空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する! 作:ワイスマン
海上自衛隊、東南アジア連合陸軍主導で行われた『ジャワ島奪還作戦』は、制海権を完全に確保した海上自衛隊が、ジャワ島最東部バニュワンギ近辺に第九作戦艦隊と第三機甲師団を揚陸し、戦線の背後をつくように西に向けて進軍を開始。
それに呼応するように東に向け東南アジア連合陸軍主力動きだし、東と西から深海棲艦軍の主力が守るボロブドゥール戦線へと総攻撃を仕掛けた。
戦線の空を守っていた各飛行場の航空機の余剰戦力が消失し制空権が喪失、制海権を確保されたことで補給が途切れた今、深海棲艦軍に東南アジア連合陸軍と艦娘陸戦隊の挟撃に耐えれるほどの力はなくボロブドゥール戦線は完全に崩壊。
潰走を始めた深海棲艦軍は空と陸より徹底的に駆逐され殲滅させられた。
本来なら、奪還まで半年以上掛る事を見込まれていた『ジャワ島奪還作戦』は僅か40日という短期間、そして当初予想されていた損害を大きく下回る形で達成される。
インドネシア大統領は奪還した首都ジャカルタにて、本土解放を宣言。
国外脱出をした自国民を呼び戻し、ジャワ島復興に着手を始めた。
東南アジア陸軍は、ジャワ島各地に散った深海棲艦軍残党の掃討を進めることで島の安定化を図り、深海勢力との前線基地として機能させるため各地に駐屯基地を設営と、破壊された港湾の整備を進め、
海上自衛隊も奪取した各飛行場を復旧、基地航空隊を進出させジャワ島の防空強化に勤しんだ。
完全勝利といっても差支えないほどの成果を上げた今作戦に、深海棲艦の恐怖を肌で感じていた東南アジアの政府と国民は歓喜の声を上げるが、東南アジア連合陸軍の上層部、そして海上自衛隊はこの勝利に浮かれるどころか新たな脅威の出現に頭を抱えていた。
――――1999年9月14日 リンガ軍港 提督執務室
「……これは」
「……」
『ジャワ島奪還作戦』終了より約2週間後。
リンガ軍港、提督執務室にて、復興の途上にあるジャワ島より送られてきた報告書に、東条少将、ビスマルクは二の句が継げないでいた。
ジャワ島より送られてきた報告書――――
それは、ジャワ島にて確認されたハーケンクロイツを掲げる謎の勢力についての中間調査報告書だった。
ジャワ島奪還作戦中盤、謎の勢力を探るため、海上自衛隊作戦本部と東南アジア連合陸軍、共同で送り込まれた大規模な調査チームだったが、作戦が予想より早く完遂したため、島全体を調査範囲として足取りを追っていた。
ジャワ島全体で、謎の勢力についての調査が始まったわけだが、調べれば調べるほど、深海勢力に与えた被害の大きさ、そして謎の勢力の特異性が徐々に明らかになる。
最初の方こそ、飛行場のみを襲撃しているものと予想されていたのだが、それだけには留まらず、港湾、泊地、集積地、補給基地、防御陣地など、島の至る所で謎の勢力による破壊の爪痕が残されていた。
そのすべてに共通することは、まるで何の脈絡もなく突如軍隊が現れ、消えたかのような、該当箇所以外に一切の痕跡がないこと。
確実に二個中隊以上の軍事行動が確認できるのだが、ジェンティング飛行場に残された戦車や車両の痕以外には車両による移動の痕跡は確認できず、野営陣地すら見つかっていない。
そして、これだけ広範囲に攻撃を仕掛けていても誰一人としてその軍隊の姿を見ていない事だった。
霞のように全容の捉えられない軍隊、凶悪な戦闘能力、そしてバニュワンギに示された巨大な鉤十字から、東南アジア連合陸軍の兵士達から『亡霊軍隊』と呼ばれ恐れられていた。
「これほどの突出した戦闘能力……確実に艦娘が関わっているな。
使われた兵器の解析はまだらしいが、艦娘陸戦隊でも同等の戦果を挙げるには、相当数動員しなければならない」
「ええ……これだけ損害を受けていては、深海棲艦軍もまともに機能しなかったでしょう。
私達はこの軍隊に、勝利という『おこぼれ』をもらったという事ね」
「だがこいつらの目的は?
これだけの戦闘能力を持つ軍隊を行動させるならば何か目的があるはず。
我々はジャワ島の奪還という目的があったが、こいつらの目的はなんだ?
この戦いで何を得た?
そして、なぜ隠密行動を心がけていた軍隊が、鉤十字のような目立つ印を残したんだ?」
明らかに艦娘の力が関わっていると断定できる状況で、鉤十字を残す目的がドイツ連邦に目線を向けさせることだったとしても、誰もがドイツ連邦が艦娘の所有を禁止されていることが知れ渡っている現在、その目的が果たされることはない。
精々がドイツ連邦の監視が厳しくなるだけだ。
そして、海上自衛隊に所属しているドイツ艦娘に疑いを向けさせることで内部分裂を狙ったのだとしても、ほとんど自衛官、そして東南アジア連合陸軍の兵士達と共に作戦行動していることでアリバイのある彼女達を疑う者はない。
仮にその二つのどちらか片方、もしくは両方が目的だったとしても、これだけの軍事行動を起こすだけの理由に足りえない。
「目的と手段が全くかみ合ってないような……。
いえ、何か明確な目的があるはずだわ」
謎の勢力の正体と目的を探ろうと思考の海に潜り始めようとした二人は、直後に鳴り響いた電話の音で現実に引き戻された。
「東条だ。……なに?……分かった」
「どうかしたの?」
妖精さんの作り出したアンティ―ク調の受話器を取った東条中将は相手側の話を聞くにつれ、みるみる顔を顰めていった。
話の内容が気になったビスマルクは、相手側との話を終え受話器を置いた時を見計らい問いかけた。
「深海勢力圏内、ポート・モレスビー港湾周辺を偵察中の伊8、U-511からの緊急電文だ。
『同港にて30隻を超える大型艦艇が集結中。反攻作戦の予兆あり』
深海棲艦が仕掛けてくるぞ」
――――1999年9月15日 PM11:00 ポート・モレスビー港湾周辺
『どうユーちゃん?深海棲艦の艦種の特定はできた?』
『あ、ハチ。
まだ正確な数は掴めてないけど、大型艦艇のほとんどが空母級だと思うよ』
『となると空母機動部隊が主力になるのかな?』
緊急電文を送るために同海域から離れていた伊8は、その場に残って監視活動をしていたU-511と再度合流し、潜航したまま艦娘の能力を使った相互通信にて会話をしていた。
第二次世界大戦時の潜水艦の魂を持つ彼女達だったが、艦娘の特性を受け継ぎその性能は過去の潜水艦と比べものにならないほどに向上していた。
まず、潜水可能時間、そして潜水深度が飛躍的に向上した。
これは、狭い空間の中に数十人の乗組員が押し込まれ、酸素を消費する通常の潜水艦と違い、一人の艦娘と、それを補助する妖精さんだけですむため。
そして船体を手足のように操る彼女たちは、自身の船体ががいまどれだけの深さを潜ることができるかを文字通り肌で感じることができるために、自身の限界ギリギリを正確に読み取り潜航することができるため。
それに伴い、海上自衛隊において彼女たちの潜水艦の役割は、敵艦艇への急襲から広範囲に展開しての偵察任務となっていた。
昔であれば潜水艦一隻の犠牲で大型艦艇を沈めればそれだけで大金星となっただろう。
しかし、湯水の如く湧き出てくる深海棲艦に対し、艦娘を等価交換のような犠牲を払っていては確実に押し負けてしまう。
深海棲艦との海戦で必要なのは、勝利ではなく生存。
『成長する兵器』でもある艦娘の損失を一切出さず、深海棲艦のみに損害を押し付ける。
それをするためには、敵側の情報を少しでも多く集め、掌握し、確実に勝てる自身の手札を切らなければならない。
そのために彼女達潜水艦隊は広範囲に展開し、日夜深海棲艦の動向を調査し、情報を発信していた。
この二人も探知されないよう細心の注意を払いながら、情報を集め自陣営に送っていく。
しかし、それは人類側にとって忘れることのできない一つの海戦の始まりを告げる鐘の音でもあった。
夏イベが始まりましたね。
ありがたいことに、ウォースパイトがゲットできるみたいです。
これでオリジナル艦娘を出さずに済みます