うこととなってしまった。一矢達の怒りの矛先を向けられる事も覚悟していたカドマツだが、一矢はそんなことはしないと首を横に振る。
「やっほー、来たよ」
すると再びイラトゲームパークに入店する者がいた。一矢達が振り返れば、そこには優陽がおり、軽く手を挙げている。
「悪いな、急に呼び出して」
「構わないよ。それにここにいる人達は……」
「俺が呼んだ」
優陽がイラトゲームパークに訪れたのは、どうやら一矢が呼び出したからのようだ。
一際、賑わっているイラトゲームパークの様子を見渡しながら尋ねると一矢は頷く。どうやらカドマツも優陽も、そしてこの場に集まった多くの人々も一矢が一人で集めたようだ。
「えっと、一矢……。この娘は……?」
とはいえミサは優陽を知らない。親し気に話している一矢と優陽をどこか複雑そうに見ながら紹介を求めるようにミサは一矢を見やる。
「南雲優陽。こう見えても、男……らしい」
「らしいじゃなくて、れっきとしたオトコだよ」
そう言えば、ミサやカドマツは優陽を知らない為、一矢は簡単に優陽を紹介する。しかし二人とも優陽の愛らしい外見から少女と思っていたようで、一矢と優陽の言葉に目を丸くして信じがたいと言わんばかりに驚いている。
「まあ兎に角、よろしくね」
「う、うん……」
軽くウインクしながらミサ達に声をかける優陽。しかしいまだに信じられないのか、微妙そうな表情で返事をしていた。
「……えっと……なに、かな?」
挨拶も程ほどに優陽はミサを見て、不思議そうに首を傾げている。
一見、可愛らしいが何故、自分がそんな目で見られているのかが分からずミサは思わず問いかける。
だが優陽はミサの胸部を一瞥すると……。
「あぁ、君もオトコノ───」
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
合点がいったかのように手をポンと叩き、何やら口にしようとする優陽。しかしその途中に飛び出した一矢によって口を塞がれる。
「お前……っ……お前ぇっ!」
「ジョークジョーク。ナグモジョークだよ。ちゃーんと彼女の事も知ってるってー」
「笑えるか!」
冷や汗をダラダラと掻きながら必死の形相で胸倉を掴む一矢だが、優陽は特に反省した様子もなく軽く舌を出しながらウインクしている。
「な、仲が良いんだね……」
優陽の言葉も一矢が止めたせいか、ミサに完全に届いてはいなかったようで事なきは得ているが、優陽に振り回されている一矢を見て、ミサは何とも言えない様子で話す。
「そりゃそうだよ。僕らもう一夜を過ごした仲だし」
ミサの言葉に優陽はにっこりと一矢に身を寄せながら答えると、その言葉に空気が凍り付く。
「彼、結構可愛いんだよ(寝顔が)」
「一矢受け!?」
「でもあの夜は激しかったなぁ……(寝相が)」
「ねぇ一矢? ねぇ一矢っ!?」
一矢の冷や汗が止まらぬ中、どこか恍惚とした様子で頬に手を当てながら話し続ける優陽にミサはどんどん顔を真っ赤にさせて、一矢に何か言えと詰め寄る。
「お、落ち着け。俺がお前以外にそんなことするわけないだろ!?」
「一矢ぁっ!!」
ミサの両肩を掴みながら、取り繕うことなくとにかく必死に言い放つ一矢。しかし、その言葉のせいで、ボンと湯気が出るかのようにミサは顔を真っ赤にさせる。
「───随分と騒がしいじゃねえか」
お熱いんだからぁと白々しく口にする優陽に一矢とミサが赤面するなか再びイラトゲームパークの扉が開かれる。そこにいたのは一矢によって呼び出されたシュウジをはじめとしたトライブレイカーズと翔がいたのだ。
「良い顔になったな」
「ああ。決めたんだ。シュウジ達をちゃんと見送るって」
一矢を最後に見たのは、彼が公園で泣いて取り乱していた時だ。あの時とは打って変わって迷うことなく彼らの旅立ちを見送ろうとする力強い表情を見せる一矢にシュウジ笑みを見せる。
「だけど、その前に俺の全てを伝えたい。俺、説明とか下手だから……上手く言葉に出来るか分からないけど……」
見送った後も後悔がないように、だからこそ自分の全てを伝えたいとこの場に多くの人を集めた。
「だから、俺は俺なりのやり方で伝えたい」
すると一矢はケースの中からリミットブレイカーを取り出してシュウジに突きつけたのだ。
「……成る程な。良いぜ、そっちの方が俺好みだ」
一矢によって突き付けられたリミットブレイカーはバトルへの招待状のようなものだ。格闘家として拳で伝えることが多かったシュウジは面白そうに笑みを浮かべながら、バーニングゴッドブレイカーを取り出す。
「俺もお前に全部を伝えるからよ」
もうお互いに後悔がないように。集まった多くの者が見守るなか、一矢とシュウジはガンプラバトルシミュレーターへ乗り込んでいくとマッチング終了と共に己の全てをぶつけるために出撃するのであった。