空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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 書いた割に進んでねぇ!?

 前回までのあらすじ!

 亡霊軍隊「ミサイルカーニバルです」(リンクス並感) 
 空母棲姫「ぐわああああーーーーッ!」轟沈



第32話 計画通り

 

 

 

 ここで今現在の諜報事情について話をしよう。

 

五年前より始まった深海棲艦との戦争。

 人類史上初めてとなる異種族との絶滅戦争は、主戦場である太平洋を中心に、世界中のあらゆる場所で、陸軍が、海軍が、空軍が、かつての世界大戦を上回るほどの規模で戦闘を繰り広げていた。

 それに伴い、各々の戦場の内容も軍団の動員数に比例するように、より大規模に、より過激に、そしてより悲惨に昇華していったわけであるが、こと諜報戦という戦場においてはその限りではなかった。

 

 諜報戦、それは対立する国・組織間で、相手方の政治・軍事・経済など諸般の情報を合法また非合法の手段によって収集する争いである。

 表面に出ることは少ないものの、それによって得た情報は戦争を行く末や、国家運営に大きな影響を与えるために、各国は惜しみなく人的資源を動員し、戦時、平時を問わず、深海棲艦と争う今も各国は水面下で争いを続けている。

 しかし各国が積み重ねてきた諜報戦の知識や経験も、深海棲艦という存在には全く役に立たなかった。

 

 諜報戦における主な活動には―――

 

 ―――新聞・雑誌・テレビ・インターネットなどのメディアを継続的にチェックしたうえで、書籍・公刊資料を集めて情報を得る「オシント」。

 

 ―――人間を介した情報収集の方法。有識者から話を聞いたり、重要な情報に接触できる人間を協力者として獲得・運営し、そこから情報を入手する「ヒューミント」。

 

 ―――通信や電子信号を傍受する事で情報を得る「シギント」。

 

 ―――敵の装備を研究し、使われている技術や弱点などを見つけ出す「テキント」。

 

 などがあるが、これらは全て深海棲艦には意味がなかった。

 

 ―――「オシント」は、そもそも深海棲艦のはっきりとした生態系すら分かっておらず

 

 ―――「ヒューミント」は、接触した時点で深海棲艦はこちらを殺しにかかり

 

 ―――「シギント」は、傍受以前にこちらの通信が問題だらけ

 

 ―――「テキント」にいたっては、深海棲艦自体が第二次世界大戦を模した兵器であるために、性能や弱点に関しては、いちいち鹵獲し調査するよりも、各国の兵器図鑑を見た方が早いまである。

 

 

 結局、役に立つのは、偵察衛星や偵察機によって撮影された画像を継続的に分析する事で情報を得る「イミント」と、利害関係を同じくする諜報機関が相互に協力する「コリント」くらいだ。

 

 よくよく考えれば諜報戦という行為自体が、同族を相手取ることを前提としているがために、敵対的な異種族に対しほとんど意味がないことも当然と言えるだろう。

 

 幸い、深海棲艦側も諜報活動をしないのか、できないのか定かではないが、今のところ「イミント」以外の諜報活動は確認できてはいない。

 

 そして想定される最大の懸念である、人類側から深海棲艦へ味方しようとする者、つまり内通者への対処だが、これも今のところ問題はない。

 

 どうやら深海棲艦は、人類の細かい区別はつかないらしく、情報を手土産に深海棲艦に寝返ろうとする裏切り者だろうが、人類救済を掲げ、深海棲艦に味方するキチ○イカルトだろうが、他国を出し抜いて深海棲艦と交渉しようとするエージェントだろうが、ノータイムでブチ殺してくれるためだ。

 

 

 こういった事情があるため、こと諜報戦という戦場においては、人類と深海棲艦の最前線よりも、後方の国家間同士の方が活発であるのが現状だ。

 

 そのため、今のところ戦争の最前線においては防諜活動は、深海棲艦の偵察機や、偵察隊による諜報活動「イミント」の妨害に人的リソースを振り向けている。

 

 もちろん、今はそうであるというだけで、いつ深海棲艦が他の諜報活動を開始するか予断を許さない状況である為、監視自体は怠っておらず、最低限の防諜はしているが。

 

 だからこそ、深海棲艦と戦う人類の最前線で、部隊を秘匿するという行為は。

 第五作戦部隊や東南アジア連合海軍の攻撃部隊といったような、深海棲艦の諜報活動で発見されないよう、入り江に潜伏するといった行為以外に考えられず、同じ人間間から深海棲艦へ情報が漏れる可能性を考慮しなくていい以上、少なくとも作戦の戦力欄からすらも秘匿する必要などないはずである。

 

 だから、もし。

 

 ―――誰にも知らされていない秘匿された部隊があるのだとしたら。

 

 ―――誰も把握していない作戦内容があったのだとしたら。

 

 それがターゲットにしているのは、深海棲艦ではなく―――

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

――――1999年9月30日 PM 6:30 タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊 旗艦『大鳳』

 

 

 

 「空母棲姫の轟沈を確認、これで深海棲艦・空母機動部隊も終わりですか……」

 

 

 視界共有を通じて、海中に沈んでいく空母棲姫の巨大な船体を視ながら、第一作戦部隊の旗艦である大鳳はため息を漏らした。

 

 

 『ええ、未だ残存艦は残ってはいますが、旗艦を失い、制空権を失った以上、深海棲艦に逆転の見込みはありません』

 

 「……しかし、これほどの戦力を有しているとは。

 誘導弾の使用位は想定していましたが、まさか単艦で深海棲艦・空母機動部隊を処理してしまうほどとは」

 

 『今は、なぜか飛行船が動きを止めたことで、こう着状態になっていますが……。

 結局、深海棲艦・空母機動部隊との戦闘で、こちらに攻撃してこなかった以上、『反撃』は難しいですね。亡霊軍隊の出方を待つしかありません』

 

 

 赤城の言った通り、戦場はこう着状態に陥っていた。

 つい先ほどまで進撃を続けていた亡霊軍隊の飛行船は、大型ミサイルで空母棲姫諸共、残存艦を蹂躙したのを最後に進行を停止。

 

 今現在、林大尉の偵察機を除いた第一作戦部隊と基地航空隊の航空機は、飛行船を半包囲をするように展開。

 飛行船との距離を取りながら、生き残った深海棲艦の艦艇を掃討しつつも、どんな動きにも対応できるよう警戒を続けてはいる。

 しかし飛行船は、基地航空隊を全く気にしていないかのように、まるで深海棲艦・空母機動部隊の末路を見届けるかのように、その停止した地点からほとんど動くことなく、上空に留まり続けていた。

 

 

 『飛行船から応答などは?』

 

 「林大尉の偵察機を通じて呼びかけてはいますが、一切ありません」

 

 『やはり深海棲艦の出方を待つしかありませんか……。一応これまでの戦闘で予測されたミサイルの射程圏に航空隊が入らないよう徹底はしていますが、どれほどの意味があるのやら』

 

 「……もし、あの飛行船がこちらに対し攻撃を行い、我々が『専守防衛』に基づいて『反撃』した場合、あの飛行船の誘導弾の守りを突破できるでしょうか?」

 

 『……今展開している第一作戦部隊と航空基地群の航空機で一斉に仕掛ければ、飛行船の誘導弾による処理速度を超えての突破自体は可能でしょう。

 ほとんど弾と命の交換になるでしょうが。

 しかしそのことを亡霊軍隊も理解していないはずがありません。

 これほど的確に戦場に割り込んできた以上、亡霊軍隊側に作戦内容が漏れているのは確実ですから』

 

 「第一作戦部隊と航空基地群が保有していた航空戦力は把握されていますか……」

 

 

 大鳳は内心、苛立しげに舌打ちをした。

 

 

 (非常にまずいですね……)

 

 

 現状、亡霊軍隊が唐突に進行を停止した為、戦場はこう着状態に陥っているが、今この状態に助けられているのは、むしろ第一作戦部隊の方である。

 

 亡霊軍隊は、第一作戦部隊と航空基地群の航空戦力を把握した上でこの場に現れている。

 

 それはつまり、それだけの航空戦力を相手にして勝てるという確信があるからに他ならない。

 

 さらに言えば、第一作戦部隊の、いや『ジャワ島防衛作戦』に参加している全戦力は、深海棲艦を撃滅せんがために組まれたものだ。

 必然的にその装備も対深海棲艦用に調整されたものになる。

 当たり前だが、そこに誘導弾を使うような飛行船を相手にするなど想定されていない。

 

 例えるならば、野生動物を狩るために来た猟師達に、軍隊を相手にしろと言われている様なものだ。

 

 対深海棲艦用であろうが武器であることは間違いないため、転用して亡霊軍隊と戦えないことはないが、状況を打開する決定打足りえず、どれだけ周囲から援軍を呼びよせようとも、どこまでも対深海棲艦用の部隊しか集まることはない。

 

 挙句、亡霊軍隊側にこちらが対深海棲艦用の装備しかない事を把握されているとあれば、もはや自分達に打つ手はなかった。

 

 戦略で負けているのだ。

 どれだけ最善手を打ったとしても戦術レベルでしかない第一作戦部隊が、戦略単位で優勢を確保している亡霊軍隊に勝てるはずもない。

 

 

 (亡霊軍隊が動き出す前に、なにか、なにか策を練らなければッ!!!)

 

 

 大鳳はこの進退窮まる現状から抜け出すべく必死に策を練るが、どうしても必要なものが欠けていた。

 

 それは力だ。

 

 求められているのは純粋な質

 

 それも深海棲艦のような雑兵を相手にするようなものではなく、亡霊軍隊という先鋭と互角に渡り合えるだけの決定的な戦力が

 

 しかしそんな戦力など、誰かがこの事態を想定し(・・・・・・・・・・・)戦略的に動いていない限り(・・・・・・・・・・・・)、あるはずが―――

 

 

 『……作戦本部より連絡です、本部より送った援軍と協力し、状況を打開せよ、と』

 

 

 思考の袋小路に入りかけていた大鳳に、作戦本部からの連絡を担当していた赤城から、唐突に相互通信が届いた。

 

 状況を打開できるならしている。その言葉を聞いたとき、真っ先にそう思った大鳳だったが、何やら赤城の様子がおかしい事に気がついた。

 声色からだが、いつもの冷静沈着な凛とした声色ではなく、まるで自身の発した言葉が信用できないかのような、半信半疑の困惑気味な声色だった。

 

 

 「作戦本部からの援軍……。

 ジャワ島方面軍から、手隙の航空隊かき集めたのかしら……。

 けれど幾ら集めたところで、亡霊軍隊に読まれている以上、その程度の援軍で状況を打開できるとは、とても―――」

 

 『いえ、違います。あー、航空隊であることは確かですがジャワ島方面軍所属ではありません』

 

 「ジャワ島方面軍所属ではない?

 ジャワ島防衛作戦の戦力欄には、タウイタウイ方面軍とジャワ島方面軍所属の航空隊以外、存在しなかったはず……。

 一体どこの航空隊なんですか?」

 

 

 言葉を濁したような言い方をする赤城を不審に思いながらも、さらに問いかける大鳳。そして

 

 

 『それは―――』

 

 

 その存在するはずのない(・・・・・・・・・)航空隊の名を聞いた瞬間

 

 

 「………………え?」

 

 

 彼女の思考は完全に止まった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

―――1999年9月30日 飛行船上空『林隊』 

 

 

 

 「こちら海上自衛隊、所属不明機に告ぐ。貴機は日本政府および、東南アジア連合より正式に認可された作戦海域に許可なく侵入、交戦している。

 貴機は直ちにその国籍と所属を明らかにし、速やかに武装を解除し次第、こちらの指示に従え。

 警告に従わない場合は撃墜も辞さない。繰り返す、警告に従わない場合は撃墜も辞さない。

 くそ!応答しやがらねえ。妨害電波で聞こえてねえのか?」

 

 『そもそも、この毒電波タレ流してる張本人に、聞く気があるのか、怪しいものですがね。

 投光器を使ったモールス信号も無視されてますし』

 

 

 悪態をつく林大尉に、上田少尉は戯けながら答えた。

 

 タウイタウイ沖の最前線では、深海棲艦・空母機動部隊に対するミサイル攻撃を最後に突如として進行を停止した亡霊軍隊の飛行船と、タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊と航空基地に所属する航空隊との間で睨み合いが続いていた。

 

 予測されたミサイルの射程圏内に入らないように、飛行船との距離を取りながらも、半包囲を続ける航空隊だったが、その中に林大尉の操る偵察機の姿はない。

 

 彼らの偵察機は、距離を取る航空隊とは違い、飛行船の直ぐ側にあった。

 

 亡霊軍隊にどのような意図があったのか定かではないが、深海棲艦の航空隊との戦闘前から飛行船の周辺を飛行していたにも関わらず、ミサイルの攻撃対象から外され、未だに撃墜されることなく飛び続けていられたことから、彼らは亡霊軍隊と交渉を仲介するメッセンジャーとして、そのまま上空に留まっていた。

 

 そして飛行船の周囲を飛び回りながら、何度か無線で呼びかけや、投光器を使ったモールス信号で呼びかけているが、未だに返答はなかった。

 

 『しかし、相変わらず人の気配がないってのも気味が悪いですね』

 

 「まあな、……だが戦う気が無いわけではなさそうだがな」

 

 

 現在の飛行船の周囲は、轟音と共に次々ミサイルを発射し深海棲艦の航空隊と艦隊とを蹂躙していた戦闘時とは打って変わって、静寂に包まれていた。

 

 戦闘前もそうだったが、戦闘時も、飛行船には人の気配はなく、今では進行さえも停止し、唯一忙しなく動いていた巨大なプロペラたちも止まってしまった為、ここが戦場であることを忘れそうなほど、不自然に静まり返っている。

 

 それがことさら、この飛行船が人を乗せないまま彷徨い続ける幽霊船といった印象を強めていた。

 

 しかし、無線の電波状況から推察するに、未だ飛行船は妨害電波を流し続け、機能を停止したように見えるミサイルの発射口も、始動こそしてはいないが、発射口全てにミサイルが装填されていることから、この飛行船がいつでもこの膠着状態を打ち破り、戦闘を再開できるのは明らかだった。

 

 

 『けどここまで反応がないってのも………。

 いっそ警告射撃でもしてみます?』

 

 「バカ、出来るだけ引き延ばさなきゃならねえのに、無理に刺激すんじゃねえ」

 

 

 冗談を言う上田少尉に釘を差す林大尉。

 交渉を仲介するメッセンジャーになるに当たって林大尉たちは、第一作戦部隊の旗艦であり、彼らの母艦である大鳳より、こちらから開戦の口火を切るような軽挙妄動は慎しみ、できるだけ時間を稼げ、との命令を受けていた。

 

 おそらく第一作戦部隊は、この膠着状態が亡霊軍隊の気分次第で簡単に崩れてしまうようなものだったとしても、状況打開への時間を稼ぐ為に、少しでも長引かせたいのだろう。

 

 しかしそれは逆を言えば、現状この亡霊軍隊に打てる有効な手立てがない事を意味していた。

 

 

 (第一作戦部隊もさすがに空を飛びながら単艦で航空隊ごと空母機動部隊を叩き潰すようなバケモノの想定はしてなかったってことか)

 

 

 遠くを見れば、深海棲艦・空母機動部隊の残党を掃討しながらも、上空に集結つつある友軍機の編隊。

 

 ジャワ島方面軍からも航空隊の援軍が到着したことで、その数を増やし、今では千にも迫ろうかと思えるほどの大軍団となり、もしここにまた無傷の深海棲艦・空母機動部隊が現れたとしても戦うことのできるだけの十分な数は揃ってはいる。

 

 しかし単艦で深海棲艦・空母機動部隊を蹂躙し尽くした戦闘能力を持つ亡霊軍隊の飛行船を相手にすることを考えれば、質という面で些か心許なかった。

 

 

 「こいつが艦船なら……。空さえ飛んでなきゃ、まだやりようはあったんだがな……」

 

 『ええ、艦船なら、高所の利点を活かして、押し潰すこともできたのですが』

 

 

 深海棲艦の航空機編隊が最後まで攻めきれなかった理由でもあるが、この空というフィールドは、亡霊軍隊の飛行船に圧倒的な優位性を与えている。

 

 亡霊軍隊がもし、イージス艦のような海上の艦船ならば、全攻撃隊による雷爆同時攻撃で仕留めることが出来ただろう。

 

 例え、百発百中のミサイルを以て迎撃したとしても、遥か上空から海面ギリギリまでという航空隊の物量を十全に活かせる広大な空間から、一斉に防衛網に侵入してくる航空隊全てに対処するなど物理的に不可能だからだ。

 

 

 しかしこの飛行船が相手となれば、話は違ってくる。

 

 空を飛んでいる為に、航空魚雷攻撃は使えず。

 しかも航空爆撃を仕掛けようにも、この飛行船が飛んでいる高度は、第一作戦部隊や航空基地の航空隊が飛行している高度と同じ4000m。

 

 航空隊が飛行船に爆撃を仕掛けるならば、さらに高度を稼ぎながら飛行船との距離を詰めなければならず、航空機の到達限界高度もある為に、必然的に高度4000mから到達限界高度までの空の狭い範囲に航空機が集中することになる。 

 そうなれば、最初に深海棲艦の航空機編隊を壊滅させた燃料気化爆弾のミサイルで、まとめて焼き払われる可能性があるのだ。

 

 同高度、あるいは低高度から上昇しながら攻撃しようにも、航空機に搭載されている機銃程度では、プロペラなどの弱点を狙わない限り効果は薄い。

 そもそも飛行船に空対空爆撃が有効な攻撃手段とされているのも、機銃掃射程度では飛行船は堕ちないからでもある。

 

 そして従来の飛行船には有効だった広範囲を燃やすロケット弾も、あの飛行船の装甲のような外殻の前にはあまり意味はないだろう。

 

 どちらにせよ遠距離攻撃ができる航空魚雷が使えない以上、空対空爆撃にしても機銃掃射にしてもロケット弾にしても、急降下といった加速手段も使えずに、ミサイルの雨を掻い潜りながら、飛行船に近付かなければ攻撃するチャンスすらないのである。

 

 まるで難攻不落の要塞であるかの如く、上空に君臨する飛行船。

 その要塞を攻略するには、それこそ膨大な犠牲が必要になるだろう。

 そしてその行動すらも亡霊軍隊は想定しているとすれば―――

 

 

 「今の戦力では厳しいか……」

 

 

 亡霊軍隊の飛行船。これを攻略するには亡霊軍隊の想定を超える戦力が必要となる。

 そして戦力だけでは足りない。それ以外にも必要なものがある。

 

 それは速さだ

 

 重要なのは莫大な推進力

 

 それも遥か上空を飛ぶ飛行船との距離を詰め、ミサイル防衛網を強引に突破できるだけの、圧倒的な速度を持つ兵器が

 

 しかしジャワ島防衛作戦の戦力欄になかった以上、誰かが意図的に秘匿していない限り(・・・・・・・・・・・・・・・・)、あるはずが―――

 

 

 「ん?」

 

 

 思考を巡らせていた林大尉だったが、不意に何かが袖を引っ張るような様がした。 

 そちら目を向ければ、操縦席に同乗していた妖精さんが林大尉に気づいてもらおうと、袖口を懸命に引っ張っているのが見えた。

 

 

 「どうした、なにか連絡か?」

 

 

 今現在、亡霊軍隊の飛行船が妨害電波を流し続けているせいで、母艦との無線通信が使えなくなった為に、その代わりとして艦娘と繋がっている妖精さんが連絡役を務めている。

 その彼?(彼女?)がアピールをしているということは、母艦である大鳳から連絡があったということだろう。

 その連絡を聞く林大尉。

 しかし、その連絡の内容はあまりにも予想外だった。

 

 

 「は?援軍が到着し次第、状況を打開?

 ……どういうことだ?」

 

 『しかも威嚇射撃も含め許可するって、さっきと言ってることが違い過ぎませんか?

 ……それに他の航空隊も寝耳に水だったようですし』

 

 

 あまりに不可解な命令に困惑する林大尉と、同じく妖精さんから連絡を受け取った上田少尉。

 それはこの膠着状況の打開の許可だった。

 しかも開戦の口火を切りかねない威嚇射撃まで許可するという事は、この亡霊軍隊の飛行船の守りを何とかする算段が付いたと考えるべきだろう。

 

 しかし、彼らの母艦であり第一作戦部隊の旗艦でもある大鳳から、できるだけ時間を稼げ、との命令を受けてからまだ5分も経っていない。

 あまりにも急な方針転換だった。

 それに離れたところを飛行する友軍を見ると、同じく命令を受け取ったのか飛行船を完全に包囲するべく、動き出してはいた。

 しかし、彼らも急な方針転換に振り回されているかのように、その動きはどこか慌ただしく纏まりがなかった。

 

 算段が付いたにしては、あまりにも行き当たりばったりな第一作戦部隊の指示。

 

 それはまるで第一作戦部隊すらも誰かに振り回されているようで―――

 

 

 「………なんだこの音は?」

 

 

 ちょうどその時どこからかキィィィィーンという甲高い音が、林大尉と上田少尉の耳に入った。

 そしてそれは、先ほどまで散々耳にしていたジェットエンジンの音だった。

 

 

 「…!!飛行船が動き始めたのか!?」

 

 

 弾かれたように飛行船に目を向ける林大尉。

 しかし飛行船の発射口に装填されたミサイルは沈黙を保ったまま。始動すらしていない。

 にも関わらず、何処からともなく聞こえてくるその甲高いジェットエンジンの音は次第に大きくなっていく。そして―――

 

 

 『…!!?大尉、三時の方向に機影を確――――』

 

 

 近づく何かに上田少尉が声を上げるよりも早く、甲高い音を響かせながら、大空を高速で駆け抜ける一二の機体が姿を見せた。

 その機体はプロペラがなく、三角形のようなシルエットをもつ機体後部には機体を超音速にまで加速させることができるほどの莫大な推進力を生み出すジェットエンジンが備わっていた。

 一目見ただけで判った。

 彼らの飛ばすレシプロ機よりも遥かに早く、超音速の壁すらも易々と突破してしまう次世代の戦闘機。

 

 

 「………ジェット戦闘機。なぜ、こいつらが此処に」

 

 

 唐突なジェット戦闘機の出現に混乱する二人をよそに、一二機のジェット戦闘機は、三つの小隊に分かれながら整然と飛行を続け、飛行船を包囲しつつある友軍機の遥か上空を飛びながら、飛行船と正対するように展開し始めた。

 そしてその過程でジェット戦闘機の全体像をはっきりと見たことで、さらに驚くこととなった。

 

 彼らも航空機乗りの端くれとして、現代の航空機の情報は積極的に集め、目を通している。

 その彼らにとって、その機体のシルエットを見ただけで正解を言い当てることなど造作もない事だ。

 

 ましてやそれが、正真正銘の新世代のジェット戦闘機であるならば。

 

 ロッキード・マーティン社が開発した、第5世代ジェット戦闘機。

 ステルス性を優先した第5世代ジェット戦闘機でありながら、純粋に制空戦闘機として開発された第4世代ジェット戦闘機を圧倒し、その姿からロッキード・マーティンをしてAir Dominance Fighter(航空支配戦闘機)と謳われた、Raptor(ラプター)の愛称をもつ最新鋭機のステルス戦闘機。それは―――

 

 

 『あれは……まさかF-22!?

 なんだってこいつらがこんなところに!?まさかアメ公からの援軍ですか!?』

 

 「いや機体の日の丸……。援軍は航空自衛隊からだ」

 

 『え!?でも航空自衛隊からって言っても、F-22は少し前にライセンス生産が始まったばかりで、まだ本土にも配備が進んでいないはず。

 その最新鋭機が、ここにいるなんておかしいでしょ!?』

 

 

 航空自衛隊所属の、しかも最新鋭機であるF-22戦闘機がなんの前触れもなくこの場に現れるという事態に、未だに状況が飲み込めず目を白黒させている上田少尉を尻目に、いち早く持ち直した林大尉は、編隊を組みながら高速で飛ぶF-22をしっかりとその眼で捉える。そして気付いた。

 機体尾翼に描かれた所属部隊を示すマークに。

 

 

 「……それだけじゃない、尾翼に描かれたコブラ。あんなマークを付けてる部隊なんぞ一つしかない」

 

 『まさか……!?飛行教導群!?』

 

 

 航空自衛隊の戦闘機パイロットの中でも特に傑出した戦闘技量を持つパイロットのみが集められ、仮想敵機部隊ーーーいわゆるアグレッサー部隊を務める戦闘機のプロフェッショナル集団。

 『一撃必殺の毒で敵を仕留める』という意味を持つコブラのマークを掲げる現代の自分達(第一航空艦隊)ともいうべき飛行教導群。 

 時には各戦闘機部隊の指導役ともなる彼らであれば、日本本土での配備が始まって間もないF−22戦闘機を最優先で回されてもおかしくは無いだろう。

 そしてその練度を実戦レベルにまで引き上げることも。

 しかしそれは飛行教導群が、なぜこの場にいるのか、そしてどうやって来たかの説明にはならない。

 

 

 『本土防空の要が一体どうやってここに!?

 ジャワ島防衛作戦の戦力欄には飛行教導群から部隊が参加するとはどこにも―――』

 

 「……そうか、そういうことか」

 

 「何がです?」

 

 「おかしいとは思っていた。

 この前の『ジャワ島奪還作戦』。

 その作戦は、亡霊軍隊の介入により、ほとんど軍の損失を出さずに達成された。

 深海棲艦と制空権争いで損耗した航空機も、現地の工場の生産で補充できる程度にな。

 にもかかわらず、この『ジャワ島防衛作戦』には、わざわざ本土から1個艦隊の護衛のついた航空機輸送部隊を手配されていた。

 その時は深くは考えなかったが……」

 

 『まさかその時に輸送されてきたのが!?』

 

 「ああ、こいつらだ!!!」

 

 

 それだけではない。先ほどの通信の様子から推察するに、自分達だけでなく第一作戦部隊の旗艦である大鳳ですら、飛行教導群の存在を把握していなかったようだ。

 

 それは明らかに異常だった。

 その戦力が深海棲艦の為に用意されたものであるのならば、最前線で深海棲艦と争う第一作戦部隊のトップが、保有戦力を秘匿されているなどといいことは。

 普通なら考えられないことだ。

 

 本当に深海棲艦の為に(・・・・・・・・・・)用意されたものであるのならば(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ―――だが、もし。もしも

 

 ―――その戦力がそれ以外の為に(・・・・・・・・・・・・)用意されていたのであれば(・・・・・・・・・・・・)

 

 ―――そして。

 

 ―――態々飛行教導群の虎の子であるF-22戦闘機を連れてきたということは。

 

 ―――性能は劣るものの航空自衛隊に広く配備され手配しやすい、機動性を重視した第4世代ジェット戦闘機であるF-15Jではなく

 

 ―――レーダーやミサイルを使う敵が現れない限り(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、必要のないはずのステルス性を優先した第5世代ジェット戦闘機を連れてきたということは

 

 ―――この事態を想定していたということで(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 その瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。 

 

 まるでこの戦場全てがどこかの誰かに管理されているかのような。

 この場の全てが、第一作戦部隊も深海棲艦も亡霊軍隊もこの戦況も何もかも、今自分が感じているこの考えすらも、誰かの手のひらの上で踊らされているかのような不気味な感覚。

 

 

 「一体、どこまで読んでいやがった!!??」

 

 

 誰かがいる。

 

 この場に至るまでの全てを読み、作り上げた誰かが。

 

 単独ではない。

 本土の自衛隊作戦本部、つまりは自衛隊上層部も一枚噛んでいるだろう。

 でなければ航空自衛隊の虎の子である飛行教導群から部隊を借り受けることなどできるはずもない。

 

 しかし、彼らが主導した訳でもないはずだ。

 こちらから仕掛けることができる攻勢計画であるならばともかく、今回のような防衛計画において、上層部が自ら主導的な立場をとることはない。

 おそらくジャワ島防衛作戦を指揮する誰かから援軍を要請され、それに上層部が応じたのだろう。

 

 そしてその要請した人物こそが、この場に至るまでの全てを描いた。 

 

 ジャワ島防衛作戦の作戦内容を捻じ曲げ、援軍の存在を隠匿。

 

 何食わぬ顔で表向き作戦を遂行しながら、深海棲艦と交戦を続け

 

 そして亡霊軍隊の出現とともに、飛行教導群の部隊に出撃命令を下した。

 

 

 (いったい、いったい誰だ!?)

 

 

 ジャワ島防衛作戦を指揮するような立場にいて、その作戦内容に内密に、そして自由に干渉できる人物。

 自衛隊上層部に飛行教導群の援軍を手配できるような立場にいて、自衛隊所属の部隊に出撃命令を下すことのできる人物、それは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 それは『程度』の問題だった。

 結局のところ、『彼』にとって此度の戦いというのは、『亡霊軍隊』がどの『程度』まで食いついてくるか、それだけの戦いだったのだ。

 

 そもそもの前提として。別に彼は『亡霊軍隊』の動きを『読んで』いた訳ではない。

 

 少なくとも彼は、事ここに至るまで亡霊軍隊の正体を突き止めることなどできなかったし、作戦どころかその目的すらも見破ってはいなかった。

 

 もとよりこの戦いは、亡霊軍隊の規模、手段、目的などといった、手の内を全て『暴き出す』という『亡霊軍隊の戦力調査』こそを目的としていたのだから、それも当然であるといえる。

 

 そして。

 彼にしてみれば『暴き出す』内容自体にもさして興味もなかった。

 亡霊軍隊の正が深海棲艦のフェイクであろうが、第三国の試験部隊だろうが。

 その目的が利益であろうが、戦争という手段の為を目的にしていようが。

 

 亡霊軍隊の規模、手段、目的などといった、手の内を全て『暴き出した』がゆえに

 

 分厚いヴェールが引きはがされ、その全容が明確に掴めさえすれば。

 

 過大評価も過小評価もできない極大の不確定要素さえ無くなりさえすれば。

 

 それ以外のことなど、どうでもよかったのだ。

 

 それを満たすことさえできれば、いつも通りの戦争と、深海棲艦を駆除する『作業』と同義となるに等しいのだから。

 

 だからこそ彼は、この作戦を立てた。

 規模、手段、目的、『亡霊軍隊』の手の内を全て『暴き出す』、その為だけに。

 

 そしてその為だけに、彼はさまざまな事態を予想し、起こりうる全ての状況を考えた。

 

 彼は亡霊軍隊の動きを読んでいた訳ではない。

 亡霊軍隊の起こしうる動き全てを(・・・・・・・・・・・・・・・)『想定』しただけだ。

 

 ありとあらゆる状況を『想定』して組まれた綿密な戦争計画。

 

 そして彼はその為の準備を営々と始めた。

 戦えるだけの航空戦力を手配し、食い下がれるだけの艦隊戦力を整え、想定できるだけの作戦計画を立てた。

 

 全ては準備だ。

 『亡霊軍隊』の手の内を全て『暴き出す』の為の。

 

 ジャワ島防衛作戦も、東南アジア連合軍も、自衛隊も、飛行教導群も、深海棲艦すらも、何もかもが東南アジアにおける全てが、彼の戦争計画の準備となった。

 

 彼の立てる戦争計画は、観客という目線から見ればひどく退屈なものだ。

 

 観客の心を擽らせるような英雄譚もなければ観客の涙を誘う悲劇もない。

 

 観客が興奮するようなトラブルも許されなければ、興味を引くようなハプニングもない。

 

  勝てるだけの航空戦力を用意し、勝てるだけの艦隊戦力を手配し、勝てるだけの作戦計画を立て、想定された戦略的勝利を収める。

 

 最初から最後まで完全な予定調和な戦争計画。

 

 亡霊軍隊がジャワ島防衛作戦に介入し、深海棲艦を蹂躙し、この作戦の奥深くまで食いついた時点で彼の戦争作戦は成功した。

 

 後は亡霊軍隊が次第だ。

 

 全てを諦め降伏するか、死に物狂いで抵抗するか。

 

 いずれにしても―――

 

 

 

「逃がさんよ、亡霊軍隊」

 

 

 

 

 誰  も  逃  が  さ  な  い

 

 

 

 

 

作戦は計画通りに進んでいる。この上なく順調に。

 

この戦場は未だ彼の『想定』という手のひらから抜け出ることは一度たりともない。

 

 

 

 

 

 

 




 戦況報告

   タウイタウイ方面

     人類陣営
      タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊

     深海陣営
      ポート・モレスビー方面 空母機動部隊 
      壊滅
 
     ミレニアム陣営
      空中戦艦ーDeus ex machina



          戦闘中
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