機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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苛烈な一本の矢

 廃都市を舞台に戦闘を行うゲネシスブレイカーとパラドックス。荒廃した建造物の数々は戦闘の激しさを物語っていた。今もなお、互いに光の翼を放ちながら実体剣の刃が交じり、時には覇王不敗流の技の応酬を繰り広げられる。

 

「チィッ……!」

「ほらっ! まだそんなもんじゃないでしょっ!? もっとガチでやろうよぉっ!」

 

 しかし覇王不敗流の技であれば、本格的に習得したわけではない一矢よりもルティナに分があった。技で打ち負けたゲネシスブレイカーが仰け反るなか、すかさずGNソードⅡブラスターの銃身の部分で殴られて吹き飛ばされる。

 

 すぐさま追撃しようとするパラドックスだが、その前にゲネシスブレイカーが放っていたスーパードラグーンが四方八方からのオールレンジ攻撃を仕掛けてくる。

 

 ゲネシスブレイカーの持ち味は英雄と覇王から受け継いだ操作技術だけではない。

 元々の一矢が培っていた技術もある。それを活かすようにゲネシスブレイカーはその機動力を存分に発揮しながら、パラドックスの背後に回り込む。

 

「やればできんじゃん!」

 

 だがパラドックスはそんなゲネシスブレイカーにさえ対応して見せたのだ。

 振り下ろされたGNソードⅤをGNソードⅡブラスターで背面受けで防ぎながら、そのまま機体を捻るように動かして、遠心力を活かした一撃を放つ。

 

 しかしパラドックスのGNソードⅡブラスターは虚しく空を切った。一体、ゲネシスブレイカーはどこに行ったのか。探すよりも早く上方から反応がある。

 

 そこには掌から閃光を放つゲネシスブレイカーの姿が。今まさにパルマフィオキーナを放とうとするゲネシスブレイカーにすかさずパラドックスもパルマフィオキーナを発動させ、エネルギー同士の真正面からのぶつかりあいが発生する。

 

「ッ!」

 

 まさに互いの力が拮抗するなか、ふとルティナは違和感を感じる。なぜならば、対峙するゲネシスブレイカーのパルマフィオキーナを放つ掌が段々と紅蓮の炎を吹き上げているからだ。

 

 ルティナには覚えがある。

 これは覇王の未来を掴む一撃(バーニングフィンガー)。今まで拮抗していた力はまさに勝利の未来を掴むかのように少しずつ圧して行き、やがてぶつかり合うエネルギーは頂点に達して大爆発を起こす。

 

「……どうなった……?」

 

 弾かれるように爆炎から逃れた一矢はパラドックスを探す。今のでゲネシスブレイカーは手痛い損傷を受けたが、それは寧ろパラドックスの方が大きい筈だ。

 

「あはっ! あははははっ!! もぉ最っ高!! 次はどんなことしてくれるの!?」

「……クソッ、なにしても喜ぶとはな」

 

 爆炎の先にパラドックスはいた。いまだ健在なのだろう。ツインアイを輝かせながら、ファイターであるルティナは興奮が頂点に達して狂ったように哄笑をあげる。

 戦いその物に彼女は喜びを見出している。そんな彼女を相手に一泡吹かせようとなにかしてもただ喜ばせる結果になってしまうのだ。

 

 その時だ。ゲネシスブレイカーとパラドックスの周囲に無数の反応が発生する。センサーを確認してみれば、無数のNPC機が出現し始めているのだ。

 

「……ここはバトルフィールドだ。こんなことは分かりきっていたが……」

「あーあ……白けるなぁ」

 

 バトルフィールドである以上、無差別にNPC機が出現する。NPC機の攻撃を避けながら一矢とルティナは反撃に打って出ようとするが、地面を裂くような膨大な熱量を持つビームが放たれ、すかさずNPC機達から距離を置く。

 

「サイコガンダム……」

 

 そこには全高40mはあるであろう巨大な黒いガンダムであるサイコガンダムがデータによって構築されたのだ。恐らくはこの場のNPC機を達を纏め上げるボスとしての役割を担っているのだろう。その圧倒的な存在感を放つかのように胸部の三連装拡散メガ粒子砲を周囲に撒き散らす。

 

 ・・・

 

「……見つけました」

 

 それはこの廃都市に向かっていた希空達も確認していた。それと同時にゲネシスブレイカーとパラドックスの姿もだ。すぐさま援護に駆けつけようとするのだが……。

 

「ちょっと待て。妙な反応がある……」

「これは……ナビの嬢ちゃんが言っていたバグじゃねえか?」

 

 だがそんな希空に待ったをかけたのは翔だ。センサーを確認しながら話す翔にシュウジは歌音から送られてきたデータを参照しながら答えると、センサーに反応するバグはゲネシスブレイカーの周囲にまで迫っていたのだ。

 

 ・・・

 

 NPC機達を撃破しながら、サイコガンダムに向かおうとするゲネシスブレイカー達。しかしこの場のNPC機達は妙に堅牢で、中々撃破するのは難しかった。それに加えて、台風のようなサイコガンダムの波状攻撃がある。少しずつ防戦になっていくが……。

 

 ふとゲネシスブレイカーとパラドックスの背後からビームが横切って、近くのNPC機を撃破したのだ。

 

「RX-78-2……ガンダム……?」

 

 一体、何者によるものなのか。一矢達が確認して見れば、そこにはまさに長きに渡る機動戦士ガンダムシリーズ、その始祖とも言える白い悪魔・ガンダムがそこにいたのだ。

 

「あれ、でも反応がおかしいよ。アバターでもNPCでもないような……。これって……バグ……?」

 

 突然のガンダムの登場に注意を向けているとふとルティナはガンダムからの反応に顔を顰める。それはまさに歌音が言っていたバグに他ならなかった。

 

「──助けた相手をバグ呼ばわりってのはどうなのよ?」

 

 しかしあのガンダムは誰かが操っているのだろう。ファイターである青年と思わしき人物の声が聞こえてきて一矢達は驚く。

 

「気がついたら妙な空間にいるし、これって夢? 寝てるんなら、そのうち先輩が起こしてくれますかね」

(アイツも俺と同じなのか……?)

 

 ガンダムを操る青年は自身に置かれている状況を完全には把握していないのだろう。

 周囲のフィールドを見渡しながら苦笑混じりに話していると、その言葉から一矢は自身と同じくこの世界に迷い込んだ存在なのかと考える。

 

「それより、だ」

 

 とはいえ、青年は然程、自分の状況については気にした様子はなく、そのままゲネシスブレイカーとパラドックスに向かっていく。

 

「アンタ達のガンプラ、良いねぇ。ドラグーン付きのアンタは両脚部にスラスターユニットを装備した見る限りの高機動機!遠距離は少し心許ないが、その実、機動力を駆使した近接機体と見た! そして隣のデスティニーベースの彼女の機体はデスティニーの特徴であるアロンダイトと高エネルギー長射程ビーム砲を捨て、背部にはレーザー対艦刀、両腰にはレールガンか! 確かに火力面では劣るかもしれないが、小回りの良さと手数では十分なカスタムだ! 良いねぇ良いねぇ! ゾクゾクする!! フウウゥゥゥッッッフウウゥゥゥゥッ!!!!!!」

 

 舐め回すようにゲネシスブレイカーとパラドックスの双方を見やるガンダム。そのカスタマイズに青年が興奮気味に捲し立てる。

 

「アンタ達のパーツ、俺に使わせてみる気はない? 大丈夫、みなまで言うな! この天っっっっ才ガンプラファイターである俺なら、その真価をより発揮できると思うよ?」

(なんだコイツ……)

(天才って凄い強調した……)

 

 挙句の果てにはパーツをよこせと言わんばかりの物言いだ。

 青年のあまりのテンションについていけず、一矢もルティナも表情を引き攣らせる。しかし、そんなことはお構いなしにNPC機達からの攻撃が迫り、ゲネシスブレイカー達は咄嗟に回避する。

 

「全くいきなり攻撃したら危ないでしょうが……って、ん?」

 

 お構いなしに放たれた攻撃に機嫌を損ねた青年はぶうぶうと文句を言うが、そもそもNPC機達はそんなこと聞く気もなく、更に攻撃を仕掛けようとしてくる。止むを得ず、迎撃をしようとした時であった。迫るNPC機達を上空からの攻撃が降り注いで、次々と撃破していく。次の瞬間、NEXdh達が降り立つ。

 

「あっ、希空とロボ助だ」

「翔さんにシュウジ……?」

 

 NEXdhとFA騎士ユニコーンが降り立ったことで、そのファイターに気付くルティナ。それは一矢も同じようで、ブレイカー0とバーニングブレイカーの登場にどこか驚いていた。

 

「あ? 俺は見ず知らずの奴に呼び捨てにされる覚えはないんだがなぁ」

「なに言って……」

 

 希空達とルティナはスムーズにやり取りをしても、ガンダムブレイカー達はそうはいかなかった。そもそも一矢を知らないシュウジは露骨に顔を顰めて、不快感を露にしていると棘のあるシュウジの態度に戸惑ってしまう。

 

「あー……兎に角、今はこの場を切り抜けようじゃないの」

 

 他にもルティナがバーニングブレイカーに反応したりしているのだが、今は戦いの真っ只中。ガンダムを操る青年はそちらに意識を向けるように促すと、先陣を切るように飛び出す。

 

「中々、やるな……」

 

 すぐさまビームサーベルを引き抜いて、NPC機達を次々に切り裂いていくガンダム。その操縦技術を翔は純粋に認めていた。

 

「おぉっ、このパーツ、中々良さげだな」

 

 そんな青年が操るガンダムはNPC機達のハイゴックを相手にしていた。

 ハイゴックから突き放たれたバイス・クローを見て、避けながら感心していると、そのまま懐に飛び込んで両腕を切り裂く。するとハイゴックの切り落とされた両腕のパーツは吸い込まれるようにガンダムの中に消えたのだ。

 

「なっ……!?」

 

 次の瞬間、目を疑うような光景が起きた。

 何とガンダムの両腕はハイゴックのバイス・クローに変わったのだ。戦闘中に組み換えを起こしたガンダムに希空達は驚く。こんなこと自分達のガンプラバトルのシステムじゃ決して出来ないからだ。

 

 そこから怒涛の展開が起きたのだ。次々に青年のガンダムは敵NPC機達のパーツを破壊しては、自分のものとして、そのまま組み替えて戦闘を続行しているのだ。

 

「さて、後はアンタだけだな」

 

 両腕はハイゴック、胴体はサザビー、脚部はガンダムヘビーアームズ、バックパックはガンダムヴァーチェと最初のRX-78-2から最早、想像がつかないほど、継ぎ接ぎのようにパーツを組み替える青年の機体に一矢達は唖然とするしかなかった。しかしそんなことは露知らず、NPC機達を一掃すると青年はサイコガンダムに狙いを定める。

 

「ほら、かかっこい。最高が何か証明してやる」

 

 そう宣言すると同時に青年の最早、RX-78-2 ガンダムとは言えないカスタマイズ機体はサイコガンダムに向かっていく。当然、サイコガンダムは迎撃しようとするのだが、GNフィールドを張りながら突き進むカスタマイズ機は止められなかった。

 

 GNキャノン、メガ粒子砲、ミサイルを同時に放って、サイコガンダムの動きを牽制すると、瞬く間にカスタマイズ機はサイコガンダムの飛び込み、間接部をバイス・クローで集中的に狙って動きを鈍らせると、そのまま頭部目指して舞い上がる。

 

「さあ、勝利を組み立てようか」

 

 青年の自信に満ちた言葉と共に継ぎ接ぎの印象を受けるカスタマイズ機は覚醒に酷似した赤い光を纏い、元々のRX-78-2 ガンダムに姿を戻したのだ。そのまま覚醒の影響で肥大化したビームサーベルでサイコガンダムの頭部から股下まで切り裂いて撃破する。

 

「悪いね。俺は天才だけど、ただ強いだけじゃないんだ。天っっっっ才だけど」

 

 撃破されたサイコガンダムはデータ体となって朽ちて消えていく。その姿を見つめながら、青年は飄々と口にしていた。

 

「アナタは……。それに今の戦い方は……?」

「リアルタイムカスタマイズバトルでしょ。知らないの?」

 

 青年の戦いぶりを見て、彼について尋ねる希空だが寧ろ戦い方に関しては何を言っているんだとばかりにさも当然に答えられる。

 

「……兎に角、場所を変えましょう。アナタも……」

「あぁ……悪いね。そうしたいが、俺は別行動を取らせてもらいますよ」

 

 一度、ネオ・ホンコンに戻ろうと青年を誘う希空だが気まずそうにしながら青年は希空の誘いを断る。

 

「どうにもアンタ達とはパーツの組み合わせが悪い気がする。プラモはプラモでもバ○ダイとコトブ○ヤは違うし、ガンダムでも宇宙世紀とコズミックイラは違うだろ? 本来なら会うこともお互いを知ることもなかった……。そんな気がするんだ。だから俺は俺で行動するから、ここらでおさらばさせてもらうよ」

「なにを言って……」

「なぁに別に敵対するわけじゃないんだ。縁があったら、また会うこともあるでしょ。んじゃアデュー」

 

 要領を得ないことを口走る青年に希空達が戸惑っていると、一方的に話を切り上げた青年は再びガンダムのバックパックをガンダムヴァーチェのものに組み替えると、トランザムを発現させて、この場を一気に離脱してしまった。

 

 《あーちゃん、聞こえる?》

 

 わざわざ別行動を取りたいと言うのであれば、わざわざ追う真似はしまい。兎に角、ネオ・ホンコンに戻ろうとした矢先、歌音から通信が入る。

 

 《ちょっと前にラッくんが帰ってきてね。一緒に最後のUnknown反応のあるアバターを連れて来たのよ。そのアバターなんだけど……》

「どうしたんですか……?」

 《……ううん、兎に角、これで全てのUnknownが揃ったから、戻ってきてくれるかな》

 

 どうやらネオ・ホンコンのほうにはラグナと奏がやって来たようだ。

 しかし驚くべきはそこにUnknownも連れていたことだろう。どこか言いよどんだ様子の歌音に尋ねる希空だが、すぐに歌音は首を横に振り、戻って来るように促し、一先ず希空達はネオ・ホンコンへ向かうのであった。

 


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