「ドロシー、ルールをもう一度聞かせてくれるかい?」
ガンプラ大合戦が遂に開催され、ウィルは両軍のガンプラがバトルを開始したのを用意された特別席でモニター越しで眺めながら傍らに控えるドロシーにこの大合戦に設けられたルールを尋ねる。
「はい。御剣コトが将軍を務める頑駄無軍団と蘆屋淄雄が将軍を務める闇軍団によるチーム戦で、軍を率いる将軍を討ち取った勢力の勝利です」
「これは長くなるね。一部を覗いて大半が有象無象でしかない」
ルールの説明を求められたドロシーは手早く説明を済ませると、頬杖をつきながらウィルはモニターに映る映像を見やりながら呟く。モニターに映るガンプラのバトルは一部を覗いて、どれも無駄が多いと言わざる得ない。
(……しかし、どれも……)
だが、どのガンプラもとても活き活きしているようにも見える。
それは単純にこのバトルを楽しんでいると言う事なのだろう。ウィルは考えるようにただバトルを見つめるのであった。
・・・
「皆さん、頑張りましょう!!」
このガンプラ大合戦において頑駄無軍団の将軍の立場であるコトはストライクノワールを操作しながら周囲を鼓舞する。
ガンプラ大合戦のステージに選ばれたのは広い荒野の中心に聳える逆三角形の禍々しい
大合戦と言うだけあり、あちこちで轟音が響き渡り、バトルの激しさを物語るかのようだ。
「手加減抜きだぜ!!」
「速い……!?」
闇軍団に所属する宏佑のクロスボーンXクアンタが瞬く間に雷のような苛烈さを持って頑駄無軍団のガンプラをまるで次々に戦闘不能に追いやっていく。
そしてそのまま一気に頑駄無軍団の陣地に踏み込んでいき、ストライクノワールを狙う。あまりの速度にコトは反応が追い付かず、このままで窮地に追いやられてしまう。
「なにっ!?」
「良い動きをするが、予想はしやすいな」
しかしそんな破竹の勢いを見せるクロスボーンXクアンタだが周囲から無数に放たれたビームにギリギリで回避するのだが、その回避コースを先読みしていたのか放たれたビームの一撃がクロスボーンXクアンタに直撃する。
動きが鈍ったクロスボーンXクアンタに急接近した陰。
それは芸術品にでも見違えるかのような精巧なHi‐νガンダムであった。
ファイターであるアムロによって圧倒的な加速を持って急接近したHi‐νは対応しようとするクロスボーンXクアンタにビームサーベルを引き抜き、腕部を切断するとそのまま蹴り飛ばして、コックピットを撃ち抜く。
「単純に数では圧倒されてはいる……。長丁場は危険だな」
動きを止めることなく別の違うポイントへ向かっていくHi‐ν。
数も質で勝てば良いとは思うが、それでも戦い続けるファイターは消耗していく。どちらにしろ、長時間バトルを長引かせればこちらが不利になる事は目に見えていた。
それに何より単純に闇軍団側の勢力は大きいだけではない。
中には練度の高いファイターも数多くいる。
「やる……ッ!」
「まだまだ行くぞ!!」
現にレンのストレイドによって握られたマニビュレーターが放たれ、秀哉のPストライクカスタムはビームブレイドを盾代わりに防ぐのだが勢いに負け、態勢を崩してしまう。秀哉が顔を顰めるなか、レンは追撃しようとするが……。
「助かった、一輝!!」
「まだまだ安心出来ないよ!!」
追撃の行く手を阻むように無数の銃撃がストレイドに襲いかかり、追撃の手は届かない。
見れば一輝のストライクチェスターが砲門を展開しながら、逆に此方がとばかりに更なる銃撃を繰り出す。
ストライクチェスターに並び立ちながら、秀哉が一輝に礼を言うと引き締めた表情でことごとく回避するストレイドを見据えながら一輝が叫ぶ。
「調子に乗らないでもらいたいわね」
「そんな余裕はないけどねッ!」
またその近くでは同じく闇軍団のジーナのジェスタ・キラウエアとクレナイが先頭を繰り広げている。
ジェスタ・キラウエアのソードピットに対抗して放ったシールドピットが縦横無尽の攻防を繰り広げるなか、激しい剣戟を繰り広げながらジーナと龍騎はバトルとは裏腹に楽しそうに会話をしている。
「聖皇学園、やはり手強いなッ!!」
「俺達だって名は知られるんだぜ!!」
戦いの場はなにも地上だけではない。
宙でも幾多のガンプラが弧を描いてぶつかり合う。
その中でも目を引くのは近接戦に特化した碧のロックダウンと拓也のBD.the BLADEによる剣戟だろう。メイスと対艦刀は幾度もぶつかり合い、その度に甲高い音を周囲が響き渡る。
「何で当たんないんだよ……!!」
「可愛くて強い最強無敵の風香ちゃんが相手だからねぇ」
勇のバアルのツインバスターライフルの砲口が光り輝き、同時に極太のビームが苛烈さを持って放たれるが、風香のエクリプスはさながらステップでも踏むかのように軽やかに旋回して避けると、勇の苦々しい呟きにどや顔スマイル全開で全てのシールドピットを射出しながら一気にバアルを肉薄する。
「風香ちゃんに触って良い人って限られてるし、服の下は翔さん以外は触っちゃいけないしねー。ねぇ、翔さん聞いてるー? 風香ちゃんの服の下の清い身体に触って良いのは翔さんだけだからねー! ふわふわぷにぷにだぞ♡」
「……くっ!? 垣沼みたいな奴だな……!!」
言葉の内容とは裏腹に無数のシールドピットによってバアルを翻弄しつつ、分離させたツインバスターライフルを間髪入れずに発射する。バアルの片腕を溶解させると調子の狂う風香相手に勇はチームメイトを思い出して顔を顰める。
「わ、私はあそこまで変じゃないし……。あぁでも夕香とは同じチームになれなかったな……」
「夕香と同じチームだったらどうするつもりだったんだよ!」
勇の呟きが聞こえていたのか、表情を引き攣らせながら否定するように口を開く真実だが、悲しいかな、その言葉は誰も信じない。
真実の零した呟きにハイパーカイザーがカレットヴルッフことブレイブセイバーを振りかぶりながら、そのファイターである炎が問いかけながら横なぎに振るう。
「雨宮君が帰ってくるまで格好良いところを見せて公認でお義姉さんって言われるつもりだったんですぅ!!!!!!」
「なんだそりゃ……」
真実の中では義妹と書いて夕香と読むらしい。
目論見が外れてしまい悲しみの叫びをあげながら勢いのままブレイブセイバーをサーベルで受け止めるG‐リレーション。あまりの言葉に勇だけではなく、炎でさえ調子が狂うのか微妙そうな表情だ。
大乱戦と言う言葉が相応しいほどの激戦が各地で繰り広げられており、その一つ一つに目を向ければ互いの全力をぶつける輝かしいものである事がすぐに分かるだろう。
「うわぁあっ!!?」
シールドを装備する腕が宙を舞った。
その腕をつけていたカイウスを操作する涼はたまらず悲鳴を上げ相手を怯みながら見やる。
そこにはソマーソルトキックを放った直後で足部のハンターエッジを輝かせながら宙返りしているヴィダールの姿が。
宙返りの直後、再びヴィダールがカイウスに向き直った瞬間、フロントスカート内からハンドガンを二挺取り出して集中砲火を浴びせつければ、そのまま回し蹴りを直撃させることでカイウスを撃破する。
「涼をやったなぁっ!!」
まるでダンスのような流れる動作でカイウスを撃破したヴィダールに既にパージ状態である恭のG-KYO POがトランザム状態で急接近してグランドスラムを振りかぶる。
反応したヴィダールはG‐KYO POを見やる。
反応が遅れているわけではなく、ただジッとG‐KYO POを見据えている。
刃が光った。
ヴィダールのバーストサーベルの刃の方が早くG‐KYO POに届き、そのまま刃を爆発させる。元々、パージした事もあり装甲の薄いG‐KYO POには致命打となりそのまま力なく落下してゆく。
「大型剣を振り回すような近接戦に特化したのが間違いですわね。いかに素早かろうが結局タイミングさえ合えばどうとでもなりますわ」
落下していくG‐KYO POを見やりながら、助言のようにその攻略法を口にしたゔぃだーるはそのままガンプラを動かして、相手の陣地へと向かっていく。
(既に敵陣に攻め込んではいるようですが、妙に引っかかりますわ)
表示されているマップを見やり、敵味方を識別するシグナルが輝いている。
どうやら自軍は既に相手陣地に攻め込んではいるようだ。しかしゔぃだーるには何か胸騒ぎのような覚えがあった。
・・・
闇軍団の陣地では頑駄無軍団のガンプラが攻め込んでおり、その中には夕香のバルバトスルプスや裕喜のグシオンリベイクフルシティの姿もある。
「裕喜、どう? 上手くいってる?」
「うんっ! どどーんっばばーんって感じ!」
「なにそれ」
ソードメイスを振るって相手のガンプラを叩き潰した夕香はバックステップで素早くグシオンリベイクフルシティの傍らに移動しながら、調子を尋ねると楽しそうな裕喜のふわっとした返答に思わず苦笑してしまう。
日が浅いと言うのに敵陣の中でも余裕を見せられるのはある意味で才能があると言って良いだろう。
「流石、商店街のエースの妹だ!」
「ここで止めるぞ!!」
頑駄無軍団においてやはり一番、注目されているのは夕香であろう。
何といってもジャパンカップ優勝者の妹なのだ。誠は新たに完成させたフルアーマーユニコーンガンダム plan BWを駆り、純のGNーΩと共に夕香達の勢いをここで止めようとする。
「裕喜来るよ。援護してね」
「おっまかせー! どっかーんって行くよ!!」
迫る二機を見やりながら裕喜に素早い指示を出す夕香は間髪入れずにバルバトスルプスを動かして迎え撃つ。
夕香の要請にこたえると同時にウィンクした裕喜はグシオンリベイクフルシティのサブアームを合わせて、四艇装備して二機をロックして射撃を開始する。
「速いなッ」
「アタシを誰だと思ってんの?」
GNーΩのハイパービームジャベリンとぶつかり合ったかと思えば、そのまま上段回し蹴りを放ってハイパービームジャベリンの矛先を地面に反らすと回転の勢いを使用してソードメイスを振るい、GNーΩの機体をくの字に曲げる。
「日本一のボッチの妹だよ」
そのままGNーΩの頭部を掴んで地面に叩きつける。
夕香のバトルのスタイルは半ば近接戦に特化していると言っても良い。
それは彼女の兄の影響もあるのかは不明だが近接戦において彼女もまた無類の強さを見せていた。
「エ、エネルギーがっ!?」
「これってワンチャンあるかもっ」
誠に純の援護をさせないのはそれが夕香の援護に繋がるからだ。
通常のFAユニコーンガンダムと違い、プロペラントタンクもない誠のユニコーンはある意味で欠陥機であり、動きが鈍ったところをニコッと笑った裕喜の集中砲火が襲う。
「──やっぱり目障りなんだよなぁ」
誰にも聞こえない呟きが静かに零れる。
次の瞬間、後方から大出力のビームが何本もバルバトスルプスやグシオンリベイクフルシティに襲いかかった。
「なんだっ!?」
「嘘だろ!?」
地面を吹き飛ばし、大爆発が起きる。
夕香と裕喜を狙っただけではなく、その近くの誠や純のガンプラにも被害が及び、パーツが吹き飛ぶ。特に倒れていたGN-Ωは殆どのパーツがはじけ飛んでしまった。
「幾らなんでも味方ごとってのは不味かったんじゃないか?」
「味方からの攻撃はダメージがないんだ。これくらい構わんさ」
発射源にはメガライダーが配備されており、そこにはゴトラタンとリグ・コンティオの姿がある。ゴトラタンのファイターであり、淄雄の幼馴染みの
しかし爆煙が消えると、そこには比較的軽微の損傷で済んだバルバトスルプスとグシオンリベイクフルシティの姿があり、淄雄は忌々しそうな表情を浮かべ歯ぎしりをする。
「しょうがないな。ここは私が何とかするよ」
「いや、どうせだ。俺自身の手でアイツを倒す」
いまだ健在のバルバトスルプス達を見て佳那は自らが動き出して仕留めて見せようとするが、それを淄雄がオープン回線によって制して己の手で夕香を打ち倒そうとする。
「お前には援護をしてもらう。頼りにしてるぞ」
「……しょうがない。メガライダー隊は準備済み次第、再度攻撃開始だ!!」
その言葉と共にリグ・コンティオはバルバトスルプスに向かっていき、淄雄の言葉に頬を染めた佳那はメガライダー隊に指示を出しつつ、リグ・コンティオの後を追う。
「ガンプラを壊れてもまだ出てくるとは……どこまでも俺の邪魔をッ!!」
「……っ……。あんた、それ……」
宙に飛び上がったリグ・コンティオはリアブル・ビーム・ランチャーと胸部ビーム砲を合わせて噴火のような凄まじい砲撃を放つ。その砲撃をギリギリで回避しながら淄雄のオープン回線から聞こえた言葉に眉を顰める。
「お前ら彩渡商店街のせいで、このタイムズ百貨店も伸び悩んであの男にも嘲笑される始末だ!! こっちの邪魔をするなッ!!」
「……それが商売ってもんでしょ。あの商店街だって今まではゴーストタウンだったんだよ」
しかし淄雄は口を止めることなく、彩渡商店街を目の敵にする理由を叫ぶと、あまりの理由に夕香は呆れを通り越して不愉快そうに顔を顰めて呟きに似た返答をする。
寧ろ今までは彩渡商店街が苦汁を飲まされていたのだ。
その立場が少しずつ逆転し始めて、半ば逆恨みに似たその理由は夕香には到底受け入れがたい。
「お前の兄がッ! アイツさえ現れなければ!! たががガンプラバトルが強いだけで何の取り柄もないくせに!!」
「……は?」
その彩渡商店街の快進撃の立役者とも言える一矢へ淄雄の怒りの矛先が向けられる。しかしその淄雄の言葉に夕香の眉毛は引くつき、鋭く目を細める。
「俺の方が優れている筈なのに妙な光が使えてガンプラバトルが強いだけでッ!!! それでこの百貨店の流れを変えて!!! アイツさえいなければ、この百貨店どころか全てを手に入れられる俺の人生だってもっと上手くいってたんだ!!!」
いずれはウィルを出し抜こうとするだけではなく、目の敵にする過程で一矢のことも調べたのだろう。
一矢に対する恨み辛みをみっともなく叫び散らす淄雄に夕香はどんどん俯いていき、表情が隠れて感情が読み取れない。
「俺の前に現れなければ……あんな男がこの世に生まれて来なければ──!」
だが淄雄は怒りの勢いに任せて暴言を吐く。
しかしその言葉の途中でリグ・コンティオの機体は眼前に迫ったバルバトスルプスが己の身を弾丸にしたようなソードメイスの一撃を持って地面に叩きつけられる。
「……いい加減、黙んなよ。イッチのこと何も知らないくせにさぁ……好き放題言わないでくんないかな……」
ソードメイスを叩きつけたもののリグ・コンティオはいまだ健在だ。
そんな中、夕香の芯から凍り付くような冷たい声が地を這うように響き渡る。
「別にアタシはなに言われようが、なにされようが構わないけどさ……。アタシの身内を……イッチを馬鹿にされて黙ってられるほど大人じゃないんだよねぇ……」
双子の兄である一矢は同じ時に生まれた並みの兄弟とは違う繋がりがある。
言ってしまえば自分自身の半身のような存在なのだ。
その存在を否定されると言う事は夕香にとって自分を否定されるのと同意義であった。
そのままソードメイスを振りかぶるバルバトスルプスであったが、その前にゴトラタンの横やりを受けて、距離を取る。
「はぁー……。もう良いや……。アンタみたいなのは黙れって言って黙るとは思えないしさ……」
がっくりと肩を落とした夕香はゆっくりと顔を上げ、リグ・コンティオとゴトラタンを明確に敵だと認識するように見据える。
もう淄雄の声が夕香にとって不協和音のように耳障りであった。
言葉で言っても駄目だろう。ならば今この時は行動で、暴力を持って黙らせるまでだ。
「夕香……?」
どこまで響き渡るような夕香の冷たい声を聞き、裕喜は怯えたように瞳を揺らす。
夕香の親友である裕喜でさえ夕香が怒りを示したところを見たのは初めてだからだ。故にどうなるかも分からない。ただただ憎々しげに怒りを露にする夕香を初めて目にして怖かったのだ。
「バルバトス……アンタの全部、アタシが使い尽くしてあげる」
顔を上げ、鉄仮面のような冷たい表情を浮かべる夕香が選択したのはトランス系のEXアクション。それは阿頼耶識のリミッター解除による大幅な性能を向上させるEXアクションであった。
自分の敵を見据えるその真紅の瞳は怒りの業火の如く妖しく揺らめている。
その瞳にかつて破壊された自分と、そして何より主の怒りの瞳に同調するかのようにバルバトスのツインアイは通常とは異なる妖しく紅き輝きを放つ。
そこにいるのは一体の悪魔。
ソードメイスの先を地面に音を立てて引きずり、地獄へ誘うかのように揺ら揺らと歩くバルバトスルプスは、愚かな言動をその命をもって償わせるかのように一気に向かっていくのであった。