空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第11話 様々な思惑

 深海勢力との大戦の影響が最も少ない地域はどこか?

 そう問われれば、ある程度戦況の知っているものなら、すぐにこう答えるだろう。

 

 「欧州地域だ」と。

 

 5年前より始まった大戦によって、この世界の力関係は大きく変化した。

 

 

 膨大な人口を持つ中華人民共和国は極東ロシアを拠点に侵攻してくる深海棲艦軍に対し次々と自国民を徴兵し戦場に送り出すことで何とか食い止め、

 

 

 かつて東側盟主のソ連の後を継いだロシア連邦にいたっては、自国領土の汚染も厭わない徹底的な核兵器による防衛で深海棲艦軍の進撃を阻止。

 

 

 そして深海勢力の大部分の軍隊を差し向けられた、第一次世界大戦、第二次世界大戦の戦勝国であり、その後の東西冷戦において、西側盟主として、東側盟主のソ連と戦い、そして勝利した世界最強の軍隊を持つアメリカ合衆国は、、東海岸、パナマ運河を喪失。

 内陸部、大西洋への侵攻を許してしまっていた。

 それでも通常の国ならば、一夜も持たずに滅亡するほどの軍隊を派遣されても、内陸部で防衛線を引き、膨大な深海棲艦軍を食い止め、粉砕し、日本から召喚技術を得た艦娘を次々生み出し、戦線に投入し続けられるのは、合衆国に勝利をもたらし続けた、屋台骨とも云える強大なアメリカ陸海軍の軍事力と圧倒的な工業力のおかげだった。

 

 

 ところ変わって欧州地域、パナマ運河と南アメリカ大陸から流れ込んでくる深海棲艦の数は多いものの、大半は

アメリカ合衆国の攻撃に回され、大西洋に展開する深海棲艦は少数であり、

しかも欧州地域も日本から、援軍を派遣することを条件に艦娘召喚技術を受け取って、艦娘の運用を始めており、次々と深海棲艦を撃破するという成果を上げていた。

 

 

 欧州地域、とりわけイギリス、フランス共和国は沸き立つ。

 今回の大戦で、たとえ勝ったとしても、今まで世界をリードしていたアメリカ合衆国、欧州地域の仮想敵国であるロシア連邦、強大な軍事国家になりつつある中華人民共和国の凋落は確実。

 加えて艦娘を非常に有用な兵器と認識しているイギリスと、フランス共和国は、第二次世界大戦時には世界第二位、第四位の海軍力を有しており、呼び出せる艦娘も多い。

 この二か国は、第一次世界大戦以来、徐々に自分たちの手から離れていった世界の覇権が、再び自分たちの手に戻りつつあることを感じていた。

 

 

 しかし重大な懸案事項もある。

 それは、フランス共和国の隣にある国、かつての、ドイツ第三帝国・ドイツ海軍所属、大英帝国の海上補給路を徹底的に締め上げたUボートの艦娘を召喚できるドイツ連邦だった。

 

 

 

 第二次世界大戦では1,131隻ものUボートが建造されている。

 それに加え、潜水艦の艦娘は生身でも艤装を展開すれば、商船を容易に沈めるだけの雷撃力と、潜水能力という特殊潜航艇の完全上位互換ともいえる力を持っている。

 もしそれが、すべて艦娘として召喚された場合、レーダー、ソナーの使えない軍用艦、一般船舶には、1,131隻もの潜水艦艇とそれと同数の艦娘は重大な脅威となる。

 ただでさえ、ドイツのUボートのトラウマにより、ドイツ連邦には冷戦終結まで、排水量500tクラスの小型潜水艦しか保有を許さなかった欧州がこれを見過ごすはずがなかった。

 

 

 ここでイギリス、フランス共和国が動く。

 欧州各国と協力しドイツ連邦に対し要求を突き付けた。

 その要求とは、艦娘召喚の研究の放棄と艦娘の所有の禁止。

 その代わりとして東西ドイツ統一による悪影響を引きずっていたドイツ連邦に対しての十分な経済支援。

 

 

 この要求を拒否する事で欧州で孤立することを恐れ、また支援を必要としていたドイツ連邦はこの要求を受諾。

 今後ドイツでは艦娘召喚の研究と艦娘の所有は禁止されることとなった。

 

 

 しかし、少数とはいえ、召喚していたドイツ艦娘をどうするかについて議論を呼んだ。

 

 

 ここでまたしてもイギリス、フランス共和国が動いた。

 艦娘召喚技術提供と引き換えに、欧州からの援軍を要求していた日本に対し、支援物資と召喚していたドイツ艦娘をすべて送り込むことで、自分の身を一切切らず、要求を満たしつつ、ドイツ艦娘を合法的に始末もできるという、腹黒貴族の面目躍如ともいえる方法で話を進めていった。

 

 

 こうして、ドイツ連邦で先行して召喚されていた、『戦艦Bismarck』、『航空母艦Graf Zeppelin』、『重巡洋艦Prinz Eugen』、『駆逐艦Z1 』、『駆逐艦Z3』、『Uボート潜水艦U-511』は支援物資を満載した輸送船団と共に、イギリスとフランスの艦娘に護衛され、『東洋艦隊』の東南アジア解放軍という名目で日本に派遣、もとい引き渡されることとなり、以後、海上自衛隊の艦娘として組織に所属し、1997年1月1日、世界中での反攻作戦に同調して日本でも行われた東南アジアでの反攻作戦を筆頭に様々な作戦に参加する事となった。

 

 

 

 

 

――――1999年7月1日  リンガ軍港 提督執務室

 

 

 

 「………確かに不自然ね」

 

 東条遥人少将は、勢力圏内に入り込んだ深海棲艦の排除任務から帰投したビスマルクに先ほどの資料を見せ、意見を聞いていた。

 

 

 東南アジア解放軍として、日本に送られてきた当初は、祖国から見捨てられ売り飛ばされたという事実によって精神が不安定で、荒れに荒れていたビスマルクだったが、反攻作戦初期からずっと組んできた東条遥人少将と、同じ境遇のドイツ艦娘達、そして暖かく迎え入れてくれた日本の艦娘達によって、落ち着きを取り戻していき、今では豊富な実戦経験を存分に発揮し、東条遥人少将の秘書艦としてその手腕を振るっていた。

 

 「たしか君は最近深海棲艦の様子がおかしいと報告書を上げていたのはこのことか?調査中と書いてあったが」

 「ええ。この資料に書かれている通り、空襲の数も激減して、深海棲艦との海戦もやりやすくなったことも感じていたわ。ただ……」

 「ただ?」

 

 珍しく言いよどむビスマルクに、少しでも情報がほしい東条提督は続きを促す。

 

 「本当は確信を得てから報告したかったんだけど……」

 

 そう前置きし、最近の深海棲艦から感じたの違和感を話し始めた。

 

 「知っての通り、深海棲艦は人類と、艦娘に強い憎悪を向けているわ。理由は知らないけど」

 「ああ、確かにな」

 「だけど、最近の深海棲艦は…まぁ私達にも少しは向けているんだけど、別のナニカに強い憎悪を向けている気がするのよ。そして深海棲艦はそのナニカを探してる……」

 「別のナニカ……」

 「すべて私の感覚で確証も何もないんだけどね」

 「いや、このリンガ戦線で一番の実力者である君の意見だ。一考に値するよ。しかし別のナニカか…」

 

 遠慮しがちに言ったビスマルクに対し、フォローしつつ東条提督はそのナニカについて考え始めるがあまりに情報が少なく、正体が全く見えないため、すでにジャワ島奪還作戦の準備を始めている海上自衛隊南方作戦本部に報告するまでに留めた。 

 

 

 

 

 

――――1999年7月4日  リンガ軍港 提督執務室

 

 

 

 「やはりそう受け取ったか……」

 「……ジャワ島奪還作戦は期日通りの7月22日ね。少し早すぎやしないかしら?」

 「本当は、作戦本部としては作戦を中止したかったんだろうが、今回の作戦インドネシア臨時政府が強硬に押していたからな。何しろ、自分の国の首都の奪還だ。少しでも遅れれば軍全体の士気に響く」

 

 

 

 東条提督からの情報を受け取った海上自衛隊作戦本部は、リンガ前線で起こっている不可思議な現象を、大攻勢の前触れと受け取り、ジャワ島奪還作戦を中止し、防御を固めるべきと判断した。

 

 しかし、今回の作戦に並々ならぬ思いをかけていたインドネシア臨時政府は期日通りの作戦決行を強硬に主張。

 もし、作戦が中止されるならば、東南アジア連合軍を離脱し単独での作戦決行までチラつかせ始めた。

 インドネシア軍が離脱することで、東南アジア軍全体の士気が低下することを恐れた作戦本部は期日通りの作戦決行をしぶしぶ了承。

 ただ、今回の大攻勢の目標が日本本土だった場合に備え、リンガ前線以外の各戦線の余剰戦力を抽出、そのすべてを、日本周辺の重要拠点周辺に配置し、練習航海中の艦娘、そして海上自衛隊の新型護衛艦である装甲護衛艦の導入と、陸上自衛隊、航空自衛隊との協力、防衛に向かない地域は一部放棄してまで日本本土周辺を固めた。

 

 「作戦本部からの指示書で、最初から「撤退も視野に入れ~」、の文面が踊っているところを見るに、いかに本部がジャワ島奪還作戦に消極的であるか分かるな」

 「でも、ここでジャワ島を奪還できれば、資源地帯とシーレーンの安全、航空基地建設による航空支援拠点の確保が見込めるわ」

 「戦略的価値は大きいか……まぁ、日本本土は気にしなくていいと言われているんだ。私達は作戦の遂行だけを考えればいいさ」

 「それもそうね」

 

 

 

 

 

――――同日 シンガポール共和国 首都シンガポール郊外の喫茶店

 

 

 

 郊外の外れに最近建てられた若い男が経営する喫茶店は、落ち着いた店の雰囲気と、おいしい珈琲を出す店として、短期間で、地元の人々の心を掴み、町の中にうまく溶け込んでいた。

 

 

 その喫茶店には現在、準備中の札がかけられ、店の中にいるのは店主である若い男と、カウンターの席に座り、資料に目を通す少女―――U890の二人だけだった。 

 

 

 

本当ならばシンガポール周辺には厳重な対潜警戒網が敷かれているはずであり、U890がここにいることは不自然だ。

 しかし、前の世界で欧州の監視の目を掻い潜り諜報・工作任務を遂行してきたU890などにとって、旧世代のレーダー、ソナー、偵察機を使った対潜警戒網などはあってないような物だった。

 そして、この喫茶店はベルンハルト小隊がシンガポール周辺での諜報活動のために建てた拠点の一つで、店主であるこの男はベルンハルト小隊の隊員であり、この地域を担当する諜報員の一人でもある。

 U890はこの諜報員からの報告書を受け取るためにここに訪れており、受け取った報告書に目を通し終えた所で軽く安堵の息を洩らした。

 

 「よかった……ジャワ島奪還作戦は行われるようですね」

 「ええ、相当現地民がゴネたみたいですな」

 「現地民様様ですよ。おかげで私達の作戦も決行することができます。仕込みは万全。いままでのような奇襲作戦ではなく正面から叩き潰す大規模な作戦となるでしょう」

 

 

 出された珈琲とサンドウィッチに舌鼓を打ちながら嬉しそうに語るU890。

 その様子を見ながらコップを磨いていた店主は、ふとある事を思い出しU890に問うた。

 

 「そういえば幹部の誰かが召喚されたとか?」

 「んっ?ああ、あの()()ですよ。マキナさん今回の作戦では、重要なポストを二人に与えたみたいです」

 「ああ、あの二人ですか……弟の方はいいとして、兄の方は大丈夫なんですか?」

 「この世界には、アーカードとウォルターがいないので絶好調ですよ」

 

 

 

 こうして、人類、深海棲艦、そしてミレニアムの思惑が入り乱れたジャワ島奪還作戦が幕を開ける。

 




 ※没落していく国の中に日本が入っていないのは、アメリカの属国としか思われていないからです
 ※次回より 2014年春イベント、「狂・索敵機、発艦始め!」が始まります
追記:名前が有名どころの小説と被ったので、北から東に変更しました

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