空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第24話 三つ巴の賭場

ジャワ島を巡って、日の出と共に始まった東南アジア連合軍及び自衛隊と深海棲艦との大規模な軍事衝突。

 タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊が深海棲艦・空母機動部隊を捉え戦闘を開始。

 ジャワ島方面軍・基地航空隊が深海棲艦勢力圏内より飛び立った基地航空隊との熾烈な航空戦を始めた。

 

 戦局は作戦司令部の立てた計画通り、順調に推移。

 残るはジャワ島に向かっているはずの深海棲艦・上陸部隊を捕捉を残すのみという段階で、深海棲艦の行動に異変が起きた。

 

 先ほどまでジャワ島に対し、絶え間なく攻撃を仕掛けてきていた深海棲艦・基地航空隊の攻撃がピタリと止んだのだ。

 

 攻撃が苛烈になるのならば理解できた。

 深海棲艦の目的はジャワ島の奪還だ。

 ジャワ島を奪還するための陸上戦力を満載した深海棲艦・上陸部隊。

 その進撃の障害となるジャワ島の基地航空隊の殲滅、それができなくとも上陸部隊が橋頭保を確保する時間稼ぎのために、基地航空隊そして深海棲艦・上陸部隊の航空戦力を集中運用しての苛烈な攻撃ならば、まだ理解できたのだ。

 しかし深海棲艦の攻撃は苛烈になるどころか、全ての攻撃が突然ピタリと止み、それを境に深海棲艦の航空機は一機たりとも現れはしない。

 

 深海棲艦の不可解な行動に、困惑の空気が漂い始めた作戦司令部。

 しかし伊8より届いたとんでもない内容の緊急電文が、その空気を一変させた。

 

 

 

 

 

――――リンガ軍港 作戦司令部

 

 

 

「……はぁ!?深海棲艦・上陸部隊が壊滅被害を受け撤退中だぁ!?!?」

 「は、はい。ただ今、フローレス海域周辺の観測所からも偵察機を飛ばし確認を急がせています!」

 

 素っ頓狂な声を上げる橋本少将に、先ほど届けられた緊急電文を伝えたオペレーターは焦りながらそう答えた。

 

 

 伊8より届いた緊急電文。

 それには、先ほどまで作戦司令部内に流れていた不穏な空気を跡形もなく消し飛ばすほどの、衝撃的な内容が込められていた。

 

 

 

――――深海棲艦・上陸部隊と思われる艦隊。壊滅的被害を受け、東へ撤退しつつあり。

 

 

 ジャワ島に向かってきているはずの深海棲艦・上陸部隊。

 その上陸部隊と思われる艦隊が、何者かの攻撃により壊滅的な被害を受け、東へ撤退中だというのだ。

 

 東南アジア連合軍及び自衛隊が計画したジャワ島防衛作戦。

 『ジャワ島の防衛』という作戦目標を達成する上での最大の障害が、いかに大量の陸上戦力を抱え込んだ深海棲艦・上陸部隊の艦隊を仕留めるか、だった。

 深海棲艦・上陸部隊がジャワ島に橋頭保を築き、艦隊に満載された深海棲艦軍がその力を十全に振るう事の出来る環境が整ってしまえば、ジャワ島に展開する東南アジア連合軍、自衛隊、両軍の陸上戦力では圧倒的物量に任せた進撃を行う深海棲艦軍に対し、劣勢に追い込まれるだろう。

 そうなる前に、戦略物資と共に深海棲艦・上陸部隊の艦隊を撃滅できるか、否か。

 それこそが今作戦の成否を決める重要な局面だった。

 

 だからこそ海では東南アジア連合海軍の高速戦闘部隊、海上自衛隊のビスマルク率いる第三作戦部隊は、艦隊を夜戦にて打ち取るべく、広範囲に散らばり島や洞窟、入り江などに巧妙に船体を隠蔽しながら息を潜め、陸では東南アジア連合陸軍と陸上自衛隊、艦娘陸戦隊である第五作戦部隊が準備を整え、深海棲艦・上陸部隊を待ち構えていたのだ。

 

 

 しかし、その深海棲艦・上陸部隊の艦隊が何者かの攻撃により壊滅的被害を受け、現在進行形で撤退している。

 

 

 今作戦の根幹を揺るがすような異常事態。

 

 そして伊8より届いた緊急電文には、もう一つ見過ごすことのできない内容が書かれていた。

 

――――深海棲艦・敵基地航空隊、壊滅の疑いあり。

 

 深海棲艦勢力圏に点在している敵基地航空隊が壊滅している可能性を伝えてきたのだ。

 

 深海棲艦勢力圏内には、東南アジアの戦線の根拠地でもあり前線基地でもあるポート・モレスビーを始め、多数の飛行場を有する基地があり、それぞれに十分な航空戦力を有している。

 

 先ほど、ジャワ島に対し空爆を仕掛けてきていたのも、この基地群から飛んできた航空隊によるものだ。

 

 しかし、伊8からの緊急電文ではその航空基地群が壊滅した可能性が記されていた。

 

 双方共、あまりにも荒唐無稽な内容。

 その内容を聞いた当初、作戦司令部は伊8より届いた電文は誤報か何かかと思い、その内容を真正直に信じることはなかったことは、ある意味仕方がないことである。

 

 裏付けのため、フローレス海付近の複数の観測所より飛ばされた偵察機が、煙を上げ撤退している艦隊を発見。

 艦隊の数と構成から、上陸を目的とした艦隊である、つまり深海棲艦・上陸部隊である可能性が極めて高いという結果が出た。

 そして深海棲艦の制空権内であるにもかかわらず、撤退している艦隊が一切の航空戦力による支援を受けていないことから、 艦隊の支援をしたくともできない状態、敵基地航空隊が壊滅している可能性もありうるという報告が上がり、誤報ではないと確認が取れると作戦司令部は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

 

 「……てことは、つまり何か!?この正体不明の勢力は、

『作戦行動中の空母級を伴った深海棲艦・上陸部隊を、作戦遂行が不可能になるほどの打撃を与え、かつ多数の航空基地に、撤退中の艦隊に対する最低限の航空支援すらできないほどの損害を与えた』ってことか!?

 そんなバカな話があるか!!!」

 「……あり得ん」

 

 

 橋本少将が声を荒げ、レジェス大将が呆然とした声を出した。

 

 

 「……ぼ、亡霊軍隊」

 

 作戦司令部内の、誰が呟いた言葉。

 しかしその言葉を引き金とし、広い司令部内で、次々と動揺が広がっていった。

 

 最近になり存在が明らかになり始めた、深海棲艦に攻撃を仕掛ける謎の集団――――『亡霊軍隊』。

 

 保有戦力も目的も一切わからない、しかし深海棲艦の根拠地一つを単独で落とせるほどの強大な戦力を有する謎の集団と、この深海棲艦・上陸部隊を壊滅させた正体不明の勢力を関連付けて考えることはさしておかしなことではなかった。

 

 それと同時に作戦司令部の面々はいやが上にも理解した。

 

  この『亡霊軍隊』は、自衛隊と東南アジア連合軍の見立て、『陸戦兵力を乗せた艦娘を含んだ空母機動部隊』などという生易しいものではない。

 

 もしかすれば、東南アジア連合軍、そして東南アジアに展開する自衛隊の現有戦力と同等、いやそれ以上の戦力を有しているのではないか。

 

 

 司令部内に満たされていた動揺の中に、恐怖の色が混じり始めるまで、さして時間はかからなかった。

 内心どこかで油断していたのだ。

 いくら強大な戦力をもつ謎の集団といっても、所詮は一組織。

 総戦力においては、国家という巨大な枠組み同士が集まって結成された自分達、連合軍には遠く及ばないだろうと。

 自分たちの信じていた優位性がガラガラと音を立てて崩れ落ちていく感覚。

そしてこの謎の集団、今は深海棲艦を標的しているが、味方であるとも限らないのだ。

 ―――もし、この謎の集団が自分たちに牙を剥いたら。

 

  軍人として恐慌状態に陥る者はいないものの、困惑、不安、恐怖といった、あらゆる負の感情がそれぞれの心の中でゆっくりと鎌首をもたげ始めた。

 

 そしてその負の感情たちが、さらなる混沌を呼び込むべく表に出始めようとした時―――――

 

 

 

 「レジェス大将」

 

 

 

 先ほどまで黙していた東条少将が言葉を発した。

 大声を出すでもなく、声を荒げるのでもない、感情の隆起の全くない、平坦な声。

 この広い作戦司令部では、容易に打ち消されるはずのその声は部屋全体に響き渡り、負の感情に浮き足だった者達の心を、一気に現実へと引き戻した。

 

 一言で作戦司令部内の不協和音を鎮静化させた東条少将。

 レジェス大将は内心感謝しつつ話を始めた。

 

 「何かね?東条少将」

 「もはや『プランJ-a-1』の成功の見込みはもはやありません。『プランJ-d-4』の変更を進言いたします」

 

 作戦の変更を求める東条少将の冷静な言葉に、レジェス大将、そして作戦司令部内にいた東南アジア連合海軍の軍人が大きな反応を示した。

 

  

 

 ジャワ島防衛作戦において東条少将は不測の事態を想定し、複数の計画を用意していた。

 

 

  

 深海棲艦・上陸部隊に対し、ジャワ島に一旦橋頭保を作らせることで、容易に撤退できない状況を作り、夜になると同時に、隠匿していた基地航空隊、東南アジア連合海軍の高速戦闘部隊、ビスマルク率いる第三作戦部隊をもって艦隊を奇襲、撃滅する計画するというのが、『プランJ-a-1』。

 先ほどまで進めていた計画だ。

 

 それに対し東条少将が進言した計画、『プランJ-d-4』は、海上での戦闘を想定した計画だ。

 基地航空隊、第三作戦部隊、艦娘陸戦隊である第五作戦部隊、そして潜水艦隊をもって、深海棲艦・上陸部隊に対し、空、海上、海中から同時に攻撃を仕掛け撃滅するという計画だった。

 

 東条少将は、『プランJ-d-4』を転用することで、撤退している深海棲艦・上陸部隊に対し、追撃を加えようと、進言しているのだ。

 

 もはや深海棲艦・上陸部隊が撤退している以上計画の変更は妥当と言えるだろう。

 

  「………だが、それでは」

 

 

 

  しかし、『プランJ-d-4』の変更するという事は、東南アジア連合海軍の地位を大きく向上させることができる功績が失われてしまうことを意味していた。

 

  『プランJ-d-4』を元にした追撃戦が行われるのは、陸地から遠く離れた地点であるフローレス海。

 沿岸部でしか運用できない東南アジア連合海軍の高速戦闘部隊は、参加する事はできない。

 

 東南アジア連合海軍の部隊が、主力艦隊の一つでもある深海棲艦・上陸部隊を『撃滅』する場面にすら立ち会えない以上、功績は全て海上自衛隊のものとなってしまうのだ。

いくら『撃滅』の後方支援といった活躍を訴えたとしても、誰も東南アジア連合海軍の功績など認めはしないだろう。

 

 東南アジア連合海軍のスポンサーである東南アジア各国政府、ひいては国民たちが求めているのは、戦場を陰から支える後方支援といった『裏方』などではなく、自分たちの命を脅かす憎き深海棲艦を打倒す華々しい『主役』を求めているのだから。

 

 しかしそれと同時に 標的となる深海棲艦・上陸部隊が撤退している時点で、『プランJ-a-1』の成功の見込みがないことも十分理解していた。

 そして東南アジア連合海軍を統べる司令官は、成功の見込みもない作戦にいつまでもすがり付き、決断できないような無能でもなかった。

 

「よかろう。仔細、東条少将に任せる」 

 

レジェス大将は、誰にも聞こえないような細く小さな溜息を洩らすと、これ以上不安が広がらないよう作戦司令部に内に響き渡るような威厳のある声で作戦の変更を告げた。

 

「はっ、了解しました。

 全部隊に伝達、現時刻を持って『プランJ-a-1』は放棄。『プランJ-d-4』へ移行する!

 第5、第8、第9、第11、第13航空基地に所属する爆撃機編隊は準備が整い次第出撃し、α地点上空にて待機。

 第五作戦部隊は、第1航空基地より離陸する輸送機『C-1』に搭乗し、編隊と合流せよ!

 フローレス海周辺に展開中の潜水艦隊は、β地点へ集結!ただし武装は携帯艤装のみ許可する。船体は発見させないよう海底に無音潜航させておけ!

 全部隊が所定の位置に付き次第、敵艦隊を強襲、これを殲滅せよ!」

 

 「「「了解!!!」」」

 

 東条少将の出した命令を各部隊に伝達すべく、途端に慌ただしくなる作戦司令部内。

 その後、細かい指示を出し終えた東条少将、そして橋本少将は、揃ってレジェス大将に頭を下げた。

 

 

 「閣下の面目を潰してしまい、申し訳ありません」

 「不明勢力の戦力を読み切れんかった我々の責任です。言い訳のしようもありません」

 「いや、気にするな。そもそも無理を言ったのは我々の方だ。

 そして我々連合軍が行っていた不明勢力の戦力分析も同様の結論を出していた。そちらだけを責めることなどできはせんよ。しかし……ここまでとはな」

 「U-511と伊8の両名が上陸部隊を発見した時には、それ以外の敵影はなし。一応、各観測所には厳重に警戒するよう伝えてはいますがね。未だに影も形も掴めやしない。いやはや『亡霊部隊』とはよく言ったものですな」 

 

 言葉を切ったレジェス大将に続き、橋本少将が愚痴交じりの言葉を洩らした。

「それで、だ。これからどうする?

 よくよく考えれば、この正体不明の勢力―――ええいまどろっこしい。これからはこの勢力のコードーネームを『亡霊軍隊』とする。が、引き起こした今のこの戦況、非常に業腹ではあるがそれほど悪いわけではない。先ほどはこれ以上動揺が広がらぬよう作戦変更の許可を出したが、このまま作戦を続けるかね?」

 

 レジェス大将は、探るような目線を二人へ向けた。 

 

 そう、『亡霊軍隊』という特大のインパクトによって浮き足立っているものの、レジェス大将が言ったように今のこの戦況は、それほど悪いわけではない。

 確かに当初の計画『プランJ-a-1』はぶち壊され、東南アジア連合海軍の活躍の機会は奪われた。

 しかし作戦目標は計画を遂行する事でも、活躍の機会を得る事でもない。

 あくまで作戦目標は『ジャワ島の防衛』だ。

 このことを考えれば、『亡霊軍隊』の介入によって深海棲艦・上陸部隊と思われる艦隊は壊滅し、撤退。

 こちらは想定を遥かに下回る損害で『ジャワ島の防衛』は成された。

 残るは、タウイタウイ方面に展開している深海棲艦・空母機動部隊のみ。

 これも順当にいけば、タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊が仕留めきるだろう。

 このまま何もせず放っておいても『ジャワ島防衛作戦』は人類側の勝利で終わるのだ。

 

 つまり、今この場で取れる選択肢は、作戦を続行、撤退する深海棲艦・上陸部隊を追撃し戦果拡大を狙うか、作戦を中止し、勝利を確定するという2つの選択肢があるのだ。

 

 進むか、退くか。

 『亡霊軍隊』という無視できない不確定要素がある中で、東南アジア連合海軍と作戦を共にする海上自衛隊はどう判断するのか。

 それをレジェス大将は問うているのだ。

 

 レジェス大将の真意を受け取り、お互い目くばせする二人の少将。

 東条少将の目線に対し、橋本少将は軽く頷いた。

 今作戦において橋本少将はタウイタウイ方面で争っている第一作戦部隊と、遊撃隊としてリンガ軍港の沖合に待機している、金剛が旗艦を務める第二作戦部隊を率いてはいるが、あくまで東条少将の応援としてこの場にいる。

 作戦の指揮権は橋本少将に一任されていた。

 

 先ほどの頷きは橋本少将の決定に従うという意思表示だった。

 

 「問題ありません。作戦はこのまま続けます。深海棲艦・上陸部隊は深手を負っているとはいえ主力艦艇の大半は戦闘能力が喪失しただけで沈んではいません。ここで追撃せず逃がすことになれば、それだけ深海棲艦の戦力の再編が容易になり再攻勢までの時間が早まるでしょう。ジャワ島の前線基地化のために少しでも時間がほしい今、作戦を中止させるのは得策であるとは言えません」

 「しかし、我々がそう考え、追撃のために戦力を割く。そのことこそが『亡霊軍隊』の目的である可能性は?」

 「…深海棲艦という戦果を―――餌を用意することで、こちらの戦力分散が狙う、という事で?

 と、なればその狙いは防衛戦力が割かれるジャワ島か、あるいは派遣されてきた追撃部隊そのものという可能性もありますな」

 

 

 一切の迷いなく作戦続行の意思を示す東条少将。それにレジェス大将は作戦を続行する上で、障害となるであろう『亡霊軍隊』がとった行動の最大の疑問点に対する推測を投げかけ、それを橋本少将がその推測を補強した。

 

 そう、深海棲艦・上陸部隊を追い込んだであろう『亡霊軍隊』最大の疑問点、それは攻撃の中途半端さだ。

 深海棲艦の上陸部隊を壊滅的被害を与え、航空基地群を沈黙させておきながら追撃もせず放置している。

 膨大な戦略物資を食い潰しながら目的達成を目指す軍隊であれば、物資を消費しておきながら戦果拡大を狙わないなど到底ありえないことだ。

 ―――だが、もし『亡霊軍隊』の目的が深海棲艦の殲滅ではないとしたら。

 戦果を狙ってこちら側が戦力を分散させる、そのこと自体が目的だとするならばこの不可解な行動にも説明がつく。

 

 「ええ、()()()()()()()()()()()()

 

  二人が示した推測。それを聞かされてもなお、東条少将の答えは変わらなかった。

 

 「分かった、作戦はこのまま続けよう。……すまんな」

 

 全て想定内、対策済みである。そう言わんばかりの東条少将にレジェス大将は作戦の続行を決定すると同時に、小さく礼をいった。

 

 先ほどは司令官として懸念材料を出したが、本音を言えばレジェス大将としては是が非でも作戦を続けこの撤退する深海棲艦・上陸部隊を追撃したかった。

 東条少将が言ったようにジャワ島の前線基地化の時間を稼ぐためにも、少しでも多くの損害を深海棲艦に与えたかったからだ。

 しかし部隊を派遣するのは東南アジア連合海軍ではなく、全て海上自衛隊。

 東南アジア連合海軍がいくら追撃を作戦の続行を求めても、実際に部隊を出し追撃する海上自衛隊が『亡霊軍隊』警戒し作戦を打ち切ってしまえば、部隊を出せない彼らは何も言うことはできないのだ。

 

 作戦続行を押してくれた二人の少将に対する小さな礼。

 それに対し少将たちは目礼することでそれに答えた。

  

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (来たか、亡霊軍隊)

 

 

 各所に作戦の変更を伝えるため、さらに喧噪が増した作戦司令部内。もはや空調が効いていないのではないかと思われる熱気の中で、東条少将は机に広げられた東南アジア全体の地図を見ながら、『亡霊軍隊』の次なる動きを読み取るべく思考を続けていた。

 

 作戦は全て()()()()に進んでいた。

 

 『亡霊軍隊』の出現によって作戦がぶち壊されてもなお、否、『亡霊軍隊』の出現によって東条少将だけが知る『ジャワ島防衛作戦』の()()()()()が達成できる。

 

 東条少将の立案した『ジャワ島防衛作戦』。表向き、作戦目標は『ジャワ島の防衛』としてはいるが、これは只のフェイク。大規模に軍隊を動かすための口実に過ぎない。

 

 この作戦の本当の目的、それは強大な戦力を持つ謎の集団―――『亡霊軍隊』に対する威力偵察も視野にいれた戦力調査だ。

 東条少将はこの『亡霊軍隊』を他の何よりも、それこそ深海棲艦よりも警戒していた。

 それは『亡霊軍隊』が強大な戦力をもっているという理由ではない。

 彼がもっとも恐れているのは、その全容が明確に掴めないことだ。

 分厚いヴェールに包まれ、その規模も手段も目的も、その全てが不明な亡霊。

 過大評価も過小評価もできない極大の不確定要素。

 作戦を立案する彼にとってその存在は深海棲艦よりも恐ろしく―――目障りだった。

 

 だから今回の作戦を立てた。

 規模、手段、目的、『亡霊軍隊』の手の内を全て暴きだす。そのこと主眼に置いた『ジャワ島防衛作戦』。島の防衛という名目で各戦線に配置した部隊もほとんどが『亡霊軍隊』に対応したものだ。この作戦の中では深海棲艦などオマケにすぎない。

 

 だが、深海棲艦などオマケにすぎないといっても手は抜いてはいない。

 

 そもそも『亡霊軍隊』がいつ現れるかも分からなかったのだ。

 もし深海棲艦が現れなかったとしても、表向きの作戦目標である『ジャワ島の防衛』が達成できるよう、十分配慮をしていた。

 今回の作戦で『亡霊軍隊』現れなければ、そのまま何食わぬ顔で表向きの作戦目標を達成。いくつか条件を変え、『亡霊軍隊』が食いつくような作戦を立案し再度、『亡霊軍隊』待ち構えるつもりでいた。

 長期戦も視野に入れた東条少将の罠。

 

 

 しかし『亡霊軍隊』は深海棲艦・上陸部隊と基地航空隊の壊滅の知らせと共に、この『ジャワ島防衛作戦』に姿を現した。

 つまり『亡霊軍隊』はこの『ジャワ島防衛作戦』で果たすべき目的があって姿を現したという事だ。

 

 

 ならば歓迎しよう。

 

 人類陣営、深海陣営、に『亡霊軍隊』をプレイヤーに加えた、三つ巴の()()

 

 

 『亡霊軍隊』現れなければ、その全てが無意味なものとなり、忘れ去られるはずだった()()()画群は、東条少将の指揮の元、その本来の役割を果たすべく静かに動き出した。  

 

 

  

 




戦況報告
       タウイタウイ方面

          人類陣営
           タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊

          深海陣営
           ポート・モレスビー方面 空母機動部隊
 

               交戦状態



       フローレス海方面

          深海陣営
           ポート・モレスビー方面 全航空基地
             
                壊滅

           ダーウィン方面 上陸部隊
  
                撤退中
           




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