空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する! 作:ワイスマン
最後は批判はあると思いますが主人公の名前を考えると一度はやっておきたかった(´・ω・`)
前回までのあらすじ!
東条少将「計 画 通 り」(キラ顔)
飛行教導群「援軍にきますた」⊂(^ω^)⊂(^ω^)⊂(^ω^)⊃ブーン
――――1999年9月30日 PM 6:30 リンガ軍港 作戦司令部
リンガ軍港の地下5階に設けられた作戦司令部に動揺が広がっていた。
ついにその正体を現した亡霊軍隊。
その馬鹿馬鹿しいほどに巨大な一隻の飛行船はしかし、単艦であるにもかかわらず、化け物じみた戦闘能力以って、深海棲艦・空母機動部隊を航空隊諸共蹂躙し尽くした。
作戦司令部の人員たちは前線より送られてくる情報を介することで、亡霊軍隊の飛行船の持つ、電波障害が世界を覆う前のイージス艦に匹敵、あるいは凌駕するほどの圧倒的な戦闘能力を肌身で感じることになったわけであるが。
だがしかしこの作戦司令部の動揺は、それが原因ではなかった。
司令部の隊員やオペレーターがチラチラと伺うように向ける視線の行先は、亡霊軍隊の情報を正確に映し出す巨大スクリーンではなく後方。
彼らが情報を分析、処理する為に詰めているオペレータールームより、数段ほど高くなった場所。
体育館ほどの広さがある広大な作戦司令部全体を見渡せる場所に立つ、一人の男に向けられていた。
東南アジア方面での最前線の一つ、リンガ前線を守護する海上自衛隊の将校であり、今回のジャワ島防衛作戦を立案、指揮する東条少将。
今やこのジャワ島防衛作戦は彼一人がそのすべてを操っていると言っていい。
亡霊軍隊が深海棲艦・空母機動部隊との交戦を始めた頃から動き始めた東条少将は、作戦司令部内の混乱を尻目に、次々とオペレーターを通していくつかの部隊と連絡を取り始めた。
―――プラン『K-c-5』に従い行動を開始せよ
―――了解
東条少将のその命令を受け取ったいくつかの部隊たちは整然と動き始めた。
しかしその言葉は作戦司令部内にさらなる混乱を齎した。
作戦司令部に詰めている全ての要員は、ジャワ島防衛作戦を円滑に進めるための義務として全ての作戦プランを頭に叩き込んでいる。
しかしその記憶した中に『K』から始まる作戦プランなど
にもかかわらず、命令を受けた部隊は存在しない作戦プランに基づいて当然であるかの如く動き出した。
しかもそこには、予備戦力として待機していたリンガ方面軍・第二作戦部隊、シンガポール方面軍・第四作戦部隊すらも含まれている。
状況を呑み込めていない作戦司令部をよそに、動き出した部隊たちは、まるで
そして―――
―――こちら作戦司令部、『GOD』聞こえるか
―――こちら『GOD』、感度良好。指示を
存在しないはずの部隊―――コールサイン『GOD』を冠された飛行教導群の出現を以て、ジャワ島防衛作戦は作戦司令部の手から離れ、そして東条少将の計画通りに亡霊軍隊に対する包囲網が完成した。
想定外であるはずの亡霊軍隊の進軍に対し、完璧に対応しつつある自軍。
だがしかし好転した戦況に喜びの声をあげる者はいない。
作戦司令部には動揺が広がっていた。
存在しないはずの作戦プランに、存在しないはずの部隊。
もはや今のこの現状を把握できず、東条少将が操る戦局を観覧する観客と成り果てた作戦司令部で。
「………東条少将」
その空気を打ち破るように声が上がった。
東南アジア連合海軍の大将にして、ジャワ島奪還作戦の総司令官でもあるレジェス大将。
「………これは一体どういうことだ?何故あの部隊がいる?」
レジェス大将が震えた声で東条少将に問いかけた。
それは東条少将を除く作戦司令部内のすべての者が思っていたことであろう疑問。
向き直った東条少将は、レジェス大将を含め作戦司令部内の何百という視線にも一切怯むことなく、何処までも冷静で、そして全く感情の読めない瞳を真っ直ぐ彼へと向けた。
「Fー22戦闘機の性能評価試験のために東南アジアに来ていた飛行教導群の部隊です。
緊急事態につき、出撃を要請しました」
レジェス大将の問いに東条少将は、まるで予め用意されていた資料を読み上げるかのように簡潔に答えた。
「…………部隊がもう到着していたなどという事は、我々は聞いていないが?」
「どこかで連絡ミスがあったのでしょう。申し訳ありません」
白々しく謝罪の言葉を述べる東条少将。
そんな馬鹿な、つい口から出てしまいそうな言葉をレジェス大将は必死に飲み込んだ。
確かに自衛隊から、アメリカとライセンス生産を結び配備され始めた最新機であるFー22戦闘機の、東南アジアという気候条件下における性能評価試験を実施したいという申し入れ自体は有り、それに許可は出した。
しかし評価試験の実施日は三週間後、ジャワ島防衛作戦が完全に終息してから行われる予定だったはずだ。
今日この日、ジャワ島防衛作戦が開始される日には、すでに到着していたなどということはありえない。
その上、百歩譲ってに東条少将のいう通り連絡ミスがあり到着が早まったのだとしても。
その到着した事実すら隠蔽されていたならば。
もはやそれは連絡ミスなどといった偶然ではなく、何者かが明確な意思を以て手を回していたことは明白だった。
そしてそれを行えるのは、秘匿されていた部隊を唯一知っていた東条少将以外に考えられない。
それだけではない。
東条少将が発令したプラン『Kーcー5』。
ジャワ島奪還作戦の総司令官ですら知らなかった存在しないはずの作戦プランを。
動き出した部隊はなぜか把握していたしていたようだった。
もしこれが東条少将とその一派が画策した極秘作戦だったとしても、動き出した部隊があまりにも多すぎた。
子飼いの部隊を動かしただけでは説明がつかないほどの大規模な軍事行動。
となれば情報を隠されていたのは自分たち作戦司令部の方だ。
おそらく命令を受けた部隊は、まさか作戦司令部がその作戦計画を把握していないなど思いも寄らないだろう。
それに自身がそれに参加しているとも。
情報保護の観点から、前線の部隊が自身の担当以外の作戦プランまで全て詳細に把握しているわけがない。
ただ彼らは命令通り、東条少将により何らかの手が加えられた指令書に従って行動していただけだろう。
それが示すのはたった一つ。
「ま、まさかこれまでの何もかもが貴官の想定通りだったとッ……!?」
もやレジェス大将のその声には恐れが含まれていた。
今のこの状況をジャワ島防衛作戦が始まるはるか前から今のこの状況を想定していたという現実に。
東南アジア連合軍、自衛隊、深海棲艦、亡霊軍隊。そのすべてが彼の手のひらの上であるという真実に。
この言葉に東条少将はゆるゆると頭を振った。
「いいえ閣下、これは
「!?……………そうか、そういうことか」
レジェス大将は彼のその言葉の意味を正確に理解した。
聞きたいことなど、それこそ幾らでもある。
いつから読んでいたのか、どこから計画の内なのか、どこまで想定していたのか。
ここで東条少将に追求することはできる。
しかし東南アジア連合軍と自衛隊との不和を招いてまで、追求することに何の意味があるのか。
そもそも亡霊軍隊の動きを全く予想できなかった自分たち東南アジア連合海軍が、唯一亡霊軍隊に対抗できる戦力を用意して見せた東条少将を追求することなど出来はしない。
もはやそれを聞く事のできる機会は失われてしまった。
そして東条少将から差し出された、この
東条少将の思惑通りに誘導されていることには気づいている。
しかし今この場に混乱を招かない為にも、そしてこれからのことも考えると、レジェス大将は。
「……ああ、そうだ。
東条少将の計画に乗るしか道はなかった。
◇
レジェス大将から
それにともない、先ほど作戦司令部内を満たしていた浮ついた空気は無理矢理に駆逐され、いつも通りの喧騒が徐々に戻ってきていた。
東条少将がジャワ島防衛作戦に無断で組み込んでいた対亡霊軍隊の作戦計画。
亡霊軍隊を追い詰めつつあるこの作戦を、東南アジア連合海軍のトップであるレジェス大将が事実上肯定した事で、今この瞬間から東条少将が独断で計画を実行していたという不都合な真実は葬り去られ、
もちろん東南アジア連合海軍に後から追及されることはない。
むしろジャワ島防衛作戦の終了後、この作戦司令部内にいる全員に箝口令を敷き、この動きに全力で便乗することになるだろう。
元々東南アジア連合海軍は単独では作戦行動をすることができず、自前の輸送艦、揚陸艦の護衛すら日本政府の派遣する艦娘、そして護衛艦に頼り切っているがゆえに、東南アジア連合の中では非常に立場が弱い。
しかもこの作戦で、深海棲艦の主力艦隊の一つでもある上陸部隊を夜戦にて殲滅するという、地位向上の千載一遇のチャンスすら亡霊軍隊に潰されている。
挙句、傍から見れば亡霊軍隊という一組織ごときに散々振り回されたとなれば。
ただでさえ弱い東南アジア連合海軍の地位はさらに低下し、血税を収める国民から穀潰しとして、もれなくバッシングの雨に晒されることになるのは目に見えている。
だからこそ、それを防ぐ為に何としても功績を欲している東南アジア連合海軍は、この一連の動きに乗らざるを得ないのだ。
東条少将の想定通りに。
「上手いこと回したな」
「………橋本少将」
考えを巡らせていると先ほどまで沈黙を貫いていた橋本少将が話しかけてきた。
そして東条少将の横に立つと彼にしか聞こえない声量で呟いた。
「
「………」
東条少将は、橋本少将にも作戦の全容を伝えてはいない。
しかし彼の口からその言葉が出てくるということは、その意図も含め作戦の全容を掴んだということだろう。
幸い、今ならば橋本少将に関しては『確証』を得たがゆえに、教えることに問題は無かった。
「……隊は『白』。今のところは、だが……。
連合は『黒』だ」
「どこまで?」
「上層部に複数いるのは確実。ただ海軍の方は…おそらく『白』」
「………陸か政府か。派閥争いか、それとも金で釣られたバカが流したか?
と、なると閣下は完全な被害者やったてことやねぇ?」
「ぐッ、後で全力でフォローする」
東条少将が、ジャワ島奪還作戦の総司令官であるレジェス大将にすら極秘で、秘密裏にかつ単独で対亡霊軍隊計画を推し進めた理由。
それは味方内で亡霊軍隊と繋がる『内通者』を警戒してのことである。
つい先ほどまで影も形も捉えられなかった亡霊軍隊。
それだけならば亡霊軍隊の諜報能力が優れていただけと考えることが出来た。
しかしひとつ前の作戦、初めて亡霊軍隊の影を認識することになったジャワ島奪還作戦にて、亡霊軍隊は全面攻勢に出ていたはずの東南アジア連合軍、自衛隊に一切見つかることなく、ジェンティング飛行場を襲撃、ジャワ島の本拠地であるバニュワンギを陥落させた。
ただの諜報活動では手に入りえない、それこそこちらの部隊の動き全てを把握していなければ成しえることのできない亡霊軍隊の特異な軍事行動。
その裏には亡霊軍隊にジャワ島奪還作戦の作戦内容を漏らしたであろう『内通者』の存在が見え隠れしていた。
しかも唯の『内通者』ではない。
ジャワ島奪還作戦の詳細を事前に把握することのできる地位にいた『内通者』が。
そしてその事実はそのまま、亡霊軍隊が深海棲艦とは無関係であるという証明でもあった。
そのこともあり東条少将はその『内通者』へ情報が漏れないよう秘密裏に、かつ単独で対亡霊軍隊計画を推し進め実行。
ジャワ島防衛作戦の裏で亡霊軍隊に対し罠を張る以外にも、各方面に配られる作戦指示書に手を加え、与える情報に変化をつけることで『亡霊軍隊と繋がる内通者の割り出し』も並行して行っていた。
「しかし前線指揮官が諜報の真似事もせなあかんとは……。『公安総局』も不甲斐ない。本来ならスパイの発見は奴らの仕事やってのに……」
「仕方がないさ。
いくら公安警察を前身として、アメリカとイギリスのバックアップでできた諜報機関だとしても、組織としては若すぎる。
国内ならともかく、根も張れてもいない国外では、通常の任務だけで手一杯だろう」
しかし、そう言いながら東条少将は戦況を映し出す巨大なスクリーンに視線を向ける。
「それもこれで終わりだ」
スクリーン上には亡霊軍隊の近くで煌々と輝く飛行教導群のF-22戦闘機部隊のマークと、その周囲を取り囲みながら続々と集結する航空機編隊、そして後方で退路を塞ぐように展開し始めたリンガ方面軍・第二作戦部隊と、シンガポール方面軍・第四作戦部隊が映し出されていた。
迅速かつ速やかに集結ししつつある亡霊軍隊への対抗戦力。
手を加えていた指令書により電波障害が起こる前の、誘導弾を十全に使える現代の艦隊ですらその物量で押し潰せるだけの戦力がタウイタウイ沖に集結つつあった。
もはやここまで来ればどう転ぼうとも戦局は東条少将の利にしかならない。
彼我の戦力差に絶望しての降伏は言わずもがな。
破れかぶれの戦闘や特攻も、手の内を全て暴き出すという『亡霊軍隊の戦力調査』の目的に沿っている。
最悪、何らかの策を以て、
その策の情報を入手できる上、深海棲艦と争う軍隊を壊滅させたという事実を以て、人類に仇名す逆賊として各国の脅威を煽り、
この上なく順調に推移している東条少将の戦争計画。
それでもなお油断せず進捗を見守っていた東条少将だったが、その時ふと視界の端に亡霊軍隊の飛行船の名が目に入った。
「
設計者がどういった意図でその艦名を名付けたのか知る由もない。
だが一連の動きから亡霊軍隊の目的が戦争そのものにあるということは察していた。
その上で。
その艦名は東条少将にはひどく納得いくものだった。
まるで戦争をショーのように作り変え、戦場をドラマチックにそしてロマンチックに魅せる亡霊軍隊。
そしてそのショーを支える舞台装置として、数々の兵器を存分に奮うこの飛行船は。
古代ギリシャの演劇において、
◇
此度の作戦において、東条少将の戦争計画にミスがあったとするならば。
それは亡霊軍隊という存在を彼自身の基準で測ってしまったことだろう。
例えば十年前に。
預言者が未来で第二次世界大戦時の兵器を象った深海棲艦という異種族と絶滅戦争を繰り広げることになる、ということを教えたとして。
艦娘という艦船の魂を持つ少女たちが戦場を跋扈するという未来を教えたとして。
いったい誰が信じただろうか。
誰もが出来の悪い創作か妄想と笑い飛ばし、一人としてまともに相手もしないだろう。
しかし今では。
その出来の悪い創作や妄想が、現実となってしまった今では。
各国の知識人たちが深海棲艦という異種族について大真面目に昼夜を問わず議論を交わし、屈強な軍人たちが艦娘という艦船の魂を持つ少女たちと当然のように戦場を駆け回ることを、誰もが当たり前のものとして受け入れている。
結局のところ。変わることのない絶対の基準などというものは、この世のどこにも存在しないのだ。
かつて広く世界中で採用されていた歩兵運用方式だった戦列歩兵が、ボルトアクションライフルの登場により、終焉を迎えたように。
世界のパワーバランスを左右する戦略兵器と見なされていたが戦艦が、航空機の発達によりその座から引きずり降ろされ、姿を消したように。
彼は何処までも亡霊軍隊という存在を、彼自身の
故に読み間違えた。
亡霊軍隊の本質を。
そして
『未知』なる存在は、『既知』の存在へと塗り替えられ。
かつての『不合理』は、今日の『合理』に置き換わっていく。
であるならば。
『既知』と『合理』で形作られた、彼の『想定』という手のひらから。
『未知』と『不合理』がこぼれ落ちることは。
全くもって自然なことだ。
◇
――――1999年9月30日 タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊 旗艦『大鳳』
『期せずして、亡霊軍隊に対抗できるだけの戦力を揃えることはできたましたが……。
まさか未だに反応を見せないとは、一体何を考えているのでしょうか』
「何か切り札があるのだとしても、ジャワ島方面からも援軍が送られてくる以上、時間が経つほどに不利になっていくことは亡霊軍隊も分かっているはずですが……」
相互通信で話し合う赤城、大鳳の声からは困惑した様子が伺えた。
亡霊軍隊による襲撃を想定していた東条少将の手により、いまこの海域には質、量共に膨大な戦力が集結していた。
亡霊軍隊を取り囲むように展開する第一作戦部隊と周辺の航空基地の航空戦力。
飛行教導群のF-22戦闘機部隊。
そして亡霊軍隊の退路を塞ぐよう速やかに展開し始めたリンガ方面軍・第二作戦部隊と、シンガポール方面軍・第四作戦部隊。
それ以外にも、続々と集結するジャワ島方面からの航空隊の援軍により、今なおその戦力を増やしつつある。
先ほどまで争っていた深海棲艦・空母機動部隊など相手にならない、電波障害が起こる前の、誘導弾を十全に使える現代の艦隊ですらその物量で押し潰せるだけの圧倒的な戦力。
もはや過剰とも云える亡霊軍隊の対抗戦力を前にして、しかし亡霊軍隊の飛行船は何の反応も見せず、そして何の行動も起こさなかった。
明らかに時間経過とともに不利になっていく状況を亡霊軍隊が理解していないはずがない。
かかわらず、撤退するでも、争うでもなく、その場に留まり続ける亡霊軍隊の飛行船。
その位置は、大型ミサイルで空母棲姫諸共、残存艦を蹂躙したのを最後に進行を停止した所から、全く変わっていない。
相も変わらず妨害電波を流し続け、こちらかの呼びかけも一切無視している。
戦略的合理性の欠片も感じられない亡霊軍隊の行動。
周囲の状況などまるで気にしていないかのように、ただ黙して浮かび続けるその姿は、あまりにも異質で、そして不気味だった。
しかし不気味とはいえ、こちらの対抗戦力が揃った以上、亡霊軍隊に対し先手を打つためにも仕掛けなければならなかった。
「このままでは埒が開きません。こちらの呼びかけにも一切応答しない以上、撃墜も含めた対策を―――『ハァ』ッ!?」
考えなければ、そう言おうとした大鳳の言葉は、突然聞こえてきた溜息にかき消された。
『うるせえな、静かにしろよ。劇の終演、その余韻に黙って浸ることも出来ねえのかお前らは』
「なッ!?」
『男性の声!?』
突如として、赤城との相互通信に割り込んできた、聞き覚えのない第三者の声。
そして、その者の持つ傲慢さと尊大さを表したような男の声が、突然誰かと繋がった相互通信から聞こえて来たという事実に二人は衝撃を受けた。
相互通信は艦娘だけが使う事の出来る、離れた相手と自由に会話することができるテレパシーのような能力だ。
物理的な距離以外に疎外される要素のないその能力。
それは世界的な電波障害に苦しむ人類にとって非常に魅力に映ったのだが、相互通信の模倣は容易ではなかった。
相互通信は通信とは銘打ってはいるものの、その本質は霊感や、第六感などと同じように科学技術に由来しない特殊能力に分類される。
妨害電波の影響を受けない通信技術の方は、
だが相互通信に至っては、テレパシーというその特殊性ゆえにどこの国も未だ研究の取っ掛かりすら掴めていない。
だから艦娘以外が相互通信を使えるなどあり得ないことのだ。
その状況を考慮すれば、この男の声の持ち主は必然的に艦娘ということになるが。
しかしそれはもっとあり得なかった。
艦娘というのは『娘』という文字からも分かる通り、すべて女性だ。
その理由は、艦船が昔から『女性』として例えられてきたからなのか、それともそれ以外の理由があるのか定かではない。
しかし少なくとも全世界で召喚されてきた艦娘は、見た目と外見年齢の差はあれども全て女性個体であり、男性個体が召喚されたという例は未だ一例も確認されていない筈だった。
(違う!今そんなことを考えている場合じゃないでしょう!)
大鳳は突然の事態に混乱する思考を、無理矢理抑え込んだ。
何処かの国が密かに相互通信を実用化させたのか、それとも本当に男性個体が召喚されたのか、真相は非常に気になるところではあるが。
しかし今この場においては重要ではない。
重要なのは、
そしてそれを見つける手がかりは手元にあった。
(相互通信は、物理的な距離以外に疎外される要素はない。
けど逆に言えば、距離が離れすぎてしまえば通信はできないということ。
仮に相手の通信可能距離が私たちと同じ、もしくはそれ以上だったと仮定しても、このタウイタウイ沖周辺に友軍に友軍が集結している以上、奇襲を警戒する友軍の監視網を搔い潜りながら私たち第一作戦部隊との通信可能距離にまで近づくことなんで不可能に近い。であるなら―――)
この声の持ち主が最初から第一作戦部隊と通信できる距離にいたということ。
もしそうなら、その答えは一つしかない。
「………貴方はこの亡霊軍隊、いえ、この飛行船の艦長、もしくは司令官に近い方ですね?」
大鳳のその問いかけに、その声の持ち主は笑い声を上げた。
『ハハハッ、当たらずとも遠からず、といったところか。
お初にお目にかかる。俺の名はデウス・ウクス・マキナ。ミレニアム所属 空中艦隊旗艦Deus ex machinaの魂を持つ艦娘だ。以後お見知りおきを』
◇
突如として、大鳳と赤城の相互通信に割り込んだ、聞き覚えのない男の声。
自身の正体を現在にらみ合っている亡霊軍隊の飛行船Deus ex machinaの魂を持つ艦娘だと宣うその男の言葉に。
先ほどの比ではない衝撃を受けた大鳳の口から、喚くような声が漏れ出た。
「……そんな馬鹿な、ありえない、あり得る訳がないでしょう!そんなことッ!?」
たしかにこの飛行船が艦娘であるならば、相互通信が使えるという説明はつくだろう。
そしてこの飛行船が電波障害の影響を受けずに済んでいることも、この飛行船が電波障害の影響を受けない艦娘であるならば、説明は付く。
しかし艦娘は第二次世界大戦までに存在した艦艇しか召喚されていない。
この飛行船が艦娘などと、第二次世界大戦時には確実に存在しないと断言できるこの飛行船が、艦娘であるはずがないのだ。
『ハハハッ、お前等が
「くっ!?」
大鳳の叫ぶような否定の言葉の前に、しかし相互通信より男の嘲るような笑い声が響いた。
そしてひとしきり笑ったその男は、まるで出来の悪い生徒に教えを解く先生のように語りかけ始めた。
『いいか
仮にも一
この世の中には、お前らの
その男の言葉は、大鳳の動揺で生まれた心の揺らめきに、つけ込むように入り込んでいく。
だが―――――
『なるほど、貴重な見解ありがとうございます』
先ほどまで事の成り行きを見守っていた赤城が、大鳳の動揺を鎮めるように凛とした声で二人の会話に割って入った。
『しかし、こんな所で立ち話も何でしょう、できれば落ち着いた場所で、ゆっくりとお話を伺いたいのですが?』
その言葉と共に、飛行船を取り囲むように待機していた全て航空隊が一斉に警戒態勢に入った。
おそらく赤城は大鳳と男との会話を警戒しながら、密かに各航空隊の所属する艦娘全てに連絡を取り、彼女たちを経由することで基地航空隊と飛行教導群も含めたすべての航空隊に手を回していたのだろう。
少しでも男から情報を引き出すべく対話を続けていた大鳳と違って、赤城は男との対話を端から時間稼ぎとしか捉えていなかった。
戦場において敵からの言葉などその多くが虚報、疑念、猜疑、動揺など、相手に惑わせる謀略でしかないのだから。
先のこの男の言葉が真実か否かなど、考慮する価値もない。
そんなもの、この飛行船を捕えさえすれば、後で分かることだ。
『大鳳さん、第一作戦部隊旗艦としての責務を』
「……ええ、ご迷惑をおかけしました」
赤城からの声に大鳳は自身の動揺を鎮める為に大きく息をはき気持ちを切り替えると、彼女のフォローに内心感謝しつつ、通信の向こう側にいる男を見据えた。
「所属不明艦に告げます。貴艦は日本政府および、東南アジア連合より正式に認可された作戦海域に許可なく侵入、交戦しています。
貴艦は直ちにその国籍と所属を明らかにし、速やかに武装を解除し次第、こちらの指示に従いなさい。
警告に従わない場合は撃沈も辞しません」
『ほぉ?』
大鳳のその宣言に、男は楽しそうな声を上げた。
自身の周囲を完全に包囲され、数多の銃口を突き付けられているにもかかわらず、その男の声に焦りや怯懦といったの色は全く見られない。
それどころか、今すぐにでも嬉々として戦端を開きそうなほどの様子すら感じられる。
『
言葉の端々からでも十分に窺い知ることができるその男の、いや亡霊軍隊の本質。
戦争をただの手段として行使する自分たちとは全く違う、戦争自体を目的とし、戦争に酔いしれる者たちに、赤城は吐き捨てるように呟いた。
それと同時に、もはやこの亡霊軍隊との戦闘は避けられないだろうことも予想できた。
目的の為の
油断なく構え、直ぐにでも戦闘に移れるように備えていた二人だったが、男の口から出たのはあまりにも予想外の言葉だった。
『なるほど、なるほど。
非常に魅力的な誘いではあるが、今日のところは大人しく引くことにしよう。
舞台の幕紐が引かれた以上、これ以上はただの蛇足にしかならんからな』
「……は?」
心底残念そうに告げられたその言葉に、二人は唖然とした。
『……貴方は、今のこの状況を理解しているのですか? 理解できているのですか?
この状況で逃げられるとでも? 私たちが逃がすとでも?』
退路は断たれ、その周囲を完全に包囲されているにもかかわらず、戦闘や降伏ではなく撤退を嘯くなど正気ではない。
だがその男の言葉が嘘ではないと証明するように、飛行船に動きが見られた。
深海棲艦・空母機動部隊を焼き払った34のミサイル発射口、その全てを閉じ始めたのだ。
自分たち第一作戦部隊と唯一対等に渡り合える
『ああ、もちろんだとも。この俺を誰だと思っている?
この男が一体何を言っているのか、言葉自体は理解できるにもかかわらず、何一つ理解できなかった。
この男の思考も、言動も、行動も、その思考も何一つ二人には理解できなかった。
「……狂人がッ!!さっきから訳の分からないことをつらつらとッ!!」
大鳳は自身を奮い立たせるように怒鳴り声を上げた。
うんざりだった。少しでも情報を引き出すべく諦めずに対話を続けていたが、もはやこれ以上、この男の妄言に付き合うつもりはなかった。
何一つ話の通じないこの男との問答など苦痛でしかない。
「最終警告です!
貴艦は速やかにその国籍と所属を明らかにし、こちらの指示に従いなさい!
警告に従わない場合は直ちに撃沈します!」
その行動に至ったのは当然の流れといえるだろう。
根底にあるのは亡霊軍隊という
そして、そういった感情を抱いた者がとる行動など限られている。その感情に従い逃げ出すか。
あるいは苛烈に排除するか。
そして彼女は後者を選んだというだけだ。
第一作戦部隊旗艦である大鳳より男へ突き付けられた開戦への最後通牒。
だがその破綻を直前にしてさえ、男の態度に変化は見られなかった。
『おお怖い怖い。
だが、そうだな。終演を迎えた以上、演者はさっさと舞台袖に引っ込むことにしようか!!』
その男の言葉と同時に、飛行船が劇的に変化し始めた。
『飛行船が、光って!?』
紫色の光を放ちながら点滅し始める飛行船。
船体の各所に取り付けられた投光器が点滅することで光を放っているのではない、まるで飛行船自体が発光でもしているかのような不気味な光は、次第にその強さを増していく。
前線から視界共有で届いた、その
「ッ!!総員、守りを固めて!!」
その光景に対し、第一作戦部隊と航空隊はこれから起きるどんな事態にも対応できるよう守りを固めた。
彼女たちは、最後の最後まで
結局のところ、誰一人としてその名の意味を理解できていなかったということだ。
彼の名は
演劇において、解決困難な局面に際し、
その存在を本当に理解していたのならば。足を止め、
いつの間にか、相互通信だけではなく、飛行船の拡声器を通じて男の声は響き渡っていた。
戦場を取り巻く全ての者たちに遍く伝わるように。
男は
『紳士淑女の皆様。
此度は
それでは皆様、よい闘争を……。
皆様が仰ぎ見る明日が、よき戦争日和であることをお祈りします』
そして直視できないほどの眩く光り輝いた紫色の閃光が飛行船を完全に覆いつくした直後―――
「…………そ、んな」
『……こんな、……こんなことが……』
◇
作戦司令部はまるでその職務を放棄したかと思える程に、不自然に静まり返っていた。
周囲を完全に包囲されていたにもかかわらず、その眼前からまるで魔法のように姿を消した亡霊軍隊。
前線からその報告を聞いたとき誰もが誤報を疑った。
400mを優に超える巨大な船体が忽然と消失するなどあまりにも非現実的だからだ。
何度も何度も確認した。
それでもその事実は全く一切覆ることはなかった。
それでもなお、信じることなく疑い続けていた作戦司令部だったが、前線より支部を通して送られてきた実際に消える姿を映した映像―――航空機の機首に取り付けられていたカメラ映像―――という物証を以て、ようやくそれが真実であると認めざるをえなかった。
今もなお全力で消えた飛行船の行方を捜索をしているが、未だ痕跡一つ見つけ出せてはいない。
誰も彼もが今の状況を呑み込めていなかった。
実際の映像を見た後でさえ、これが作り物の映像ではないかという疑念が晴れない。
だが、それでも明確に理解できた事がある。
「我々の……完敗ですな」
自分たち、東南アジア連合軍及び自衛隊は、亡霊軍隊―――ミレニアムに完敗したということを。
疲れたように発した橋本少将の呟きが、さざ波のように拡がっていく。
困惑、失望、怒り、恐怖。
ありとあらゆる負の感情が作戦司令部中に渦巻く中―――
「ミレニアム……?ラスト・バタリオン……?フフフ……ハハハ」
レジェス大将の笑い声が木霊した。
本来なら雑音にかき消されてしまうその声は。
しかし司令部全体が静まり返っているがゆえによく響いた。
しかし、レジェス大将その笑いが楽しくて笑っていないことなど猿でも分かる。
噴火する直前の鳴動ような笑い声を上げる彼の前にある巨大な作戦机には、大量の書類が山脈を成していた。
これらは全てジャワ島防衛作戦に関連する書類だ。
各支部からリアルタイムで送られてくる各航空隊の損耗状況や、航空基地の稼働率、東南アジア全域に配備されたレーダー基地や潜水艦娘からの報告、果ては歩哨から上げられた不審物の情報など。
ジャワ島防衛作戦に少しでも円滑に遂行できるよう、そして作戦の僅かな綻びも見逃さないよう司令部に集積された。
しかし作戦を亡霊軍隊に散々食い荒らされたことで、もはやゴミ同然となってしまった情報の山。
「ふざけるなァァァ !!!!!」
無造作に振るわれた腕に巻き込まれた書類の山脈が崩れ落ち、木の葉のようにヒラヒラと宙を舞う。
誰も何も答えなかった。
大局を見れば、ジャワ島防衛作戦は成功したといえるだろう。
経緯はどうあれ、作戦目標であるジャワ島の防衛は成功し、深海棲艦・上陸部隊は壊滅的な被害を受け撤退。
特に船足の遅かった輸送艦は、遅れて到着した味方航空隊と空挺降下した第五作戦部隊、そして集結した潜水艦隊により、一隻残らず徹底的に狩られ、艦に満載されていた深海棲艦の陸上戦力、歩兵40個師団機甲師団10個師団は陸に上がる事なく、戦略物資諸共海の藻屑と消えた。
深海棲艦・空母機動部隊は、タウイタウイ軍港に被害を与える事なく、文字通り全滅。
必然的に艦載機も同様の運命を辿った。
一方で、こちらの被害は小破艦、中破艦は続出したものの艦娘の損失はなし。
航空隊の損耗も事前予想を遥かに下回っている。
そう考えれば。作戦はむしろ大成功に近い。
たが彼らは『完敗』した。この上なく、完全に。
誰よりも早く艦娘を召喚し、そして深海棲艦と争ってきた自衛隊が。
国家という巨大な枠組み同士が集まって結成された東南アジア連合軍が。
たかが一組織、一隻ごときに『完敗』したのだ。
作戦司令部内の誰もが屈辱と失意のどん底に沈む中―――
「……ミレニアム、そしてラスト・バタリオン、か」
東条少将は、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
作戦は成功した。
深海棲艦は壊滅、潰走したことで表の作戦である『ジャワ島防衛作戦』は成功、そして彼の本来の作戦である『亡霊軍隊の戦力調査』自体も亡霊軍隊の手の内を十分に暴けたことを考えれば大成功に近い。
だが。
彼は『負けた』。確実に、明確に。
油断していたつもりはなかった。手加減していたつもりもなかった。
あらゆる状況を想定し、様々な事態を予想し、勝てるだけの航空戦力を用意し、勝てるだけの艦隊戦力を手配し、勝てるだけの作戦計画を立て、想定された戦略的勝利を収めるはずだった。
いつもと変わらない、全ての作戦において戦略的勝利を収めてきた東条少将の勝利の方程式。
だが―――
敵が
力尽くで
初めて彼の『想定』という手のひらから戦場が零れ落ちた、初めての『想定外』。
勝ち続けた彼の戦争で、初めて負けた。
全身に重くのしかかる倦怠感と、言いようの無い徒労感。
初めて味わうその感覚の中で、ようやくそれが何なのか理解した。
嫌なものだ―――
「そうか、これが……『負け』か」
彼の全く感情の読めない瞳は、どこかへの消え去った亡霊軍隊―――ミレニアムへと向けられていた。
こうして様々な者たちの思惑が絡み合ったジャワ島防衛作戦は、数多の思いを引き寄せながら、幕を閉じた。
損害報告
〇人類参加戦力
海上戦力
艦娘 小破 54隻
中破 22隻
大破 なし
轟沈 なし
陸上戦力
損害なし
航空戦力
航空機(艦載機、基地航空隊含む)
873機損失
〇深海棲艦参加戦力
海上戦力(撃沈数のみ記載)
空母棲姫 撃沈
空母級 撃沈 21隻
軽空母級 撃沈 18隻
戦艦級 撃沈 12隻
重巡級 撃沈 12隻
軽巡級 撃沈 2隻
駆逐艦級 撃沈 164隻
輸送艦級 撃沈 420隻
陸上戦力
歩兵師団 40個師団 喪失
機甲師団 10師団 喪失
航空戦力
航空機(艦載機、基地航空隊含む)
推定3000機損失
〇ミレニアム参加戦力
損害なし