空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第16話 Eー? 敵本拠地攻略戦

――――8月10日 PM9:00

 

 

 

 この日ミレニアムは、ジェンティング飛行場を制圧後、同基地を拠点として、北東約40㎞先にあるジャワ島深海棲艦本拠地『バニュワンギ』に向け進撃を開始した。

この『バニュワンギ』は、ジャワ島東部に展開する、深海棲艦軍、飛行場群への補給を一手に担う後方基地として大規模な輸送船団を余裕をもって受け入れる事ができる巨大な港湾と、整備基地と巨大な飛行場を備え、ジャワ島の深海棲艦を総司令官である『港湾棲姫』がこの一大拠点を取り仕切っていた。

 

 港湾棲姫は、進撃を開始したミレニアムに対し、ジェンティングと、バニュワンギとの間の各所に設けられた、防御陣地にて防衛線を敷き、飛行場に向かわせていた陸軍一個師団で補強することで、ミレニアムの進撃に備えた。

 また、各所の飛行場から東南アジア連合陸軍との最前線である、ボロブドゥール戦線を維持するだけの航空機を残し航空戦力を抽出、バニュワンギ防空隊を除く、そのすべてをミレニアム撃滅へと差し向けた。

 

 港湾棲姫が取った戦法は持久戦。

 

艦娘による、海上補給線の妨害が行われているものの、その被害は許容範囲であり、十分な戦略物資がここバニュワンギに卸されているため、補給切れの心配はない。

 

 加えて、もし早々に防御陣地が突破されたとしても、バニュワンギを丸ごと囲むように築城された、、永久城塞に匹敵する規模を持つ、広大な対人・対戦車地雷源に鉄条網に壕で守られ、大量の砲門で武装された頑強な野戦陣地と、陸軍三個師団が防衛についており、生半可な戦力では突破はできない。

 

 港湾棲姫は、潤沢な補給を受ける陣地群と、航空隊をを持って、進撃するミレニアムに対し、多大な出血を強要させ、相手の攻勢が弱まった瞬間、大攻勢に出ることで、敵勢力の撃滅を図ろうとしていた。

 

 しかし、港湾棲姫は気付いてはいない。

 ミレニアムがただの軍隊ではないということを。

 

 のちにその代償を、自らの命によって支払うこととなる。

 

 

 

 

 

――――ジャワ島東部上空

 

 

 

 バニュワンギに向けて進撃する勢力―――ミレニアムと、それを阻止しようとする、深海棲艦軍との間で大規模な空戦が勃発した。

 

 航空機の数は、各飛行場の余剰航空戦力をすべて集結した深海棲艦軍の方が圧倒的に多い。

 しかし、各航空機の性能、そしてそれをまとめ上げる指揮能力は、ミレニアムの方が絶望的なほど上だった。

 

先ほどの爆撃編隊の比ではない深海棲艦の航空機が、巨大な飛行船の前方を守る戦闘機部隊を突破しようとするものの、全ての戦闘機がお互いをカバーしながら戦う布陣に次々撃墜され、すり潰されていく。

 

 それでも、十数機の攻撃機が布陣を突破し、旗艦だと予想される飛行船に襲い掛かろうとした。

 

 しかし、攻撃機と飛行船の間に、中型ヘリコプター『NH90』が妨害せんと次々展開を始める。

 

 攻撃機の深海棲艦はこの割って入った武装ヘリコプターを完全に侮っていた。

 

 世界的な電波障害のせいで誘導兵器が使えない現在、武装ヘリコプターが扱えるのは、チェーンガンと無誘導ロケットのみ。

 

 対地攻撃では、絶大な力を発揮する武装ヘリコプターも、戦闘機、攻撃機の相手をするには速度が違いすぎた。

 

 それでも命中すれば撃墜は必至。

 

 そこで攻撃機はターゲットを変更し、武装ヘリコプターを先に排除しようと散開、射線に気を付けながら周りこむように、攻撃を始めようとした。

 

 しかし、深海棲艦の攻撃機たちは知らない。

 

 この中型ヘリコプター『NH90』は、()()()()()()()()()。 

 

 

 

 中型ヘリコプター『NH90』より一斉に発射されたロケットを、攻撃機たちは高度を上げることで射線から外れ、回避しようとした。

 

 しかし、発射されたロケットはまっすぐに進まず、攻撃機の後を追尾し始める。

 

 予想だにしない軌道を取るロケット群に対し、攻撃機たちは懸命に振り払おうとするものの、すぐに追いつかれ次々に着弾。

 

 全機が役目も果たせず、墜落していった。

 

 

 

 空対空ミサイル『FIM-92 スティンガー』による撃墜を確認した12機の『NH90』は、時折戦闘機部隊を突破してくる攻撃機を、一機残らず刈り取りながら、マキナの進路を確保していく。

 

 この中型ヘリコプター『NH90』はマキナが開発によって手に入れた物である。

 

 そして、艦娘が開発した装備は、電波障害を受けない。

 それはつまり、このヘリに搭載されている、対地対空ミサイル、レーダー、センサーなどの電子機器を、電波障害の影響を受けることなく使用でき、それを全てマキナが統括することができるという意味でもある

 

 これによりマキナは、世界的な電波障害以来、人類側が失うこととなった近代戦術と、艦娘の力を利用した人類側の比ではない戦術リンクを何のリスクもなく十全に使用することができ、深海棲艦は今まで体験することのなかった脅威を存分に味わい、各地の飛行場から集結した数百機もの攻撃隊は、片端から撃ち落とされ、地上に鉄の雨を降らせるだけの存在となり果てていた。

 

 

 

 

 

――――バニュワンギ野戦陣地

 

 深海棲艦の全攻撃隊の壊滅。

 

 この事実を裏付けるように、南西の暗い空より、ミレニアムの戦闘機部隊、それに続いて周囲に、『NH90』を侍らせた飛行船が姿を現した。

 

 野戦陣地にて待機していた深海棲艦軍は、短時間の間に、数百機もの航空機を粉砕したミレニアムの実力に驚愕しながらもこれ以上進ませまいと、野戦陣地の至る所からサーチライトを照らし、対空射撃を開始、物量に物を言わせた圧倒的な弾幕は、もはや点での攻撃ではなく面攻撃、巨大な壁となって、先頭を飛行するミレニアムの戦闘機部隊の侵入を阻んだ。

 

 しかし、弾幕手前で散開した戦闘機部隊とは違い、巨大な飛行船は、一切進路を変えず真っ直ぐにバニュワンギの本拠地を目指すコース、つまり弾幕を突っ切る進路を取っていた。

 

 400mを超える飛行船が、濃密な弾幕に突っ込めば、どれだけ重装甲を施されていようとも1分もたたずに、蜂の巣にされ、墜落することは目に見えている。

 

 それでも、飛行船は、『NH90』を従わせながらどこまでも優雅に、そして着実に炎の壁に接近していった。

 

 

 

 

 飛行船の船内、司令部作戦室にて、ミレニアムの全航空機の指揮をするマキナと、U-890は、スクリーンに映し出された、野戦陣地の様子を見ながら暢気に会話をしていた。

 

 「熱烈な歓迎だな、おい」

 「ここが、深海棲艦の最終防衛ラインですからね。必死にもなるでしょう」

 「だが、我々空の劇場にばかり、目を奪われていては足元をすくわれるぞ?」

 

 

 

 

 

 高射砲陣地からの対空弾幕により、空が真っ赤に染まっている頃、野戦陣地外側を守る深海棲艦軍は、地上を厳重に監視していた。

 

 空では敗れたものの、地上ではいまだに敵勢力と思われる軍隊の姿は確認できず、敵勢力の航空隊のみが突出し陸上部隊は未だ、深海棲艦の防御陣地群で足止めされ、連携が取れていないものだと考えていた。

 

 であれば、まだ現状を打開できる。

 

 そう深海棲艦軍が考えていた丁度その時、ド派手な音を上げ続ける高射砲群の音に混じり、地平線上からプロペラの音が混じり始めた。

 

 その音とともに地上を這うように進む、24の黒い塊が猛烈な速度で野戦陣地に接近してきていた。

 深海棲艦軍はすぐさま敵と判断。

 サーチライトでその姿を照らしだし、各所に点在するトーチカ、機銃陣地が攻撃を始めた、

 否、始めようとした。

 

 しかし、24の塊から打ち出された、対戦車ミサイルが外周陣地に次々着弾。

機銃陣地、兵士級を吹き飛ばし、爆炎と煙でトーチカ群の視界を塞いだ。

 

 

 

 対戦車ミサイル『AGM-114 ヘルファイア』による、機銃陣地の破壊を確認した24機もの攻撃ヘリコプター『EC665 ティーガー』大隊は、時速230㎞で地面すれすれの匍匐飛行を行いながら、煙を上げる外周陣地へと接近。

 陣地前に設置された広大な地雷源、鉄条網を文字通り飛び越え、次々野戦陣地内へと侵入し、高射砲陣地の集まる陣地奥内へと駆け抜けていった。

 

 そして、未だ砲身を上に向け砲弾を打ち上げている、高射砲群に向けてその身に抱えた、ロケット砲、対戦車ミサイルで存分に蹂躙を始めた。

 

 至る所で、高射砲の残骸が空中高く舞い上がり、陣地ごと吹き飛ばされ、周辺にいた兵士級ごと焼き尽くされていく。

 生き残った兵士級が小火器で抵抗するものの、重装甲の施された『EC665 ティーガー』には大して効かず、逆に、機関砲で穴だらけにされ、無残な残骸を増やしていた。

 

 内部にまで入り込まれた攻撃ヘリコプターの排除は難しく、空に炎の壁を作り上げていた高射砲陣地は一基残らず排除され、煙だけが漂う空を巨大なマキナの船体がゆっくりと通過していく。

 

―――ミレニアム大隊、降下準備

 

 対空弾幕の無くなった、野戦陣地上空を飛行するマキナは、降下カタパルトを展開、自身に搭乗していた大隊員を、続々と降下させていった。

 

 

 エアボーン。

 

 それは、本来の意味ならば、輸送機に乗った兵士がパラシュートで一斉に降下して敵陣の背後を突く戦法である。

 しかし、エアボーンは、パラシュート降下のため、兵員・物資の降下範囲が散らばりやすく、そして装備も貧弱であるという欠点があり、しかるのち地上部隊の増援と合流しなければ、敵地上部隊の反撃で大損害を受けやすい。

 

 だか、一人一人が強靭な力を持つ、吸血鬼化武装擲弾兵戦闘団―――ミレニアム大隊にはこの欠点は一切当てはまらない。

 

 ミレニアムのエアボーンに地上部隊との合流は必要ない。

 ―――――降下部隊のみで敵地上部隊を粉砕することができるからだ。

 

 ミレニアムの降下部隊に、補給線など必要ない。

 ―――――空を飛行するマキナから直接補給を受けることができるからだ。

 

 ミレニアムの降下部隊に、自走砲などによる火力支援は必要ない。

 ―――――空を守るマキナから艦砲射撃にも匹敵する火力支援を直接受けることができるからだ。

 

 それはつまり、マキナが飛行できる範囲すべてがミレニアム大隊の作戦圏内であり、機甲師団にも匹敵する戦力をいつでも、どこでも、好きなだけ展開できるという意味でもある。

 

 ジャワ島の総司令官である港湾棲姫は、『陣地内に籠っての持久戦』という最悪の選択肢を選んだ。

 

 陣地内に直接展開できるミレニアム大隊にとって、外からの攻撃に対処する陣地など無意味であり、内部が混乱し混戦になればなるほど、近接戦に対して無類の強さを発揮する吸血鬼の独壇場と化す。

 

 野戦陣地内部に降下した、ミレニアム大隊と、深海棲艦軍との間で戦闘が勃発。

 

 もはや、野戦陣地の意味をなくした戦場で、至る所で戦闘が巻き起こり、敵味方が入り乱れる乱戦となった。

 血で血を洗う大激戦、外周陣地に設置された地雷原、鉄条網がそのまま檻となり、魔女の鍋の底の有様を見せる戦場の上空を、この現状を作り出した、巨大な飛行船はゆっくりと飛行していた。

 

 

 

 「大隊総員、降下完了。では、俺たちはジャワ島の司令官に挨拶でもしに行くか」

 「了解です。マキナさん」

 

 野戦陣地全体を一通り確認した、マキナとU-890は、ミレニアム大隊に対する火力支援を、『EC665 ティーガー』攻撃ヘリコプター大隊に任せ、『Me262改』、『Fw190』戦闘機大隊、『NH90』中型ヘリコプター2個中隊

を伴いながら、再度バニュワンギへと進路を取った。

 

 

 

 

 

――――本拠地 バニュワンギ

 

 

 

 「ソンナ馬鹿ナ……」

 

 バニュワンギにて指揮を執っていた港湾棲姫は、永久城塞にも匹敵する野戦陣地を突破されたことに動揺を隠せないでいた。

 これで進撃するミレニアムと、本拠地バニュワンギとの間を妨げるものは何もない。

 今港湾棲姫が動かせる兵力は、バニュワンギ航空隊と本拠地を守護する陸軍一個師団のみ。

 

 陸軍3個師団の立てこもる頑強な野戦陣地を、簡単に突破して見せたミレニアムに対し、その戦力ではあまりに少なすぎる。

 

 もはや、バニュワンギの陥落は確実。

 

 ならば、せめて港湾に停泊する深海棲艦の艦船だけでも逃がすために、行動を開始した。

 

 港湾棲姫は、飛行場に駐機されていたすべての航空機を出撃させ進撃するミレニアムを足止め、その間に港湾から脱出する時間を稼ぐ。

 

 万が一の場合に備え、港湾棲姫の命令で出港準備を整えていた百隻を軽く超える船団は、島を隔てて2か所ある出入り口へと整然と航行していた。

 

 港湾棲姫の命を賭した決死の作戦。

 しかし、ミレニアムはその作戦すら情け容赦なく踏み潰す。

 

 

 

 「うん?マキナさん、港湾の船団が動き出しました」

 「いかんなぁ、劇の途中退席は。U-890」

 「了解です、マキナさん」

 

 

 マキナの作戦司令室にて、船団の動きを察知したU-890は、すぐさま自身の船体を操り、ある仕掛けを作動させた。

 

 バニュワンギ港湾沖の海底、にて無音潜航していたU-890の船体、特殊潜航艇の命令を受け取った『Mk60キャプター機雷』が一斉に起動。

 

 U-890が港湾の出入り口二か所に敷設した、大量の機雷群が、退却を始めた船団に対し、次々と『Mk46短魚雷』を発射、次々と水柱を立てながら被雷していく艦船に深海棲艦は大混乱し、転覆した船を避けようとした艦船同士が至る所で接触事故を起こした。

 

 混乱した艦船を、港湾棲姫が必死になって統率しようとするものの混乱は収まらず、航空隊が命に代えて作り出した、金よりも貴重な時間が無駄に失われていく。

 

 そして――――

 

 時間を稼いでいた、バニュワンギ航空隊の全滅の報告の後、

 南西の空より飛行船を旗艦とする、ミレニアム航空隊が姿を見せた。

 

 

 

 

 

――――8月11日 AM2:00

 

 

 

 「コンナ…コンナコトガ……」

 

 呆然とした声を上げた港湾棲姫の目の前、ジャワ島深海棲艦本拠地としてその機能を十分に果たしていたバニュワンギ基地は今、至る所から爆炎を上げ、巨大な処刑場と化していた。

 

 空を飛ぶ、『NH90』中型ヘリコプターが建物、倉庫に次々対戦車ミサイルを撃ち込んで叩き壊し、戦闘機部隊が、懸命に抵抗する兵士級の部隊に容赦なく機銃掃射、ロケット砲を食らわせ息の根を止めていく。

 

 港湾では、空より飛来するv1改を撃ち落とそうとするものの捉えきれず、また港湾内のため回避行動もとれず、容赦なく着弾。

 海面全体にばら撒かれた重油に引火し、文字通り火の海となった湾内に転覆し、船体を焦がした。

 屠殺場と同意語となった港湾から脱出しようと、被雷覚悟で出入り口に向かう艦船もいたが例外なく触雷転覆し港湾出口に艦船の残骸を積み重ねていた。

  

 もはや打つ手など全くなく呆然自失となる港湾棲姫は、この光景を作り出した赤と黒で彩られたとてつもなく大きな飛行船がゆっくりとこちらに艦首を向けてくるのを確認した。

 

――――止めを刺す気だ。

 

 もはや艦首の動きがそのまま、自身の処刑のカウントダウンだということ気付きながらも、港湾棲姫その場を動く気になれなかった。

 戦う意思、闘争本能が完全にへし折られていた。

 

 艦首が完全にこちらを向き、船体側面から煙を巻き上げながらこちらに向かってくる複数のV1改を確認すると港湾棲姫はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

――――8月11日 AM4:00

 

 

 

 司令官たる港湾棲姫に止めを刺し、本拠地バニュワンギを制圧した、マキナは飛行場にその船体を降ろし、野戦陣地の制圧を終え合流したミレニアム大隊に、基地周辺の警戒を任せ、U-890と共に本拠地内をゆっくり歩いていた。

 

 「しかし、ジェンティング飛行場には、深海棲艦軍は一切来なかったな。これだとパンターをこっちに参加させてもよかったな」

 「まぁまぁ、備えあれば憂いなしといいますし」

 「どこの言葉だ?それ」

 「日本らしいですよ?」

 

 取り留めもない会話をしていたマキナとU-890は、視界の片隅に白いスーツと、ジャージを着た兄弟の姿を捉えた。

 

 「お、ルーク・ヴァレンタイン准尉に、ヤン・ヴァレンタイン曹長じゃないか。

ちょうどよかった」

 

 「おや、艦長。どうしたので?」

 「あろーあろー艦長~」

 

 「俺たち航空隊は、そろそろ撤収するが、お前達はどうするか聞きたくてな」

 

 「ジェンティングとバニュワンギとの間の防御陣地群に、深海棲艦の一個師団が取り残されているのでそちらに向かおうかと」

 「掃討戦って奴っすよ」

 

 「分かった、ではルーク・ヴァレンタイン准尉。貴官に2個中隊を与えるから存分に使ってくれ。

 俺たちは、ジェンティングで補給をした後、『gehörnte Eule(ミミズク)』を護衛して帰る。

 迎えの方は二日後、B地点に『NH90』を向かわせる」

 

 「了解」

 「了解っす」

 

 ヴァレンタイン兄弟と今後の話し合いを軽くしたマキナは、後ろで控えていたU-890を連れ再び歩き出したが、すぐにその足を止めた。

 

 「どうされました?、マキナさん」

 「これは……深海棲艦側の反応が消えたとなれば、艦娘か?」

 

 おそらく、船体から送られてくる情報を処理しているのだろうマキナは、情報を整理するとU-890に簡潔に伝えた。

 

 「艦娘と予想される艦艇12隻がバニュワンギに向かって接近中だ。到着時刻は2時間後」

 「どうします?相手しますか」

 「いや、今日はこのまま帰る。だが、何の挨拶もなしというのは忍びない。

 U-890、飛行場に隊員を集めろ」

 

 

 

 

 

――――8月11日 AM6:00 深海棲艦本拠地バニュワンギ

 

 

 

 「……これは」

 「……深海棲艦が全滅?」

 「……二人とも気を付けて。まだこれを行った犯人がいるかもしれないわ」

 

 第7作戦部隊のグラーフ・ツェッペリン、プリンツ・オイゲン、そして旗艦であるビスマルクは、深海棲艦の本拠地であるはずのバニュワンギの惨状を見て言葉に詰まりながら、調査を開始した。

 

 

 

 そもそもの始まりは約2時間前、第7作戦部隊が深海棲艦の海上補給路を断つため、東ジャワ島沖合で深海棲艦と海戦を行っていた時である。

 

 突然、第7作戦部隊の妨害のために展開していた深海棲艦が進路を変更。

 一部を殿に宛がい、撤退を始めた。

 しかも、進路は深海棲艦の本拠地があると予想されているジャワ島のバニュワンギではなく、東に向け撤退を始めていた。

 それだけではない。

 偵察機を多数飛ばしていたグラーフ・ツェッペリンから周辺の深海棲艦すべてが、バニュワンギから離れるように撤退を始めているという、無線が入った。

 

 第7作戦部隊旗艦のビスマルクは、報告にあった正体不明の勢力がバニュワンギを攻撃しているものと予想し、部隊の進路をバニュワンギに変更。

 

 時折邪魔をする深海棲艦を蹴散らしながらバニュワンギへと急行していた。

 

 

 

 

 

 そして到着したバニュワンギだったが、もはや陥落した後だった。

 ビスマルクは、プリンツ・オイゲン、グラーフ・ツェッペリンと共に、携帯艤装を展開しての上陸作戦を決断。

 第7作戦部隊の指揮を妙高に任せ、3人はバニュワンギへと急いだ。

 

 調査を開始した3人だったが、いくつもの黒煙が本拠地全体を覆いつくし、港湾内には転覆し、着底した深海棲艦の残骸が、漏れ出した重油に引火したのだろう炎に焼かれ、地上施設は完膚なきまで破壊され、至る所に兵士級の残骸が転がっている惨状に顔を顰め、これだけの戦力を叩き潰した勢力に対して危機感を覚えていた。

 

 「グラーフどう?空からの様子は?」

 「煙が邪魔をして、基地全体の偵察は無理だな」

 「そう、じゃあ、基地周辺の警戒をお願いね?プリンツも警戒を怠らないで」

 「了解した」

 「了解ですビスマルク姉様!」

 

 携帯艤装から小型の艦載機をいくつも飛ばしていた、グラーフ・ツェッペリンに現状を聞いたビスマルクは二人に油断しないよう促しながら、基地内を調査を続けていた。

 

 そして様々な破壊の記録を取りながら、本拠地横に併設された巨大な飛行場へと移動してきていた。

 その飛行場は無秩序に、深海棲艦の残骸が転がっているのではなく、兵士級が積み上げられてできた壁がいくつも出来上がっていた。

 他とは様相の違う、光景に疑問を抱きながらも、調査を開始しようとしたとき、一陣の強い風が吹き荒れ、飛行場上空に淀んでいた黒煙を押し流し飛行場全体が露わになる。

 

 「こ、これはっっっ!!!」

 「どうしたのグラーフ?」

 「顔が真っ青ですよ?」

 「2人ともすぐに偵察機を飛ばして、視界共有をしてくれ!!!」

 

 飛行場上空に偵察機を飛ばしていたグラーフ・ツェッペリンが透き通った肌を真っ青に染めながら、鬼気迫るように二人に訴えた。

 いつも冷静なグラーフ・ツェッペリンとは違う様子に、ビスマルク、プリンツ・オイゲンは圧倒されながらも、指示通り偵察機を飛ばし、妖精さんと視界共有をした。

 

 そして、飛行場上空からの光景を見た直後―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――空気が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息を吸うことがひどく苦しい。

 熱いはずの、気温が一気に下がり、冷や汗が止まらない。

 

 深海棲艦の残骸で作られていたのは、壁ではなく印だった。

 その印は3人には、非常になじみ深いものだった。

 

 

――――第二次世界大戦時、一つの帝国がドイツで生まれた。

 

――――天才的な指導者が率い、ヨーロッパを席巻した、強大な帝国。

 

――――いくつもの戦争犯罪と共に、今なお恐怖の象徴として語りつがれている血塗られた印。

 

 

 

 言葉に出すことのできないグラーフ・ツェッペリン、プリンツ・オイゲンに代わりビスマルクは喉の奥から吐き出すように、噛み締めるように、その印の名前を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「 Hakenkreuz (ハーケンクロイツ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深海棲艦の大量の死体で形作られていた、ドイツ第三帝国の印、巨大な鉤十字が、雲の切れ間より覗く太陽の光を浴び、赤黒く燦然と輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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