空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する! 作:ワイスマン
――――1999年9月30日 AM10:00 フローレス海
インドネシア中部、北はスラウェシ島、南はフロレス島に挟まれた海域であるフローレス海。
日の光の存分に浴びることによってキラキラとエメラルド色に光輝く海面の下にはピンク色のサンゴの群れが咲き乱れ、南国特有の色とりどりの魚たちが何の不安もなく堂々と、そして優雅に泳いでいる。
誰しもが心を奪われる、この世の楽園と思わせる美しい海中の風景。
その風景の中に、一つのシルエットが浮かび上がった。
それは一人の少女。
整った端正な顔立ちに、薄い白金色のセミロングの髪。
感情の見えない翡翠色の瞳を持った少女は、透き通る真っ白な肌も相まって最高級の西洋人形のような印象さえ受ける。
先ほどのシルエットとは、その少女が海中を泳いでいた姿だった。
本来なら、現実離れをした美しさを持つ少女が泳ぐ姿は、周囲の幻想的な光景も相まって、人魚のように見えた事だろう。
しかし、その少女が持つ容姿以外の要素が全てを台無しにしていた。
まず、その少女の服装。
その少女は、首からを下を覆うような黒のウェットスーツの上から、薄緑色のライフジャケットのようなものを羽織り、頭にはドイツ海軍の水兵帽をかぶっていた。
首には通信装置のような首輪が付けられており、それと繋がるように左側から頭上にかけてアンテナが伸びている。
そして腰には潜水艦の艦首を縦に割ったような構造物が両腰を挟むように前に伸びていた。
あまりにも人魚という幻想を抱くにはあまりにも無骨な恰好。
次に少女が泳ぐ周囲の様相。
その少女は小柄であり、周囲の魚たちの中には、その少女よりも大きな魚もいた。
にもかかわらず海中を泳ぐ全ての魚たちは、その少女の進路を妨害しないよう道を譲っていた。
まるで、この海域でその少女が一番強いという事を知っているかのように。
最後に、その少女の遥か後ろを追尾する存在。
全長は70mを優に超えるだろうか。
全身が鋼鉄で覆われた巨大なシルエットが、周囲にスクリュー音を響かせながら静かに、しかし圧倒的な存在感を持って、その少女の後ろに控えていた。
その少女の名は、U-511。
かつてドイツ第三帝国で建造されたのちに日本帝国海軍に供与され、そして艦娘として生まれ変わった後も様々な変遷を経て、日本帝国海軍の後継である海上自衛隊に所属することになったこの艦娘は、自身の船体を引き連れて、フローレス海の海中を進んでいった。
◇
日の出と共に始まった海上自衛隊・東南アジア連合軍と深海棲艦との全面戦争。
タウイタウイ方面では空母機動部隊が、ジャワ島方面では、航空隊が互いを打ち滅ぼさんと激突を繰り返している中、海上自衛隊に所属しているU-511は、自身に与えられた任務を達成するべくフローレス海を潜水航行していた。
U-511を含む潜水艦隊に与えられた役割、それは深海棲艦・上陸部隊の捜索。
東条少将より、命令を受けた潜水艦隊、全72隻は、東南アジア海域の広範囲に散らばり、深海棲艦・上陸部隊を迅速に捕捉できるよう哨戒線を敷いていた。
その中で、フローレス海域の一部を担当していたU-511は、フローレス海に点在している小島の一つに船体を隠すように浮上し、レーダーを使った索敵を行っていたのだが、そのレーダーに微かに艦艇らしき反応があった。
それに気づいたU-511は、相互通信を使って近くの海域に展開していた僚艦である潜水艦の艦娘達に連絡を取った後、携帯艤装を展開。
自身の船体を引き連れるように、潜水航行しながら、レーダーの反応があった海域へと慎重に近づいていった。
(……パッシブソナーにも反応が出始めた)
レーダーの反応があった海域へと潜航航行すること一時間半。
U-511の船体に搭載されているパッシブソナーにも複数の音の反応が聞こえ始めた。
そのことを確認したU-511は、自身の半身である船体を海底に無音潜航させ、目視でも確認すべく携帯艤装を展開した生身で海面へと近づいていく。
今作戦で、潜水艦隊に与えられた任務は深海棲艦・上陸部隊の捜索だ。
攻撃するならともかく、潜望鏡を出し敵艦隊を確認するのならば、自身の大きな船体よりも携帯艤装を展開した生身の方が、見つかりにくい上に、なにより逃げやすい。
そして海面から頭がでないギリギリの所まで浮上したU-511は、潜望鏡を取りだし先ほどパッシブソナーの反応が現れた方角へと向けた。
(……いた)
潜望鏡を覗いたU-511の目が捉えたのは、遠くの水平線上に見える深海棲艦・駆逐艦級。
それが距離を開けながら等間隔に並んでいた。
海面とほとんど高さの変わらないこの潜望鏡からでは、艦隊の全容など見渡すことはできない。
しかし、今もU-511のパッシブソナーが複数の艦艇が生み出す雑多な音を捉えている。
この音の多さから察するに、かなり大きな艦隊だろう。
水平線の向こう側には、多くの艦艇が航行しているにはずだ。
もしかしたら、これが捜索していた深海棲艦・上陸部隊かもしれない。
(……?)
しかし、発見の喜びも、すぐに困惑へと変わった。
(……なんで一斉回頭しているの?)
おそらく艦隊の外周部分を守っているであろう、水平線上に点々と並ぶ駆逐艦級。
その駆逐艦級が、一斉回頭を始めていた。
一斉回頭とは、陣形運動のひとつで、各艦が一斉に回頭(艦首の向きを変えること)するというものだ。
しかし一斉回頭は、回頭に要する時間が短くなるという利点があるものの、艦隊の航行序列が逆順となってしまう欠点がある。
この大きな艦隊ならば統率を乱す要因となる可能性もある。
普通ならば、回頭に要する時間が長くなるが、艦隊の航行序列は変わらない逐次回頭をするはずだ。
そして、一斉回頭した艦隊の進路を見てさらに困惑する。
(……なんで引き返すの?)
この艦隊、おそらく上陸部隊と予想される艦隊の進路は西にあるジャワ島のはずだ。
しかし、この艦隊が一斉回頭をし、全ての艦首を向けた方角は、反対側の東。
先ほど来た道を帰るように新たな進路を取っていた。
なぜ、ここまで来て引き返すのか。
一体何がしたいのか理解できない。
U-511には、この深海棲艦の艦隊が現在進行形で行われている、奇行ともいうべき行動に対して自身を納得させるだけの答えを見つける事はできなかった。
そして一つ疑問が浮かび始めると、他にも疑問点が浮かび始めた。
一つ目は先ほどからパッシブソナーが拾っている艦隊の音の群れ。
一定のリズムで聞こえてくる艦艇のスクリューやタービン、エンジンの音の群れの中に、何か別のノイズの様なものが混じっていた。
この海域は海流も一定で海も穏やか、ノイズが混ざる要素などほとんどない筈だ。
それなのに、不規則的に聞こえてくる得体のしれないノイズは、艦隊の音の群れに混じるように聞こえてきた。
二つ目は艦隊の上空に漂う煙。
おそらくこの艦隊の中核がいるであろう場所の上空に、黒い煙の塊がいくつも漂っていた。
普通に考えれば艦艇の煙突から出す煙なのだろうが、それを考慮してもこの煙の量は多すぎる。
U-511は悩んだ。
深海棲艦・上陸部隊を発見した時点で、与えられた任務は達成できたといっていい。
後は、この艦隊の位置情報を作戦本部に送り、発見されないよう距離を取りながら追跡するだけだ。
しかしU-511の勘が警鐘を鳴らしていた。
――――嫌な予感がすると。
『お待たせ、ユーちゃん』
『……あ、ハチ』
どう動くべきか悩んでいた丁度その時、艦娘との相互通信が開かれ、ゆっくりおっとりしたしゃべり方をする少女の声が響いた。
U-511の連絡を受け、近くまで来ていた僚艦の潜水艦の艦娘、伊8である。
周囲に姿は見えないものの、相互通信をしてきたという事はかなり近くまで来ているという事なのだろう。
『……他の皆は?』
『イムヤちゃんとゴーヤちゃんは後30分ほどで、ヒトミちゃんとイヨちゃんは一時間ほどで到着できるみたい』
その伊8よりこの海域に急行している他の潜水艦隊の艦娘の情報を受け取ったU-511は、自分が発見した深海棲艦の艦隊が進路を反転させ来た道を引き返していること、そしてこの艦隊の不審な点について報告した後、先ほどのU-511と同じように困惑の声を上げる伊8にある提案をした。
『……ねえハチ、携帯艤装から水上偵察機を飛ばしてもらってもいいかな?』
『偵察機を?』
そして確認してきた伊8に小さく頷いた。
巡潜3型 2番艦 潜水艦である伊8は、潜水艦であるにもかかわらず、水上偵察機を運用することができる珍しい潜水艦だ。
そしてその艦娘である伊8も、数は一機しか運用できないが水上艦の艦娘のように、携帯艤装から小型の水上偵察機を飛ばすことができる。
U-511はその偵察機を使ってこの謎の行動を取る艦隊に探りをいれようという事なのだろう。
U-511の言いたいことは分かる。
確かに潜望鏡よりも偵察機を使い、この艦隊を上空から偵察すれば得られる情報も格段に多いだろうことは容易に想像がつく。
しかも操縦する妖精さんと、視界を共有しながら偵察することでリアルタイムに状況を把握できる、現代で言うところの使い捨ての偵察用ドローンのような使い方もできるため偵察機の帰還を待つ必要もなく、偵察機を射出しすぐに潜航してしまえば、こちらが発見されるリスクもゼロに近い。
『……でも、いいの?』
しかし、伊8は、偵察機を飛ばすメリットを十分に理解した上で再度U-511に確認をした。
確かに偵察機を飛ばせば、発見されることなく艦隊から多くの情報を得ることができる。
だが偵察機を飛ばせば、深海棲艦の艦隊は確実に警戒を強めるだろう。
そうなればこの艦隊の追跡も格段に厳しくなる。
伊8はそれを懸念していた。
『……どの道、あの艦隊が引き返している時点で、今進んでいる作戦は変更になるよ。
それなら、少しでもこっちで艦隊の情報を探って作戦本部に送った方がいいと思う。
それに――――』
『それに?』
『……なにか嫌な予感がする』
U-511の発言を聞いた伊8は軽い驚きを覚えた。
よくU-511とチームを組むことが多い伊8だが、その中での印象は、任務に対しひたすらに従順。
その任務において一切の私情を挟まないU-511が、予感などといった不確定要素で動くとは思わなかったからだ。
『うん、分かった。偵察機を飛ばしてみましょう』
『ありがとう、ハチ』
結局、U-511の意見を聞き入れ偵察機を飛ばすことに決めた伊8は、U-511との合流を一旦中止。
船体は海中に待機させ、携帯艤装を展開した生身だけ海面へと浮上した。
海面から、顔を出す伊8。
そして携帯艤装の能力を使い腰の辺りまで海面から浮上した伊8は、軽く手を振るい手品のように何もない空間から四角い物体を取りだした。
それは、一冊の本。
その本を伊8が手にすると本がひとりでに動きだし、海の水気など関係ないかのように、パラパラと乾いた音を立てながらページが捲れていく。
そして、『零式水上偵察機』と書かれたページで止まると本が光だし、そのページから球体のようなものが勢いよく打ち出された。
その打ち出された球体は、徐々に大きくなっていき形が変化。
やがてその球体は1メートルほどの零式水上偵察機へと姿を変え、伊8の操作の元、U-511が発見した艦隊の待つ方角へと飛んで行った。
◇
プロペラの音を周囲に響かせながら、高度を上げつつ飛行する小型の零式水上偵察機。
伊8は偵察機に乗る妖精さんと視界共有をしながら、一直線に深海棲艦の上陸部隊と思しき艦隊へと偵察機を飛ばした。
携帯艤装で運用できる小型の偵察機、扱いは便利だがその性能はオリジナルと比べ著しく劣る。
もし艦隊の直掩機に見つかれば、瞬時に撃ち落とされてしまうだろう。
艦隊近くの上空に長くとどまるなど不可能に近い。
それならば撃墜を前提とし、進路の欺瞞などせず中央突破することで、また少しでも早く近づき、そして一秒でも長く留まることで、多くの情報を集めようと伊8は考えた。
(……いた!)
飛行する事数分。
ついに伊8と視界共有をする妖精さんの瞳が点々と並ぶ駆逐艦級を捉えた。
これがU-511の発見した艦隊だろう。
幸いにもまだこちらの存在には気づいてはいないようだった。
それどころか迎撃戦闘機、直掩機さえも現れる気配もない。
(このまま一気に駆け抜ける!)
そのことに不安を覚えながらも速度を最大限に上げ、一気に突破しようと偵察機を操る伊8。
駆逐艦級の真上にまで到達したところでようやく気付いた艦隊が対空弾幕を張るが弾幕はスカスカ。
明らかに精彩を欠いていた。
よたよたと打ちあがる対空砲弾の隙間をすり抜けていく偵察機。
そして艦隊全体を見渡せるように一気に上昇した。
(対空弾幕は突破できた。といっても小型の偵察機相手に対空弾幕じゃ撃墜は難しい。
直に対空弾幕を止めて直掩機を差し向けてくるはず。
それまでに少しでも情報を集める!!)
残り少ない時間を有効に使うために頭の中で集めるべき情報を打ち出していく伊8。
そして艦隊全体を偵察できる空域に到達し眼下に映る艦隊を見渡した瞬間―――――
『………………え』
――――――その光景に絶句した。
外周部分を駆逐艦級で守られているはずの、艦隊の中心部を蹂躙する炎、炎、炎。
数えきれないほどの艦艇から炎が噴き出し、立ち上るいくつもの黒煙が艦隊の空を覆っている。
海面に黒々とした燃料を垂れ流し傾斜する船。
上部構造物が完全に消滅しただ流されるだけのイカダとなり果てた船。
連続した爆発と共に海中へと没していく船。
艦隊の外周部を守る駆逐艦級が無傷であるにもかかわらず、まるで何かでくりぬかれるように中心部を構成するほとんどすべての艦艇が損害を受け、吹き上がる煙と共にその被害を周囲にぶちまけていた。
『………なに、これ』
『ハチ、どうしたの?』
U-511との相互通信を繋げたままにしていたため、伊8の呆然とした声を聞いたU-511が声を掛けた。
しかし伊8はまるで聞こえなかったかのように答えない。
いや、むしろ自分が声を出したことさえ気が付いていないかのようだった。
(いったい誰が……なにが、どうなって!?)
妖精さんとの視界共有によって流れてくる、非現実めいた光景を処理しきれず混乱する伊8。
そして妖精さんの視界が捉えた新たな光景に唖然とする。
(嘘……。空母級の飛行甲板が全部潰されてる……)
艦隊の要。
その船体に満載されている航空機によって艦隊全体を守護するはずの空母級。
その生命線たる飛行甲板が、一隻残らず叩き潰されていた。
航空機の離発着のスペースである飛行甲板。
しかし飛行甲板の表面は捲れあがり、いくつも空いた大穴からはまるで新しく煙突ができたかのように大量の煙を噴きだしている。
そして飛行甲板の全域に散らばる露天駐機されていたであろう航空機が、時折爆発を引き起こし被害拡大に拍車をかけていた。
(戦闘機が仕掛けてこなかったのは、これが原因っ!?)
何の妨害もなく偵察機が艦隊に接近できたのは、飛行甲板の損傷によって周囲を警戒する航空機を飛ばせなかったからだろう。
それに見た限り、大型の水上艦も大きなダメージを負っている。
さすがに沈んでいる大型艦はいないようだが、上部構造は大きく損傷していた。
この分ではレーダーも破壊に巻き込まれ機能していないだろうことは容易に想像がつく。
言わば艦隊の目がすべて潰されている状態だ。
深海棲艦の艦艇が偵察機に向けて対空射撃を行っているが個々の艦がバラバラに、ただ闇雲に打ち上げるだけでかすりもしない。
それにもはやまともな指揮すら取れてはいなだろう。
今も一斉回頭をしている艦艇同士がいたるところで接触事故を起こしている。
しかし深海棲艦の艦隊は事故を起こした艦艇を、損傷し動けなくなった艦艇と共に切り捨て、かろうじて航行できる艦艇だけを引き連れて撤退をしていた。
そこには一刻も早くこの海域から撤退をしなければならないという深海棲艦の焦りが読み取れる。
その悲惨な光景は、撤退というよりも潰走に近い。
伊8はその有様に唖然としながらも、U-511から伝えられたこの艦隊の不審な点についての報告について納得できる答えを見つけていた。
(一斉回頭をしていたのは、一刻も早く撤退するため!
得体のしれないノイズは、艦艇の爆発音!!
艦隊の上空に漂う煙は、損傷した艦艇の出す煙!!!
……分かっても全然嬉しくないです!!!)
悪態をつきながらも情報を集め続ける伊8。
そして艦隊上空で偵察機を旋回させ、情報を集めながら一番気になることを考え始めた。
(この艦隊を撤退に追い込んだ下手人はどこにいったんでしょう……)
この艦隊を叩き潰した下手人の行方である。
空母級十数隻を艦隊を叩き潰した手段については非常に気になるところではあるが、とりあえず置いておく。
伊8が気になったのは、この艦隊に攻撃を加えた下手人の中途半端さだ。
艦隊を撤退に追い込むような傷を負わせながらも追撃はせず、そのまま放置している。
普通ならこの状態で放置するなどありえない。
追撃を加え、さらなる戦果拡大を狙うだろう。
(途中で邪魔が入ったんでしょうか?)
深海棲艦の艦隊を守るために邪魔をすると言えば、深海棲艦勢力圏内の基地航空隊だろうか。
そこまで考えた時、重大なことに気が付いた。
(え、あれ?ちょっと待ってください!?
深海棲艦の艦隊がいる、ここローレス海域は深海棲艦勢力圏内の基地航空隊による航空支援を十分受けることができる場所にある。
普通にならば撤退する艦隊を援護するために航空機を飛ばし、艦隊の上空を守るだろう。
それが例えいくつかの基地航空隊が交戦中であっても航空基地は無数に存在している。
仮にいくつか潰されたとしても交戦しながら艦隊の上空を守る航空戦力をねん出することなど余裕なはずだ。
しかしこの艦隊の上空には伊8が操る偵察機以外、航空機は一機もなく、艦隊は這う這うの体で撤退している。
艦隊の援護をしたくともできない状態。
それはすなわち――――
(
――――全基地航空隊の壊滅を意味しているのではないだろうか。
ここまで考えた時、伊8は背筋が凍るような感覚に襲われた。
これと同等の戦果を挙げる事など、東南アジアに展開する海上自衛隊の現有戦力では不可能だ。
となれば艦隊を撤退に追い込み、航空基地隊を叩き潰したであろう下手人は、東南アジアに展開する海上自衛隊の現有戦力と同等か、それ以上の戦力を有していることになる。
(まずい、非常にまずいです!!!急いでこのことを作戦司令部に伝えないと
大変なことに―――――)
『―――ハチ、ハチ!』
『……はっ!?』
さらなる思考の海に没しかけた伊8だったが、相互通信から聞こえるU-511の声が彼女を現実へと引き戻した。
『ハチ、艦隊の様子はどうだった?』
『ユーちゃん……。大変、大変です!?急いでこのことを作戦司令部に伝えなければなりません!』
『ハチ、落ち着いて。何を視たの?』
錯乱する伊8を落ち着かさせ、情報を引き出していくU-511。
そして艦隊の状況と深海棲艦・基地航空隊の推察を聞くことで危機感を共有した二人は、一刻も早く得た情報を作戦司令部に伝えるため、急いで行動を開始した。
U-511は引き続き、艦隊の監視。
伊8は、深海棲艦に傍受されないよう一旦、この海域を離れ作戦司令部あてに緊急電文を飛ばした。
そしていくつかの観測所を経て届けられた緊急電文は、迅速にリンガ軍港の地下5階に設けられた作戦司令部に伝えられ、作戦司令部内に激震が走ることとなる。
戦況報告
フローレス海方面
深海陣営
ポート・モレスビー方面 全航空基地
壊滅
ダーウィン方面 上陸部隊
撤退中