空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第21話 惨劇の幕開け

  「ようやくこちらを捕捉しましたか」

 『相変わらず手際の悪い連中です……』

 

 深海棲艦・空母機動部隊から出撃した1500機もの戦爆連合。

 その動向はすぐさま観測基地のレーダー網に捉えられ、複数の中継基地を介すことで迅速にタウイタウイ方面軍・第一作戦部隊へ伝えられた。

 その連絡を聞き、第一作戦部隊旗艦である大鳳は盛大に溜息を洩らし、第二艦隊を預かる赤城は呆れたように呟いた。

 タウイタウイ方面軍の第一次攻撃隊を超える攻撃機編隊。

 それが迫っているという事実を前にしても、相互通信を使って会話をする二人に一切の動揺は見られず、それどころか深海棲艦の索敵能力の低さに苦言を呈す余裕すらある。

 

 

 「第一作戦部隊旗艦より各艦に伝達。深海棲艦・空母機動部隊より出撃した攻撃機編隊が接近中。第一艦隊及び第二艦隊の迎撃戦闘機隊、発艦始め!」

 

 そして総旗艦の指示の元、第一艦隊、第二艦隊を構成する空母より次々と戦闘機が出撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 深海棲艦・空母機動部隊より出撃した戦爆連合。

 タウイタウイ方面軍第一次攻撃隊を上回る規模で構成された攻撃機編隊は、先手を取られ散々攻撃された恨みを晴らすべく、攻撃目標である第一作戦部隊を目指していた。

 今の所、周囲には深海棲艦の航空機のみで、タウイタウイ方面軍の迎撃戦闘機は確認できていない。

 しかし、タウイタウイ方面軍に先手を取られた以上、深海棲艦側の動向が把握できていないなどありえない。

 確実にどこかに潜んでこちらを狙っている。

 深海棲艦の攻撃隊は、迎撃戦闘機による奇襲を最大限警戒しながらも迅速に目標に向けて飛行を続けていた。

 

 

 そして攻撃目標であるタウイタウイ方面軍・第一作戦部隊、到着まで約30分。

 それは唐突に始まった。

 はるか上空から快晴の空を余すことなく照らす太陽。

 その日差しの中に無数の小さな黒い点の様なものが浮かび上がった。

 その無数の黒い点は次第に大きくなり、その真下にいた物――――攻撃隊の機体に影を作り出した。

 黒い点たちはその真下にいた攻撃隊に向けて急速に落下。

 周囲に強力なエンジン音を響かせた。

 迎撃戦闘機の編隊急降下。

 深海棲艦の護衛戦闘機がその存在に気が付くよりも早く、迎撃戦闘機の編隊が大量の弾丸を攻撃隊に向けて叩き込んだ。

 迎撃戦闘機の20mm機関砲より矢継ぎ早に打ち出される銃弾。

 その射線は正確に攻撃機の機体を捉え、装甲を粉砕し内部を破壊しつくした。

 攻撃を受けた機体から次々炎が上がり墜落、または戦線を離脱していく。

 奇襲攻撃を成功させた迎撃戦闘機の編隊は、そのまま攻撃機編隊をすり抜けて急降下、そして素早く切り替えし今度は真下から攻撃機編隊に食らいつこうとする。

 その動きを阻止すべく、深海棲艦の護衛戦闘機が次々割って入っていった。

 そしてタウイタウイ方面軍・迎撃戦闘機編隊300機と深海棲艦・戦爆連合1500機。攻撃と守備を入れ替えた戦闘が開始された。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 タウイタウイ方面軍・迎撃戦闘部隊と深海棲艦・戦爆連合との間で起きた空中戦。

 先ほどの戦闘とは攻守が入れ替わっているにも関わらず、齎される結果は大きく食い違っていた。

 次々と落ちていく深海棲艦の航空機。迎撃戦闘機の編隊が攻撃隊の傍を掠めるたびに攻撃機が煙を噴き上げながらその高度を落としていく。

 徹底的な一撃離脱。

 深海棲艦の護衛戦闘機が追い縋ろうとするも馬力に差があるのかあっという間に引き離されてしまう。

 それならばと格闘戦を挑んでも戦況は変わらなかった。

 強力なエンジン性能に裏打ちされた速度と最上の運動性、4門の20ミリ機関砲の凶悪な攻撃力、多少の被弾など物ともしない頑強な防御力の迎撃戦闘機と百戦錬磨の搭乗員の前に散々に蹴散らされ叩き落とされていった。

 

 

 

 

――――空母「赤城」所属 『志摩隊』

 

 

 

 深海棲艦の攻撃機編隊に痛撃を食らわせた迎撃戦闘機隊の一つである『志摩隊』、その隊長である志摩中尉は自身が従える編隊を統率しながら、戦闘指揮所(CIC)から届く無線による指示のもと、攻撃機編隊に対し常に優位な

位置から攻撃を繰り返していた。

 

 『志摩隊、敵5機の2個編隊。11時下方 距離7千』

 「了解。各機、2機編隊!かかれ!」

 

 自身の所属する空母『赤城』から届く無線誘導に従い、編隊を分け攻撃を仕掛けていく志摩隊。

 上空から強襲した志摩隊の攻撃によって、また新たに深海棲艦の攻撃機が炎に包まれた。

 

 レーダー管制を使った索敵網と無線誘導による戦闘指揮。

 これにより数で勝る深海棲艦の攻撃隊に対し、優位な位置に素早く迎撃戦闘機を配置転換、局部的な優勢を確保することで対抗していた。

 しかしそれだけではない。

 

 『志摩隊、敵戦闘機が2機、4番機の()()()()()()()()()()()()

 「了解。2番機、3番機。相手をしてやれ!」

 『『了解』』

 

 無線機より届く凛とした女性の声。

 レーダー管制では分かりえない、まるで戦場を直接その目で俯瞰しているような具体的な情報。

 その情報に志摩中尉は、驚きもせず冷静に隷下の戦闘機に指示を出した。

 志摩中尉の指示を受け、すぐさま行動を開始する2番機と3番機。

 そのまま機体を大きく切り替えした2機は、今まさに4番機の背後を取り攻撃を仕掛けようとしていた深海棲艦の護衛戦闘機達の側面から不意打ち気味に襲い掛かった。

 この行動によって深海棲艦の護衛戦闘機達はこの新たに出現した脅威に対抗するために、4番機への攻撃を諦めざるを得なくなる。

 僚機の安全を見届けた志摩中尉は、安堵の溜息をつくと適切な情報を与えてくれた女性に礼を述べた。

 

 「助かった。感謝する」

 『ふふ、お礼はその子たちにお願いします』

 

 志摩中尉の礼に対し、無線機の声の主、自身の所属する空母の艦娘―――赤城は小さく笑うとそう答えた。

 

 「ありがとう。おかげで助かったよ」

 

 志摩中尉は、操縦席に同乗する小さな戦友に声を掛けた。

 一人乗りであるはずの戦闘機内。そこに同乗する小さな戦友―――妖精さんは志摩中尉の礼に対して敬礼で答えた。

 この妖精さんこそが、先ほどの レーダー管制では分かりえない、具体的な情報のからくりである。

 

 そもそも航空母艦の艦娘達は、妖精さんを介して自身の持つ全艦載機を同時に統率できる能力を有している。

 その際には全ての妖精さんと視界共有をすることで戦場を把握。

 操縦は妖精さんを介することで数十機もの艦載機群を操ることができるのだ。

 先ほどの具体的な情報も、違う部隊の戦闘機の妖精さんが4番機背後に接近する深海棲艦の護衛戦闘機を目撃。

 その情報を志摩隊に伝えたためだった。

 

 

 「よしっ!全機、もう一度食らいつくぞ!」

 

 

 2番機、3番機が先の護衛戦闘機を撃墜したことを確認した志摩中尉は再度、深海棲艦の攻撃隊を強襲するため指示を下す。

 そして彼らの操る()()()()は、優秀な戦闘誘()導将校()から齎される正確な情報の元、一糸乱れぬ隊形で攻撃隊の懐へと飛び込んでいった。

 

 

 

 レーダー管制誘導による戦闘指揮と、妖精さんの力を使った監視網。そしてそれらを十全に扱うことのできる艦娘と最高峰の操縦技術を持つ第一航空艦隊の搭乗員たち。

 極限まで練り上げられた防空システムによって、多くの攻撃隊はタウイタウイ方面軍・第一作戦部隊にたどり着くことなく次々撃ち落とされていく。

 それでも深海棲艦の戦爆連合は持ち前の物量戦を発揮。

 数で勝る護衛戦闘機隊をもって迎撃戦闘機隊を力ずくで抑え込むことで防空ラインの強硬突破を図った。

 そして大量の航空機をすり潰しながらもいくつかの攻撃隊が迎撃戦闘機隊が守る防空ラインを突破。

 その奥に控える第一作戦部隊に向け進撃を続けた。

 

 

 

 『第三艦隊より報告ー!敵機52機、方位0-9-0より接近中っ!』

 「来ましたか…全艦、対空戦闘用意!」

 

 迎撃戦闘機隊による防空ラインを突破した深海棲艦の攻撃隊。

 その編隊群は、空母機動部隊の外周区にて敵機の警戒に当たっていた第三艦隊の索敵網にすぐさま捉えられ、第三艦隊旗艦である鈴谷より迅速に総旗艦である大鳳に伝えられた。

 その報告を聞いた大鳳は、第一作戦部隊を構成する全艦隊に対し、対空戦闘準備を発令。

 迫りくる攻撃隊を待ち構えた。

 

 

 

――――第三艦隊所属 駆逐艦 『秋月』

 

 

 

 「さあ、始めましょう。撃ち方、始め!」

 

 

 タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊。その中核を担う第一、第二艦隊を部隊の中心に据え、それを守るように複数の艦隊でグルリと囲むように構成された巨大な輪形陣。

 その輪形陣の外周区、第三艦隊が担当する迎撃エリアにて、第三艦隊に所属する秋月は、操舵室にて相互通信を通して送られてくる敵編隊の位置情報を確認しながら、僚艦と共に深海棲艦の攻撃隊を迎え撃っていていた。

  第三艦隊の艦艇と共に秋月の10cm連装高角砲より打ち出される無数の対空砲弾。

 本来にならほとんど命中しない対空砲弾、しかしその砲弾は驚くべき正確さを持って次々深海棲艦の攻撃隊近くで炸裂し、瞬く間に編隊を構成していた航空機が墜落していく。

 第二次世界大戦時の艦艇のとは思えない、桁違いの対空性能。

 しかし、これはそれほど可笑しいことではない。

 これも彼女達だからこそできる芸当だからだ。

 

 そもそも近代兵器というものは、端的に言えば誰が使っても常に100%の力を出せるように作られている。

  そこには特定の技能や資質を持つ『個』は求められていない。

 それはそうだろう。

 特定の者しか使えない兵器など意味がなく、ましてや艦艇ともなれば駆逐艦ですら数百人が動かしているのだ。

 その一人一人の『個』の技能によって大幅に性能が変わってしまう兵器などもはや欠陥でしかない。

 被害を受けたとしてもその穴埋めが容易な『群』によって扱うことができる、画一化された性能。

 それが近代兵器に求められるものだ。

 しかし、艦娘という兵器はその真逆を行く。

 そこに要求されるのは徹底的な『個』。

 艦娘という技能を持つものだけが求められ、艦艇という大勢の人を必要とする戦力ユニットを個人で制御し、自身の勘や経験といった資質を持って本来の性能以上の力を引き出す。

 替えの効かない『個』によってのみ扱う事のできる、先鋭化された性能。

 それが艦娘という者だった。

 両者を比較するならば近代兵器がハードウェアを重視した存在、艦娘はソフトウェアを重視した存在といえるだろう。

 そしてハードウェアの性能の差が戦力の決定的な差という事にはならない。

 達人の放つ矢の命中率が、拳銃を撃つ一般人のソレを遥かに上回るように、第二次世界大戦初期、大日本帝国ににおいてベテラン見張り員の索敵範囲が米国製レーダーの索敵範囲を上回っていたように。

 極限まで鍛え抜かれたソフトは時としてハードの性能差をも覆す。

 

 

 『第三艦隊。どんどんいっくよー!』

 『よしきたー! 任せといて!』

 『ガンガン撃って! 長10cm砲ちゃん、頑張って!』

 

 

 旗艦である鈴谷の命令の元、徐々に距離を詰めてくる深海棲艦の攻撃隊に対しまるで曲芸のように次々と対空砲弾を叩きこんでいく第三艦隊。

 その攻撃は雷撃攻撃を仕掛けるために海面近くを飛んでいた雷撃機編隊にもおよび、制御を失った雷撃機が次々海面に叩きつけられ海中に没していく。

 現代艦にも匹敵する命中率を見せる対空砲火の前に深海棲艦の攻撃隊は次第にその数を減らしていた。

 その時、第三艦隊の遥か上空より輪形陣の中央に陣取る空母群に向けて爆撃機編隊が、一気に降下を始めた。

 深海棲艦の急降下爆撃。

 しかし、レーダー監視網によって敵編隊の位置を全て把握し、かつ相互通信によって全艦娘に情報が共有されている第一作戦部隊は、この爆撃機編隊の動きも正確に捉えていた。

 一気に急降下してくる爆撃機編隊に向け、秋月を始め全艦隊が機銃を空へと向ける。

 

 「艦隊をお守りします!」

 

 そして全艦隊に装備された対空火器

――――『Bofors 40mm四連装機関砲』、『エリコンFF20mm機関砲』が一斉に火を噴いた。

 

 爆撃機編隊に向けて放たれる砲弾の嵐。

 艦娘の力によって制御された40㎜砲弾の群れは吸い込まれるように爆撃機編隊に殺到。

それを回避するべく爆撃の軸線を外さざるを得ず、一部の機体は見当違いの方向へ爆弾を投下してしまう。

 それでもまだ生き残れただけましな方だっただろう。

 運悪く対空砲火の嵐に捉えられた機体は瞬く間にスクラップへとその姿を変えた。

 爆撃機編隊の約半数があっという間に脱落してしまった。

 それでもなお残りの編隊は空母に痛撃を与えるべく接近を試みようとする。

 しかし、槍衾のように配置された数多の20㎜機関砲から放たれたいくつもの火箭の筋が爆撃機編隊に襲い掛かった。

 最後まで与えられた任務を達成するべく対空砲火に突っ込んでいった爆撃機編隊は、ピラニアの池に放り込まれた魚の如く、その身に抱えた爆弾ごとズタズタに引き裂かれ空の藻屑となっていった。

 

 深海棲艦の空母機動部隊の様な物量に任せたそれではなく、完全に制御された現代艦のような対空砲火。

 その放火の前に52機もいた深海棲艦の攻撃隊は全て蹴散らされ撃ち落とされていく。

 その後も迎撃戦闘機隊の対空網を突破した深海棲艦の攻撃隊が、第一作戦部隊に攻撃を仕掛けようとするものの、その全てが跳ね返され結局、深海棲艦の第一次攻撃隊の攻撃は第一作戦部隊の艦船を一隻たりとも傷つけることなくその全てが不発に終わった。

 

 

 

 ◇

 

 深海棲艦の第一次攻撃隊を全て退けた丁度その時、深海棲艦・空母機動部隊への攻撃を終えたタウイタウイ方面軍攻撃隊が続々と帰還を果たした。

 周囲を護衛戦闘機に守られ、編隊を維持しながら飛行を続ける攻撃隊は出撃時よりその数を大きく減らし、生還を果たした機体も無傷のものなど存在しないことから、深海棲艦の対空砲火がいかに苛烈であったか窺い知ることができる。

 その中でも一糸乱れぬ飛行を続ける攻撃隊は艦娘の指示に従い次々と飛行甲板に着艦。

 難しいとされる飛行甲板への着艦を卒なくこなすと同時に、飛行甲板の至る所から妖精さんが現れた。

 彼らは着艦した機体が完全に静止したと直後に移動を開始。

 小さな体からは想像もつかないような力で、着艦の妨げにならないよう機体を移動させつつ熟練整備員顔負けの速度で帰還した航空機の損害状況のチェックが迅速に行われていく。

 そうして、問題ない機体はそのまま、応急修理が必要なものは艦内にて修理、損害が大きい航空機は海中に廃棄されていき驚くべき速度で再出撃の準備が整えられていった。

  

 

 

  

――――『近藤隊』所属 近藤大尉

 

 

 「ふぅ……」

 

 空母機動部隊の熾烈な対空砲火から帰還した、近藤大尉は生き残った自身の部隊を率いつつ生還。

 自身の所属空母である加賀に無事、着艦を果たした近藤大尉は大きなため息を吐きつつ妖精さんの機体整備に身を委ねていた。

 妖精さんの損害状況のチェックが終わるまで時間の空いた近藤大尉は操縦席に常備されていたラムネを手に取り一気に飲み干した。

 そして炭酸特有の刺激を存分に味わいつつ、操縦席から見える範囲内で自身の機体を見渡した。

 深海棲艦の対空砲火の中を潜り抜けたために、真っ白な機体の至る所に大小さまざまな傷が刻まれてはいるものの、十分に施された防弾装備により機関部にはダメージは見られない。おそらく再出撃には影響はないだろう。

 近藤大尉は長年の経験と勘からそう判断を下した。

 

 「さすがは()()()()()()、頑丈だな」

 

 かつて、第二次世界大戦時に近藤大尉が搭乗していた九九式艦上爆撃機。

 それを全ての面で圧倒する機体――――『A-1 スカイレイダー』に対し惜しみない称賛を送った。

 

 

 

 ◇

 A-1 スカイレイダー。

 それは、第二次世界大戦時、日本海軍を撃滅するべく開発されたアメリカ海軍の爆撃・雷撃兼用艦上攻撃機の名前だ。

 そのコンセプトは搭載量・機動力を増加することで可能となる雷撃機・急降下爆撃機の統合。

 日本海軍にて同様のコンセプトを目指して作られた艦上攻撃機『流星』と比較すればその性能はまさに圧倒的。

 「流星」の誉エンジンが1850馬力に対して2800馬力と格段の差があり、搭載量も「流星」が800kgに対してスカイレイダーは3tに達して圧倒的な積載量を誇る。

 結果的に配備されるまでに第二次世界大戦は終わってしまい間に合わなかったわけだが、もし間に合っていれば日本本土を存分に蹂躙した事だろう。

 それはともかく。

 日本海軍の艦娘だけで構成されているはずの第一作戦部隊。

 しかし、その基幹である空母には、アメリカ海軍の攻撃機「A-1 スカイレイダー」搭載されていた。

 それだけではない。

 今も艦隊上空で、敵機を警戒している迎撃戦闘機隊。

 その機体も全てアメリカ海軍の艦上戦闘機、小型軽量化と洗練された空力構造、高い防弾性能をもつ機体に大出力のエンジンを搭載した、最強のレシプロ艦上戦闘機と評される――――『F8F ベアキャット』で構成されている。

 

 こちらも直接日本海軍と争ったことはないにせよ第二次世界大戦当時敵国であったアメリカ海軍の艦載機。

 本来であれば、その当事者でもある艦娘そして第一航空艦隊の搭乗員はあまりいい顔はしないだろう。

 しかし艦娘も、第一航空艦隊の搭乗員達もこの艦載機を平然と運用していた。

 理由は単純

     ―――――『性能』がいいからだ。

 

 妖精さんと艦娘を借りることで装備を作り出すことができる「開発」。

 これによって生み出された装備は、資源さえあればいくらでも補充することができる。

 しかし、この「開発」によって生み出される装備には()()が存在する。

 その理由は、「開発」では第二次世界大戦時の存在していた装備しか生み出せないからだ。

 「開発」できる範囲が決められていることによって最も上限に近い装備もまた存在する。

 第二次世界大戦によって、戦争技術、科学技術が加速度的に向上していったのだ。

 そして第二次世界大戦初期の装備と、後期の装備には圧倒的な性能差が存在していた。

 となれば、上限に最も近いのは第二次世界大戦後期に生み出された装備となる。

 

 つまりは、()()()だ。

 

 それだけではない。

 先ほど猛威を振るったレーダー管制を使った索敵網、無線誘導による戦闘指揮の元襲い掛かる迎撃戦闘部隊、「Bofors 40mm四連装機関砲」「エリコンFF20mm機関砲」の対空砲火による艦隊防空システムも、元を辿れば日本の航空隊を撃滅するためにアメリカ海軍によって考案された戦術ドクトリンだ。

 数多の兵士が斃されたそれを運用することは誰しもが忌避感を覚えるだろう。

 しかし第一作戦部隊を構成する艦娘も、第一航空艦隊の搭乗員達も平然と行使していた。

 理由は単純

     ―――――『効率』がいいからだ。

 

 アメリカ海軍の航空機を使うのも開発できる装備の中で、その機体が一番性能が優れているからというだけであり、その戦術ドクトリンを使うのもそれが一番効率がいいというだけである。

 そもそも航空機も、戦術ドクトリンも彼らにとっては目的を達成するための只の手段に過ぎない。

 そして自分たちの命さえも。

 第一航空艦隊の搭乗員達に取って艦娘の能力の一つでもある兵士の『召喚』という能力は非常に『都合』がよかった。

 艦娘が健在な限り、何度でも蘇ることができる能力。

 この能力のおかげで、死を気にすることなく自身が磨き上げた技術を手段として行使できるからだ。

 他国の兵士が召喚に応じなくなっていく中で、彼らだけは誰一人として欠けることなく召喚に応じていた。

 

 そう、彼ら第一作戦部隊を構成する者達にとって全ては目的を達成するための手段に過ぎない。

 

 その手段を行使するがために発生する全ての感情の機微―――誇りや忌避感、死への恐怖など、何の価値もない。

 

 ――――全てはただ一つの目的のために。

 

 その目的を達成されるならば、かつての敵国の航空機を使うことも、数多の僚機が犠牲となった機銃を装備することも戦術ドクトリンを運用することも、そして自分たちの命さえも、実に()()なことでしかない。

 

 ――――彼らが望むただ一つの目的。

 

 

 ――――かつて彼らが渇望し、そして達成できなかった、ただ一つの目的。

 

 ――――そして様々な因果が重なり合い、再び自分たちに達成の機会を得られた、

     ただ一つの目的。

 

 それは――――『祖国の救済』

 

 かつての()()()()()

その目的を達成するためだけに作られ、組織され、そして果たすことのできなかったか彼らは、艦娘として、そして彼女らの騎士として呼び出され、()()()()()()()に立ち会った。

 彼らは狂喜乱舞した。

 かつて達成できなかった目的を果たす機会を再び与えられたことに。

 

 

 ――――全てはただ一つの目的のために。

 

 その目的が達成されるならばすべての事柄など()()な事だ。

 例え目の前に自分を沈めた艦娘がいたとしても、例え目の前に自分を撃ち落としたパイロットがいたとしても目的のために必要ならば彼らは心からの笑顔を浮かべて艦列を並べ、編隊を組み助け合うだろう。

 

 しかし、目的を邪魔するならば一切の容赦はしない。

 例えそれがかつての僚艦だったとしても、例えそれが肩を並べあい助け合ったパイロットだったとしても邪魔をするならば、全ての力をつぎ込み、一切の油断もなく、慈悲もなく、冷酷に、非情に、徹底的に、機械的に、そして完膚なきまでに殲滅する  

 

 ――――全てはただ一つの目的のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     誰 に も 邪 魔 な ど さ せ な い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「第二次攻撃隊、全機発艦!」

 「攻撃隊、発艦はじめっ!」

 「第二次攻撃隊。稼働機、全機発艦!」

 

 

 先ほど帰還したタウイタウイ方面軍攻撃隊を全て収容した第一作戦部隊。

 しかし、すぐさま再出撃の準備を整え、第二次攻撃隊を編成。

 発艦を急がせていた。

 第一艦隊、第二艦隊の空母群より次々と航空機が飛び立っていく。そして先ほどと同様タウイタウイ方面の航空基地群の航空機と合流。

 深海戦艦・空母機動部隊を再度強襲すべく、いくつもの編隊が南西の水平線へと消えていった。

 

 さて、先ほどの第一次攻撃隊。両軍ともに数千もの航空機が激突し、そして夥しい数の航空機が空へと散った訳だが、両陣営ともにこれは只の小手調べ、ボクシングで言うところのただのジャブ攻撃に過ぎない。

 タウイタウイ方面の航空基地より直接、航空支援を受けることができる第一作戦部隊には十分な余力があり、深海棲艦・空母機動部隊は、軽空母級ですら100機近く、空母級にいたっては150機以上の航空機を運用できるのだ。

 航空機の数は深海棲艦の方が軽く上回っている。

 そして艦艇の方も第一作戦部隊は無傷。深海棲艦・空母機動部隊の方も駆逐艦級を十数隻沈められたが、主力艦は全くの無傷。

 駆逐艦級の損失も深海棲艦にとっては誤差の範囲内でしかない。

 そして両陣営共にただの小手調べ程度で終わらせる気は欠片もなかった。

 

 両陣営に与えられた任務は、「敵空母機動部隊の撃滅」。

 未だ敵が健在である以上両陣営共に退くことなどありえない。

 事実、第一作戦部隊には、観測所より深海棲艦・攻撃隊出撃の報告が上がっていた。 

 

 

 ここから始まるの延々と続く殺し()合い()

 相手の息の根を止めるその時まで振り上げた拳が止まる事はない。

 そして、タウイタウイで始まる殺戮劇を幕開けとして、全陣営にとって忘れることができない長い長い一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 





戦況報告
          人類陣営
           タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊

          深海陣営
           ポート・モレスビー方面 空母機動部隊
 

               交戦状態



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