宇宙を舞台にしたバトルフィールドではスターストライクとアザレアPによるバトルが行われており、無数に放たれたドラグーンはヴェルのマニュアル操作によって着実にアザレアPの死角をついて損傷を与えると、近づいたスターストライクはビームサーベルを引き抜き、そのまますれ違いざまに両断する。
ミサがヴェルから特訓を受ける時間は数時間とまだ短い。
だが、その短い数時間でもその内容は非常に濃縮したものでヴェルと行うバトルの一つ一つがミサを着実に強くしていく。
「まだやりましょうよ、ヴェルさん!!」
「あははっ……。少し休憩しよっか。ゲーム漬けはよくないよ」
例え幾度負けても、その度に少しずつヴェルから学び成長する自分を実感しているのだろう。だからこそもっと強くなりたいと熱気あふれる楽しそうな笑顔を向けられたヴェルは苦笑しつつも、ミサの身を案じて休憩を提案する。
・・・
昼下がり、二人が移動したのは有名なファストフード店であった。
アメリカに来たのならば、この店にかねがね訪れたいと考えていたミサはヴェルとテーブルをを挟んで座りながら、ハンバーガーを頬張っていた。
「あぁ美味しい……っ」
まるで音符でも弾ませるようにハンバーガーを食べて舌鼓を打つヴェルの様子はこれ以上の幸せはないと言わんばかりだ。その様子にいつもは姉のようなしっかりした印象を受けるヴェルに幼さを感じたミサはついつい笑ってしまう。
「けどヴェルさんって本当に強いですよね。手も足も出ないなんて……」
「まぁ私も何だかんだで必死に強くなろうとしたからね」
先程のバトルを思い出しながら、ヴェルの実力を素直に認める。
ヴェルはバトルをして日が浅いと言うのに、バトルの仕方を……戦い方を知っている。それは自分にはないヴェルの強さなのだ。
「それって……やっぱりシュウジさん達がいるから……?」
「そうだね……。あの二人は傍にいたいって思える魅力があるんだ」
以前、公園で聞いたことがあるヴェルが強くありたい理由。
そのことをヴェルに伺うと、感慨深そうに目を細めながら、これまでの出来事を思い出している姿を見れば、それだけシュウジとカガミを大切に思っているのだということが分かる。
「あの……ヴェルさんはシュウジさんのこと、どう思ってるんですか?」
ヴェルと言えば、シュウジと一緒にいる印象がある。
旅行の時もウィルス駆除の時もだ。もしかして、ヴェルはシュウジと特別な関係にあるのではないかと好奇心から尋ねてしまう。
「シュウジ君? シュウジ君は目が離せない危なっかしい弟みたいな感じかな……」
シュウジについて尋ねられるとは思っていなかったヴェルはうーん……と考えるように首を傾げると、まず第一に思い浮かんだシュウジへの印象を答える。
・・・
「へっくし!」
同時刻、ハイムロボティックスでロボ太の調整を手伝っているシュウジは鼻のむず痒さを覚えたと思えば、次の瞬間、くしゃみをしていた。
・・・
「シュウジ君は無鉄砲で」
「はっくし!」
「鈍感で」
「ぶぇっくし!」
「不器用で」
「へぇっくしょん!」
「人に心配をかけるのが得意な子だけど」
「はああぁーくしょぉんっっ!!!」
ヴェルが一言一言、シュウジのマイナス点を口にする度に遠く日本の地にいるシュウジが連動するように、どんどん大きなくしゃみをして、寒気を感じて身を震わせる。
「それでも……真っ直ぐ前を見て走り続ける姿は格好良くて……近くにいたいって思えるんだ」
シュウジを想い、知らず知らずのうちにヴェルの口元には笑みがこぼれる。
初めて会った時の印象はこれからのチームでの行動の先行きに不安を感じてはいたが、長い年月を共に過ごしているうちにその印象は変わった。
「シュウジ君はね、手を差し伸べてくれるような人なんだけど私はそんなシュウジ君に手を差し伸べられる人でありたいんだ。真っ直ぐ進み続けるシュウジ君が転んじゃった時、立ち上がらせられるように……支えて、あげられるように」
自分の雪のように白いか細い手を見やる。
この手がシュウジの助けになれるのかは分からない。でもそれでも手を差し伸べたい。
シュウジの頑張りは知っているから、だからこそその近くで支えてあげたいと思えるのだと。
「なんだか彼氏の惚れっ気を聞かされてるみたい……」
「彼氏……?」
その様子に思わず感じた事をそのまま口にしてしまった。
彼氏と言う言葉を反復したヴェルはその言葉を認識した瞬間、ボンッと爆発したかのようにたちまち顔を真っ赤にする。
「か、かかかか、彼氏、なななんて、そ、そんなとんでもないでございまする!」
「まする? でも、シュウジさんとそういう関係になったらとか考えた事ないんですか?」
シュウジとそういった関係になった時の事を想像したのだろう。
上気でも出てきそうな勢いでシュウジとの関係をぶんぶんと首を横に振って否定する。
その語尾に苦笑しながらも、年頃のミサはどんどん踏み込んでいく。
「あのっ……その……っ……ね……。今までそんな余裕がなくて……ちゃんと考えた事……なかったんだけど……」
熱を帯びる頬を両手で冷ますように抑えながら、いまだ恥じらった様子のヴェルにうんうん、とミサは瞳を輝かせながら続きの言葉を待つ。
「お、お嫁さん……とか……良いかなーっ……なんて……」
人差し指同士を合わせて恥ずかしいのかミサにそっぽを向きながら、か細い声で答える。今までMSパイロットとして、明日の我が身も分からぬ中、仲間達と生きる事だけを考えていたヴェル。この世界に来て、心にも余裕が出来たのだろう。初めて考えた女性の幸せに恥じらっている。
「で、でででも!! だからってシュウジ君は関係ないよっ!!」
(なにこの乙女)
両手をぶんぶんと振りながら、シュウジを関係ないと話すヴェルだが、その様子から全く持って説得力がない。年上の筈のヴェルの可愛らしい一面を見て、ミサはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「でも何だか分かるなー」
「えっ、お嫁さんになりたいの? 誰の? 一矢君の?」
「ち、違います!」
頬杖をつきながら、先程のヴェルの話に共感して頷いているミサにまさかその年で結婚でもしたいのかと驚いていると、ミサは結婚の話ではない、と顔を赤らめながら否定する。
「その……一矢君も私生活だと欠点だらけなんですけど、傍にいるとどこまでも一緒に進んで行きたいって思えるんです」
商店街を一人で守れるだけの強さを手に入れたい。
だがそれだけではない。一矢と肩を並べてまだ見た事もない、知らないものを一緒に見て行きたい、その為に強くなりたいと思えるのだ。因みに同時刻、アジアツアーに参加中のボッチがくしゃみをしていた。
「じゃあ、もっともっと強くならないとね」
「はいっ! この後、またバトルしましょうね!!」
そんなミサの健気にさえ感じる想いに触れ、ヴェルは慈しむような優しい笑みを浮かべると、ミサは大きく頷き、席を立ちながらこの熱を冷ませないようにと興奮して楽しそうな笑みを見せる。
「そうだ。聞いてくださいよ! この間、一矢君が寝坊したんですよ!」
「あぁ、シュウジ君もたまーにあるんだよねー」
だが今は食事中だ。
再び食事を再開しながら、その話題の中心になっているのは一矢とシュウジであった。
二人はそれぞれ一矢とシュウジの失敗談を話しているのだが、無意識なのだろうか最後には、だけどと良い点を話している。そんな時間を過ごしていく中、ミサはヴェルの指導のもと、アメリカトーナメントまでの間、特訓漬けの毎日を送るのであった。
・・・
「毎回、ここには色んなファイターが集まるから刺激になるよな」
「ええ、今回はどんなバトルが行われるのかしら」
遂にアメリカトーナメント開催の日となった。
ガンプラの大会だけあって多くの人で賑わう中、この地からわざわざジャパンカップの決勝を観戦しに向かっていた莫耶とアメリアの姿もある。
「お嬢様、あのまな板の娘、強くなってるといいねっ!」
「あのないちちの娘がお嬢様のご期待に応えられるか楽しみですよ」
「君達それ以外の印象はないの?」
また会場にはフォーマルハウトの姿もある。
ミサと直接会話していないので、見た目の印象しかないモニカとアルマは並んで座りながらミサについて触れると、外見の印象でミサを指す二人にセレナは苦笑する。
「でも胸が小さいと着れる服が多くて羨ましいよねー」
「お嬢様、その言葉はあの娘の前で言うのは止めた方が良いかと。面白そうですが」
「うんうん。あぁいう娘って結構気にしてそうだよねー。面白そうだけど」
何気なしに思ったままの事を口にするセレナの服の上で分かる平均よりもやや大きいくらいの胸を見ながら、アルマとモニカはからかったりするのが好きな性格なのだろうが、それは止めておこうと釘をさしておく。
・・・
「……なんかザワッとする」
控室にいるミサは何か感じ取ったかのように顔を顰めている。
ここは控室だけあって数多くのファイター達の姿がある。現在、バトルも始まっており、外からの歓声が此方にも聞こえてくる。
「ミサちゃん、これ見てみて!!」
「えっ?」
自分の番を待ち続けてるミサだが、控室に入って来たヴェルが興奮した様子で翔から借りた携帯端末をミサに見せてきた。突然の事でミサが驚いたものの携帯端末を手に取る。
「【アジアツアーで快勝を続ける沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム】……。これって!?」
「うん、そのチームには一矢君がいるみたい!」
ネットニュースで書かれた内容を読み上げれば、それは一矢が参加しているアジアツアーのことだった。嬉しそうにヴェルを見やれば、彼女は肯定しながら頷く。
「そっか……。一矢君……やっぱり凄いなぁ……」
アジアツアーで結果を出し続けている一矢。
遠く離れていても一矢も強くなっているのだと知り、ミサは嬉しくなる。
だが、気持ちだけで終わるわけにはいかない。そうこうしていると遂にトーナメントで自分の番が訪れる。
(一矢君、私も行くよ。遠く離れてても……一矢君が私のことが分かるように!!)
一矢は結果を残し続けている。
ならば自分もそうしようと、離れていても見える光のように、自分も前に進んでいるんだと言う事を一矢にも分かってもらおうと、その為に立ち上がったミサは精一杯、自分の全てをぶつけようとヴェルに見送られながら一歩を踏み出すのだった……。