空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第22話 退屈な戦争計画

――――1999年9月30日 AM9:00 リンガ軍港 地下5階 作戦司令部

 

 

 

 『タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊。深海棲艦・空母機動部隊と交戦状態に突入しました!』

 「始まったか……敵戦力も事前の調査通りだな」

 「各個撃破を恐れて戦力の分散は避けたか。いや~良かった良かった。別働隊なんて率いられとったら掃除が面倒になる」

 

 オペレーターの報告を聞いた東条少将は淡々とした呟きを洩らし、橋本少将は嬉しそうな声を上げた。

 彼らがいるこの場所は、リンガ軍港の地下5階に設けられた作戦司令部。

 現在進行している『ジャワ島防衛作戦』の総司令部である。

 体育館ほどの広さがある広大な空間には数十名の自衛隊、東南アジア連合軍のオペレーター達がひしめき合い、各戦線より送られてくる膨大な情報を分析、処理していた。

 その独特の熱気が感じられる空間より、数段ほど高くなった場所にて、東条少将と橋本少将は巨大なスクリーンに映し出された東南アジア全体の地図、そしてその上で光を放つ敵味方の部隊の配置を確認していた。

 

 「出だしは上々。深海棲艦・空母機動部隊は、タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊が捉えた。後はあの娘らがキレイに片付けてくれるやろ」

 「ずいぶんと余裕だな?」

 「数だけしか取り柄のない深海の屑に、あの娘ら、そして先輩方が負けるはずがあらへんからね」

 

 東条少将の疑問に対し橋本少将は、第一作戦部隊に絶対的な信頼を寄せつつ胸を張って答えた。

 

 

 「それよりもこの後は?」

 「……我々の空母機動部隊と、深海棲艦の空母機動部隊。

 双方の主力艦隊同士が交戦状態に入った。

これで両陣営共、決着がつくまでこの主力艦隊を動かすことはできない。

ジャワ島の奪還を目論む深海陣営からすると、空母機動部隊による強襲を恐れることなく、安全に上陸部隊を送り込むことができる、またとない好機だ。

そして、上陸部隊のさらなる安全を保障するために、もう一つの脅威の排除を目指すはずだ。それはすなわち――――」

 『ジャワ島・第58観測所より入電!敵爆撃機編隊の接近を確認!』

 「ジャワ島基地航空隊の排除、やね」

 「ああ、予定通りだ。

 ジャワ島航空基地群に伝達! 『ジャワ島防衛作戦』発令。各航空基地の防空戦闘機隊は『プランJ-a-1』に従い、敵爆撃機編隊を迎撃せよ!」

 

 オペレーターの報告を聞いた東条少将は、作戦司令部全体に聞こえる声で作戦の開始を告げた。

作戦を遂行すべく各人員が動きだし、途端に騒がしくなる作戦司令部内。

 その喧噪を聞き流しながら東条少将、そして橋本少将は深海棲艦の作戦行動に対しての思考を重ねていた。

 

 「先ほどの深海棲艦の爆撃機編隊。あれは深海勢力圏内の航空基地から来た奴らやな。

 差し詰め、上陸部隊の露払いといった所か。

 となれば……部隊の方はかなり近づいてきてるな

 東条少将、防空戦闘機隊はいつごろ退避させる?」

 

 「敵上陸部隊の艦載機が仕掛けてからでいいだろう。今後のためにもここでできる限り深海棲艦、基地航空隊の航空戦力を減らしておきたい。いくら深海棲艦といえども艦隊戦力、そして航空戦力共に深刻なダメージを受ければ、しばらく攻勢には出られまい。

 防空戦闘機部隊には今しばらく爆撃機編隊の相手をしてもらう。

 そして、上陸部隊の艦載機が合流し攻勢を仕掛けてくると同時に、押し負けているよう演じつつ撤退。()()()の終えた航空基地を存分に爆撃してもらう」

 

 「仕込みっていうとアレか……施設科の連中、気合入れてたからな~」

 

 同じ自衛隊の同胞が作り出した仕込みを思い出した橋本少将は引き攣った笑みを浮かべた。

 

 「ともかく今の所はだが、作戦は順調に進んでいる。しばらくすれば敵上陸部隊が航空基地への爆撃を開始し、橋頭保の確保に勤しむだろう。そうなれば夜まで我々、海の出番はない。

 深海棲艦には存分に物資を陸揚げしてもらおう。しかし、夜になれば―――」

 

 

 

 

 

        「『我々』の出番という訳だな?」

      

 

        「その通りです。閣下」

 

 

 

 

 

 

 東条少将、橋本少将の会話に割り込む声が聞こえると同時に、作戦司令部に一人の老年の男が入ってきた。

 その姿を認めると同時に二人の少将は素早く敬礼。

 そのほかにも、手の空いている者は一人残らず敬礼し、その男を迎え入れた。

 作戦司令部に入ってきたその男の身長は190近く、六十を超えているにも拘らずその立ち姿からは一切の老い感じられない。

 それどころか男が身に纏う東南アジア連合海軍の軍服の上からでも鍛え上げられた筋肉が視認できる。 そして胸には大将の階級章が煌めいていた。

 男の名はカルロ・レジェス。

 東南アジア連合海軍の大将にして、ジャワ島奪還作戦の総司令官でもある。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「どないでした?陸軍の方は?」

 「ああ、わざわざ陸軍総司令部を首都ジャカルタに置くだけの事はある。士気は非常に高かったよ。上陸した深海棲艦軍を一匹の残らずブチ殺してやると息巻いておった。

 まあ、私も楽しみではある。我々東南アジア連合海軍が存分に戦果を挙げる事の出来る舞台が整いつつあるからな」

 

 橋本少将の問いに対して、レジェス大将は先ほどまで陸軍と話していた内容、そして自分の思いの丈を楽しそうに語った。

 東南アジア連合海軍。

 それは東南アジア連合が保持する海軍なのだが、その内情はお寒い限りだった。

 

 

 海軍というのは技術者集団という側面が強い。

 一隻の艦艇でも数百人の技術者ともいえる人員が乗り込んで、船を操り、戦闘をする。

 その人材の育成だけでも途方もない時間を要するだろう。

 

 そして海軍という組織は非常に金がかかる。

 軍艦は購入するだけでも莫大な資金がいるが、維持するにも大量の金が飛んでいく。

 そしてそれを整備するためのドックに、停泊する軍港、錬度を維持するための定期的な訓練と来れば、費用は天井知らずに跳ね上がってしまう。

 

 元々東南アジアの国々は、第二次世界大戦後、欧米の植民地支配から独立した国が多かった。

 そのため独立してからまだ日が短く、インフラはまだまだ未熟。

 無尽蔵に軍に予算を割くわけにはいかない。

 そんな中で各国は軍に割り振られた予算を陸軍の拡充にあて、金食い虫でありまともに運用できるまで時間のかかる海軍は必然的に後回しにされた。

 東南アジアの国々では海軍という組織はあれども名前だけ、もしくは中古の艦艇が数隻しかないという有様の国も多い。

 

 そして深海棲艦の侵略に対抗すべく各国の海軍を統合し東南アジア連合海軍を組織したわけだが、その内情は艦艇少なければ、装備も貧弱、艦隊の運用経験もないという悲惨な組織となっていた。

 幸い、日本政府、海上自衛隊の軍事面、人材面での協力、欧州から艦艇の売却もあり、ここ数年でようやく輸送艦、揚陸艦といった補助艦艇は揃え、組織運用も可能となった。

 しかし、大型の戦闘艦に関しては、数だけは揃えたものの艦隊行動できるだけの錬度すら伴っていない。

 東南アジア連合海軍が、小型の高速艇を主力とした高速戦闘部隊による戦闘を得意とするのも、外洋に出ることのできる戦闘艦をまともに運用できないからという切実な理由もあったりする。

 

 そういった事情もあり、単独では作戦行動をすることができず、自前の輸送艦、揚陸艦の護衛すら日本政府の派遣する艦娘、そして護衛艦に頼り切っている東南アジア連合海軍に対する風当たりは強い。

 それに対し東南アジア連合海軍の軍人たちは苦い思いをしながらも日々に任務を遂行していた。

 

 

 そんな中で今回巡ってきた千載一遇のチャンス。

 この戦いで深海棲艦の主力艦隊の一つでもある上陸部隊を夜戦にて殲滅することができれば、東南アジア連合海軍の地位を大きく向上させることができる。

 今回の作戦にかける東南アジア連合海軍の意気込みは、祖国防衛を誓うインドネシアの兵士に匹敵するほどだろう。

 

 「礼を言うぞ東条少将。

 君が立ててくれた作戦のおかげで、ようやく東南アジア連合海軍は日の目を見ることができる」

 

 レジェス大将は、東南アジア連合軍の事情も加味して、今回の作戦を計画した東条少将に感謝の言葉を述べた。

 

 東条少将と橋本少将、そしてレジェス大将の付き合いは長い。

 東南アジアでの反攻作戦の時からの付き合いなので、もう三年近くになるか。

 そして東条少将の立てた作戦の元、大小さまざまな作戦が遂行されてきた訳だが、その全ての作戦において戦略的勝利を収めてきた。

 東条少将の、ありとあらゆる状況を想定して組まれた綿密な戦争計画。

 その戦争計画から深海棲艦が抜け出せることは決してない。

 深海棲艦がどれだけ奇策を使い脇道に逸れ、『勝利』という道を模索しようとも、彼の想定の範囲から抜け出すことはできず、瞬時に塞がれ『敗北』という結末しかない一本道に戻される。

 

 

 東条少将の立てる戦争計画は、観客という目線から見ればひどく退屈なものだ。

 橋本少将のような精鋭の艦隊が巨大な艦隊を打倒す、観客の心を擽らせるような英雄譚もなければ、味方を逃がすために囮となるような、観客の涙を誘う悲劇もない。

 (深海)(棲艦)が引き起こす奇策、観客が興奮するようなトラブルも許されなければ、想定の範囲外、観客の興味を引くようなハプニングもない。

 勝てるだけの航空戦力を用意し、勝てるだけの艦隊戦力を手配し、勝てるだけの作戦計画を立て、想定された戦略的勝利を収める。

 会社の退屈な役員会議のような、何の面白味のない戦争計画。

 当たり前のようで、しかし現実にそれを行使するには、途方もない困難が付きまとう。

 最初から最後まで完全な予定調和な戦争計画。

 それが東条少将の立てる戦争計画だった。

 

 

 「いえ閣下。作戦はまだ始まったばかりです。

 今の所は順調ですが、それが今後とも続くとは限りません。深海棲艦が思いもよらぬ手を打ってくる可能性もありますし、『亡霊軍隊』という不確定要素もあります。油断はできません」

 

 東条少将は、言外に計画通りに進むことを想定して述べたレジェス大将の礼に対し、大真面目な顔でそう答えた。

 

 「……相変わらずだな君も」

 「まあ、慢心しきっているよりは、よっぽどいいでしょう」

 

 一部の者達の間では、東条少将が作戦の開始を宣言した時点で勝利が確定するとまで言われている中、その作戦を立てた張本人が、一切の油断をせず作戦の推移を見守っているのを見て、レジェス大将と橋本少将はお互い顔を見合わせ苦笑を浮かべあった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ジャワ島の空にて、深海勢力圏内の航空基地より来襲した爆撃機編隊と、ジャワ島航空基地より飛び立った防空戦闘機隊との戦闘が始まった。

 深海棲艦は先ほどの深海棲艦・空母機動部隊と同様、数での力押し。

 ジャワ島の防空戦闘機隊は、第一作戦部隊と違い、こちらも十分な数をもって対抗してきた。

 ジャワ島の空を守る防空戦闘機隊は、その全てが操縦技術は並みだが、人的被害が一切ない妖精さんが指揮操縦する飛行隊で占められている。

 そのために、十分な数の戦闘機を揃えていたのだ。

 

 そして双方ともに数を押し出しての戦いが始まった訳だが、戦況は防空戦闘機隊の優勢で進んでいた。

 これは、爆撃機を護衛しなければいけない攻撃側と、撃ち落とすだけでいい防衛側の差が如実に表れた結果だ。

 しかし、防空戦闘機隊の圧倒的優勢という訳ではない。

 もし、ここに追加戦力が現れれば十分に覆せるだけの差でしかない。

 そう()()()()()()()()()()()()上陸など。

 

 こうして深海棲艦・上陸部隊の航空戦力が食いつくよう罠を張りつつ、ジャワ島の防空戦闘機隊は爆撃機編隊との熾烈な戦闘を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  

 

 戦況報告

       タウイタウイ方面

 

          人類陣営

           タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊

 

          深海陣営

           ポート・モレスビー方面 空母機動部隊

 

 

               交戦状態

 

 

 

       ジャワ島方面

 

          人類陣営

           ジャワ島方面軍 ジャワ島防空戦闘機隊

 

          深海陣営

           ポート・モレスビー方面 爆撃機編隊

 

 

               交戦開始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――――同時刻 フローレス海域

 

 

 

 

 タウイタウイ方面にて第一作戦部隊と深海棲艦・空母機動部隊が衝突、ジャワ島方面にてジャワ島防空戦闘機隊と深海棲艦・爆撃機編隊が交戦を始める中、戦艦棲姫が率いる上陸部隊は人類陣営の勢力圏内、フローレス海域へと差し掛かっていた。

 

 戦艦棲姫の率いる戦力、戦艦級が7隻に、重巡洋艦級が8隻、軽巡洋艦級が4隻、駆逐艦級が67隻という艦隊戦力、そして空母級が15隻から繰り出される航空戦力が周囲を厳重に警戒していた。

 

 そして海を埋め尽くすほどの輸送艦級には上陸戦力が満載されその数は、歩兵師団、機甲師団合わせれば50師団にも及ぶ。

 それに加え、深海棲艦勢力圏内の基地航空隊より十分な航空支援が期待できる。

 現に今も上陸の妨げとなるジャワ島の航空基地を排除すべく爆撃機編隊を繰り出していた。

 生半可な戦力では足止めにすらならない圧倒的な戦力。

 これに真正面から対抗できるのは、タウイタウイ方面の主力艦隊だけだが、その艦隊も空母棲姫が率いる空母機動部隊が足止めをしている。

 

 戦艦棲姫の上陸部隊は安全の確保された海域を進み、再度蹂躙すべくジャワ島に向けて進路を取っていた。

 

 

 

 

 その時、ジャワ島に向けて飛行を続けていた爆撃機編隊の一団より火急の報告が入った。

 

 

 

  巨 大 飛 行 船 発 見 セ リ

 

 

 

 この報告を受けた戦艦棲姫は、衝撃を受けた。

 正体不明の巨大な飛行船。ここ数か月で、深海棲艦に対して無視できない損害を与え、あげくの果てにジャワ島における深海棲艦の本拠地『バニュワンギ』を落とした謎の勢力。

 

 『バニュワンギ』から逃げ帰った生き残りによって、巨大な飛行船が率いる航空部隊と、人類の兵士と一線を画した動きをする陸上部隊によって落とされたことが分かっている。

 

 その飛行船がここに現れた。戦艦棲姫は警戒を最大限まで引き上げる。

 しかし、続けて入った報告によって困惑することになる。

 

 巨大な飛行船は、航空部隊を率いておらず、単独で現れたというのだ。

 

 生き残りの報告によれば、その巨大な飛行船は、強力な艦隊攻撃能力は保持すれども、航空機に対する攻撃は航空部隊に任せていたらしい。

 もしかしたら能力を隠していただけなのかもしれないが、それでもこの場所に単独で現れる理由はない。

 

 そして、巨大な飛行船の進路上には、今この場所、深海棲艦が率いる上陸部隊が存在していた。

 向こうは確実にこちらの場所を把握し、進路を向けているとしか思えない。

 

 (ドウユウツモリ?何ガ目的ナノ?)

 

 戦艦棲姫は、あの飛行船が囮の可能性も考え周囲に索敵機を飛ばし厳重に確認するよう、配下の空母級、基地航空隊に命じるも結果は空振り。

 結局、自身の艦隊の周りにも、そして飛行船の周りにも一切敵影が確認できなかった。

 

 その間にも飛行船はこちらにピタリと進路を合わせている。

 

 丁度双方が向かい合うように進路を取っているため、後二時間もすれば接触することになる。

 相手は強力な艦隊攻撃能力を持っているのだ。それだけは避けなければならない。 

 それに今ならばまだ、航空基地の支援を十分に受けることができる。

 戦艦棲姫は巨大な飛行船に対し不気味な感情を抱きながらも、攻撃命令を下した。

 

 (一撃デ仕留メル!!!)

 

 戦艦棲姫から命令を受けた空母級から次々と艦載機が発艦していく。

 そして、巨大な船体を持つ飛行船である事から爆撃機でも十分戦果が期待できると考え、一旦ジャワ島に対する爆撃を中止。 航空基地から離陸した全て爆撃機編隊を飛行船の迎撃へと差し向けた。

 もちろん艦隊の上空を空にするような愚を犯すことはせず、十分な数の直掩機が上陸部隊の空を守っている。

 奇襲攻撃を受けても十分対応できるだろう。

 

 空母級から飛び立った艦載機が編隊を組織し、空の彼方へと消えていく。

 おそらく爆撃機編隊も進路を変更し、飛行船の元へと向かっているはずだ。

 たかが、一隻の飛行船など容易に粉砕できる圧倒的な航空戦力。

 その差し向けられた航空機の数から、いかに深海陣営がこの謎の勢力を危険視しているか窺い知ることができるだろう。

 しかし十分な戦力を派遣してもなお、戦艦棲姫の心の中から胸騒ぎは消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 上陸部隊の空母級より飛び立った艦載機は編隊を組織、飛行船を迎撃すべくその進路を取っていた。

 途中、爆撃機編隊も合流することで、その戦力は一気に膨れ上がった。

 青い空を黒く埋め尽くすほどの航空機の群れ。

 その光景を見て、いったい誰が一隻の飛行船を排除するためだけに差し向けられたと信じるだろうか。

 圧倒的な航空戦力。しかし、すべての航空機達は油断などしない。

 そもそも、彼らに喜怒哀楽といった感情など存在しない。

 彼らにあるのは、只命令を遂行する爬虫類染みた単純な思考回路と、自分達、深海棲艦以外の生命に対する深い憎悪のみ。

 戦艦棲姫の抱いていた胸騒ぎといった感情すら持たない彼らは、命令を遂行をする意思と憎悪を持って、ひたすらに目標へと進路を取っていく。

 

 

 

 そして、ついに双方の戦力が接敵した。

 

 

 

 まだ距離があるにも関わらず、はっきりとした存在感を放つ巨大な飛行船。

 その存在感は近づけば近づくほど強く感じ、まるで浮遊する島に相対しているような感情すら覚える。

 しかし、そんな感情すら一切持たない深海棲艦の航空機達は解き放たれた猟犬の如く、一気に襲い掛かっていった。

 纏めて迎撃されないよう広範囲に広がった航空機の群れは、下された命令を確実に遂行すべく羽虫の如く空を黒く染め上げながら飛行船との距離を詰めていく。

 その間にも飛行船からこれといった迎撃は一切なく、周囲から伏兵が現れる様子も全く見られない。

 全ての航空機は何の障害もなく巨大な飛行船へと突き進んでいった。

 そして、一部の編隊が攻撃可能地点まで差し掛かったその時――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――巨大な飛行船に変化が生じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛行船の気嚢部分、船体上部に立つ()()を起点にして、広がる無数の小さな()()()

 そのナニカは生物のように蠢き、這いまわりながら、瞬く間に巨大な飛行船を覆い尽くしてしまう。

 そして飛行船を完全に覆い尽くしたナニカは、紫色の光を放ちながら不気味に点滅を始めた。

 その紫色の不気味な光は、赤と黒で彩られた飛行船と相まって見た者に原始的な恐怖すら感じさせる。

 

 

 突如として飛行船に訪れた異常事態。

 

 

 普通ならば、恐怖を覚え警戒する状況で。しかし、喜怒哀楽の感情が存在しない航空機達は、恐怖を覚えることなく、妖しく点滅をし続ける飛行船に向かって誘われるように近づいていく。

 その内にあるのは、ただ命令を遂行をする意思と憎悪のみ。

 

 そして、全ての深海棲艦の航空機達は、その光の正体、そしてその意味に、最後の瞬間まで気付くことなく攻撃を開始した。

 

 

 

 




戦況報告
       フローレス海方面

          深海陣営
           ポート・モレスビー方面 爆撃機編隊
           ダーウィン方面 上陸部隊
           
          

        
             
          ミレニアム陣営
           空中戦艦ーDeus ex machina 
 

               戦闘開始








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