空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第20話 第一航空艦隊

――――1999年9月30日 AM9:00 タウイタウイ沖

 

 

 

タウイタウイ沖にて発生した、海上自衛隊タウイタウイ方面軍と深海棲艦・空母機動部隊との戦闘。

 先制は先に深海棲艦・空母機動部隊を捕捉することに成功したタウイタウイ方面軍が取った。

 

 第一作戦部隊の空母13隻からは400機の第一次攻撃隊が、タウイタウイ周辺に点在する航空基地群からは600機もの陸上爆撃機・攻撃機とそれを護衛する戦闘機が次々と発進。

 

 合計1000機もの戦爆連合が、複数の群に分かれ深海棲艦・空母機動部隊を強襲した。

 

 この動きに対し、濃密な索敵網を敷いていた深海棲艦・空母機動部隊は先手を取られたものの、この動きに瞬時に対応。

 深海棲艦・空母機動部隊の旗艦であり、司令官でもある空母棲姫は配下の空母・軽空母級に対し戦闘機を上げるよう命令、空母級16隻、軽空母級18隻より露天駐機されていた戦闘機が次々と発進し、800機の戦闘機が迎撃準備を整えていく。

 

 そして、海上自衛隊タウイタウイ方面軍の戦爆連合、深海棲艦・空母機動部隊の迎撃戦闘機部隊の衝突をもってタウイタウイ沖海戦、空母機動部隊同士の決戦が始まった。

 

 

 

 複数の群に分かれて飛行を続けるタウイタウイ方面軍攻撃隊を叩き落とさんとする深海棲艦の迎撃戦闘機部隊と攻撃隊を守る護衛戦闘機との間で戦闘が勃発。

 

 爆撃機に食らいつこうとする迎撃戦闘機を護衛戦闘機が追い散らし、攻撃隊も密集陣形を整え統率された弾幕射撃を持って迎撃戦闘機を近づけさせない。

 

 対する迎撃戦闘機も護衛戦闘機に対して挑みかかることで攻撃隊から引き剥がし、シャワーのように降り注ぐ弾幕射撃の隙間を縫うように攻撃機に襲い掛かった。

 

 快晴の青空に、千を軽く超える航空機が次々と鋼鉄の弾丸をばら撒き、撃墜された両陣営の航空機が自身のパーツを周囲にまき散らしながら黒い黒点を描いていく。

 

 ほんの少し前まで平穏だった空もはや見る影もなく、今や凄惨な戦場となり果てていた。

 

 

 

 戦力は拮抗。

 

 深海棲艦・空母機動部隊に向けて飛行を続けるタウイタウイ方面軍攻撃隊と、それを阻止する深海棲艦・迎撃戦闘部隊。

 

 両軍ともに被害は出ているものの戦局を傾かせるほどのものは出ていない。

 

 しかし、深海棲艦・迎撃戦闘機部隊は未だタウイタウイ方面軍攻撃隊に対し有効的な打撃を与えれられていないことに焦りを覚えていた。

 

 タウイタウイ方面軍戦爆連合1000機に対し、深海戦艦・迎撃戦闘機部隊は800機。

 

 数の上ではタウイタウイ方面軍に軍配が上がるが、戦爆連合の大半は攻撃機、爆撃機で構成されており護衛戦闘機の数は、300機程度しかいない。

 

 攻撃機、爆撃機も迎撃戦闘機に対し、全くの無力という訳でもないが、そもそも対艦攻撃に特化した攻撃機、爆撃機と、対航空機に特化した戦闘機ではその性能に雲泥の差があり、対航空機戦闘という側面においては

 タウイタウイ方面軍の護衛戦闘機300機に対し、深海棲艦の迎撃戦闘機800機。

 

 二倍以上の差をつけていた。

 

 しかし、攻めきれない。

 

 深海棲艦の迎撃戦闘機が攻撃隊に襲い掛かろうとするも瞬時に護衛戦闘機に邪魔され、ならばと護衛戦闘機を攻撃隊を引き剥がそうとするも最低限の動きのみで追い払われ、逆に深入りしすぎた迎撃戦闘機は目にも止まらぬ速さで叩き落とされていく。

 幾度か数に物を言わせた攻撃を行おうとするも結果は惨敗。

 

 その迎撃戦闘機の動きを完全に先読みされ、先制攻撃と共に連携が取れないよう、いくつかの群にバラバラに分断された後は狩りの標的にされた獲物のごとく次々と狩られていった。

 

 そこに存在するのは量の差ではない。

 

 圧倒的な質の差。

 

深海棲艦が操る迎撃戦闘機とは比べものにならないほどの、自身の手足を操るかの如く洗練された護衛戦闘機の操縦技術。

 

 僚機を位置を完全に把握し、最適解ともいえる全く無駄のない動きでお互いの死角をカバーし合い、深海棲艦の動きを完全に封殺する徹底的な集団戦。

 

 それは迎撃戦闘機と護衛戦闘機の性能差も相まって、数で勝る深海棲艦優位の戦況を質という武器を持って覆していた。

 

 

 

 

 

 

 「……ふん」

 

 空母加賀より出撃した艦上爆撃機隊『近藤隊』その隊長である近藤大尉は、自身の爆撃機隊の周囲を飛び回り、深海棲艦の迎撃戦闘機を追い散らす友軍戦闘機の姿を視界に収め、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 近藤大尉は数的不利という状況を技術を持って押し返し続ける友軍戦闘機を見ても何の感慨も浮かばなかった。

 

 艦娘の能力によって召喚された彼ら【第一航空艦隊】の搭乗員達にとってそれは当然のことであり、別段称賛するほどのことでもないだからだ。

 

 

――――第一航空艦隊

 

 

 大日本帝国において南雲忠一海軍中将を司令長官として編成された世界初の空母機動部隊にして、

太平洋戦争初期、その類い稀なる錬度をもって大日本帝国に勝利をもたらし続けた世界最強の空母機動部隊。

 

 その中核を担った搭乗員達にとって、深海棲艦の操る迎撃戦闘機など素人の操るそれに等しく、赤子の手を捻るかの如く挑みかかってくる迎撃戦闘機を次々とスクラップの塊へと変えていった。

 

 護衛戦闘機に守られた攻撃機隊は、深海棲艦の迎撃戦闘機を一切寄せ付けない鉄壁の布陣をもって深海棲艦・空母機動部隊へと進撃を続けていく。

 

 護衛戦闘機隊の役割は、攻撃機隊の護衛。

 

 そしてその護衛戦闘機隊がその役割を忠実に果たした今、今度は彼ら攻撃機隊が自身に与えられた役割を果たす時だった。

 

 

 

 深海棲艦の迎撃戦闘機との熾烈な制空戦の果てに見えてきたのは、巨大な空母機動部隊。

 数百隻もの深海棲艦で構成された艦隊の全容は、空高く飛行する航空機からでもその端は水平線上に隠れ窺い知ることはできない。

 ヘドロのような黒と血走った赤で構成された艦艇群が、透き通るような青々とした海を覆い尽くす様は、醜悪な病原体が世界を徐々に侵食していくかの様な嫌悪感をその姿を見た者に与えていた。

 

 タウイタウイ方面軍の戦爆連合が徐々にその巨大な空母機動部隊との距離を詰め始めた時、ついにその大艦隊が動き始めた。

 

 空母機動部隊の外周部に展開する大量の駆逐艦級から始まり、次々と打ち出されていく対空砲火。

 やがてそれは機動部隊全体の艦艇へと波及、広大な空を埋め尽くさんばかりの砲弾を吐き出し始め、一つの世界を作り上げた。

 

 ――――深海棲艦だけが存在することを許された、深海棲艦以外の一切の存在を全て拒絶し処刑する独裁世界。

 

 深海棲艦の空母機動部隊を周囲を守護するように広がった鋼鉄の嵐は、巨大な城壁のように、長大な堀のように、深海棲艦に攻撃を仕掛けようとする攻撃隊の前に立ち塞がった。

 

 練達の兵士でさえ、恐怖によって足が竦み二の足を踏むような光景を前にして近藤大尉は――――

 

 「近藤隊、攻撃準備。目標、敵駆逐艦級」

 

 当然の如く、そして一切の感情の揺らめきもなく配下の爆撃機隊に命令を下した。

 

 全ての攻撃隊から役割の終えた護衛戦闘機が離れていく。

 

 それと同時に近藤隊を始め、タウイタウイ方面軍・全攻撃隊が上空から、海上から深海棲艦・空母機動部隊を蹂躙するべく猛烈な速度で進撃を開始した。

 

 

空高く飛ぶ近藤隊の周囲を跳ね回る夥しいまでの砲弾の豪雨。

 

 時折、炸裂した砲弾が空気を震わせ、その破片が近藤少尉の操る爆撃機の機体表面を叩き、傷つけていく。

 

 十分な防弾性能が施されている頑強な機体とはいえ、圧倒的な鉄の暴力の前では気休め程度にもならない。

 

 近藤少尉の率いる爆撃機編隊、その最左端を飛んでいた機体が轟音と共に吹き飛んだ。

 

 続けて編隊右端を飛行していた機体が翼から煙を噴き上げながら高度を落としていく。

 

 次々と濃密な対空砲火の前に仲間が食われていく悲惨な光景。

 その光景を前にしても近藤隊の編隊は、一糸乱れぬ統率で死の街道駆け抜けていった。

 

 そして最良の降下地点に到達した近藤隊は、先頭機である近藤少尉の急降下開始と共に対空砲火を打ち上げる駆逐艦級に向けて一斉と降下を開始し始めた。

 

 急降下爆撃。

 

 『Wright() R-3350() Cyclone() 18()』。27()00()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が流星群のように駆逐艦級に向かって落下していく。

 

 対空機銃から打ち出す大量の銃弾をもって爆撃の軸線を外そうとする駆逐艦級。

 また一機が弾幕の餌食に掛り四散した。

 

 しかし近藤少尉率いる爆撃機編隊は、一切気にすることなく、目標の駆逐艦級に向けて急降下を続けていった。

 

 そして目標との高度400mまで達した編隊は次々と2()0()0()0()()()()()()を投下し、海面すれすれを飛行しながら素早く離脱。

 

 恐ろしいほど高い技術を持つ熟練搭乗員が放つ爆弾は吸い込まれるように駆逐艦級へと殺到した。

 

 ド派手な爆炎を上げながら燃え上がる駆逐艦級。

 艤装が紙吹雪のように吹き飛び、引火した弾薬が花火のような音を立てて炸裂する。

 

 「まだ、沈まんか……」

 

 目標の駆逐艦級へと爆弾を叩きこんだ近藤少尉は後方を確認しながら、直撃弾を食らい黒煙を噴きあげながらもかろうじて浮かんでいる駆逐艦級へと吐き捨てるように呟いた。

 

 「まぁいい。後はあいつらに任せるか…」

 

 そう言うと同時に離脱する近藤隊と入れ替わるように、海面を這うように飛行する雷撃機編隊が、次々と深海棲艦・空母機動部隊へ突っ込んでいった。

 

雷撃攻撃。

 

 船の水線下をえぐり致命傷を与える魚雷を放たんと、プロペラが飛沫を巻き上げるほどの超低空を飛び続ける雷撃機編隊。

 

 その雷撃機編隊に対しても情け容赦ない火箭の嵐が吹き荒れた。

近藤隊と同様に次々と撃墜されていくも、一気に接近し魚雷を投下。

 

 先ほどの急降下爆撃で生き残った死にぞこないや、今なお砲弾をばら撒き続ける駆逐艦級に止めを刺していった。

 

 タウイタウイ方面軍の全攻撃隊による雷爆同時攻撃。

 その攻撃の中で深海棲艦・空母機動部隊の外周部を守る駆逐艦級は、優先して、そして沈むまで徹底的に攻撃が加えられていく。

 

 従来の空母機動部隊攻撃のセオリーならば、対空砲火を打ち上げる駆逐艦は無力化するだけに留め、本命である空母を狙うべきである。

 普通に考えて駆逐艦よりも空母の方が戦略的価値が高く、同じ攻撃をするならば価値の低い駆逐艦を狙うよりも空母の撃破、または無力化を狙った方が得られる成果も大きい。

 

 しかし、今回の戦いにおいて、深海棲艦・空母機動部隊の目的が明確に決まってしまっているこの戦いにおいて従来のセオリーなど、人間同士が戦う前提で作られたセオリーなど然したる意味など持たない。

 

 結局のところ。

 この深海棲艦・空母機動部隊を止める方法など一つしかないからだ。

 

 

 

 

 

 大量の対空砲火を打ち上げる深海棲艦・空母機動部隊と、その中にためらいなく突っ込み攻撃を加えていくタウイタウイ方面軍の攻撃隊。

 深海棲艦の艦艇が狂ったように放つ火箭が次々攻撃機を撃ち落とし、対空砲火を突破した攻撃隊が空から、海面ギリギリから雷爆同時攻撃を放ち深海棲艦を沈めていく。

 

 深海棲艦・空母機動部隊の外周部にて血みどろの激戦が行われていく中で、各所に放った偵察機よりついに深海棲艦の待ち望んでいた報告が届いた。

 

――――タウイタウイ方面軍・空母機動部隊発見。

 

 深海棲艦・空母機動部隊の司令官である空母棲姫は、すぐに配下の艦隊へ攻撃隊の出撃を命じた。

 先手を取られ、好き放題やられた鬱憤を晴らすべく、空母級16隻、軽空母級18隻から夥しい数の攻撃機、戦闘機が迅速に飛び立っていく。

 

 その数1500機。

 

 タウイタウイ方面軍・空母機動部隊を軽く超える規模で構成された深海棲艦の戦爆連合は、目標を撃滅するべく進撃を開始した。

 

 

 

 

 

 




 
 
 戦況報告
          人類陣営
           タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊

          深海陣営
           ポート・モレスビー方面 空母機動部隊
 

               交戦状態








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