空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第25話 差し手と駒

――――旧ジェンティング飛行場 第13航空基地

 

 

 

 「よし!上げてくれー!」

 「時間がないぞ!!!急げ急げ!!!」

 

 ジャワ島奪還作戦にて深海棲艦より奪い返したジェンティング飛行場。

今は第13航空基地と名前を変え、所属も変えた航空基地内はいま、指示や檄が飛び交い、雑多な喧騒に包まれていた。

 広大な飛行場内に響き渡る各隊長の声の元、忙しなく動き回る東南アジア連合軍、自衛隊の軍人や妖精さん達。

 その動きには余裕といったものがなく、何か不測の事態が起きたことが窺知れた。

 

 この混乱の極致ともいいかえてもいいほどの事態の発端。

 それは現在遂行中の『ジャワ島防衛作戦』の作戦計画が急きょ大幅に変更されたことにある。

 

 

 

 

 

 ジャワ島に向け侵攻していたはずの深海棲艦・上陸部隊が、深海棲艦・基地航空隊諸共、第三勢力によりの手により壊滅。

 この異常というべき事態にジャワ島作戦司令部は、当初の作戦計画を放棄。

 撤退する深海棲艦・上陸部隊に追撃を加えるべく、第13航空基地も含むいくつかの基地航空隊に出撃命令を下した。

 

 守勢から攻勢へ。

 従来の作戦計画を真逆をいくような作戦の変更。

 深海棲艦・上陸部隊が撤退している以上、待ち伏せを主体としていた当初の作戦計画を放棄するのは当然であると言えるし、第三勢力の動向が分からないものの、撤退する深海棲艦・上陸部隊に対しさらなる出血を負わせるべく、戦場に素早く展開できる基地航空隊に出撃命令が下るのも、さほど可笑しくはない。

 

 しかし現場の者達からしたら、たまったものではない。

 一応、攻勢のための作戦計画は存在しており、そちらの作戦計画を転用しているため全くの無茶、無謀という訳ではない。

 だが作戦計画の変更という歯車を逆回転させるような行為は、現場に対し多大な負担を強いていた。

 そしてせっかく準備をしたのに、作戦計画の大幅な変更によって無用の長物となってしまった物もまた、存在していた。

 

 

 

 

 

 基地航空隊の出撃命令が下った第十三航空基地。その滑走路横に、ずらりと露天駐機されている一式陸上攻撃機。

 その中で二人の自衛隊員が作業をしていた。

 

  

 「くそっ、亡霊軍隊め!!!俺たちの仕込みを邪魔しやがって!!!」

 「はいはい、愚痴なら後で聞いてやるから……よし全部回収したぞ」

 

 二人の隊員は無駄話をしながらもその動きに無駄はない。

 リールを持った隊員の愚痴を聞きながら、もう一人の隊員は何か四角いものを素早く袋に入れて回収。

 合図を出すともう一人の隊員が四角いものから伸びていたコードの様なものをを素早くリールに巻き取っていく。

 そのコードは機体の外まで伸びているのかそのまま二人の隊員はコードを巻き取りながら、

()()()の機体の中を移動。後部ハッチから脱出を果たした。

 

 「運んでくれー!!!」

 

 外に出ててもなお、続いているコードを巻き取っていく隊員と別れ、袋を持った隊員は、一式陸上攻撃機と牽引車を接続させ、待機していた東南アジア連合軍の作業員に合図を送った。

 

 その合図を受け取った東南アジア連合軍の作業員は一つ頷くと、素早く牽引車に乗り込みエンジンを始動。

 大型の航空機すら簡単に動かせるその馬力で、一式陸上攻撃機を牽引し始めた。

 の、だが。

 

 「運転、荒っ」

 

 苦笑している隊員の言うとおり、一式陸上攻撃機を牽引しているその車の運転は、あまりにも荒かった。

 機体を安全に運べる速度を大幅に超過している上、運転手がきびきびとハンドルを操作するせいで機体が右に左にと大きく振り回されていた。

 これでは牽引というより、引き回しのようだ。

 

 しかしこのような、ともすれば機体を大きく損傷するような運び方をする作業員の姿を見ても、隊員は苦笑するばかりで注意すらしない。

 

 「こっちも終わったぞ」 

 

 その光景を眺めていると、作業を終えたのだろう、先ほど別れた隊員がリールを片手に戻ってきた。

 そして二人そろって飛行場を見渡した。

 そこには不可思議な光景が広がっていた。

 

 

 滑走路横に並べられていた一式陸上攻撃機たちを次々運んでいく牽引車の列。

 その牽引車の列が向かった先は、飛行場の外れにある平原。そこに次々と並べられていく。

 

 いや、並べるというのは語弊がある。

 その機体の置き方に規則性など一切なく乱雑で、機体同士かぶつかっても、ましてや翼やプロペラが破損してもお構いなし。

 もはや打ち捨てるという言葉のほうが正しいだろう。

 

 そうして開けられた滑走路横には、先ほどの荒い運転とは違い、丁寧な運転でどこからか運ばれてきた一式陸上攻撃機がキレイに駐機されていった。

 

 「ああ……。()()()()()()()()()勿体ない……」

 「そうだな」

 

 滑走路横に並んでいた一式陸上攻撃機を撤去し、新たな一式陸上攻撃機を配備しなおすという、あまりにも不可思議な光景が広がる中、次々と打ち捨てられていく一式陸上攻撃機を眺めながら、リールを持った隊員は悲壮感たっぷりに、袋を持った隊員は割とどうでもよさそうに呟いた。

 

 

 ここで打ち捨てられていく機体たちを、一式陸上攻撃機に詳しい者が見れば違和感を感じるだろう。

 確かに全体のシルエットとしては一式陸上攻撃機といえる。

 しかし機体の各所が全く違う。

 まるで模造品を見ているような、違う何かを無理やり一式陸上攻撃機の形に整えたような、そんな違和感を感じることだろう。

 

 その違和感は間違ってはいない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いや、そもそも航空機ですらない。

 その証拠に、打ち捨てられ機体たちの中身はまったくの空。武装や燃料どころか、エンジンや操縦席すらも存在していなかった。

 これは基地に仕掛けてきた、敵航空隊の目を誤魔化すためのダミー。

 大量に出た航空機の残骸を組み合わせ、形だけは一式陸上攻撃機に見えるよう、陸上自衛隊の施設科と妖精さん達によって作り出された、言ってしまえば原寸大の模型だった。

 

 もちろん模型なので飛ぶわけがない。

 

 当初の作戦計画では、この一式陸上攻撃機だけではなく、建物すらもガワだけ作られた、巨大なジオラマと化した航空基地を深海棲艦・基地航空隊に存分に爆撃させることで、深海陣営に航空戦力を排除したと思わせる計画だった。

 

 しかし計画が変更され、出撃命令が下された今では、出撃を邪魔するガラクタでしかない。

 作業員たちの運び方が荒いのも仕方ないと言える。

 

 

 「だが作ったものが完全に無駄になるのも多少悲しいものがあるよな。まぁ、作戦は変更になったが、この基地が空襲されることはなくなったんだ。元気出せって」

 

 そう言いながら、先ほどまで共に、爆撃時にダミーだと見破られないための演出用の爆弾を撤去していた相棒を励ますべく肩を叩いた。

 

 「ト〇・トラ・トラをも超える爆撃シーンがタダで撮れるはずだったのに……」

 「いや、なにやってんの」

 

 慌ただしく動き回る人の流れの中に、撮影機材を担いだ隊員たちを見かける理由が分かり、あきれた声で呟いた。

 

 

 

 

 

――――1999年9月30日 PM 1:00 フローレス海

 

 

 

 守勢から攻勢へ、計画が大幅に変更された『ジャワ島防衛計画』。

 しかしそれは、現場に多大な負担を掛けながらも、祖国防衛という『愛国精神』に燃える東南アジア連合軍、納期絶対という日本人特有の『社畜精神』溢れる自衛隊の隊員たちの働きにより、迅速に出撃準備が整えられていった。

 

 そして各飛行場から航空隊が次々と離陸し集結。

 撤退する深海棲艦・上陸部隊に対し、さらなる出血を負わせるべく攻撃を開始。

 今ここに、フローレス海を舞台にした戦いが始まった。

 

 

 

 次々と空から襲い掛かる攻撃機の群れ。それに対し、深海棲艦・上陸部隊は対空弾幕を張ることで応戦した。

 青い空に次々と打ちあがり、炸裂する対空砲弾。

 その弾幕を突破するべく突っ込んでいく攻撃機。

 

 海対空。

 

 その構図は、タウイタウイ沖で深海棲艦・空母機動部隊に襲い掛かる戦爆連合と酷似していた。

 しかし。齎される結果は、先の戦いと全く違うものだった。

 

 スカスカの対空弾幕をいとも簡単に突破していく攻撃機たちは、爆弾を投下。

 対空砲弾を打ち上げ抵抗する駆逐艦級に命中させていく。

 それと同時に、攻撃機から放たれた魚雷が海面下より襲い掛かり船体に大穴を開けた。

 次々と爆炎を上げ、海中に没していく深海棲艦の艦艇。

 

 それはあまりに一方的な蹂躙劇だった。

 

 そもそも、全てが戦闘艦で構成されている深海棲艦・空母機動部隊と違い、この艦隊は、陸戦兵力を乗せた、鈍足、紙装甲、貧弱武装と三拍子そろった輸送艦級が大半を占めているのだ。

 本来ならば戦艦棲姫率いる強力な艦隊が輸送艦級の護衛についていたのだが、正体不明の勢力により航空戦力は消失。指揮を執るべき大型艦がほとんどすべて大きなダメージを負い、まともな艦隊規模での対空弾幕も張ることができない今、航空隊の攻撃を防ぎきることは不可能だった。

 

 それでも深海棲艦の艦艇たちは、航空隊の攻撃を凌ぐべく、狂ったように、しかし無秩序に、夥しい対空砲弾を空へと打ち上げていた。

 艦艇に被害を出しながらも撤退していく深海棲艦・上陸部隊。

 

 だが艦隊大半を占める輸送艦級の速度に合わせているために、その艦隊の動きはあまりにも遅く。

 新たに放たれた刺客から、逃れることなど到底できるはずもなかった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 撤退する深海棲艦・上陸部隊を空から蹂躙する基地航空隊。

 第二次世界大戦時の航空機がほとんどを占めるその中に、一際異彩を放つ2機の航空機がいた。

 

 緑と茶の濃淡の迷彩色に、T字尾翼。機体の高い位置に付けられた主翼からは2基のターボファンエンジンの力強い音が鳴り響き、その大きな機体を前へ前へと推し進めていた。

 

 航空自衛隊が保有する、中型戦術輸送機『C-1改』。

 

 その機体の貨物室。その中に12名の艦娘である少女たちの姿があった。

 

 空調・与圧こそされているものの、人を運ぶ旅客機と違い、居住性が必要最低限にまで抑えられた輸送機内。

 エンジンの騒音と振動が機内にまで伝わり、隣の人との会話すら大きな声で話さなければいけないほどの劣悪な環境の中にあって、壁際に取り付けられた少女たちは一切の声を発してはいなかった。

 だが、エンジンの騒音に混じって聞こえてくる、射撃音や爆発音といった戦場の足音の恐怖に縛られ、声を発することができないといった様子ではなく、むしろ自然体。

 完全にリラックスした状態で腰掛けていた。

 その姿は表面上は歴戦の兵士といった様相を呈しているだろう。

 

 そう、()()()()

 

 

 

 『あ゛あ゛~。せっかくの夜襲が~』

 『……元気出して、川内姉さん』

 

 中型戦術輸送機『C-1改』の貨物室にて、ジャワ島方面軍・第五作戦部隊の旗艦である軽巡洋艦『川内』は、作戦部隊の僚艦であり姉妹艦でもある軽巡洋艦『神通』に愚痴を零していた。

 

 艦娘だけが使う事の出来る、テレパシーの様な、離れた相手と自由に会話することができる『相互通信』。この能力を用いこの騒音まみれの環境の中でも、二人は自由に会話することができていた。

 

 いや、この二人だけではない。ここにいる艦娘の全員が好き勝手に『相互通信』を繋げあい、おしゃべりに興じていた。世界的な電波障害のせいで、短距離通信ですら難儀するこの時代。非常に有用な能力であるみなされている『相互通信』も、今この場においては、便利なおしゃべりツールでしかないという事なのだろう。

 しかも相互通信の能力を使用しているかは、外見からだけではわからないため、たちが悪い。

  第五作戦部隊の艦娘も、表向きはキリリとした表情を整え、川内も神通との相互通信で、だらけきった会話をしていても、表面上は作戦部隊の旗艦にふさわしい歴戦の兵士のような雰囲気を醸し出していた。

 

 『ああもう!!!夜戦の担当も、ビスマルクの所の艦隊に取られ!涙を呑んで夜襲で我慢しようとしたら作戦中止!あげくの果てにこんな昼間から強襲作戦!

 これはもう、作戦が終わったら東条提督に夜這いを仕掛けてでも夜戦の許可をもらわないと――――』

 『ちょっ、ちょっと待って、川内姉さん……!姉さんが第五作戦部隊に回されたのは、陸戦隊の指揮能力を見込んでのことだし、作戦が中止になって強襲作戦に切り替わったのも、東条提督のせいじゃないから……!』

 

 何としても姉の夜這い(夜中じゅう騒ぎ立てての睡眠妨害)から東条提督を守るべく必死にフォローを入れる神通。その甲斐あって何とか夜這いをやめさせることには成功した。

 

 『でも、珍しいですね』

 『何が?』

 『東条提督が、ここまで戦局をコントロールできないなんて。それだけ『亡霊軍隊』が強大な勢力という事なのでしょうか……?』

 

 東条少将が立案した『ジャワ島防衛作戦』。しかし神通の言うとおり、その作戦は今現在、『亡霊軍隊』の出現により、大きくかき乱された状態にある。なんとか計画を変更し食らいついているのの、その対応は後手に回っているように見え、とても戦局をコントロールしているとは神通には思えなかった。

 

 『まぁ、戦艦棲姫が率いる、深海棲艦の上陸部隊を、航空基地ごと叩き潰すんだから『亡霊軍隊』強大な勢力という考え()、間違ってないんじゃない?』

 『「強大な勢力という考え()」?それ以外にも何かあるの?姉さん』

 『さてさて……』

 

 含みのある言い方に、神通は問いかけるも、川内は適当にはぐらかした。

 答える気がないのが分かったのか追及を諦める神通を尻目に、川内はその思考を内側に沈めていく。

 

 (一体、我らが提督殿にとって、どこまでが()()()なんだか)

 

 『亡霊軍隊』により大きく乱された戦局。だが無秩序に見えてその方向は、一定の方向を向いている。

 ジャワ島での遊撃戦力として、控えていた第五作戦部隊には島内を迅速に移動する手段として、輸送ヘリが配備されていたものの、今、彼女達が乗っている輸送機は配備されてはいなかった。

 いや、そもそも今回の作戦の戦力欄に輸送機の名前は載ってはいなかった。

 しかし、彼女達が向かうように指示された第1航空基地に着いてみれば、そこには発進準備を整えた二機の輸送機『C-1改』の姿が。

 聞けば、作戦開始の三日前に、()()別の任務で訪れていたらしい。

 しかもどこかで、伝達ミスがあったのか、その任務自体は()()だったそうだ。

 任務は空振り、しかし重要な作戦前で何もせずに帰るのは憚られるため、急きょ、予備戦力として組み込まれたそうだ。

 そして()()作戦が変更され、日の目を見ることができたらしい。

 

 今も機体の側面についている小さな窓から下界を覗き見れば、基地航空隊が、深海棲艦・上陸部隊に対して猛追を加えていた。

 機体の数を見る限り、命令が下された航空基地は、その全てが命令通り、航空隊を派遣することができたようだ。()()()()()()()

 

 まるでゲームのように困難に対しての打開策が降って湧いてくるような。

 まるで見えない何かの力が働いているように。

 偶然に助けられ。

 作戦の変更により現場に負担を強いているものの、決して不可能ではなく。

 『亡霊軍隊』という脅威に対して、迅速に対処していた。

 まるで、()()()()()()()()()()()()

 

 おそらくこの絵を描いたのは、彼女たちの上司である東条少将だろう。

 この戦局は彼にとっては想定内。いや、それどころかこの『亡霊軍隊』出現こそが、東条少将にとって計画通りかもしれない、と川内は思っていた。

 

 もちろん証拠などない。もしそうだとしても東条少将がそのようなものを残すはずはない。

 これはただの勘。

 ただの一兵士の、一艦娘の勘に過ぎない。

 だが、川内は半ば確信していた。

 

 

 

 

 

 この戦争は、未だ、彼の手のひらから出てはいない

 

 

 

 

 

 (まあ、()()()()()()()()())

 

 しかし、川内はその勘を――――ある意味、東条少将の本当の目的に一番近づいた――――その思考を簡単に切って捨てた。

 先ほど、神通に対してこの考えを言わなかった理由は二つある。

 

 一つ目は、証拠がないから。

 わざわざ、証拠のないことを話して疑念を広げる必要もない。

 

 二つ目は、本当にどうでもいいこと、だからだ。

 仮に先ほどの勘が本当だったとして、仮に真の目的を隠していたとして、()()()()()という話だ。

 

 自分たちは一兵士、一艦娘にすぎない。

 たかが、戦場の一駒にすぎない自分たちが、すべての計画を把握しておく必要などない。

 

 差し手の指示通りに動き、戦う。

 

 もちろん、差し手がボンクラならば、それ相応の対処をしなければならないが、その点については心配はいらない。

 東条少将は『勝てる』差し手だ。

 

 ならば()()()()()()()

 勝つことができるならば、その他のことなど、どうでもいいことだ。

 たとえ、この作戦自体に大きな陰謀を描いたとしても、勝利というペンキでくまなく塗り潰してしまえば、何も見えやしないのだから。

 

 

 『あーあ、こちら第五作戦部隊・旗艦『川内』~。そっちの準備は完了してる?』

 『こちら第五作戦部隊・第三艦隊、問題ないぜ』

 『第四艦隊も問題ないわぁ』

 

 先ほどの思考をあっさり切り替えた川内は、別の輸送機に分乗している、第五作戦部隊・第三艦隊旗艦の『天龍』、第四艦隊旗艦と『龍田』と相互通信を開いた。

 

 『一応、分かっていると思うけど作戦の確認をするね。私達、第五作戦部隊は降下後、第一第二艦隊と第三第四艦隊に分かれ、両翼から深海棲艦・上陸部隊を強襲!基地航空隊、潜水艦隊と共同して、しつこく対空砲を打ち上げてる護衛艦隊共を無力化していくわよ!ただ引き際は間違えないでね、怖い怖い『亡霊』たちに取りつかれるかもしれないから!』

 『了解!了解!わかってるって!』

 『もぅ天龍ちゃんったら♪私の方も了解よぉ』

 「降下、六分前です!」

 

 天龍、龍田との相互通信を終了した丁度その時、後部扉の前にいた隊員の声が聞きこえた。その声を聞いた川内は、隣にいる神通と軽く頷き合うと、共に立ち上がった。

 

 「それじゃあ、いきますか!第五作戦部隊・第一艦隊、出撃準備!」

 「第五作戦部隊・第二艦隊。各艦、出撃準備……行きましょう!」

 「「「はい!」」」

 

 相互通信ではなく声での掛け声を発したことにより、外見だけではなく、内面も兵士のソレに置き換わっていく。そして一斉に立ち上がった少女たちには、いつの間にか携帯艤装が装備されていた。

 準備が整ったことを確認した隊員は、ついに後部扉を開け放った。

 

 開け放たれたと同時に吹き込んだ突風は、抜け穴を見つけたかのごとく、先ほどまで適度に与圧されていた貨物室に一気に舞い込んだ。

 貨物室の中に舞い込んでくる突風に、先ほどまで十分うるさかったのに、何倍も拡大され、風切り音まで追加されたエンジンの騒音に振動。

 そして。

 先ほどまで聴覚でしか感じられなかった、戦場が、大きく開け放たれた後部扉から顔をのぞかせた。

 視覚と、聴覚、風に乗って微かに臭う硝煙が、嗅覚を通してダイレクトに戦場の恐怖を伝えるも、彼女達は一切動じなかった。

 

  ≪コンボイ一番機 コース良し コース良し 用意!用意!用意!降下!降下!降下!≫

 「いやっほぅ!!!」

 

 それどころか、楽しげに声を上げる川内を筆頭に、一切の恐怖心を感じさせず、次々とはるか上空を飛ぶ輸送機から飛び降りていった。

 遠くに見える輸送機からも降下していく、おそらく第五作戦部隊の第三艦隊、第四艦隊の面々であろう小さな人影が見えた。

 轟々と全身に叩きつける風を身で切りつつ、降下していく第五作戦部隊の面々。

 その背には、携帯艤装だけが装着されており、パラシュートといった類の者は装着されていない。

 ただの人間ならばそのまま海面に叩きつけられ小規模な水柱を作るだけに終わるが、彼女らは違う。

 彼女達は、第二次世界大戦時の艦艇の魂を持つ艦娘。

 生身で戦車の砲撃に耐えれる防御力、そして凶悪な戦闘能力を持つ艦娘だ。

 上空でゆっくりと漂い、対空砲の的になるだけのパラシュートなど、彼女達には邪魔になる存在でしかない。

 

 海面に着水したことで次々に立ち上がる、大きな水柱。その自らが作り出した水柱を切り裂きながら、無傷の艦娘達が姿を現した。

 移動しながら、しだいに合流していく艦娘達。そして五分もしないうちに第五作戦部隊の第一艦隊、第二艦隊の全員が集結し、突撃準備を整えた。

 

 「さぁ、第一艦隊、仕掛けるよ!」

 「第二艦隊……突撃します、私に続いて!」

 

 そして空挺降下により素早く戦場に展開した、第五作戦部隊は、二つの艦隊には分かれ、深海棲艦・上陸部隊の両翼より強襲すべく、戦場と化したフローレス海へと進撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

   臨時作戦 作戦名『フローレス海海戦』

 

 

 作戦内容『ジャワ島へと進撃していた深海棲艦・上陸部隊が、フローレス海域にて、正体不明の勢力の手により壊滅。撤退に追い込まれた。第五作戦部隊は空挺降下を実施し、同海域に展開。同じく同海域に展開した、基地航空隊、潜水艦隊と共に、撤退する深海棲艦・上陸部隊を強襲!追撃せよ!

 なお、作戦行動中に、正体不明の戦力が攻撃を仕掛けてくる可能性がある。引き際を見誤るな!』

 

 

 

編成:第五作戦部隊:旗艦 軽巡 川内

     第一艦隊:旗艦 軽巡 川内

             駆逐 松風

             駆逐 旗風

             駆逐 水無月

             駆逐 文月

             駆逐 卯月

 

 

     第二艦隊:旗艦:軽巡 神通

             駆逐 追風

             駆逐 疾風

             駆逐 朝凪

             駆逐 夕凪

             駆逐 夕月

 

 

     第三艦隊:旗艦 軽巡 天龍

             駆逐 神風

             駆逐 睦月

             駆逐 皐月

             駆逐 菊月

             駆逐 望月

 

 

     第四艦隊:旗艦:軽巡 龍田

             駆逐 春風

             駆逐 如月

             駆逐 長月

             駆逐 三日月

             駆逐 弥生

 

 

 

編成:潜水艦隊      潜水艦 U-511         

             潜水艦 伊8

             潜水艦 伊13

             潜水艦 伊14

             潜水艦 伊19

             潜水艦 伊58

             潜水艦 伊168

 






 戦況報告
        タウイタウイ方面

          人類陣営
           タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊

          深海陣営
           ポート・モレスビー方面 空母機動部隊
 

               交戦状態



        フローレス海方面
          
          人類陣営
           タウイタウイ方面軍 第五作戦部隊
           タウイタウイ方面軍 基地航空隊
                     潜水艦隊

          深海陣営
           ダーウィン方面 上陸部隊


               交戦開始
     

          

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