太陽が燦々と輝く晴天の空の下、ここ地球の彩渡街では希空、奏、ロボ助のニュージェネレーションブレイカーズと舞歌がいた。彼女達がいるのは彩渡街であり、連休を利用して帰省した希空達が彩渡街に遊びに行くのを知った舞歌も加わって、この街に一緒に来たのだ。
「粗方、回ったな」
「そうですね…」
帰省を機に彩渡街の知り合い達に挨拶をしに行っていた希空達。それも奏の言うように、大体は終わった為、今後の行動をどうするか考えていると、ふと希空の携帯に着信が鳴る。何気なく取り出してみれば、相手は歌音だった。
《やっほー、あーちゃん》
「歌音さんですか」
どうやら相手は歌音だったようだ。いつものだらけたような気の抜けた声が電話口に聞こえてくる。
《優陽叔父さんからあーちゃん達が帰省してるって聞いてねー。アイちゃん達と今、家の近くにあるゲーセンにいるんだけど、来るー?》
「そう、ですね。これから特に行く当てもなかったので…」
歌音は今、どうやら愛梨達と一緒にいるらしい。奏と舞歌に目配せをした希空は今後の予定もなかった為、歌音達がいるというゲームセンターに向かうのであった。
・・・
「わあー、希空だっ」
ゲームセンターに到着した希空達がそのままガンプラバトルシミュレーターVRが設置されている場所へ向かえば、早速、愛梨が出迎えてくれた。
近くのベンチにはこちらに手を振る歌音が座っており、ガンプラバトルを映し出すモニターを見やれば、どうやら明里とサヤナがバトルをしているようだ。
程なくしてシミュレーターから出てきたサヤナと明里へ挨拶を交わすのだが、明里はどことなく機嫌が悪いのだ。何事かと思った希空達はそのことについて問いかける。最初こそはぐらかしていた明里だが、やがて観念したのか、渋々、機嫌を損ねている理由を話し始める。
「涼一が不在、ですか…」
どうやら明里が不機嫌となった理由はこの場にいない従姉弟の涼一の不在にあるようだ。確かに明里は所謂、ブラコンと言われる類の存在だが、正直、言っては悪いがたかが不在レベルで不機嫌になる理由が理解できないのか、希空は不可解そうに首を傾げる。
「いや、でも私には理解できる。私も以前、希空に置いていかれた時には胸が張り裂けそうなほど悲しんでだな…。あぁ思い出しただけでも涙が…」
「…いない人間のことを考えても仕方ない、です」
すると突然、理解を示したのは奏であった。以前、ルティナが希空に案内を頼んだ日の事を思い出しているのだろう。ハンカチで目尻を拭って、鼻を啜っている奏に面倒臭さを感じた希空は素早く話を変えようとする。
「そー言えば、みんなが好きな男性のタイプとかってあるの?」
「男性、ですかー」
話題を変えようとした時、明里から話を振られる。突然にも感じられるが、明里の機嫌が直るのであればと舞歌が話に乗っかり、ゲームセンターを舞台にコイバナが繰り広げられる。
「歌音さんはイケメンとか大好きそうですよねー」
「ごふっ…た、ただの面食いだと思われてる…」
舞歌はそのまま視線を動かして、歌音を見やる。特に悪意もなく、思ったままを口にしたわけだが、その言葉がナイフとして突き刺さった歌音は一人、蹲っている。
「わ、私は老若男女、外見内面問わず綺麗なものが好きなのです…。別に顔だけで選んでいるわけでは…」
「でも視姦をしては悦に入ってますよね」
「シ、シテナイデス。タダシセンガソコニアルダケデス、ハイ」
何とか弁明しようとする歌音ではあるが、今度は希空から再び何気なく放たれた言葉に心が折れそうになりながら何とか話す。
「まあこの人はそもそも恋愛クソ雑魚歌姫の年齢=彼氏いない暦だから、このままなら出来ないだろうな」
「───」
「し、死んでる…」
最後に容赦なく放たれた奏の言葉に直立で反応がなくなった歌音。そんな彼女を見て、明里は表情を引き攣らせる。
「全く…例え最初の言葉が事実であれ、見境がないからそう思われるのだ」
(流石、掛け持ちなしの希空担…)
歌音を見ながら、腕を組んでやれやれと言わんばかりのため息をつく奏にサヤナは何とも言えない苦笑した様子だ。
「ですが、それで言うならば奏も恋愛をするという姿が想像出来ません」
「わ、私か?」
すると今度は奏に槍玉が上がる。希空の発言に先ほどまで厳然とビシッと組んでいた奏の腕も崩れ始める。
「まあ確かに…」
「いつも希空さんにべったりのイメージしかありませんからねー」
動揺している奏に追い打ちをかけるかのように、希空の言葉に便乗する愛梨と舞歌。流石にこれには、奏もしどろもどろと慌てる。
「ま、待て!私だって恋愛の一つや二つくらい──!」
「私に誓って言えますか?」
「…初恋もないです」
何とかそうではないと話しはじめようとする奏ではあるが、鋭く向けられた希空の視線を受けて、完全に崩れ落ち、周囲も初恋すらないのか…と何とも言えない空気になる。
「ま、待て!私だって
「では、奏の好みってどんなのですか?」
流石にここまで来ると、歌音が不憫ではあるが、そんなことも頭にないほど、必死に弁明する奏に希空は最初の話に戻って、彼女に問いかける。
「あ、甘えさせてくれる人が良いなって…」
すると彼女のトレードマークの外はねの髪もペタンと垂れ顔を一気に湯気が立つほど紅潮させて気恥ずかしさから視線を逸らすと、人差し指同士を突き合わせボソボソと話している。
「ま、まあでも奏ほどじゃないにしろ、希空はどうなの?」
歌音に続き、今度は恥ずかしさから行動不能になった奏を見ながら、今度は愛梨が希空に恋愛について尋ねる。
「意識その物をしたことがありません。そういった機会に恵まれなかったので」
(…まあ、悪い虫を寄せ付けない
思えば、希空も恋愛関係に関しては、あまり浮いた話はない。とはいえ彼女に関しては、彼女を取り巻く周囲がが下手な人物を寄せ付けない為でもあり、明里はその最たる存在であるロボ助を見やる。
「ですが…どうせなら傍にいてくれる人がいいです。どんなに不器用な人でも良いんです。私を理解して絶対に離れないって、この手を取ってくれる人が」
己の掌を見ながら、自身が思い浮かべる理想の男性像を話す。その声色はとても穏やかなものであった。
「サヤナさんは?」
すると今度は、サヤナに話題が移る。歌音、奏、希空に続き、彼女の男性の好みは一体、どのようなのだろうか。だが視線が集まる中、どういうわけかサヤナは難しげな表情を浮かべる。
「なにかあったのですか?」
希空のように実体がなく中々答えが出ないと言うよりかは、何か悩みがあるような様子だ。それに気付き、希空はサヤナに問いかける。
「実は…」
暫らく黙っていたサヤナだが、どうせならと思ったのか、重い口を開き始める。
実はサヤナにお見合いの話が持ちかけられていると言うのだ。なんでも相手は両親の知人の玩具関連の会社に務めるエリートサラリーマンである息子とのこと。実際、トイショップの経営者のサヤナには好条件の相手に違いないだろう。
「語弊を恐れず言うのであれば、何だかんだでも私達には他人事なので、私はこういう風にしか言えませんが、お見合いその物は悪いわけではないですし、素敵な男性で、それが良縁である可能性だってあるわけですので会うだけ会ってみれば良いのではないでしょうか」
お見合いと言われても、希空にはまだあまりピンと来ないが、あくまで話を聞いた上での自分の考えを話す。とはいえ、結局はサヤナの問題。決めるのは彼女だ。それを理解しているのだろう。サヤナはそうね…と頭を悩ませる。
「じゃあ今度はさ、私達の周りの男の人について話そうよっ」
どこか影を差した雰囲気を変えるように、明里が話題を変える。周囲の男性で言えば、それこそラグナや涼一、貴文などであろう。彼女達のガールズトークはまだまだ続くのであった。
・・・
「ただいま…」
あれから数時間後、日が沈むなか、希空は奏達と別れて、実家に帰ってきていた。ボイジャーズ学園への進学の為、家を出て、それから彩渡街に帰ってくることはあっても、当時の希空の複雑な心中から家に帰ってくるのは今日が始めてだ。
「おかえり、希空」
この家は何でも希空の誕生に合わせて、新築したという話だ。懐かしさを感じながら、リビングの扉を開けば、台所で料理をしている母親であるミサが温かな笑顔で出迎えてくれた。
《久しぶりだな、希空。会うのはグランドカップ以来か》
「そうだね、ロボ太。パパは?」
《まだ仕事だ》
それだけではない。ロボ太もまた家にある特製のスピーカーを通じて、話しかけてきてくれた。そんなロボ太に合わせて、希空は屈みながら穏やかに笑うなか、一矢を探すが、まだ仕事をしているようだ。
「疲れたでしょ?先にお風呂に入る?」
「うん、でも少しだけ休みたい」
一先ず、料理をする手を止めて、ミサは希空に話しかける。コロニーから帰ってきて、そのまま彩渡街を周ってから帰ると聞いていたため、彼女を気遣ってのことだ。
「でも、まだそのヘアピン使ってるんだね」
「気に入ってるんだ、これ」
ソファーに座る希空の言葉にそっか、とミサが料理を再開するなか、ふと希空が前髪に留めている二つのヘアピンに気付く。自分と同色のヘアピンについつい笑みを漏らすミサに、希空も気恥ずかしそうにしながら大切そうに自身のヘアピンを撫でる。
「どうせだったらツインテールにしてみる?」
「この年でツインテールはちょっと…」
「あれもしかして若い頃のママ、ディスられてる?」
どうせなら今の希空くらいの年齢の頃にしていた自身の髪形を勧めてみるミサだが、遠回しに引き気味に拒絶する希空の反応を見て、表情を引き攣らせる。因みに、この時代のミサはツインテールではなく、髪は腰の辺りまで垂らしている。
「なにやってるの?」
どこかショックを受けているミサを他所にふとなにやら通信をしているロボ助とロボ太に気付き、話しかける。
《あぁうむ。ロボ助とは会う度に突然、希空の普段の日常を収めたデータが大量に送られてくるのだ》
「本当になにやってるの、ロボ助」
希空に声をかけられたロボ太は隠すことなく答える。しかしその内容に希空はロボ助を見やり、ロボ助はスッと目を逸らす。下手をすれば、会えばインフォなどにもやっているかもしれない。最早、布教活動である。
《中でも希空の学園生活は興味深い。ここでは見たくても見れないのでな》
「あっ、それ良いな。私も見たいっ」
とはいえ、ロボ太も満更ではないようで、まるで親戚かなにかのように希空の日常を収めたデータを喜んでいる。そんなロボ太の言葉に回復したミサが食いつく。
《むっ、ゲームセンターで歌音達にも会ったのか》
(もう今日ことまで送られてる…)
データをチェックするなか、今日の出来事について触れられる。そんなロボ太の発言に希空はジト目でロボ助を見るが、最早開き直っているのか、何が悪い、希空の魅力を伝えたいのだと言わんばかりだ。
「でも今日のこと、か」
ふと希空は数時間前のことを思い出す。主に所謂、コイバナについて話をしたのだ。
「ねえ、ママ。パパと結婚するまでの話とか聞いても良い?」
「えっ?なんでいきなり…」
「今日、コイバナしたんだ。それで聞きたくなっちゃって…」
すると希空はミサに一矢との結婚に至るまでの話について問いかける。とはいえ、突然のことに驚いているミサにその理由を話す。
《私も主殿とミサの話は気になるな》
「うーん…。まあいっか」
結婚に関しては自身もいなかった時の話だ。居合わせなかったことに思うところはあるが、それでも聞いてみたい。そんな希空とロボ太の言葉に料理が一段落してやってきたミサがエプロンを外して希空の隣に座る。
「じゃあ話そうか。どうしようもない不器用さん同士が結ばれるお話を」
希空、ロボ太、ロボ助の視線が集中するなか、自身の携帯端末から立体モニターに20代後半の時期と思われる一矢とミサが写った写真を表示させる。どうやら結婚式の写真のようで、純白のドレスに身を包んだミサを抱きかかえる一矢と周囲には彼らを祝福する厳也達の姿もあって、全てに祝福された結婚式だとすぐに分かった。その写真に懐かしんだようにミサは話し始める。
これは空白の物語。
未来への扉を開く為の鍵となる話だ。