空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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 お、お久しぶりです。書いては消してを繰り返してたら、こんなにも期間が開いてしまいました。次は早く投稿できるはず(大本営発表)




第27話 手段のための目的

――――1999年9月30日 PM 4:00 リンガ軍港 作戦司令部

 

 

 

「正体不明の勢力―――亡霊軍隊によるものと思われる攻撃を受け、撤退していた深海棲艦・上陸部隊は基地航空隊、第五作戦部隊、潜水艦隊の追撃に耐えきれず船団を解除し潰走。

 今現在、第五作戦部隊は大型艦艇の強襲を、それ以外の部隊は、護衛艦艇から輸送艦級へ目標を変更し、追撃を続けています」

 「……うむ。だが結局、深海棲艦・上陸部隊が潰走するという段階に至っても、亡霊軍隊の目撃情報などは一切なし、か。

 ……一体何がしたいんだ、奴らは」

 「いやホントに」

 

 

 『ジャワ島防衛作戦』全体の指揮を取る作戦司令部。

 東条少将から作戦の現状を聞いたレジェス大将と橋本少将は、巨大な机の上に広げられた東南アジア全体の地図を眺めながら、揃って疲れたような声を上げた。

 

 

 「上陸部隊共の統制は完全に崩壊。ここまで壊れたら艦隊として機能せんでしょうな。

 残るは散らばった深海棲艦の艦艇をプチプチ潰していくだけの消化試合。

 もはや我々の戦力を吸引する、生き餌の役目は期待できんでしょう。

 もし亡霊軍隊が狙っていたのが、我々の戦力分散だったとしたら、この瞬間までが、釣り出された追撃部隊なり、防衛戦力が抽出され、一時的に弱体化したジャワ島なりに対して、襲撃をかける最後のチャンスだったはず。

 にもかかわらず深海棲艦・上陸部隊に対する攻撃以降、全く音沙汰なし。

 ここまで深海棲艦・上陸部隊と航空基地を叩いておいてトドメを刺さず、さりとて餌として利用することもなく放置するとは……いやはや、一体どういうつもりなのやら」

 

 橋本少将は、頭をかきながらそう答えた。

 

 三時間前、深海棲艦・上陸部隊、壊滅の一報を聞き、大荒れした雰囲気とは打って変わって、作戦司令部内では再度、困惑した空気が流れ始めていた。

 

 その空気の原因は、言わずもがな『亡霊軍隊』である。

 東南アジア連合軍と、自衛隊主導で現在、進行している『ジャワ島防衛作戦』に突如乱入、航空基地を無力化し、深海棲艦・上陸部隊に壊滅的被害を与えた謎の軍隊『亡霊軍隊』。

 だが『亡霊軍隊』はせっかく多大なダメージを与えた深海棲艦・上陸部隊に止めを刺さず、忽然と姿を消した。

 

 防衛作戦を指揮する作戦司令部では、この不可解な行動を『亡霊軍隊』の罠と判断した。

 

 死にかけの深海棲艦・上陸部隊という餌を使い、その餌に食いついた追撃部隊か、もしくは追撃部隊の戦力抽出のために、防衛能力が減衰したジャワ島の施設に奇襲攻撃を仕掛けると考えたのだ。

 

 作戦司令部は、逆に『亡霊軍隊』の正体を暴くために、騙され、のこのこと釣られた間抜けを装った。

 その実、万全の準備を整えた追撃部隊という名の威力偵察部隊を派遣。

 ジャワ島での応戦準備も、秘密裏に整え、『亡霊軍隊』を待ち構えた。

 

 ところが。追撃部隊が、深海棲艦・上陸部隊に襲い掛かり、上陸部隊が潰走する段階に至ってもなお、『亡霊軍隊』どこにも姿を見せなかった。

 

 「……我らが亡霊軍隊の目的を察知したことを気づいて、引き上げたという可能性は?」

 「うーん、それはないと思いますがねぇ。

 亡霊共にとしたら、深海棲艦・上陸部隊と航空基地壊滅のために大量の戦略物資を消費しているはず。

 ここで引いてしまえは、その物資がすべて無駄になります。

 それに、こちらが察知しているいないに関わらず、追撃部隊、戦力の分散には成功している以上、亡霊共の計画通りには進んでいるはず。

 引き上げる理由にはなりませんし、仕掛けない理由にはなりませんなぁ。

 ……尤も亡霊共の目的が、我々の戦力分散であれば、の話ですが」

 「読み違えたか?」

 「恐らくは」

 

 もし、『亡霊軍隊』の目的が、東南アジア連合軍と自衛隊の戦力分散だとするならば、今のこの状況は『亡霊軍隊』の思い描いた通りに進行している。

 例え、東南アジア連合軍と自衛隊に感づかれたとしても、今この戦争の主導権は、明確にフリーハンドを得、好きな場所を選択して攻撃することのできる『亡霊軍隊』が握っている。

 主導権を『亡霊軍隊』が握っている以上、たかが感づかれた程度で、彼らが思い描いた通りに進んでいる現状を放棄し、引くという理由にはならなかった。

 だが、今現在。『亡霊軍隊』は、未だどこにも姿を見せていない。

 

 仕掛けることができるのに仕掛けない。

 それはつまり、『亡霊軍隊』の目的は、東南アジア連合軍と自衛隊の戦力分散ではない、と言っているに等しかった。

 

 「となると、いよいよもって亡霊共の目的が掴めませんなぁ」

 

 『亡霊軍隊』がこちらの戦力分散を狙っているというのは、あくまで推測。

 現状、『亡霊軍隊』が取る、あまりにも不可解な行動に、推測を重ね、最もらしい(・・・)目的を探したに過ぎない以上、読み違えるということはあり得る話だ。

 だが、この推測が外れてしまえば、いよいよもって、この不可解な行動を説明できるだけの目的が見つからない。

 

 「目的が不明なのもそうだが、()()も無視できぬ問題だ」

 「はぁ……。確かに」

 「……そうですね」

 

 レジェス大将はそういうと、先ほど読み終えた報告書を机の上に放り投げ、橋本少将と東条少将は、同意の言葉を示した。

 二人の少将の前にも、同一のものが置かれている。

 

 それは、亡霊軍隊から攻撃を受けたであろう深海棲艦・上陸部隊と航空基地の損害を偵察した報告書だった。 

 つい先ほど挙がってきたばかりのその報告書には、各観測所から送られてきた情報も合わせて記載されており、今現在、判明している範囲内での、深海棲艦・上陸部隊と航空基地の詳しい損害の状況が記されていた。

 

  「……『深海棲艦・上陸部隊の被害は、輪形陣の中心部、大型艦艇に集中。

 外周を守る艦艇、及び輸送艦隊には、ほとんど損害がないことから、『亡霊軍隊』は深海棲艦・上陸部隊に対し、奇襲攻撃を敢行。

 艦隊の中核である大型艦艇のみに攻撃を限定、集中させることで、深海棲艦・上陸部隊に対し壊滅的被害を与えたものと推測される』

 深海棲艦・上陸部隊に対しての攻撃手段は大方、予想した通りです。問題は―――」

 

 「―――『深海棲艦・上陸部隊に対し、航空支援が可能である、4か所全ての航空基地で損害を確認。

 同基地に駐屯する深海棲艦軍が、統率された動きで基地の復旧作業に従事していることから、飛行場姫は健在であると推測される。

 そして基地の広範囲に大量の爆撃跡が確認されたことから『亡霊軍隊』は、根拠地ポート・モレスビーを含む、4か所の航空基地に対し、同基地を統率する飛行場姫の撃破による無力化ではなく、戦術爆撃(・・・・)を敢行。基地内の滑走路、及び主要施設を破壊することで、航空基地の機能を一時的に無力化したものと思われる』ですか。

まさか航空基地を爆撃で押し潰していたとはね。あの亡霊共、これほどの航空戦力を一体どうやって集めたんでしょうなぁ?」

 

 彼らが今、頭を悩ませている問題。

 それは『亡霊軍隊』が、4か所の航空基地の無力化するために用いた手段だった。

 深海棲艦の航空基地を無力化する手段は2つある。

 

 一つめは、『航空基地を総括する飛行場姫を撃破することによる恒久的な無力化』。

 航空基地の命令系統は、飛行場姫を頂点としたピラミッド型だ。航空基地に所属する航空機、兵士は、その末端にいたるまで全て、飛行場姫の支配下にあり、命令を忠実に実行する駒となる。

 だが、その唯一無二な能力のために、飛行場姫の代行をできる者はおらず、仮にいなくなれば、その航空基地は途端にその統率力を失い、烏合の衆となる。

 一つめの手段とは、トップである飛行場姫を始末することで、航空基地の指揮系統を機能不全に陥らせての恒久的な無力化をしてしまう、という手段だ。

 

 二つめは、『航空基地に対する戦術爆撃による一時的な無力化』。

 爆撃機編隊を持って航空基地を空襲。レーダー施設や格納庫、滑走路などを徹底的に爆撃することで、航空基地を物理的に機能不全に陥らせ、一時的な無力化を狙うという手段だ。

 

 

 ここにいる三人は、『亡霊軍隊』は前者、一つめの手段を用いて4か所の航空基地を無力化したものと考えていた。

 通常ならば、航空基地の守備隊を率い、また自身も強力な武装を有する飛行場姫の撃破は困難を極める。

 だが『亡霊軍隊』は、当時、深海棲艦の支配圏内であったはずのジャワ島にて、複数の飛行場姫の撃破に成功している。

 その手段は未だ明らかになってはいないが、過去に事例がある上、『亡霊軍隊』には実現不可能な二つめを考えれば、まだこちらのほうが可能性があったからだ。

 

 しかし『亡霊軍隊』は、彼らには不可能なはずの二つめ、戦術爆撃による一時的な無力化を成し遂げていた。

 

 

 「……深海棲艦の航空基地は互いに連絡を取り合っておる。

 どこか1か所でも攻撃すれば、援軍要請を受けた残りの航空基地からすぐさま大量の援軍が、文字通り飛んでくるだろう。

 そのような敵に対し、司令官の撃破ではなく、戦術爆撃による無力化を達成するには、4か所の航空基地を全て同時に無力化するか。

 もしくは真正面から援軍を叩き潰しながら、1か所づつ無力化していくか。

 しかも司令官たる飛行場姫が生存しているのならば生半可なダメージではすぐに修復させてしまうだろう。

 と、なれば必要となるのは物量。

 飛行場姫の修復速度を上回るダメージを叩き込まねばなるまい」

 

「おまけに亡霊共は深海棲艦・上陸部隊も奇襲攻撃とはいえ、航空戦力で潰してます。

 ……まぁそもそも作戦行動中で周辺海域を厳重に警戒しているはずの深海棲艦・上陸部隊に、何で奇襲できたんだ、という疑問も残ってますが、それはともかく。

 深海棲艦・上陸部隊と4か所の航空基地を真正面から潰せるだけの航空戦力なんぞ、小官のところの空母艦娘、全員の協力を仰いだって足りやしない。それプラス、複数の航空基地の航空機を動員してようやく足りるか、それほどのもんです。

 それほどの膨大な航空戦力を?

 我々に一切探知されずに運用する?

 ……ははっ、中々笑えるジョークじゃないですかねぇ?」

 

 橋本少将が匙を投げたようにそう答えた。

 

 これをしたのが、自分達、東南アジア連合と自衛隊ならば可能だ。

 橋本少将の空母艦娘と、ジャワ島に点在する複数の航空基地。

 それらを運用すれば、似たような結果を作り出すことはできる。

 

 ただ、一言でできるといっても、そこにはとてつもない労力が必要だ。

 いくら艦娘と妖精さんのおかげで運用コストを大幅に削減できたとしても、基地の手配から、資源の調達。艦娘の艦隊が、停泊し補給できるだけの戦略物資と港。

 その他にも様々な事柄に、膨大な人員が必要となる。

 それは、国家という巨大な枠組み同士が集まって結成された東南アジア連合軍と、先進国に名を連ねる日本の軍隊?であり、多くの艦娘を保有する自衛隊だからこそできる芸当だ。

 有象無象の組織が真似できるものではない。

 

 だが、しかし。

 一組織でしかないはずの『亡霊軍隊』は、これを成し遂げた。

 しかも自分達にその行動を一切探知されずに。

 探知されずに、これほど大規模な作戦行動を遂行するなど、自分達でも不可能だ。

 しかし今ある情報の断片をつなぎ合わせてれば、事実そうなってしまう。 

 挙句の果てに、これほどの行動を起こす目的が未だに分からない。

 

 手段不明。目的不明。

 情報が明らかになるほど、まるで風船のように際限なく膨らんでいく『亡霊軍隊』の虚像に対し、作戦司令部は完全に手をこまねいていた。

 

 しかし。

 

 「……手段こそが目的ならば」

 「ん?どうしたんや、東条少将」

 「この手段を行使することこそが、『亡霊軍隊』の目的だったならば、どうだ?」

 

 先ほどまで積極的に、会話に加わらなかった東条少将が口を開いた。

 

 「どういうことかね東条少将?」

 「そのままの意味ですレジェス大将。『亡霊軍隊』の目的は、戦果を稼ぐことでも、戦力分散を狙うことでもなく、手段を行使すること。つまり深海棲艦に対し、自身が持つ手段が有用であるかどうかの検証(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が目的ではないか、と考えます」 

 「……ちょっと待て。ということなら『亡霊軍隊』の目的は……、『ジャワ島防衛作戦』という戦場を利用した……いや、東南アジア戦線を利用した手段―――新兵器の運用実験てことか!」

 

 橋本少将の疑問に、東条少将は頷いた。

 東条少将が推測した、『亡霊軍隊』の目的。

 それは、東南アジア戦線を利用した、深海棲艦に対し、有効な効果を発揮する新兵器。

 その秘密裏な運用実験だ。

 

 手段こそが目的。

 

 東南アジア戦線は言わば、巨大な実験場。

 彼らが欲しているのは戦果ではなく、兵器の運用データ。

 それさえ取れれば、兵器の的である深海棲艦に、いちいちトドメを刺す必要などない。

  東南アジアの広範囲に、出没した痕跡があるのも幅広い運用データを集めている、と考えることもできる。

 姿を見せないのは、その兵器は自分たちに知られたくない、隠匿しておきたい兵器ということか。

 

 確かにこれが『亡霊軍隊』の目的ならば、一連の彼らの不可解な行動を説明付けることができる。

 

 「うーむ、ある意味では筋は通っておるが……。これほどの手段を生み出せる兵器?艦娘の兵器にそんなものあったか?

 確か艦娘の兵器の性能は、もうすでに頭打ちであろう?」

 「えぇ、もうすでに各国との交渉で上限(・・)の兵器の金型はあらかた入手済みです。その上限の中でどんな組み合わせをしたって数を増やす以外に『亡霊軍隊』と同等の結果を出すことなんぞ、不可能でしょう」

 

 しかし、レジェス大将、橋本少将の反応は鈍かった。

 

 仮に東条少将の推測通り、『亡霊軍隊』の目的が手段の行使だったとして。

 まだ大きな問題が解消されていない。

 

 『亡霊軍隊』が行使した手段、兵器とは何かということだ。

 

 

 今現在、日本の艦娘が使用している艤装、そして航空機は、『Bofors 40mm四連装機関砲』然り、『A-1 スカイレイダー』然り。

 一部の例外を除き、「妖精さんが作り出すことができる兵器は、第二次世界大戦時の存在していた兵器のみ」という制限の中で、最も『上限』。第二次世界大戦後期、もしくは終戦間際に作られた優秀な兵器を装備している。

 他のどの国もこの『上限』を突破できていない現状、今彼女たちが装備している兵器こそが最も優れた武器となる。

 その兵器を十全に駆使してもなお、『亡霊軍隊』が残した戦果には遠く及ばないのだ。

 

 

 「いえ、艦娘が使う兵器ではありません(・・・・・・・・・・)

 

 しかし東条少将はあっけなくそれを否定した。

 

 「……何だと?」

 「先ほどから、『亡霊軍隊』が豊富な航空戦力を持って、深海棲艦・上陸部隊と航空基地群を空爆し壊滅させた、と前提に考えていますが……、別に航空機である必要はないでしょう(・・・・・・・・・・・・・)

 要は『遠くから、目標に向かって飛翔し、爆弾を投下する』

 この機能さえあれば、大量の航空機を用意しなくとも……。いえ、艦娘を一切動員しなくとも(・・・・・・・・・・・・)、深海棲艦・上陸部隊と航空基地群に、損害を与えた『亡霊軍隊』と同じ結果を出すことは可能でしょう」

 「ま、まさか!?」

 「おいおい、ちょっと待て、まさか『ソレ』って!?」

 

 ここに来てようやく二人は、東条少将の言う兵器に思い至った。

 

 『ソレ』は彼らにとっては、特に珍しい兵器ではない。いや、なかった。

 五年前より、今もなお続く、世界的な電波障害さえなければ、『ソレ』を用いて今とは比べ物にならないほど深海棲艦との戦争を優勢に進めていたことだろう。

 

 目標に向かって誘導を受けるか自律誘導によって自ら進路を変えながら、自らの推進装置によって飛翔していく軍事兵器――――

 

 

 「「ミサイルか!!!」」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 「……そうか、ミサイル、ミサイルか!

 確かに、対艦ミサイルと巡航ミサイルあたりを使えれば、艦娘や基地航空隊を動員するよりも、遥かに少ない戦力で、同等の事を成し遂げることができる!」

 

 「……それに作戦行動中であるはずの上陸部隊共に対し、簡単に奇襲ができたことも説明がつきますなぁ。

 第二次世界大戦の艦艇がベースの深海棲艦共じゃ、航空機の索敵範囲外から亜音速で飛んでくる対艦誘導弾―――もとい、対艦ミサイルなんぞ捕捉も迎撃もできやしません。

  航空基地群も同様。遠距離から巡航ミサイルによる先制攻撃で4か所の航空基地の滑走路さえ先に潰してしまえば後は消化試合。

 飛びたてない航空機ごと順番に基地を空爆していけば容易に無力化できるでしょう。

 数も一個艦隊もあれば、十分だ」

 

 「『手段』については完全に説明がつく。そしてミサイルが……中・長距離ミサイルが使用されたならばその『目的』も!」

 

 「ええ、東南アジア戦線の戦場を利用したミサイル兵器の運用試験ならば、隠匿する理由も含めてすべて説明がつきます」

 

 「…………戦争が変わるぞ!」

 

 レジェス大将の言葉に、東条少将と橋本少将は頷いた。

 

 ミサイル使用の可能性。それはこの世界ではとてつもなく大きい意味が込められている。

 

 五年前、深海棲艦の出現と同時に始まり、今なお続く世界的な電波障害。

 この電波障害せいで、レーダーに有線を除いた通信機器、そしてミサイルを含めた誘導兵器類はほとんどすべて使用不能となった。

 深海棲艦との戦争初期。とんでもない物量で攻めてくるとはいえ、第二次世界大戦時の兵器がベースの深海棲艦に、ここまで人類側が無残な敗退を重ねた続けたのも、この電波障害により現代艦の主力兵装の大半が封じられたことが大きい。

 例えるならば、目を塞ぎ、両手を縛った状態で、敵と戦えと言っているようなものだ。

 はるか遠くの敵を素早く探知、艦艇同士で情報を共有し、遠距離からいかにミサイルを当て、敵を撃破するかを戦闘方針としている現代艦が、それを封じられ、時代錯誤な有視界戦闘を強要された時点で勝ち目はなかった。

 

 それから五年。

 優秀な兵器であり、兵士でもある艦娘の実戦投入により、戦線は好転。

 使用不能となっていた通信機器、レーダーも思考錯誤の末、その性能はかなり劣化しているものの、前線に投入できてはいる。

 しかし、ミサイル兵器に関しては、どこの国も前線で使用する国はいなかった。

 

 ミサイル兵器の強み、それは、はるか遠くから目標を狙い撃つことのできる長距離攻撃能力。

 そして、音速で飛び回ろうと、目標を捉え、追尾することのできる、高い命中精度だ。

 

 しかし常に凶悪な電波障害―――電波妨害(ノイズ・ジャミング)を食らっているせいで、中・長距離ミサイルの誘導方式である電波を媒体としたホーミング誘導は使用不能。

 しかも今現在、肝心の敵を見つけるレーダーの性能は劣化し、探知範囲は数十キロ程度しかない。

 ミサイルの有効射程もそれに比例することになる。これでは現代艦に取り付けられている砲―――速射砲に少し勝る程度しかなかった。

 この程度では、到底ミサイルの強みである、長距離攻撃能力の水準を満たせるはずもない。

 

 一方の命中精度も、深海棲艦に対しては過剰スペックだった。

 

 なにせ深海棲艦のベースは第二次世界大戦時の兵器群だ。

 水上艦はもちろんのこと、音速の壁も超えることのできない航空機など、対空ミサイルなど使うまでもなく、速射砲とCIWSなどの、近接防御火器で充分迎撃可能だった。

 

 そしてこれがもっとも大きな理由になるが、コストパフォーマンス――――費用対効果の問題だ。

 敵である深海棲艦は、膨大な数を武器に侵攻してくるのだ。

 湯水のごとく、際限なく湧き出てくる敵に、一発数千万円するような、非常にお高い各種ミサイル兵器など使っていられない。

 多少射程が短くとも、遥かに安価な速射砲の砲弾を使った方が安く抑えられる。

 そして止めを刺すように、コストパフォーマンスの面においては他の追随を許さない艦娘の存在あった。

 

 こうした理由もあり、各国とも復活させるための研究は進めているものの、ミサイル兵器は前線から姿を消し、今は代用として航法・誘導装置を待たない、安価なロケット兵器が使用されている。

 ちなみに、東南アジア連合海軍が所有している、ミサイル艇も、便宜上そう呼んでいるだけで、主武装はロケット兵器となっている。

 

 彼らがミサイル兵器使用の可能性にすぐさま思い至れなかったのも、そのあたりが原因だった。

 復活を模索する後方ならばともかく、最前線で深海棲艦と熾烈な争いを繰り広げる彼らにとって、主軸は艦娘であり、それに速射砲とロケット兵器が続く。

 ミサイル兵器というものは、もはや考慮する価値もない『忘れられた兵器』というべき存在でしかないのだから。

 

 

 だが。

 

 誰かが、ミサイル兵器の完全復活に成功したのならば。

 

 ミサイル兵器の強みを、十全に発揮できるようになったのならば。

 

 レジェス大将の言うとおり、間違いなく戦争は変わる。

 

 

 「ミサイル兵器を使わんようになったのも、有効射程の減衰が決定打みたいなもんでしょう。

 確かにコストパフォーマンスの問題が大きいですが、そんなもの、長距離攻撃能力さえ失われていなければ十分ペイできます。

 深海棲艦の索敵範囲外から攻撃できれば、それだけで自軍の被害を最少に抑えることができますからなぁ」

 

 「……しかもミサイル兵器、レーダー、通信機器が使用不可能なのも、元を辿れば全て電波障害が原因です。

 その中で、あらゆる面で電波障害による影響を受けている、中・遠距離ミサイルの復活に成功したということはつまり、レーダー、通信機器の復活と同義。

 この世界を覆う電波障害に対して、抜本的な解決方法を見つけた(・・・・・・・・・・・・・)ということになります」

 

「……五年前より、失われた現代戦術の復活。

 世界各国より先んじて、次のステージを駆け上るための手段。

 亡霊軍隊の目的が、その手段の検証、証明であれば、不可解な軍事行動にも説明がつく!

 くそっ!我々はまんまと利用されたということか!」

 

 「実戦での運用試験を終え、信頼性を取り戻した、かつての現代兵器群。

 この五年間、深海棲艦との戦争で積み上げてきた歴史と経験すべて無にする最凶なジョーカー。

 そんなものが公表されれば、良くも悪くも、『戦争』のすべてが変わりますな。

 さしずめ『第二のドレットノート』といったところですか?」

 

 三人の間に重い沈黙が流れた。

 

 これは巨大な爆弾だ。

 

 五年前の世界的な電波障害以来、人類は深海棲艦との戦争において、常にハンディを負わされていた。

 しかし、人間は脅威に対して、成長し、乗り越えることのできる生き物だ。

 この五年間において人類は、電波障害と深海棲艦という脅威に対し、あらゆる角度から挑戦し乗り越えようと努力してきた。

 それは有線通信網の発達であったり、国同士の結束であったり、艦娘の召喚であったり。

 しかし一番大きいのは、電波障害と深海棲艦という脅威に対し、矢面に立って対処する軍の運用方法だ。

 自衛隊然り、東南アジア連合軍然り、深海棲艦の脅威に、直接晒される国々の軍隊は、いち早くその脅威に対処するべく、数多の犠牲を払いながらも加速度的に成長した。

 そして世界各国の軍隊は、世界的な電波障害で、現代兵器の数々が封じられていても戦えるよう、この五年間の中で『最適化』されていった。

 今や新造の艦艇には、砲撃戦が想定された重装甲や、深海棲艦の装甲をぶち抜ける大口砲門が当たり前であり、ミサイルハッチなどは、航空機の接近を防ぐ近接防御火器の増設のために、取り払われる事が常だ。

 

 普通であれば考えられないことだが、これが電波障害と深海棲艦という脅威に対抗するべく『最適化』された結果だ。

 しかし、世界を覆う電波障害に対して、抜本的な解決方法を見つけてしまえば。

 

 電波障害という脅威が完全に消滅してしまえば。

 

 現代戦術の復活と共に、二つの脅威を前提(土台)として『最適化』し、これまで積み上げてきた経験(建物)はその全てが、砂上の楼閣の如く崩れ落ち、無価値となる。

 

 戦艦ドレットノートの出現により、これまでの既存戦艦が全て陳腐化し、スクラップ同然と化したように。

 

 この巨大な爆弾が爆発すれば、これまで電波障害を前提とした既存艦と装備は全てガラクタとなり、世界のパワーバランスは大きく変動する

 

 「『第二のドレットノート』か。言い得て妙だな。

 だか今回のフィッシャー卿は秘匿に走った。

 そうなれば、自爆した大英帝国の役目は我々になるぞ」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 「もしも亡霊軍隊の目的が東条少将の予想通りであり、この爆弾が破裂すれば……。

 我々が心血を注いで築き上げた東南アジア連合海軍。その艦艇全てが旧式化するか……。地獄だな」

 

 「我々(海上自衛隊)も似たり寄ったりです。

 本土では一度壊滅した護衛艦隊の定数を埋めるべく、一気に量産しましたからなぁ。

 量産した護衛艦艇は、大半が日本本土防衛についていたとはいえ、ほとんど実戦もせず。

 挙句、その全てが陳腐化したとなれば……。

 ははっ、怒り狂った財務省がクーデターでも起こしそうですな」

 

 新たに浮上した亡霊軍隊の目的。

 世界のパワーバランスすら大きく変えるその危険性と、その余波が齎す損失を考えたレジェス大将、橋本少将は乾いた笑みを浮かた。

 

 

 「恐らくは海軍に力を割いているほとんどの国が、大小あれども同じような状況に陥ることになるでしょう」

 

 自分の国の最新装備が瞬時にガラクタと化す。

 

 即座に否定してしまいたい、あまりにも冷酷な未来予測。

 

 だがしかし。

 先ほどから、現代兵器群復活によるマイナス面ばかり指摘しているものの、人類と深海棲艦との戦争という面で考えれば。

 技術の進歩と考えれば、大きなプラスではある。

 復活した現代兵器群復活の技術が遍く各国に行き渡らせることができるならば、均衡状態の天秤を一気に人類側へと傾かせることができるだろう。

 それを考えれば、旧式化した兵器の更新は、惜しくはあれども、ためらうことはないはずだ。

 ではなぜここまで頭を抱えているのか。

 

 それは彼ら『亡霊軍隊』が、復活したこの技術を各国に行き渡らせる気が全くないことが明白だからだ。

 

 協調ではなく、わざわざ他国が指揮する作戦に無断で割り込み、性能実験という名の、非合法かつ極秘の軍事行動を選んだ時点でまともではない。

 おそらく、この復活した現代兵器群復活の技術というカードは、とっておき切り札として隠し持つつもりなのだだろう。

 戦争を変える、とっておきのジョーカーとして。

 ただし、それを切る相手は深海棲艦ではない。同じ人類に向けてだ。

 

 

 「亡霊共は、深海棲艦を叩き潰す槌よりも、国家に効く毒がお望みのようですな」

 「ハイエナ共め……。絶滅戦争の中ですら利益を追い求めるか」

 

 現代兵器群復活の技術の独占。

 うまく使えば、深海棲艦を大きく押し返し、人類の版図を取り戻せるであろうその技術を、己が利益のみに利用する者たちに、橋本少将はウンザリしたように呟き、レジェス大将は恨みを込め、そう吐き捨てた。

 

 「どこの『ゲス野郎』だ。亡霊共の『スポンサー』になっておるのは」

 

 

 亡霊軍隊の行動から『スポンサー』がいることは分かっている。

 

 ミサイル兵器を実戦に耐えうるラインにまで復活させたこともそうだが、それでなくても現代兵器による優越があるとはいえ、深海棲艦・上陸部隊のような大規模な艦隊に挑めるだけの戦力を保持するなど、一組織では不可能だからだ。

 

 亡霊軍隊の背後には確実に『スポンサー』がいる。

 

 それもただの企業や金持ちではない。

 

 莫大の資金と技術を亡霊軍隊に提供し、指示を出している『スポンサー(国家)』が。

 

 自国の利益のみを追求する外道が。

 

 「さぁて、今の段階では何とも。

 ……最も、技術開発をするだけの余裕がある、そして未だ各国が、見つけ得ないものを先んじて見つけ出すだけの技術力を持つ国となれば、大分と絞れますが」

 

 「現状では、証拠がないか……」

 

 「……いっそのこと、この情報を全て各国に公表します?

 決定打にはならんでしょうが、連中に対する嫌がらせにはなるでしょう」

 

 「……無理だな。

 この情報を公表するということは、すなわちこの『ジャワ島防衛作戦』で、亡霊軍隊にいいように利用されたという恥も明らかにするということだ。

 そっち(日本)はおそらく問題はないだろうが、こっちは(東南アジア連合)……、特に各国政府は許容できまい。

 こんな無様な結果を公表すれば、国民から吊し上げられ、最悪の場合、連合が分裂しかねん。

 積極的に隠蔽はしても、公表に関しては断固拒否するだろう。

 ……ううむ、こう考えることを見越して、やつらは東南アジア戦線を実験場に選んだのか?

 

 ……まぁいい、それは後で考えればいい。

 それよりも今、だ」

 

 そう言うとレジェス大将は気持ちを切り替え、東条少将と橋本少将を見据えた。

 

 「この『ジャワ島防衛作戦』で、これ以上の攻勢を『亡霊軍隊』は、仕掛けてくるか否か。

 これについてどう思う?」

 

 散々『亡霊軍隊』に引っ掻き回された『ジャワ島防衛作戦』ではあるが、作戦事態は内容を変更し、は未だに継続している。

 フローレス海では潰走する深海棲艦・上陸部隊を、基地航空隊、第五作戦部隊、潜水艦隊が追撃中であるし、タウイタウイ方面では深海棲艦・空母機動部隊と第一作戦部隊が争いを繰り広げている。

 

 それはつまり、まだ『亡霊軍隊』が付け入る隙が残されていることを意味していた。

 

 仮に『亡霊軍隊』のミサイル兵器の秘密裏な運用試験だとして。

 

 それを達成した彼らが、さらなる戦果に欲し、仕掛けてくることは十分に考えられる。

 

 「いや、それはないでしょう」

 

 しかし橋本少将は疑問をあっさりと否定した。

 

 「亡霊共のこれまでの足取りと、この『ジャワ島防衛作戦』の行動を見るに、連中は神経質なほどに正体を隠し、隠密行動を心がけてます。

 暴かれたくない理由が『商品』の方か『スポンサー』の方なのか、定かじゃありませんが。

 まぁそれはともかく。

 亡霊共が隠密行動にかなりの比重を置いているのは間違いないでしょう。

 そんな連中が我々の警戒の強まった中を、さらなるの戦果獲得のために仕掛けてくるなんぞ到底思えませんなぁ。

 発見されるリスクに対して、リターンが少なすぎます」

 

 「ふむ?

 ではもう亡霊軍隊は仕掛けてこないと?」

 

 「この『ジャワ島防衛作戦』ではという但し書きがつきますが」

 

 橋本少将の答えを聞くとレジェス大将は大きく頷いた。

 それはレジェス大将の想定した答えと、同一のものだったからだ。

 レジェス大将息をついた丁度その時、作戦司令部にアラームが鳴り響いた。

 

 「タウイタウイ作戦支部より入電!、深海棲艦・空母機動部隊が第三防衛ラインを突破しました!」

 

 オペレーターの一声により、作戦司令部内の浮ついた空気は速やかに駆逐される。

 しかしレジェス大将、橋本少将の安堵のため息を漏らした。

 

 「ふぅ、散々連中に引っ掻き回されたが、何とか着地点が見えてきたな」

 

 「作戦の方はですが。寧ろこの後の方が大変ですがねぇ

 亡霊共の追跡に『スポンサー』の特定と……あぁ、この間(ジャワ島奪還作戦)の調査チームの解析結果もそろそろ挙がってくるころでしょう」

 

 「大型艦艇に強襲を仕掛けている第五作戦部隊からも、新しい情報が入るかもしれん」

 

 今後の方針を簡単に纏めた、橋本少将はちらりと東条少将を見やった。

 そこには、顎に手を当て、じっと考え込む東条少将の姿があった。

 

 この三人の話し合い東条少将は、要所での発言の時以外は、ずっと考え込むような仕草をしていた。

 

 まあ『ジャワ島防衛作戦』の構図を描き出した責任者として、最大の異分子である『亡霊軍隊』の一挙手一投足に全神経を集中させるのも、分からなくはない。

 

 しかし橋本少将は、東条少将が何か別の問題に直面しているように見えてならなかった。

 確証も何もない、昔からの同期の友としてのただの勘。 

 

 「……どうした東条少将?何かあったか?」

 

 結局、橋本少将の口から出たのは、「何か」という随分と概要を得ない、抽象的な言葉だった。

 

 しかしその言葉に、東条少将は迷ったように何度か口を開閉し―――――

 

 

 「…………ああ。作戦は計画通りに進んでいる(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 ついに佳境へと突入した作戦司令部内で、東条少将は思考を続ける。

 

表向きの計画である『ジャワ島防衛作戦』、そしてその裏に隠された東条少将だけが知る計画である、強大な戦力を持つ謎の集団『亡霊軍隊』の戦力調査。

 

 双方の計画とも、この上なく順調に推移している(・・・・・・・・・・・・・)

 

 『ジャワ島防衛作戦』は、深海棲艦・上陸部隊が撤退を開始した時点で、第一目標であるジャワ島の防衛は達成された。第二目標である深海棲艦・空母機動部隊の撃滅に関しても、このままいけば第一作戦部隊が仕留め切るだろう。

 

 『亡霊軍隊の戦力調査』の方も、亡霊軍隊が、深海棲艦・上陸部隊をターゲットにしたことによって、一切の手傷を負うことなく亡霊軍隊の戦力を調査が可能となった。

 つい先ほど攻撃を受けた的である深海棲艦・上陸部隊を第五作戦部隊が調査することで、何かしらの物証を見つけることができる可能性も高い。

 最悪、見つけることができなくとも、これだけの行動の足跡があれば、それらから奴らの保有する戦力の概算を出すこともできる。

 

 途中話に上がっていた、亡霊軍隊のミサイル使用の可能性と、亡霊軍隊の背後に見え隠れする『スポンサー』の存在だが、これも何の問題もない。

 

 その程度のことなど対策済み(・・・・・・・・・・・・・)想定の範囲内だ(・・・・・・・)

 

 後でどうとでも対処できる。

 

 作戦は順調、いや、あらかじめ予想していた被害想定を大幅に下回ったことを考えれば、むしろ大成功に近い。

 

 

 結局のところ。

 深海棲艦であろうと、亡霊軍隊であろうと。

 何も変わりはしない、いつも通りの戦争。

 全て想定の内、彼の立てた計画からはみ出ることのない、最初から最後まで完全に予定調和な戦争計画。なのに――――

 

 (なんだ、この違和感は?)

 

 東条少将の心中は、いやこの亡霊軍隊に対する強烈な違和感で埋め尽くされていた。

 しかし、感じはすれどもその違和感の正体が掴めない。

 

 東条少将の理性的な部分は、この作戦の成功を確信している。

 だが、胸の奥の蟠りは欠片も晴れることはなかった。まるで思考の歯車がかみ合わず空回りを起こしているようだった。

 

 だが、その時。

 

 『手段こそが目的』

 

 ふと、先ほどの会議で、東条少将自身が言った言葉が思い浮かんだ。

 この言葉は、手段の検証が目的である、という意味で使った言葉なのだが、なぜか頭から離れない。

 

 そしてようやく自分が感じていた違和感の正体に気が付いた。

 

 (そうだ……。先ほどから感じていた違和感の正体、それはわざとらしさ(・・・・・・)だ)

 

 わざとらしさ、と言っても、こちらを罠に嵌めるための予兆や動作といった類のものではない。

 

 もっと概念的なもの。

 

 それはまるで一つ一つが、作戦が積み重なって結果的に戦場を形作るのではなく、意図的に捻じ曲げられた。そう、最初から戦場という『手段こそが目的』のような。

 

 それも自分たちのような、目的の達成する過程で偶発的に生じる、色のないシステマチックな戦争ではなく。

 戦争の為に戦争をする。まるで戦争という行為にストーリーを与え、観客を楽しませるように、魅せつけるようにオーバーに、そして豪奢に舞台を演じるドラマチックな戦争。

 

 そう、それに最もふさわしい言葉を与えるとするならば。それは

 

 

 (そうだ……。これは、これはまるで、『戦争という名のショー』だ!)

 

 

 自衛隊も東南アジア連合軍も深海棲艦も、そして亡霊軍隊自身さえも、何もかも一切合財、登場人物として組み込んだ戦争という名の巨大な演劇。

 

 (何をバカな……)

 

 すぐさま東条少将の理性的な部分がその考えを否定する。

 戦争の為に戦争をする。そんなもの国家に属する軍隊として、『普通』ならあり得ない。

 考えすぎだろうと。

 ただ思考が煮詰まっているから、そういう突拍子もない考えが思い浮かんだのだろうと。

 

 

 『普通』ならば、橋本少将の言う通り、退くはずだ。 これほどまで隠密行動を第一としていた亡霊軍隊が、大したリターンもなく、それを態々捨てるなどあり得ない。

 

 司令部にある東南アジア全域を写す巨大なスクリーンに、小さな電子音と共に、いくつもの緑色の光点が瞬いた。

 これは潜水艦隊からの定時連絡だ。

 深海棲艦・上陸部隊に参加している潜水艦娘を除く全潜水艦隊は、東南アジア全域に展開。海峡などの要所に無音潜航し、海上、そして海中に監視の網を張り巡らしている。

 そして、その他の監視網も、亡霊軍隊が食いつきやすいよう調整された監視網の穴も含め全て復旧している。

 

 監視網の外で攻撃した深海棲艦・上陸部隊とは訳が違う、空中に、海上に、海中に隙なく張り巡らされた巨大な監視網。

 今、行動を起こせば確実に発見される。

 もはやこのジャワ島防衛作戦において、隠密行動などできるはずもなく、亡霊軍隊が戦果を獲得する機会は、永遠に近く失われた。

 

 

 

        『普通』ならば退く。間違いなく。確実に。

 

 

 

           だが、もし。もしも、だ。

 

 

 

         奴らが『普通』ではないとしたら(・・・・・・・・・・)

 

 

 

         『手段こそが目的』だとしたら。

 

 

 

          『戦争という名のショー』

     これが何もかも一切合財、登場人物として組み込んだ。

      戦争という題材の巨大な演劇なのだとしたら。

 

 

 

              そして。

 

 

 

  この戦争が亡霊軍隊との邂逅までを(・・・・・・・・・・・・・・・・)描いた演劇なのだとしたら(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

           次に至るは最終幕。

 

 

 

  そして、それを飾るに最も相応しい場所があるとするならば、それは――――

         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――1999年9月30日 PM 4:00 タウイタウイ沖

 

 

 『きゃあっ!浸水を…防いで!』

 『まだ……まだ、沈みません! 艦隊の防空を…私はっ!』

 『第三艦隊旗艦・鈴谷より、伝ー達!涼月、秋月が中破!至急増援求むぅ!』

 『こちら第四艦隊旗艦・熊野!ただいま雷撃隊を迎撃中、手が離せませんわ!』

 『第五艦隊旗艦・利根じゃ!こちらから霜月、冬月を送る!持ちこたえてくれ!』

 『第六艦隊旗艦・筑摩です。涼月、秋月の両艦は第六艦隊で受け入れます!』

 

 タウイタウイ沖にて発生した、海上自衛隊タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊と深海棲艦・空母機動部隊との戦闘開始より八時間。

 片時も休みなく、ぶつかり合う主力艦隊同士の航空戦は、血みどろの消耗戦へと突入していた。

 

 深海棲艦・空母機動部隊は、持ち前の物量戦を展開。

 その桁違いの航空戦力を持って、第一作戦部隊の防衛線ごと、押し潰しにかかった。

 

 それを徹底的に効率化された迎撃戦闘機隊と、艦娘の統制された対空弾幕が迎え撃つものの、湯水の如く湧き出てくる航空戦力に次第に消耗。

 第一次、第二次、三次攻撃隊まで、無傷で凌いでいた防衛線も次第に突破され始め、艦艇に被害が出始めた。

 それに伴い開いた防衛線の綻びに、さらに敵航空戦力が集中。

 犠牲を顧みることなく、暴れ牛の如く突撃してくる敵航空戦力に、こじ開けられるように傷口を広げられ、対空弾幕を担っていた艦娘に一気に被害が拡大したことで防衛線は崩壊し始めた。

 特に航路上、深海棲艦・空母機動部隊に常に面し、その航空戦力を一身に受けることとなった第三艦隊の被害は著しく、戦闘能力をほぼ失った艦―――つまりは中破艦が過半を占めたことで、中央の空母艦娘で構成される第一第二艦隊を守る城壁はついに打ち崩された。

 

 この動きに第一作戦部隊は、第三艦隊の中破艦を後方を下げ、他艦隊から艦艇を抽出し宛がうことで、第三艦隊の致命的な崩壊を防いだ。

 戦闘時における艦隊の中での配置変換など、無茶を通り越して、ただの自殺行為でしかないが、彼女たちは艦娘。

 その「程度」の事、できないはずがない。

 

 巨大な艦隊の中で、複数の艦艇が次々と移動を開始。まるで陸上における部隊の人員交代のように、しかし一切の接触事故を起こすことなく変更され、スムーズに組み替えられていく。

 

 新たな艦艇を補充したことで、再度息を吹き返し対空弾幕を張り始める第三艦隊と、中心の空母艦娘で構成される第一、第二艦隊を叩き潰すべく、雪崩れ込む深海棲艦・攻撃隊。そしてそれを防ぐ迎撃戦闘機隊。

 艦隊中央にて航空戦力を統括する第一、第二艦隊すらも、敵攻撃隊を防ぐべく、機銃による迎撃を開始するほどの、両軍入り乱れた激しい争いをする中。

 

 

 タウイタイウイ方面軍・第一作戦部隊の旗艦である空母『大鳳』は、自身の艦艇のCIC室にて、現在の戦況を整理していた。

 彼女の目の前のテーブルには、今回の作戦範囲である東南アジア全域の地図が広げられ、そこには敵味方を司った駒と各作戦部隊と敵艦隊の航路が事細かく記載されている。

 それを見ながら戦況の確認をしていると、タウイタウイ作戦支部との通信を担当していた艦娘『赤城』との相互通信が開かれた。

 

  

 『第二艦隊より連絡、加賀さん翔鶴さんが、飛行甲板に被弾し離着艦困難、現在修復中です』

 「艦隊の配置的にそちらが先に狙われましたか。わかりました、両者の所属航空隊はこちらの……そうですね雲龍さんと、天城さんが受け持ってくれるそうです。誘爆の危険性は?」

 『幸い二人とも、被弾による火災はすぐに鎮火されたので、誘爆の危険もありません』

 

 

 ついに訪れた第一作戦部隊の中核である空母艦娘への被害。その報告は深海棲艦の攻撃が艦隊中枢にまで及んでいる証左でもある。

 赤城から報告を聞いた大鳳は取り乱すことなく、すぐさま他の空母艦娘と連絡を取り合い、着艦のできない両者の航空部隊の受け入れ先を見つけ出した。

 しかし、自軍の戦況の不利を示す報告が伝えられているにも関わらず、通信をする赤城、大鳳共に僅かな動揺も見られなかった。

 

 それもそのはず。『亡霊軍隊』によって、計画を大きく乱されたジャワ島方面とは違い、タウイタウイ方面は当初の計画通りに作戦が進行している。この程度の損害は許容範囲内だからだ。

 

 そもそもの話として、タウイ方面軍・第一作戦部隊と交戦している深海棲艦・空母機動部隊は艦艇の数では倍以上。

 航空戦力でも、友軍の基地航空隊の航空戦力を合わせても、その総数は大きく引き離されている。

 いくら質と、運用で上回ろうともその圧倒的な物量を容易に覆せるはずもない事は、端から予想されていた。

 

 『損害』など、端から織り込み済み。むしろこれほどの『損害』が出ているにも関わらず、

『損失』つまりは、沈んだ艦娘は一隻もいない。すべて艦娘のダメージは、戦闘能力はほぼ失っている状態であるものの、艦としての最低限の機能は健在である中破に抑えられていた。

 これも艦艇を文字通り手足の如く、操ることができるからこその、現代艦にも匹敵する高い生存能力(ダメージコントロール)おかげといえるだろう

 

 そして。

 第一作戦部隊もただ一方的にやられているわけではない。

 

 「敵艦隊を監視中の林隊より連絡。駆逐艦級の最後の一隻の沈没を確認、とのことです」

 『これで、深海棲艦・空母機動部隊を構成する全て駆逐艦級は削り切りましたか』

 

 深海棲艦・空母機動部隊との交戦が始まって以来、第一作戦部隊と航空基地群が持つ攻撃リソースの全てを、空母級や戦艦級などの大型艦艇どころか、軽空母級や重巡級の艦艇すらも一切無視し、駆逐艦級のみに振り向けた結果、八時間をかけて、深海棲艦・空母機動部隊を構成する全ての駆逐艦級を沈めきることに成功していた。

 

 

 「これで空母機動部隊の中枢を守る『盾』はなくなりました。深海棲艦・上陸部隊(友軍)が撤退した以上、陽動が目的ならば(・・・・・・・・)撤退するはずですが……」

 『タウイタウイ作戦支部より入電。深海棲艦・空母機動部隊が第三防衛ラインを突破しつつあり。敵艦隊の進路依然変わらず』

 「……やはり来ますか」

 

 それはとある(・・・)地点を起点として海に引かれた複数の防衛ライン、

 無論、これは一種の目安。便宜上そう呼称しているだけで、別に防衛ラインに海上要塞線があるわけでもないのだが、それはともかく。

 防衛ラインは全部で四つ。つまり残るは、突破されれば即アウトの最終防衛ラインしか残されていないことになる。

 だがしかし、未だに最終防衛ラインは健在。にもかかわらず友軍は撤退し、艦隊の盾となる駆逐艦級は全滅している。陽動が目的ならば、友軍が撤退した以上、これ以上の陽動は無意味。撤退を選択すべきである。駆逐艦級は全滅したものの、その他の艦艇はほとんどダメージを受けてはいなのだ。主力艦の温存という意味でも、撤退は妥当というか当然ともいえる。

 にもかかわらず、深海棲艦・空母機動部隊は撤退せず、残存する艦艇のみでとある(・・・)地点に向けて、愚直なまでに進撃を繰り返していた。

 あまりにも常軌を逸した行動。

  そのことに対し、大鳳はウンザリしたようにため息をつくも、驚きはない。

 

 なんてことはない。これが深海棲艦との戦争だからだ。

 

 

 

 深海棲艦の思考回路は、複雑な情緒を生み出す霊長類というよりも、イエスかノーで判断する昆虫のようなものにちかい。

これは数多の深海棲艦の残骸から、人間でいう脳にあたる部分を引きずり出し解析し続けて出た研究結果である。

 「特定の条件に対して特定の反応をする」といういくつかの行動パターンの組み合わせによって行動しているのだ。

 例えば、ダンゴムシは、自分の体とほぼ同じぐらいの幅の狭い穴を通る際に、壁に突き当たるごとに、右、左、右、左……と交互に進行方向を変える事が知られている。

 テントウムシは、歩いて上れる最も高い所まで上ってから飛び立つ習性がある。

 

 この行動は、ほとんどが本能的に備わっている「特定の条件に対して特定の反応をする」というものの組み合わせといえる。そこに思考は介在していない。

 

 深海棲艦もこれと同じことが言える。「特定の条件に対して特定の反応」を数千数万と積み重ねることで、あたかも「複雑に考え情緒のある」ように見えているだけだ。

 高度な対話プログラムが実際は〇と一の羅列でしかないのと同じように。

 深海棲艦の上位種である棲鬼や棲姫も例外ではなく、こちらは高度なAIと同じで、感情と云えるものを発露し、学習すれども、やはり人間のそれとはかけ離れている。

 

 深海棲艦の戦術戦略もこれに準ずる。

 

 人間達の行う、政治や情勢、利権などその他の様々な要素が複雑に絡み合い、智謀の限りを尽くしあい、時には敵だけでなく味方すらも欺き、牙を向く。それゆえに万華鏡のように目まぐるしく変化し続けていく陰惨な戦いではない。

 

 深海棲艦同士が同一の思考パターンを持つがゆえに、対立や分裂することなく一個の群のように蠢く。しかし「特定の条件に対して特定の反応」しかできないがゆえに、単色でしか描き出すことのない無機質な戦い。

 例えるならば、戦略ゲームにおけるNPCの軍隊のようなものか。 

 

 今回、深海棲艦の取った行動もそれと同様だ。  

 

 人類の戦術戦略で考えるならば、深海棲艦・空母機動部隊が、人類側の主力部隊であるタウイタウイ方面軍に陽動をかけて抑え込み、その隙を狙い本命である深海棲艦・上陸部隊がジャワ島に強襲し、橋頭堡を確保。膨大な陸上戦力を以て、同島を一気に制圧する、となる。

 

 だが実際は違う。

 

 彼ら深海棲艦に心理戦などといった思考は存在しない。 一か〇か、イエスかノーかでしか物事を判断できない深海棲艦にとって、心理などといった不確定要素かつ、推測でしか測れない物事など端から考慮するに値しないのだ。

 そう、深海棲艦の戦術戦略に心理戦の延長上にある、敵指揮官の判断を惑わせるような陽動という概念は存在しない。

 

 深海棲艦にとって、二つの攻勢そのものが本命であり主力。

 

 よって深海棲艦・上陸部隊が撤退したとしても、それは一つの攻勢が挫かれただけでしかなく、二つ目の攻勢である深海棲艦・空母機動部隊が撤退するという理由にならない。

 

 そして。一か〇か、イエスかノーかでしか物事を判断できない深海棲艦が。予測や推測などといった不確定要素を排除する深海棲艦が、人類側の動き如何では戦わない可能性もあった、タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊の撃滅を第一目標に据えるわけがない。

 

 第一作戦部隊はあくまで第二目標。

 

 第一目標は、とある(・・・)地点。

 

 第一作戦部隊を構成する艦娘たちの母港であり、東南アジア戦線において深海棲艦を穿つ鉾の役割を担当する攻勢の一大拠点であり、アキレス健。

 

 

 タウイタウイ軍港の完全破壊。

 

 

 軍港の防衛の為に、第二目標であるタウイタウイ方面軍・第一作戦部隊を戦場に引きずり出せた以上。深海棲艦・空母機動部隊が撤退する理由などどこにもない。

 

 そして。

 作戦遂行不能となったことで撤退を選択した深海棲艦・上陸部隊と違い、第一目標であるタウイタウイ軍港の完全破壊、第二目標であるタウイタウイ方面軍・第一作戦部隊の撃滅という目的が明確に決まってしまっている以上。深海棲艦・空母機動部隊は止まることはない。どれだけ攻撃されようが、どれだけ沈められようが、ただひたすら進撃し攻撃し続ける。最後の一隻になろうとも(・・・・・・・・・・・)

 

 「全艦艇を沈めきるまで(全員死ぬまで)、止まりませんか」

 

 逃亡も降伏もない。しかし、本来そこにあるはずの悲壮感も哀愁もない、無機質な死の進撃。人間同士が戦う前提で作られた戦争のセオリーなどとはかけ離れた深海棲艦の行動。

  

 一か零か、勝利か敗北か、生か死か、騎士道も条約も慈悲すらもない、金、地位、名誉、資源、ありとあらゆる戦争の建前が剥がれ落ちた、透き通った絶滅戦争。

 これこそが深海棲艦との戦争。

 

しかし行動を冷めた目で見つめる大鳳は揺らぐことはない。

 

 「……想定内とはいえ、一隻でも到達されれば、母港に損害が出る以上、これより先への侵入は許容できません。ここで迎え撃ちます。

 第一作戦部隊全艦に伝達。陣形変更、第七、第八艦隊はただちに分離し艦隊を再編。進路0-9-0へ変針、敵艦隊に突入せよ」

 

 総旗艦である大鳳の命令を下すと同時に、巨大な一塊となっていた第一作戦部隊の全艦艇が一斉に始め、艦隊が二つに分かれ始めた。ここが戦場であることを忘れるような、まるで観艦式を彷彿とさせるような美しい艦隊運動。

 

 第一作戦部隊の西側の守りを固めていた第七、第八艦隊は、本隊から分離。艦隊を再編成しつつも素早く陣形を整え、艦隊の進路を深海棲艦・空母機動部隊が迫る東へと向けた。

 

 「第七艦隊!全力で参ります!」

 「砲雷撃戦、用意!」

 「ヨーソロー。うふっ♪」

 「よーし、ボクも突撃するぞー!」

 

 「第八艦隊、距離、速度、よし!突入開始!!」

 「やったるぜー!摩耶、出~番だ~~~!」

 「さぁ、行きましょう!やるわよー! 」

 「三隈がご一緒しましょう」

 

 旗艦である榛名、霧島の号令の元、戦闘隊列を整えた第七、第八艦隊が、深海棲艦・空母機動部隊に向け進撃を開始。

 矢のように飛び出した艦隊上空を第一作戦部隊の本隊と基地航空隊が、エアカバーを展開することで、その進撃を援護した。

 

 それに対し、深海棲艦・空母機動部隊は、空母級、軽空母級を除く全艦隊を前面に押し出すことで、第七、第八艦隊を迎え撃つ姿勢を見せた。

 

 未だ姿が見えずとも、向かい合う両艦隊。

 しかし、その艦隊編成、そして主戦力は全くと言っていいほど異なっている。

 

 戦艦である榛名、霧島以外、高雄、愛宕、摩耶、鳥海の重巡洋艦四隻と、最上、三隈の航空巡洋艦二隻。そして一九隻の駆逐艦で構成されている第七、第八艦隊に対し、

 駆逐艦級は存在しないものの、無傷の戦艦級が一二隻に、重巡級が一一隻という強大な戦力を有する深海棲艦。

 第七、第八艦隊に速力と数の面では軍配が上がるとはいえ、それ以外の面、特に中・遠距離砲撃戦での投射火力の面では、埋めがたいほどの差をつけられいる。

 絶望的なほどの戦力差。

 

 しかし第七、第八艦隊の面々に悲壮感などといったものは一切ない。彼らには切り札があるからだ。

 

 「うっふふ、やってきたわね。私たちの邪魔をする駆逐艦級はもういないわ。夕雲型全艦、深海棲艦に主力オブ主力の夕雲型の力、教えてあげましょう」

 

 妖艶な少女の声―――夕雲が言葉を紡ぐと同時に、一九隻の駆逐艦が、一斉に第七、第八艦隊正面にせり出した。

 

 「巻雲の出番ですね、がんばります!」

 「夕雲型駆逐艦、風雲、出るわ!」

 「長波サマにぴったりさ、いくぜぇ!」

 「高波、突撃します!」

 「藤波、突撃します。……行くぞっ!」

 「夕雲型駆逐艦、早波、行きます!」

 「はっ、浜波、いきます…。で、出ます…」

 「駆逐艦沖波、突撃致します!」

 「岸波、先行します!」

 「朝霜!でるよ!」

 「早霜、お相手します」

 「うん。清霜に任せて!」

 

 帝国海軍の艦隊型駆逐艦の集大成である甲型駆逐艦、その最終型である夕雲型駆逐艦。

 帝国海軍の根本にあった戦略構想である「漸減作戦」完遂のために、高い雷撃能力と良好な航海能力という艦隊決戦に特化した性能を与えられ、しかしその性能を存分に振るう戦場に巡り合うことなく、戦争の狭間に消えていった彼女たちは。

 かつての本懐を果たすべく、その切っ先を深海棲艦・空母機動部隊に向け突入を開始する。

 

 

 

   血のような夕焼けの空に航空機が舞い、数多の艦艇が海面に軌跡を描く。

 

 

 

 早朝より開始(開幕)されたジャワ島防衛戦(戦争劇場)は、

 

             数多の交戦(第一第二幕)を経て、最終局面である(最も相応しい)艦隊決戦(最終幕)へと移行(開幕)した。

 

 

 

 

 

 

 

 








 戦況報告
        タウイタウイ方面

          人類陣営
           タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊

          深海陣営
           ポート・モレスビー方面 空母機動部隊
 

               交戦状態



        フローレス海方面
          
          人類陣営
           タウイタウイ方面軍 第五作戦部隊
           タウイタウイ方面軍 基地航空隊
                     潜水艦隊

          深海陣営
           ダーウィン方面 上陸部隊


               追撃中
     





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