空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する! 作:ワイスマン
E―3作戦 作戦名『敵飛行場制圧作戦』
作戦内容『橋頭保が確保されたことにより、東南アジア連合陸軍がジャワ島内陸部への進軍を開始した。この動きを支援するため、第九作戦艦隊は連合陸軍第三機甲師団と共闘して深海棲艦飛行場の防衛戦力を戦力の無力化し、飛行場を奪取、味方航空隊のジャワ島進出の足ががりとなる前線航空基地を設営せよ!』
編成:第九作戦艦隊:旗艦 軽巡 天龍
第一艦隊:旗艦 軽巡 天龍
駆逐 神風
駆逐 睦月
駆逐 皐月
駆逐 菊月
駆逐 望月
第二艦隊:旗艦:軽巡 龍田
駆逐 春風
駆逐 如月
駆逐 長月
駆逐 三日月
駆逐 弥生
ジャワ島西部バンタム湾のメラク海岸に橋頭保を築いた東南アジア連合陸軍は複数の師団に分かれ進軍を開始、内地に展開する深海棲艦軍と熾烈な戦闘を繰り広げていた。
だが、祖国の首都奪還を掲げるインドネシア軍を中心とした、東南アジア連合陸軍は非常に高い士気を保ち、十分な戦略物資と航空支援の元、各戦線で勝利を重ね、破竹の勢いで進撃を続けていく。
この動きを支援するため、艦娘陸戦隊で構成された第九作戦艦隊は、東南アジア連合陸軍第三機甲師団と共に、味方航空隊のジャワ島進出の足ががりとなる前線航空基地を設営するため、ジャワ島各地に点在する深海棲艦飛行場を無力化し奪取するという任務に就いていた。
数々の深海棲艦軍との戦闘で多大な戦果を挙げた、東南アジア連合陸軍最強と称される第三機甲師団と、一騎当千の力を持つ艦娘が12人も集まって構成された第九作戦艦隊という、ドリームチームではあったが、彼らの顔には油断の二文字はない。
第三機甲師団と第九作戦艦隊、そして、航空支援を持ってしてもこの戦いが激しいものになるという予想があった。
それは、やはり姫級と呼ばれる、基地機能を統括する陸上型深海棲艦の存在にある。
飛行場を奪取するには、司令官である姫級の撃破は必須。
彼女が生きている限り、どれだけ基地機能を破壊しようと、深海棲艦軍を指揮し瞬く間に復旧させてしまうからだ。
しかし、沿岸部に棲着する姫級と違って、内陸部に棲着する姫級の撃破は困難を極める。
沿岸部に棲着する姫級は、艦娘の船体の艦砲攻撃が届くが、内陸部に棲着する姫級には空母以外の船体の攻撃は届かないため、必然的に携帯艤装を展開した生身で戦う事になる。
しかし、能力が半減する携帯艤装では、姫級の強靭な防御力を突破することはできず、数をひたすらに撃ち込んで防御力を削り取っていくしかない。
もちろん、姫級も黙って削られるわけもなく、防衛戦力を操り、また自身も強力な艤装を展開し、苛烈な攻撃を仕掛けてくることは容易に想像できる。
このため、第三機甲師団と第九作戦艦隊の面々は、一切の油断なく飛行場基地の奪取に向けて進軍を続けていた―――――のだが、
――――1999年8月5日 AM11:00
「ここもかよ……どうなってんだ一体……」
作戦開始より2週間、たった今4つ目の飛行場を制圧した第九作戦艦隊旗艦の天龍は困惑と共にそんなつぶやきを洩らした。
激戦が予想された飛行場奪取作戦だったが、4つ目の飛行場を奪取した第三機甲師団と第九作戦艦隊の損害は想定を大きく下回っている。
「……飛行場姫の奴、どこに消えたんだ?」
そう、第三機甲師団と第九作戦艦隊がほとんど無傷で飛行場を奪還できた理由、それは、4つの飛行場すべてで本来棲着した場所から動けないはずの姫級はどこにもいなくなっていることが原因だった。
司令官の姫級がいない深海棲艦軍は個々に反撃するだけで連携、統率共に欠片も取れておらず、そのような敵は
第三機甲師団と第九作戦艦隊にとってはほとんどカモのようなものに等しく、1日で飛行場を奪還。
本来時間をかけて飛行場を少しづつ落していく計画は大幅に前倒しされ、第三機甲師団と第九作戦艦隊は次々と司令官のいない飛行場を制圧し、2週間という短い期間で4つの飛行場を手中に収めた。
しかし、第三機甲師団と第九作戦艦隊の面々に喜びの色はない。
隊員たちは、この不自然な深海棲艦の現象に、困惑と得体のしれない恐怖のようなものを感じていた。
「天龍ちゃん?ちょっといいかしら~」
「……ああ、わかった」
何とかこの不可解な深海棲艦の現象についての答えを探ろうと、考えこむ天龍に龍田が声をかけた。
天龍と龍田は、艦時代も艦娘時代も共に付き合いが長い。
だからこそ、ぽわんとした龍田の言葉の裏に、何か切迫したものを感じ取った天龍は何も聞かず、案内をする龍田の後についていった。
龍田が案内した場所は、飛行場のはずれにある、深海棲艦軍が集めたのであろう、破壊された兵士級や、戦車、戦闘機、爆撃機の残骸などを一か所に集めた、廃棄物の山々だった。
「このゴミ山がどうしたんだ?最初の作戦の航空爆撃で出たものだろ?」
「私も最初はそう思ったんだけどね?こっちよ~」
そう言いながら龍田は、廃棄物の山でも一番大きい戦車や兵士級の残骸の山の一つに案内した。
「……こいつは」
「天龍ちゃんも分かった?この山だけ錆びついてるのよ」
深海棲艦は金属生命体のような存在であり、生きているならともかく、東南アジアのような高温多湿の場所に残骸を放置すれば途端に錆びついてしまう。
しかし、二週間前にできた残骸にしてはこの山は錆びつきすぎていた。
「金属の腐食度合を見るに、そんなにも昔にできた物じゃねえ。となると……」
「私達より前に、そして最近、この大きなゴミ山ができたってことよね~」
これが航空機の残骸の山であれば、人類側との空戦で破棄された航空機の残骸だと説明することができる。
しかしこの山は大量の兵士級と戦車の残骸で構成されていた。
「……なあジャワ島から飛んできた深海棲艦の航空隊が激減したのっていつだ?」
「そうね~五月ごろだったかしら」
飛行場のどこにもいない姫級、最近できただろう破壊された大量の兵士級と戦車級の残骸の山、激減した航空隊、このことから、二人は同様の答えに至った。
「……もしかして、深海棲艦の航空隊が激減したのは、誰かが飛行場に対して攻撃を加えたからじゃねえか?」
「しかも、姫級を撃破できるだけの力を持つ何者かが、ね?」
「……ここは後続の部隊に任せて、今まで占領した飛行場に戻るぞ。もしここと同じ山があれば、俺たちの予想が正しいかもしれねえ」
制圧した飛行場を第三機甲師団と後続の部隊に任せ、第九作戦部隊は今まで占領した飛行場を一か所ずつ回ってき、全ての飛行場で同様の残骸の山を発見することとなる。
「飛行場姫を撃破するだけの力を持つ正体不明の勢力ね……」
「深海勢力の不可解な行動はこれが原因か……君が言っていたナニカはおそらくこいつ等のことだろう」
リンガ軍港で、ジャワ島奪還作戦の指揮を執っている東条提督と、補給のために一時的に帰還していた第七艦隊の旗艦ビスマルクは、第九作戦艦隊より送られてきた緊急電文に目を通していた。
世界的な電波障害により、人類の使う通信機器はすべて使用不能となったが、艦娘や元々船体に備え付けられていた通信機器、そして妖精さんの作った通信機器は問題なく使用できる。
人類側は妖精さんが開発した機器を使うことで、現代の通信機器と比べ著しく性能が低下するが、何とか対応していた。
「だが、これが本当だとするとこの正体不明の勢力は、人類側に悟られることなく内陸部にある4つの飛行場を襲撃し、飛行場姫を撃破し、姿をくらましたことになる。
しかし、どうやってこの勢力は飛行場姫を撃破したんだ?」
「後、どうやって行方をくらましたかね。基地周辺には機甲師団のような大規模な部隊が活動したような痕跡は一切なかったらしいじゃない。となれば―――」
「艦娘か?だが艦娘はそれぞれの国が厳重に管理している。しかも、もし仮にどこかの国が何かの目的があって艦娘を派遣したとしても、相手は内陸部の飛行場姫。
艦娘の携帯艤装だけで撃破するには、かなりの人数が必要になる。
それだけの人数がいなくなれば、他の国々が勘づくだろう」
「うーん、でもこの一件に、艦娘が絡んでる気がするのよね……。
でも提督はジャワ島奪還作戦の作戦指揮を、本部から一任されているけど、これからどう動くの?作戦はこのまま続行?」
「この2週間で東南アジア連合陸軍は、首都ジャカルタを奪還して士気も高い。
この状態で正体不明の勢力を理由に作戦中止を通達すれば軍が割れる。
何れにせよ、このジャワ島奪還作戦で一番血を流しているのは東南アジア連合陸軍だ。彼らが壊滅し作戦中止を宣言しない限り誰も途中下車は許されんよ」
上陸作戦より二週間で4つの飛行場を支配下に収め首都ジャカルタを奪還、そしてその後も進撃を続ける東南アジア連合陸軍は、作戦開始より3週間でジャワ島の約半分を取り戻すことに成功する。
しかし、深海棲艦軍はボロブドゥール遺跡付近にて強硬な防衛線を構築、犠牲を厭わない人海戦術にて東南アジア連合陸軍の進撃を押しとどめた。
人類側も、支配下に収めた飛行場にから飛び立った航空隊を飛ばし、航空支援を行おうとするものの、混乱から立ち直った、東ジャワ島の航空基地群から飛び立つ戦闘機により空は阻まれ、ならばと第七作戦艦隊と上陸作戦を終え、手の空いた第八作戦艦隊と共に、深海棲艦の海上補給路を断とうとするも、こちらも無尽蔵に湧き出る深海棲艦がその行動の妨害をした。
すべての戦線で停滞し、損害だけが際限なく広がる混沌した戦場に、さらなる混沌が投げ込まれる。
―――――8月10日PM6:00 東ジャワ島ジェンティング(Genteng)近郊の森林
ジャワ島東部にある、人類側と深海棲艦との最前線から遠く離れたジェンティン市。
深海棲艦軍に支配し飛行場を建設、今はボロブドゥールの最前線に航空機群を送り込む飛行場の一つとなっているこの場所の近くで蠢く人影があった。
「そろそろ作戦開始時刻だ」
「ひゃはは!今回は潜入制圧ミッションだもんな~MGSで鍛えたスキルをみせてやるぜぇ!」
「真面目にやってくださいよ?今回の作戦で一番重要な任務なんですから」
森の中で会話をする3人の人物。一人は長い金髪を後ろで括り、白を基調としたスーツを着た男で、一人は顔中にピアスを施し、黒を基調としたストリートギャング風の青年、もう一人は長い銀髪をたなびかせた少女。
今回新たに召喚された兄のルーク・ヴァレンタイン准尉と、弟のヤン・ヴァレンタイン曹長、そしてU-890だった。
「ではいきましょうか」
U-890のの声に反応し、森の中から次々と人影が現れ始め、ルーク・ヴァレンタイン准尉とその補佐のヤン・ヴァレンタイン曹長が率いるヴァレンタイン小隊と、U-890が率いるヴェルンハルト小隊が静かに進撃を始めた。
――――同時刻 ミレニアム本拠地『ヴァルハラ』
夕日が沈み始める時間帯。ミレニアム本拠地があるヴァルハラの飛行場に、多数のジェットエンジンの騒音と、プロペラの重低音が響き渡っていた。
ミレニアム隊員と妖精さんが慌ただしく走り回っている中、島の中央が割け始め、巨大な飛行船が姿を現した。
『全フラップ発動開始!』
『離床!! 全ワイヤー 全牽引線 解除!』
操舵席の妖精さんの報告を聞きながら、この船の主であるマキナは、艦長席の隣に立ち、作戦開始の合図を出した。
「ミレニアム空中艦隊旗艦デクス・ウキス・マキーネより、全空中機動部隊へ
ジャワ島深海棲艦本拠地強襲作戦 状況を開始せよ!」
「空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する! 」
人類側がようやくミレニアムの存在に気が付き始めました。
※ヤンがMGSを知っているのは、コナミコマンドを知っているならMGSも知っているだろうという予想