決勝の舞台となったのは、このアメリカの地をモチーフとした市街地であった。
戦場に降り立ったアザレアPはコズミックグラスプを警戒して、すぐに近くのビルに身を隠す。ロクトは相当の手練れだ。迂闊な行動が即命取りになる事だってある。
「っ……!?」
センサーに反応があり、同時にモニターに暗がりが広がる。
見上げてみれば、そこには既に飛来したコズミックグラスプが銃口を向けていた。
すぐさまアザレアPは横に飛び上がるも、その直後にビームが先程までいた場所に当たり、後少し反応が遅れていたら直撃は免れなかっただろう。
だがコズミックグラスプもそれで攻撃を止める事はない。
そのまま滑空して地面スレスレの位置を飛行しながら、アザレアPに迫っていく。
高機動さを自慢とするコズミックグラスプならば、距離を詰められるのも時間の問題であろう。それを避けるため、アザレアPはマイクロミサイルを発射する。
「こんなものは……ッ」
迫りくるマイクロミサイルの数を瞬時に確認したロクトはすぐに回避行動を取ろうとする。ここは市街地。障害物などいくらでもある。こんなミサイル、どうとでもなるのだ。
「そこだっ!!」
だがそんな事はミサも分かっている。
だからこそコズミックグラスプに迫ったマイクロミサイルに向けてビームマシンガンの銃口を向けると、瞬時に引き金を引き、ビームの弾丸をばら撒く。弾丸はマイクロミサイルに直撃すると、すぐに爆発して周囲に爆煙を上げる。
眼前のマイクロミサイルが爆煙に様変わりしたことによってモニター全体が遮られてしまう。すぐにこの煙から脱出しようとロクトはそのまま突き進むが……。
「くっ!?」
だが爆煙から飛び出したコズミックグラスプに既に脱出コースを予測をしていたアザレアPはGNキャノンの砲口を向けていた。
チャージも完了し、放たれた極太のビームは回避するには間に合わず、シールドを構えて受け止めようとするコズミックグラスプだが、耐え切れず体勢を崩してしまう。
そこにアザレアPはビームサーベルを引き抜くと共に突撃して、すれ違いざまにシールドを持つ腕部の関節を切断した。
・・・
「へぇ……」
既に隙のない攻防が繰り広げる中、足を組み頬杖をついて観戦していたセレナが相変わらず笑みを絶やさず浮かべているのだが、ミサの戦い方を見て、薄目にしていた目をゆっくりと開き、感心したような声を漏らす。
前のミサならばマイクロミサイルを放っても避けられ、コズミックグラスプに肉薄されていただろう。しかしミサはこの決勝までの間に様々なバトルを経験した。そしてそれを自分の糧にしている。それはセレナとのバトルでさえもだ。
・・・
決勝のバトルが始まってから既にもう20分以上が経過した。
片腕を失くしたコズミックグラスプが劣勢になるかと思いきや、そうはいかなかった。
それはロクトの高い実力のお陰であろう。
現にコズミックグラスプは片腕を失くしてはいるが、それ以外の損傷は軽微なのに対し、アザレアPは既に中破まで追い込まれている。
「……やっぱり強い」
現在、アザレアPはコズミックグラスプと向かい合っている。
周囲の街並みも荒れ果て、もはや荒廃していると言って良いだろう。
それだけこの二人のバトルは決勝の名に恥じぬ激戦だと言うのが分かる。機体の状態を確認しながらミサは純粋にロクトの実力に感服する。やはり彼は流れ星のような存在なのだ。
「……でも……この先に一矢君がいる……ッ!!」
ロクトは強大な壁と言っても良いだろう。
乗り越えるのは困難なのかもしれない。だが彼を越えた先に一矢はいる。いや、今もまだ進み続けている。ならばここで立ち往生するわけにはいかない。
(……全く、どこまでも食い付いてくるよ)
一方でロクトもまたミサのバトルへの姿勢に感心していた。
正直に言ってしまえば、ロクトとミサの実力差は大きく。傍から見たとしてもロクトが勝利すると考えるだろう。
だがそんな状況でもミサは決して諦めることなく立ち向かおうとする。実力は関係なくファイターとしてのその姿勢は賞賛に値する。
「だが……これはバトルの世界だッ!!」
例えどんなファイターであろうと、相対すれば戦うべき相手だ。
それにもうバトルを始めてから30分が経過しようとしている。
いつまでも戦い続ければ集中力も鈍ってしまう。そうなった時、自分も危ういだろう。そう考えたロクトはビームサーベルを振り、一気に加速してアザレアPに向かっていく。
こちらに迫るコズミックグラスプにミサは額から流れる汗を拭う事もせず目を細めると、アザレアPをバックステップのように後方に移動しながら脚部のミサイルを先程まで自身がいた地面に着弾させることで煙幕代わりにする。
「来たっ!!」
煙が立ち込める中、薄っすらと噴射光と影が見える。
あれがコズミックグラスプであろう。アザレアPは狙いを定めるようにビームマシンガンの銃口を定めるのだが……。
「うそっ!?」
しかし出てきたのはコズミックグラスプではなく、こちらに突撃する稼働中の一基のシールドブースターであった。
驚くもののすぐに銃口を下し、シールドブースターを回避するとコズミックグラスプを探す。
すると先程、シールドブースターが飛び出してきた位置からコズミックグラスプが突撃してくる。気づいたのも束の間、反応が遅れ、アザレアPはそのままタックルを浴びるとバランスを崩したところをバックパックの一基のGNキャノンごと左腕を切断される。
何とか反撃をしようとするのだが、ロクトはそれを許さない。
そのまま頭突きを浴びせることでアザレアPに機体をよろけさせ、反撃の機会を与えない。
(この先に一矢君が……ッ! 私も……一矢君と同じ場所に立ちたいッ!! 一矢君と前に進みたい!!)
足がもつれ、体勢を崩したアザレアPは地面をゴム玉のように跳ねながら倒れる。
この好機を逃すものかとコズミックグラスプはアザレアPに迫る。その光景を目にしたミサはここで負けるわけにはいかないとばかりに歯を食いしばる。
『シュウジ君はね、手を差し伸べてくれるような人なんだけど私はそんなシュウジ君に手を差し伸べられる人でありたいんだ。真っ直ぐ進み続けるシュウジ君が転んじゃった時、立ち上がらせられるように……支えて、あげられるように』
ふとファストフード店でのヴェルのシュウジへの想いが脳裏に過る。
あの言葉はミサも共感出来る。
思い返せば、タウンカップの決勝など、常に自分の前に立って守ってくれた。自分はそんな一矢を逆に守る存在に、バトルも、そして心も支えられる存在でありたい。
(一矢君の手をこれからも握っていられるようにッ!!!)
あの時、イラトゲームパークで自分の手を取ってくれた一矢とずっと進んできた。
その手を放すことなく、これからも進み続けたい。そんな想いに呼応するように損傷からぎこちない動きで立ち上がるアザレアPのツインアイが輝く。
いや、輝くのはそれだけではない。アザレアPの機体がほんのりと朱い輝きを放ち始めたではないか。
「ッ……!」
ロクトはその輝きに覚えがある。
一矢だ。
ジャパンカップで戦ったゲネシスはこれ以上の光を放って機体の性能を向上させた。
今、弱弱しくも燻るように光を放とうとしているアザレアPをこのままにしていては危険だと半ば直感する。
アザレアPの光を力にしたようにマニビュレーターが握るビームサーベルの刃が肥大化していく。同時に迫るコズミックグラスプに同時にビームサーベルを振るい、閃光がフィールドを照らした。
「少しは届いた……かな……?」
アザレアPのビームサーベルはコズミックグラスプの頭部を貫いていた。
そしてコズミックグラスプのビームサーベルはアザレアPのコクピット部分を深々と貫いている。全身にスパークが走る中、ミサは緊張から解放されたように弱弱しい笑みを浮かべると、次の瞬間、アザレアPは爆発する。
「……やれやれ、最近の若者は末恐ろしいね」
決勝を制したのはロクトであった。
ロクトの頬に汗が伝い、余裕はなかったことが伺える。
ジャパンカップでゲネシスと戦っていなければ、あの時、輝きを少しずつ纏い始めていたアザレアPに負けていたかもしれない。
ミサがヴェルやセレナなど多くのバトルを自分の糧にしているように、ロクトもまたジャパンカップを経て、ファイターとして成長しているのだ。そして何よりこの決勝でのバトルはロクトにとっても、ミサにとっても更なる成長を促すものであろう。
・・・
「あの娘と会う時が楽しみだな」
「……彩渡商店街だっけ。確かに近いうちに会えるわね」
この長時間の激しいバトルが終了し、観客が総立ちでスタンディングオベーションが巻き起こるなか、莫耶とアメリアも参加しながら、今後に期待を膨らませている。
「お嬢様、あのペチャンコパイパイの娘、けっこー凄かったね!!」
「お嬢様とバトルをした時以上の実力を発揮していました。これは更なる飛躍も期待出来るかと」
フォーマルハウトもまた試合を見届け、モニカが両拳を握りながらセレナに満面の笑みを浮かべると、アルマも同意するように微笑みながらセレナに話しかける。
「……そうだね、彼女も僕にとっての“証明”になってくれるかな」
相変わらず笑みは絶やさないものの、口角は吊り上がり、見る者によっては歪にさえ感じるような笑みを浮かべている。その視線はシミュレーターから出てきてロクトと握手を交わすミサに視線が注がれていた。
・・・
「負けちゃったなー」
「ふふっ、でも楽しそうだね」
アメリカトーナメントも終え、ファストフード店にて席につきながら両手を後ろに組んで晴れやかな様子で話すミサ。言葉とは裏腹なその様子にヴェルは微笑みながら話しかける。
「悔しくない訳じゃないけど、これでもっともっと強くなれた気がするんです!!」
ヴェルの言葉に頷きながら、身を乗り出しながら答える。
このアメリカの地で行ったバトルは全て有意義なものであった。来てよかった。心からそう思えるのだ。
「それに新しい機体のプランも思いついたんです! 早速作って、調整しないと──!」
「なら僕も手伝おうか?」
今回、学んだ事でまた新たなガンプラを作ろうとする。
やはり今後、世界大会に出るのであればアザレアPのままでは心もとない。
この情熱が燃えているうちに全てをぶつけたいとばかりに息巻いているミサだが、その最中に横から声をかけられる。そこには自身が注文したハンバーガーセットが載ったトレーを持つロクトの姿があった。
「えっ、良いんですか……?」
「何言ってるんだい。ファイターって言うのは切磋琢磨するものだろう? 君が更に成長するなら僕も刺激が受けられるだろうし、若い子が前を進もうとしてるのを見てると、背中を押してあげたくなるんだよ」
ヴェルに了承を得て、同じテーブルに座るロクトに信じられないと言った様子で尋ねるミサに、苦笑しながらその理由を明かす。そんなロクトに感銘を受けたようにミサは「お願いします!」と頭を下げた。
(一矢君、私も前に進んでるよ。また会えた時には絶対に追い付いてみせるから!!)
顔を上げ、こちらに微笑む頼もしいヴェルとロクトを見て、ふとミサは窓の外の晴れやかな晴天を眺める。
この空が続く先に一矢もいる。一矢に想いを馳せながら、更なる飛躍を誓うのであった……。