空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第9話 致命的な弱点

――――1999年6月14日 AM12:00 オーストラリア連邦領 クリスマス島 ミレニアム本拠地 『ヴァルハラ』

 

 

 

 

 インドネシアのジャカルタの南500kmの南緯10度30分、東経105度40分に位置するオーストラリア連峰領のクリスマス島。

面積は 143km²で、その63パーセントが国立公園になっており、熱帯雨林で覆われ、人口は1500人程度の小さな島だったが、深海棲艦の侵攻の際、オーストラリアが真っ先に占領され政府との連絡が取れなくなったことで、この島のすべての住人はマレーシアへと避難。

 人類側に放棄されたこの島は、深海棲艦勢にも見向きもされず、放棄され徐々に自然に飲まれ始めた町と、寂れた飛行場だけが残り、このまま忘れ去られる

――――はずだった。

 しかしミレニアムは東南アジアとの前線が比較的近いこの場所に注目し、拠点化を開始。

 深海棲艦より略奪した豊富な物資と、人間と比べものにならないほどの体力をもつ吸血鬼大隊、割とぶっとんだ存在である妖精さんの力で瞬く間に、地下を掘り進め、建物の建造し、荒れ果てた港の機能を取り戻し、軍事拠点化を進めていった。

 そして拠点化を開始して1か月という短い間に、マキナの船体がすっぽり入る、巨大な地下格納庫と様々な機能を持つ地下要塞、巧妙に隠された飛行場に港、そして島の絶壁に作られたU890専用の整備基地が建造された。

 かつて南米のジャブローにミレニアムの本拠地を建造した経験を存分にいかした、この本拠地『ヴァルハラ』には作戦行動に必要な物すべてが揃っていた。

 その本拠地『ヴァルハラ』港に工廠の傍に併設された開発室にて――――

 

 「くそがぁぁぁぁ、また失敗だ!!!」

 

 マキナの絶叫が響き渡った。

 開発室には絶叫の声を上げるマキナと、バツの悪そうな顔をしているU890、のほほんとしている副艦長と妖精さん。

 そして開発用であろう膨大な資源と、妖精さんの力を借りて開発した兵器――――小型化した金型となる兵器が、これまた大量に転がっていた。

 艦娘と妖精さんの力を借りて艤装などの装備を作りだす『開発』というものは、艦娘が属していた軍が使用していた、または使用する計画が立てられていた兵器群などを資源からランダムで作り出す、開発というより召喚に近い機能だった。

 マキナは、この機能をもってミレニアムが作り出したある兵器を召喚し、自身にある致命的な弱点を払拭しようと画策していた。

 マキナに存在する致命的な弱点、それは――――対空兵器の類が一切ないこと。

 

 

 

 もともとマキナには対空機銃などはなく、対空ミサイルに頼っていた。

 しかし、第二次ゼーレベェ作戦においてマキナは自身に搭載する兵器をすべて対地ミサイルⅤ1・2改にし、飛行船で運用できるよう改造された対空ミサイル『Hs 117改』『ヴァッサーファル改』は一切積まなかった。

 というのも作戦時には、イギリス空軍をミレニアムのスパイとグールが抑える手はずになっており、戦闘機の類は上がってはこないという予想から、艦のリソースはすべて対地ミサイルに振り分けられていた。

 そのおかげで戦闘機は上がってこなかったが、その代わりにヴァチカンの第二次空中機動十字軍が指揮する戦闘ヘリにぼこぼこにやられ自身が死ぬ要因の一つとなっている。

 

 

 

 こちら側に来た時も装備はゼーレヴェ作戦時のままであり、やはり『Hs 117改』『ヴァッサーファル改』は積まれていなかった。

 先の飛行場強襲作戦や通商破壊戦など、航空機が上がってこられない夜間や、徹底した先制攻撃による航空機・滑走路破壊、ヴェルンハルト小隊による、夜間戦闘機の潜入破壊工作、複合レーダーとピンポイントジャミングを

駆使した深海棲艦の哨戒・監視網の突破など、あの手この手で航空機と対峙することを回避。

 もし、航空機などに見つかってしまった場合、最高速度98ノット(約181km/h)と複葉機以下の速度しか出せないマキナは確実に、逃げ切れない。

 徹底した生存者の刈り取りも、生存者の証言から自身の弱点が露呈することを

防ぐためであった。

 

 

 

 そして強奪した資源を持って、何とか二つの装備を開発し、自身に配備しようと気合を入れ開発をしていたのだが――――とにかく出ない。

 この開発というものは、自身が属していた軍の兵器群を作り出す、というものだ。

 その条件の中にミレニアムという軍以外にも広域的な意味でドイツ第三帝国と戦後ドイツ軍いう条件も入っていたらしく、そしてナチス親衛隊、陸軍、海軍、空軍の兵士が入り混じっていたマキナの開発できる兵器の範囲は絶望的なほどに広がってしまっていた。

 

 

 

 ―――なんだこの『FuMO25 レーダー』とかいうのは!? これで3回目だぞ!

 

 ―――『SKC34 20.3cm連装砲』!? 装備できねえわ! 

 

 ―――『38cm連装砲改』!?もっと装備できないわ!! 

 

 ―――これは…『マウス』!?こんなもんどうしろっていうんだ! 

 

 ―――んっ?!『キャベツ育成器』?!誰だこれ兵器の分類にいれたの!

 

 

 

 開発回数は数百に超え、目的のものは一向に出ず兵器の山がいくつも出来上がっている状況。

 マフィアも逃げ出す凶悪な顔をし、口から白い煙のようなものを吐き出しながら開発を続けるマキナと、それを若干涙目になりながら宥めるU890、そして仕舞いには、兵器の山の中で遊びだす開発担当の妖精さん達と副艦長というカオスな空間が広がっていた。

 

 「おいコラ妖精共…やる気あんのか?!」

 「マ、マキナさんっ、これとかどうですか!?『NH90』汎用ヘリコプターに…え、えーと、あっ『EC665 ティーガー』攻撃ヘリコプターが開発されていますよっ!?」

 

 一人の開発担当の妖精さんの頭を引っ掴み持ち上げ左右に振り、問いただすマキマだが、妖精さんの頭はマシュマロのように柔らかく対して効いていないどころか、アトラクションのように楽しんでいた。

 次々に生み出される兵器の山から有用そうな物を必死で探しだし、フォローをしようとするU890を尻目に、傍で見物していた副艦長がとんでもないことを言い放った。

 

 「いやぁー艦長の運が悪すぎるだけなのではー(笑)」

 「…………」

 「い、いやーマキナさんっ!!!も、もうお昼時ですねっご飯!!!ご飯食べに行きましょう!!!」

 

 こめかみに青筋を浮き上がらせ、艤装を展開し、遊んでいる妖精さんを開発室諸共吹き飛ばそうとするマキナと、もはや、半泣きになりながら腰にしがみ付いてその暴挙を止めようとするU890。

 何とか昼飯の気分転換を提案することで、怒りを宥めることに成功したU890は、開発室のドアを蹴り飛ばすように開けて出ていったマキナの後を足早に追いかけていき、開発室には好き勝手に遊んでいる妖精さんだけが残されていた。

 

 

 

 気分転換に昼飯を食べることにした二人は、地下に建設された大きな食堂へと足を運んでいた。

 ちょうど昼飯時だからか、食堂にはたくさんの隊員と妖精さんが訪れており、活気に満ちている。

 棚からトレイを取り、バイキング方式にて提供される料理を取り分け、席を探す二人はちょうど並びで空いている席を見つけ、その席の向かいに座っている隊員に声をかけた。

 

 「ここいいか?」

 「ああ、艦長!どうぞどうぞ!」

 

 向かいの隊員からの快諾を得たマキナとU890は、座って出来立ての食事を堪能しながら、向かい座っている二名の隊員達と雑談を始めた。

 

 「どうだ?()()()の料理は?」

 「いやー、いいもんですなやっぱり。血も美味いですが、やはり昔から食べているものが一番ですわ」

 

 隊員たちが食べているものは、ツヴィーベル・ズッペ と呼ばれるオニオンスープとパン、主食にフレンキッシェカルフェンという鯉のから揚げとフィンケンヴェルダーショレという名前のカレイのソテーという、血以外の物をそれぞれ食べており、吸血鬼特有の拒絶反応は起きてはいなかった。

 

 本来ならミレニアムで作られた人工吸血鬼は通常の吸血鬼と同じく、血以外の物を摂取することはできない。

 しかし、マキナに召喚された彼らは、艦娘と繋がっているため、血液を介して他者と融合する吸血鬼の本質ともいえる能力がつかえない。

つまり、人工吸血鬼の場合、血を吸った相手をグールにする能力を失うことになる。

その代わりに、吸血鬼特有の弱点が緩和していた。

 

 食事と軽い雑談を終えたマキナとU890は、目的の物を手に入れるため、足取り重く再び、開発室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 




 ミレニアムの食料問題と、やっかいなグール製造能力を無理やり解決…
 批判もあるかと思いますが、これでお願いします…
 
 

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