空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する! 作:ワイスマン
「あん?」
「どうされましたー。新艦長」
「その新艦長っていうのやめろ。リップヴァーン・ウィンクル中尉に穴だらけにされたザコと被るから」
北に巡航速度58ノット(約107km/h)で飛行中の船内で、艦長席に座っていたマキナは疑問の声を上げた。
彼は現在、自分の船体の点検をしていた。艦娘(彼は男だが)は自身の船体を手足のように操ることができる。
だから彼のように、わざわざ歩いて確認しに行かなくなくとも船体全体を点検することが可能なのだ。
しかし、自身の艦であるにもかかわらず、一か所だけ全く探知できない箇所が
あった。
いや、探知できなくはない。
部屋の中の大半は探知できるのだが、その中の1つの積荷の中身が全く
分からないのだ。
(……だいぶでかい積荷だな。しかし、このシルエットは??ッッ??!!)
「ついてこい副艦長」
積荷の中身について察したマキナは副艦長
(妖精さんのまとめ役だったみたいなので暫定的に任命。他の妖精さん達に自慢しすぎて簀巻きにされてた)
を引き連れ足早に操舵室から出ていき、二人は長い通路を突き進んでいった。
「後部格納庫?ここに何か用事があるのですかー?」
「ああ、とても重要な用事だ」
飛行船ゴンドラ後部にある、後部格納庫についた二人。
パネルを操作し、格納庫前の巨大な電動シャッターを開けると、そこには様々なナチスドイツの功罪が乱雑に無秩序に詰め込まれていた。
欧州各国より収奪した大量の財宝。
ドイツの英知を総動員して作られた戦車や戦闘機などの兵器群。
その中でも一際目の引く存在があった。
第二次世界大戦の開戦と同時に大英帝国の海上補給路を徹底して締め上げ、崩壊寸前まで追い詰めた潜水艦群の生き残り。
『UボートIXC/40改良型 U-890』がそこに悠然と鎮座していた。
「やっぱりこいつだ。こいつの中身が一切探知できねえ。
お前らの力で艦娘になってるか「これは艦娘になってますなー」
……どうやって見分けた?」
「直観ですなー」
「……」
そもそも、副艦長を連れてきたのは、U-890が艦娘になっているかどうかの確認と、
その見分け方を知りたかったのだが、直観などと言われては閉口するしかなかった。
Uボートの近くまで歩いてきた二人は、Uボートの側面からよじ登り上部にある出入り用ハッチより内部へと侵入を果たした。
Uボート内部に侵入した二人だが、目の前に広がっていたのは世界大戦時のUボート内部の姿ではなく、すっきりとした内部構造に無数の棺が所狭しと並んでいる
光景だった。
ミレニアムにおいて、このU-890の請け負った任務は、第二次ゼーレヴェ作戦に
向けての欧州での諜報、工作任務。
それに伴って、U-890という潜水艦は外見だけはUボートの、別の何かというほかない
ほどに改造されつくされていた。
その性能の高さは任務中一度も発見されなかったことからも容易に推察できる。
そして内部にミレニアムの潜入・工作部隊『ベルンハルト部隊』とその装備を乗せて
欧州各国を作戦成功に導くために暗躍していた。
そんな潜水艦の中を、二人は艦娘の姿を探すため通路を進んでいく。
非常に狭い艦長室のベッドに一人の17歳くらい少女が安らかに眠っていた。
薄暗い明かりに照らされた少女は、恐ろしいほどに整った顔立ちに、真銀の長く美しい髪をしていた。
眠る姿はそれだけで、何人たりとも手の届かぬ高尚な絵画のようで。
天空より舞い降りてきたかのような、その少女は月の女神か。
「起きろU-890」
決して丁寧ではないが、真摯に想っているのかはっきりと聞き取れるほどの声音で、
男は眠る少女を呼んだ。
「おい、起きろ」
今度はやや強く、けれど相手の何かを少しでも傷付けまいと
慎重に、繊細に。
何が傷付くと言うのだ。繊細さが売りの硝子細工とて、羽根箒で撫でられても壊れやしないと言うのに。
そして男は――――――――――――
容赦なく往復ビンタを食らわせた
「とっとと起きろ!!!U-890!!!」
「ごふッッ!!」
「えー」
※巡航速度58ノット(約107km/h)と書くと、高性能のようにみえますが、
同じ土俵に立つのは、飛行機なので鈍足もいいとこだったりします。
※マキナ巨大化の原因、U-890が登場。
現実ではU-890は建造中止になっていたりしています。
U-890及び経歴はすべてこちら側の創作です。