空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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 何とか今年中に投稿することが出来た(´・ω・`)

 皆様、いつも感想、誤字報告ありがとうございます!
 返事は返せておりませんがいつも励みになっております!


 前回までのあらすじ!

 レジェス大将「つまり…ジャワ島防衛作戦の真の目的は内通者を誘き出す為の罠だったんだよ!!」
 ΩΩΩ   「な‥‥なんだって―――!?」 
 東条少将  「計 画 通 り」(二回目)






第35話 伊達男との邂逅

 

 

 

――――1999年10月15日 リンガ軍港 提督執務室

 

 

 

 「………もう何というか、凄いわね」

 

 「ホントにな」

 

 

 橋本少将と会談をした次の日の、昼下がりの執務室。

 来客用のソファーに座りながらミレニアムの飛行船に対する中間調査報告書を読み終えたビスマルクが呻くように発した第一声がそれだった。

 

 ようやく自身の担当する事後処理の業務を終え、解放されたような浮かれた気持ちで自身のホームであるリンガ軍港に帰ってきたビスマルクを待っていたのがこの調査報告書である。

 

 それを読み終えたビスマルクに、もはや先の解放感などはなかった。

 残されたのはこの訳の分からないミレニアムに対する頭痛と急降下爆撃のように沈んだ気持ちのみである。

 

 ミレニアムという組織を少しでも理解しようと、予め航空機や偵察機に備え付けられた撮影機器や証言などを見聞きしていた為に、このミレニアムという集団が色々な意味で常軌を逸した存在であるということは理解していた。

 だかそれでも。

 この情報が何かの間違いではないのかという気持ちも、心のどこかに無かったわけではない。

 それがあまりにも現実離れしていたがゆえに。

 しかし科学的見地からも、それが真実であると改めて証明されてしまえば、もはや逃避するわけにもいかなかった。

 

 東条少将もそう思っているのか、執務机のパソコンに何かのデータを打ち込みながら返答を返す彼の言葉にも、どこか投げやりさが含まれていた。

 

 

 「まったく、ミレニアムだか、ラストバタリオンだか知らないけど、本当に面倒な……」 

 

 

 ビスマルクはこめかみを抑えながらそうボヤく。

 

 ただでさえ、第三勢力の介入という事実だけでも十分に鬱陶しいというのに、それが現代の科学技術でも解析不可能な『未知』の技術力を有しているのだ。

 そしてそれに輪にかけておかしいのが―――

 

 

 「ホント、一体何がしたいのこいつ等は……?」

 

 

 戦略面においての、行き当たりばったりとしか思えないこの組織の行動だった。

 彼らの有する『未知』の技術。

 世界を覆う電波障害下でも使える電子技術やミサイル、イージス艦にも匹敵する飛行船の建造ノウハウや、最後に見せた姿を消す能力?技術など。

 どれ一つとっても世界を揺るがす、革新的な技術と言えるだろう。

 もしこれ等の技術を遍く広めることができるのならば、今現在、世界的に見れば膠着状態ある深海棲艦との戦争を大きく打開出来るほどに。

 それこそその価値を正しく理解し、活かすことのできる先進国の何れかに秘密裏に持ち込めば、その組織が如何なる後ろ暗い背景を持とうとも、破格の条件で取引に応じてくれるだろう。

 

 だが、彼らはそうはせずに、あまりにも呆気なくその手札を切ってしまった。

 それによって相手に解析や対策されることを考えれば、その行動はあまりに迂闊といえるだろう。

 もちろん彼らにまだまだ隠し札があるからこそ切ることができたという可能性もあるし、むしろこれら各国に興味を抱かせることこそを目的とした見せ札であることも否定はできないが。

 

 しかもその切り方も杜撰としか言いようが無い。

 今まで一切外に漏れることの無かったとびっきりの鬼札(ジョーカー)。その戦果が一番見込める初見であの様だ。

 戦術面において、深海棲艦・空母機動部隊をあれほど一方的に蹂躙し尽くしたのだ。

 上手くやれば両陣営に大ダメージを与えることが出来たにもかかわらず、結局損害を与えたのは深海棲艦のみ。

 こちらには実害という点についてはともかく一切損害は出てはいないどころか、ただただ自分の手札を無駄に披露しただけに終わってしまった。

 

 たとえミレニアムがそこにどんなメリットを考えていたとしても、それが自分の手札を無駄に切るというデメリットを越えられるとはビスマルクには到底思えなかった。

 

 それに、一番戦果を挙げる機会を敢えて見逃すなど、彼らの嘯いていた「戦争こそが目的」という主張とも相反しているようにも見える。

 

 まるで最先端科学技術を使って窃盗をするような、世界最高のスーパーコンピューターを開発して中小企業にハッキングを繰り返すような、起こした行動に対しての成果が全く見合わない。

 他にもっと上手くやりようがあるにもかかわらずそれらの手法を取ることなく、最小限の行動で最大の成果をという組織運用のセオリーすら無視する短絡的で場当たり的としか思えない行動の数々。

 

 戦術面においては強大な戦力を奮いながら、戦略面においては、とても大局を見て動いているとは思えないチグハグな行動を繰り返す様は、まるで考える頭を失い、ただ暴れまわるだけの巨人のように思えた。

 

 

 「理解不能だわ………」

 

 

 もはやビスマルクはこのミレニアムという組織を理解することに匙を投げていた。

 

 何やらミレニアムが『内通者』に執着している節がある為に、今現在それを利用しミレニアム自身を政治闘争という表舞台に引き摺り出すことでその動きを封じに掛かっていることは東条少将から聞いてはいるが。

 

 だがそれが本当にミレニアムに対して有効であるのかどうなのかさえもビスマルクには判断がつかなかった。

 

 しかしそれで思考を放棄する事は、東条少将の秘書艦としてのプライドが許さない。

 理解出来ずとも、考えること自体は放棄せず、思考を巡らせていった結果、ふと、ある点に気がついた。

 

 

 「……ねえこれ、今ミレニアムが『内通者』そっちのけで、武力行使に出られたら詰まない?」

 

 

 そう、それはミレニアムが東条少将の誘いに食いつかずこちらに直接武力行使をしてくる可能性だ。

 そもそもの前提として、東条少将が主導する『内通者』を利用して『未知』と『不合理』に座するミレニアムを、『既知』と『合理』のホームグラウンドである政治闘争の場へと引きずり墜とそうというこの一連の動き。

 これは、現有戦力では『未知』と『不合理』を操るミレニアムには敵わないことから立てられた苦肉の策とも言える。

 

 リンガ軍港、タウイタウイ軍港に東南アジア連合軍、そして隠していた飛行教導群の戦力。

 東条少将がジャワ島防衛作戦を隠れ蓑にして集めた手札を絶好のタイミングで切ったにもかかわらず、ミレニアムの逃走を許してしまったのだ。

 

 作戦は終了し、それぞれの戦力を留め置く大義名分が無くなりそれぞれの拠点へと戻った今、もはや戦力という面においてミレニアムに武力行使を押し留めさせる要因など何処にも無い。

 わざわざこちらの策に乗らずとも、彼らが望めば今すぐにでも、ミレニアムに対し有効な戦力のないこちらを、好きなだけ攻撃し、分散してしまったこちらの戦力を各個撃破することが出来るのだ。

 それにその手段を選ぶ方が、東条少将の策に食いつくよりも、よっぽどミレニアムらしい(・・・)と言える。

 

 東条少将の策に垣間見たビスマルクの懸念。

 

 

 「まぁ詰むだろうな」

 

 

 その懸念を東条少将はすんなりと認めてしまった。

 

 

 「そんなあっさりと………」

 

 「事実だからな。

 今のところ、こちらにミレニアムに対抗できるだけの戦力を用意できない以上、確かにミレニアムに武力行使に出られたら終わりだ」

 

 

 尤も、東条少将はそう区切りながら言葉を続けた。

 

 

 「ミレニアムにそのつもりは無いようだが」

 

 「?何でそんなことがわかるの?」

 

 

 疑問符を浮かべるビスマルクに東条少将はその疑問への答えを端的に教えた。

 

 

 「簡単な話だ。

 まだ『内通者』が生きているからな(・・・・・・・・)

 

 「………ああ、そういうこと」

 

 

 ビスマルクはその答えに納得したように頷いた。

 

 確かに戦力という面から考えれば、ミレニアムが武力行使を押し留める要因は無い。

 だが、それ以外の要因。

 皮肉にも、ミレニアムが東南アジア連合内に作り上げた『内通者』の存在こそが、彼らが武力行使をする上で最も大きな障害となっていた。

 

 リンガ軍港にせよ、タウイタウイ軍港にせよ今現在、その土地は東南アジア連合から租借する形で日本の管理下に置かれている。

 そこに対し武力行使をするということは、今までの様な、言い逃れの全く出来ない、日本という国家に対する宣戦布告と同義であり、実質の同盟国であり、その租借元である東南アジア連合をも敵に回す行為だ。

 

 だがその程度のことはミレニアムも、そして『内通者』も当然理解はしていただろうし、想定の範囲内だっただろう。

 しかし、東南アジア連合海軍のトップであり、東条少将と共闘関係にあるレジェス大将、査問会議の場でミレニアムに繋がる『内通者』の存在を暴露したことで流れが変わった。

 

 本来であれば、伏せていなければならないはずの『内通者』の情報が公に出されたことで、ミレニアムが武力行使をしようともその安全を保証されていた『内通者』たちは、いつの間にか安全圏から引き摺り出されていたのだ。

 

 もしこの状態でミレニアムが武力行使をしようものなら、『内通者』の救助は絶望的となってしまうだろう。

 だがそれは逆に言えば、ミレニアムが『内通者』の救助を諦めない限り、ミレニアムが武力行使に出ることはないとも言えるのだ。

 

 それだけでは無い。

 もし、それらの事を理解しているはずのミレニアムが、それでも尚武力行使をするのならば。

 それはミレニアムが『内通者』を助ける気は無い、すなわち自分たちは完全に切り捨てられたと同義である。

 

 そして、そこにどういう理由があったのかは定かではないが、自身の利益の為に祖国の作戦情報を横流しするような奴らだ。

 切り捨てたミレニアムに律儀に義理立てする筈も無い。

 もしミレニアムが自分達を切り捨てたと知ろうものなら、彼らは間違いなく自らの保身の為に、一瞬の躊躇もなくミレニアムの情報を売り渡し、こちら側に寝返ろうとするであろう事は容易に想像がつく。

 

 だからこそ、死人に口なし。

 ミレニアムが武力行使を決断したのであれば、作戦前に必ず『内通者』を始末する。

 そしてそれはそのままミレニアムが武力行使を決断したというサインになるのだ。

 

 

 「まるで鉱山のカナリアね」

 

 

 いくら自業自得であるとはいえ。

 自らの死をアラーム代わりに使われている彼らに、ビスマルクの憐憫の念を抱いた。

 

 

 「こちらとしてはその方が助かるがな。

 ……それどころか、ミレニアムはこちらの誘いにも乗ってくれるらしい。

 昨夜『内通者』を監視させていた班から連絡があった。

 某所の高級ホテルにて秘密裏に集まり、会合の場が持たれたそうだ」

 

 「……ちゃっかり監視してたのね。

 でもこれで奴等にとっても『内通者』は、すぐに切り捨てるには惜しい存在であることは分かったわ。

 ……会合の目的は、今後どう動くかについての話し合いかしら?

 内容は?」

 

 「さすがにガードが厳しく中までは探れなかったそうだが……。

 まあタイミングを考えれば、確実にミレニアムの手の者も参加しての重要な会合だったのは間違いないだろうな」

 

 

 東条少将が『内通者』たちを締め上げつつある中での今回の会合。

 おそらくは『内通者』たちがミレニアムに救助を求め、それに応じての会合だったのだろう。

 実際の所、彼らの話し合いが上手く纏まったのか、物別れに終わったのかは定かではない。

 だが、ミレニアムが会合の場を用意すること自体、彼らが未だ、『内通者』の救助を諦めきれていないことの証左でもあった。

 

 

 「まあ、一応今のところは、だけど、こちらの思惑通りに進んでいるわけね」

 

 「ミレニアムの気分次第で簡単にひっくり返される程度でしか無いがな」

 

 

 東条少将はそう言いながらため息をついた。

 

 一見すると、さも東条少将がミレニアムを手玉に取っているように見える。

 だか実際の所、今のこの状況はミレニアムがそれを望んだからこそ成立しているのだ。

 

 『内通者』の救助と、武力行使。

 ミレニアムがこの二つを天秤に掛けた時、たまたま『内通者』への比重が、武力行使よりも重かった為に出来た状況でしかない。

 

 しかも最悪な事に、その天秤は今だに動き続けている。

 もし、その比重が武力行使へと傾いた瞬間、先の戦いで、深海棲艦・空母機動部隊を一方的に叩き潰して見せた圧倒的な戦力を以て、こちらの拠点を蹂躙していくことだろう。

 そして、もしそうなった場合、現状こちらにそれを防ぐ手立ては無い。

 

 

「厳しい戦いになるわね……」

 

 

 だからこそ、それを防ぐためにも、『内通者』を通してのミレニアムへの攻勢は慎重を期さねばならないのだ。

 『内通者』をミレニアムが出張らなければならない程度には追い詰めつつ、切り捨てるには惜しいと思える程度の空きを見せる。

 強過ぎず、弱過ぎず。

 針に糸を通すかの如き、繊細で絶妙な調整を以て、戦局をコントロールする。

 

 とはいえ、ビスマルクはそこまで深刻には考えてはいなかった。

 

 それは東条少将に対するある種の信頼といえる。

 

 彼女の目の前にいるのは、長年ほとんど損害を出さずに深海棲艦の侵攻を防ぎ続けた稀代の軍略家。

 陰謀、策謀を張り巡らせる事にかけては、右に出る者はいない彼が推し進めるのであれば、そんな曲芸じみたことも、何やかんや上手くやって見せるのだろうな、と。

 信頼、というより諦めと言ったほうが正しいかもしれないが。

 

 

 「まあ、そこまで無理難題という訳でもないさ。

 ………別にこの『内通者』を使って、ミレニアムとの決着を付けなければならないという訳では無い。

 これはあくまで『時間稼ぎ』だ。

 こちらの準備が整うまでのな(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 東条少将は冷めたコーヒーに口をつけながら、そう口ずさんだ。

 

 東条少将はミレニアムへの対処において、ジャワ島防衛作戦を隠れ蓑とし、東南アジア連合海軍と自衛隊と共同で行われた対亡霊軍隊計画―――『ミレニアム拿捕作戦』に失敗した時点で、早々に独力での解決を諦め、本国がミレニアムの対処に動き出すように働きかける方針へと転換していた。

 

 まあその方針自体、特に可笑なことではない。

 東南アジア連合軍と足並みを揃えているとはいえ、東南アジア地域に展開している自衛隊の戦力自体はごく一部に過ぎない。

 現在の艦娘を動員し、再建、拡充された自衛隊の総数と比べれば微々たるものだ。

 そして現場で手に負えなくなるような問題が起きれば、本国が問題に対処することになるのは、むしろ当然の流れと言えるだろう。

 

 実際、東条少将の思惑通りに事は進んでいる。

 本国に重い腰を上げてもらうにあたって最大の問題が、どのようにして自衛隊上層部にこのミレニアムという組織の脅威ついて正しく認識してもらうかだったのだが、先の作戦において、ミレニアムが進んで自らの手のうちを披露した為に、数多の目撃証言やガンカメラの映像といった物証が揃っていた事で、その心配ついては無くなった。

 

 ただ、その過程で真実を知ってしまった日本政府内ではハチの巣を突いたような騒ぎとなり、こんな非常識なほどの戦力を有する組織の対処をしなければならない自衛隊幹部たちは、現在進行形で頭部がハゲ上がるほどのダメージを受けて続けているのだが、それは東条少将の関するところでは無い。

 

 ともかく、今や自衛隊上層部がミレニアムという組織の脅威について正しく認識しているが為に、その対処をするとなれば、もはや油断や慢心が存在することはない。

 

 北方地域にて、深海棲艦の南下を阻止すべく展開してい北方集団や、シーレーンを守護する海上護衛総隊、そして日本本土防衛の要である、再建、拡充された自衛隊の本隊から、どのような事態にも対処できるだけの十分な戦力を抽出し、確実に処理(・・)しようと動くだろう。

 

 いや彼自身(東条少将)そう仕組む(・・・・・)

 

 これこそが、東条少将にとっての本命。

 

 この地に本国からの増援を呼び込むことで、ミレニアムに対し戦力面(・・・)で対抗できるだけの(・・・・・・・・・)戦力を用意する(・・・・・・・)

 

 ミレニアムに仕掛けた『内通者』を利用した一連の策謀は、こちらがその準備を整え終えるまでの『時間稼ぎ』でしかない。

 

 そして『内通者』をあくまで『時間稼ぎ』の駒としてだけに使うのであれば、その役割を十分に果たすと踏んでいた。

だが―――

 

 

 「そう上手く行くかしら?」

 

 

 

 それでもなお、ビスマルクの心配の種は尽きることはなかった。

 

 理屈の上では分かるのだ。

 ミレニアムに戦力面で対抗するべく、本土からの増援をこの地に呼び込むことの必要性も、その為の時間稼ぎの為にミレニアムが執着している『内通者』を利用するということも。

 

 おそらく、このままいけば東条少将の目論見通り、事を運ぶことは出来るだろう。

 そして自衛隊上層部がミレニアムという組織の脅威について正しく認識している以上、本土から送られて来るであろう増援も十分な戦力が送られてくるに違いない。

 

 『普通』であれば、上手くいく。

 最悪、直接仕留める事は出来なくとも、その戦力が抑止力となり、手を出させないようには必ず出来る。

 

 間違いなく、確実に。

 

 だが、奴らは『普通』じゃない。

 

 あの戦争狂のような奴等がその程度の事で引き下がる訳がない。

 それに、根本的な話。

 こちらは油断なく構え、十分な想定をしてもなお。

 ミレニアムがさらにその上を行く可能性(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)をビスマルクは憂慮していた。

 

 ミレニアムが振るう、現代の科学技術による調査の手すら跳ねのけた『未知』の技術の数々。

 彼らは何故か、その手札を無駄に披露したとはいえだ。

 ミレニアムの持つ手札がそれだけのはずがない。

 勿論、それも含めて東条少将は対応して見せるつもりでいるのだろう。だが。

 

 まだあるはずだ。

 彼らがこれだけの行動を躊躇なく起こし、手札を浪費してなお、自信を失わないだけの何か(・・)が。

 ミレニアムが有するとっておき(・・・・・)Joker(ジョーカー)が。

 

 そしていつの日か、そのとっておき(・・・・・)が切られた時、果たして自分たちはそれに対応することが出来るのだろうか。

 

 その懸念がビスマルクの根底にあった。

 

 

 「……最低、何か一つでもあいつ等の手札が割れたらいいのだけれど」

 

 「それなんだかな―――」

 

 

 表情を険しくし考え込むビスマルクに向け、東条少将はそう言いながら、執務机の脇にあったある資料を投げて寄越した。

 

 「これは?」

 

 「今朝本土から急ぎで送られて来た、ミレニアムの飛行船に対する中間報告書、その追加分だ。

 それによれば………、あのミレニアムが振った力の一端―――あのテレポートのタネが割れたかもしれん」

 

 「えッ!?一体どうやって!?」

 

 

 東条少将の口から飛び出した思いもよらない言葉に、ビスマルクは思わずソファから身を乗り出した。

 

 まさかビスマルクも、よりにもよってミレニアムの数々の力の中で、最も『未知』と言っても過言ではない、400mを超える巨大な飛行船が無数の目撃者の前から霞のように姿を消したあの現象から説き明かされるとは思いもよらなかったのだ。

 

 東条少将は、ビスマルクがその資料を受け取り、慌ただしく読み始めたのを確認すると、事の発端を話し出した。

 

 

 「きっかけは、ジャワ島防衛作戦の戦闘諜報の作成時、当時のレーダー情報の分析に当たっていたレーダー技官が、その情報に僅かな違和感を感じたそうだ」

 

 「レーダー技官が?

 ……違和感も何も、そもそもミレニアムのせいでレーダーは使用できなかったんじゃないの?

 結局、あの飛行船が消えた後もしばらくはレーダーも回復しなかったし。

 すぐに回復しなかったという事は、妨害電波を流していたのではなく、チャフのようなもので無力化していたのかしら?」

 

 「まあ、その手法は定かではないが……。

 だが、観測所のレーダー機能の停止から、飛行船消失後、時間を開けて再起動が果たされるまでの、その順番に重要な意味が隠されていたようだな」

 

 「…!観測所のレーダー機能の停止の順番は、東から西へ(・・・・・)向かって広がっていってるけど、機能回復の順番は西から東に(・・・・・)向かって回復していってる?」

 

 「ああ、明らかにおかしい。

 レーダー機能停止の順番こそ、実際にミレニアムの飛行船のが辿った経路と一致してはいる。

 だがその最後に、ミレニアムの飛行船の姿は消したはずだ。

 実際、どのようにしてこれほどの電波障害を引き起こせたのかは、ひとまず置いておくとしてだ。

 東から西へ向かい、そこで姿を消したのであれば、レーダー機能回復の順番は、チャフのように空間自体に影響を及ぼすものだったのであれば、辿った経路と同じく東から西に(・・・・・)回復していくはずだ。だが」

 

 「結果はその逆だった………ということは、まさか」 

 

 「……そしてこのデータに、レーダー機能が回復していった時刻と地点、そして航空隊が飛行船捜索の為に索敵範囲を段階的に広げていった時間と場所を合わせると―――」

 

 「これはッ!?」

 

 

 そこには、飛行船捜索の索敵範囲を広げていく航空隊の後をゆっくりとつける何かの影(・・・・)が浮かび上がっていた。

 その影の正体(・・・・)が何なのかなど、考えるまでもない。

 

 

 「奴等の口説と演技に、我々はまんまと踊らされたということだ。

 奴らは…、ミレニアムの飛行船は本当の意味(・・・・・)で姿を消してなどいなかった。

 その場から消失したようにに見せかけていただけで、実際はあの場所に居たんだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 東条少将の口から飛び出した、あまりに予想外の事実。

 まるで時間が止まったかのように固まるビスマルクだが、それを告げた当の本人は素知らぬ顔で、データを打ち込み作業を続行していた。

 

 

 「ちょ、ちょっと。随分反応が薄くない?」

 

 

 ようやくその衝撃から立ち直ったビスマルクは、とりあえずそこに不満を覚えた。

 

 

 「資料自体は先に見ていたからな」

 

 「いや…。それはそうだけれど、……もうちょっと、こう」

 

 

 一緒に驚いてくれとまでは言わないが、自身の反応を全く気に掛けられないというのも、それはそれで寂しいものだ。

 

 

 「……じゃなくて!

 飛行船は本当の意味(・・・・・)で姿を消してなどいなかった。

 その場から消失したようにに見せかけていただけで、実際はあの場所に居た(・・・・・・・・・・)って、もしかして……」

 

 「……自衛隊上層部では、状況証拠のみではあるが、奴等が使ったのは、テレポートなどといったその場から(・・・・・)移動するものではなく(・・・・・・・・・・)、光学迷彩のような姿だけを隠す(・・・・・・)ものだった、という仮説を立てているようだ。

 今は本部ではこの仮説を立証すべく、ジャワ島防衛作戦の映像記録を片っ端から精査しているいるらしい」

 

 「まあ、テレポートしたなんてぶっ飛んだ仮説よりは、まだとっつきやすいけど……」

 

 

 ビスマルクは東条少将の言葉を自分の中で噛み砕きつつ、再度資料に映るミレニアムと思わしき影を眺めながら、そう答えた。

 もちろん状況証拠しか無い為にその仮説は、未だ推測の域を出る事はないものの。

 だがビスマルクは、その仮説は限りなく真実を示しているのてはないか、そう思えたのだ。

 東条少将の反応からも、少なくともテレポートなどではないとう見解については一致しているようにみえる。

 その上で―――

 

 

 「まるでペテンね……」

 

 

 ビスマルクの中には、ミレニアムに対する憮然とした気持ちが残っていた。

 

 仮にこの仮説が正しく、ミレニアムの飛行船消失のタネがテレポートではなかったとしても。

 それでも、あれだけ巨大な飛行船を、映像を含め、あの場に居たであろう全ての航空隊の隊員を欺き通すほどの精度を持つ光学迷彩など、現代の科学技術でも再現不可能な『未知』の技術であるのに変わりはなく、依然としてミレニアムが脅威が健在であることは十分に理解している。

 

 しかしだ。

 あれだけ、自分たち鮮烈な印象を植え付け、芝居じみた口上を嘯きながら消え去ったミレニアムがである。

 もしかしたら光学迷彩で消えたように見せかけ、飛行船捜索に当たる航空隊の後方にコソコソ隠れながら、離脱していたかもしれないというのは……、色々と言いたい事もあろう。

 

 

 「そう言うな。そのおかげでこちらは、この光学迷彩と思しきものの弱点(・・・・・・・・・・・・・)を知ることが出来たんだ」

 

 「まあ、そうなんだけど………」

 

 

 

 東条少将のその言葉にビスマルクは渋々ながら同意を示した。

 

 ジャワ島防衛作戦の事後処理に入る直前、手分けして記録を精査していた時だ。

 二人は作戦中にミレニアムの取った軍事行動の中で少し気になる点を見つけていた。

 

 ミレニアムという組織は、戦略面においては、起こした行動に対しての成果が全く見合わない、最小限の行動で最大の成果をという組織運用のセオリーすら無視する短絡的で場当たり的としか思えない行動を繰り返しているものの、こと戦術面においてはその限りではなかった。

 

 だが、ジャワ島防衛作戦時、ミレニアムがとったいくつかの軍事行動の中で、一つだけ全く説明のつかない行動があったのだ。

 

 それはジャワ島防衛作戦の終盤、無数にあったはずの観測所のレーダー機能を次々と停止に追い込み、自衛隊の早期警戒線を機能不全に追い込んだ電子攻撃(ノイズジャミング)だ。

 

 電子攻撃とは、レーダーや通信といった、敵が利用する電磁波の周波数(または波長)帯域―――電磁スペクトルを妨害するための活動のことだ。

 その攻撃の中でも、ノイズ・ジャミングは、レーダー波の使用する電波に強いノイズ電波を放射し、本来の目標物からの反射波をノイズで隠蔽するものになる。

 

 確かにそれを使えば、相手のレーダー波をノイズ電波で押し潰すことで無力化し、自分の位置を相手に探知されないようにはできるだろう。

 

 だがそれは逆に言えば、『レーダーが無力化された範囲に敵がいる』ということを相手に教える危険性も秘めているのだ。

 まさに潜入任務の最中で、物音を隠すために警報を鳴らすような所業である。

 

 監視網を突破するだけならば、居場所を探知されなくとも、敵が来たことを知らせるノイズジャミングではなく、レーダー等のセンサー類から探知され難くし、そもそも敵が来たことを悟らせないステルス技術を用いるはずである。

 

 にもかかわらず、ミレニアムはノイズ・ジャミングを選択し、観測所のレーダー機能を無力化する道を選んだ。

 しかも、わざわざそのような道を選んでおきながら、ミレニアムの飛行船は広範囲にノイズ・ジャミングをばら撒き自衛隊の早期警戒線を機能不全に追い込みつつも、航路を迂回するでも欺瞞するでもなく、タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊と深海棲艦・空母機動部隊が死闘を繰り広げる戦場へと、まっすぐ一直線に突っ込んでいったのだ。

 

 それならば最初からノイズ・ジャミングなどばら撒かず、すぐに戦場に向かえばよかったのだ。

 

 はっきり言ってこの一連の行動は、自身の手札を無駄に披露しただけの、完全に無意味な行動といってもいい。

 

 結局、当時はミレニアムの真意を読み取ることができず、自身の有する技術の優位性をアピールする為の行動として無理矢理納得することにした。 

 そしてそれがビスマルクに、ミレニアムという組織を理解することに匙を投げさせる要因の一つにもなっていたのだが、それはともかく。

 

 だが。もし、もしも。

 

 その行動に明確な意図が(・・・・・・・・・・・)隠されていたとしたら(・・・・・・・・・・)

 

 そしてノイズ・ジャミングを引き起こした理由が、自分の位置を相手に探知されないようするためではなく。

 

 観測所のレーダー機能を無力化し(・・・・・・・・・・・・・・・)早期警戒線(・・・・・)を機能不全に追い込むことにこそある(・・・・・・・・・・・・・・・・・)のだとしたら。

 

 全ての行動に説明がつく。

 

 そしてミレニアムが隠したかったであろう光学迷彩と思しきものの弱点(・・・・・・・・・・・・・)も。

 

 

 「今なら分かる。

 ミレニアムの飛行船が引き起こしたノイズ・ジャミング、あれはこちらへの攻撃だったんじゃない。

 自身の持つ、『姿を消す』という能力の範囲を相手に誤認させ、撤退を円滑に進めるための仕込み(・・・)だったんだ」

 

 「そしてわざわざノイズ・ジャミングという手札を使ってまで『姿を消す』という能力の範囲を相手に誤認させなければならないということは、つまり……」

 

 「ああ、おそらく間違いないだろう。あの光学迷彩と思しきものは―――」

 

 「「自身に反射するレーダー波を(・・・・・・・・・・・・・)誤魔化す(・・・・)ことができない(・・・・・・・)」」

 

 

 二人はそう結論づけた。

 

 だからこそ、ノイズ・ジャミングを使ってまで、観測所のレーダー機能を無力化し、自衛隊の早期警戒線を機能不全に追い込む必要があったのだ。

 

 その為に飛行船の姿が消えたあとも、レーダー機能が回復しなかったのだ。

 

 姿を消したように見せかけ実際は、その場にいたが為に。

 ノイズ・ジャミングを止め、レーダー機能が回復しまえば、船体にレーダー波が反射してしまい、レーダーに映ってしまう為に。

 

 そのために、ミレニアムはあの不自然すぎるタイミングでノイズ・ジャミングを使ったのだ。

 

 そして、こちらの『既知』を『未知』によって打ち砕くことで、こちらの陣営に「ミレニアムの引き起こす全てが『未知』の現象である」という認識を植え付け、そして「今起きている問題全てがミレニアムの『未知』の現象によるものだ」と、ある種の思考放棄状態に陥らせることで、ミレニアムの飛行船は、まんまと戦場から離脱せしめたのだ。

 

 

 「ホント、マジックのタネ明しを聞いている気分だわ……」

 

 

 ビスマルクはムスッとした表情でそう答えた。

 

 ビスマルクが言ったように、ミレニアムがとった行動はマジックそのものだ。

 

 タネ明しをされ、初めて分かる。

 冷静に考えてみれば、何故その時に疑問を抱かなかったのかと、自分を問い詰めたくなるような不自然な行動の数々。

 だがそれはタネ明しをされ、冷静に考えて始めて分かったもので、では当時のあの目まぐるしく状況が二転三転する戦局の中で、その考えに至れるかと聞かれれば、口をつぐまざる負えない。

 

 何せそれは東条少将も含め、全ての自衛隊と東南アジア連合軍の者たちを踊らせ、完全に騙し切った一大イリュージョンなのだから。

 

 その時、ふとビスマルクの脳裏に疑問が浮かんだ。

 

 

 (……これ、あの状況で光学迷彩を使ったのって、本当にミレニアムが望んだ状況なのかし(・・・・・・・・・・・・・・・・・)()?)

 

 

 確かに、あの状況で推定・光学迷彩を使ったことで、ミレニアムはこちらの陣営全てを騙し切り、戦場からまんまと離脱することには成功した。

 それだけを見れば大成功に見える。

 

 だが、それと引き換えに、マジックのタネは割られ、二度と使えなくなったばかりか、そこからあの推定・光学迷彩の弱点まで暴かれてしまったのだ。

 そのマジックも当時のあの目まぐるしく状況が二転三転する戦局の中で使ったからこそ通用したものの、冷静に考え調査すれば、今のこのように分かる程度のタネでしかない、言ってしまえばその性質は、マジックというよりも、一発芸に近いものだ。

 戦場で手札を披露するのとは訳が違う、完全な使い捨て。

 

 それを考えれば。

 手札を完全に使い潰してしまったことを考えれば、とてもではないが大成功とは言い難い。

 

 それに加え、手札を一枚完全に使い潰すような案をである。

 

 戦略面では杜撰極まりないものの、戦術面ではその限りではないミレニアムが。 

 戦争という行為自体に楽しみを見出しているような、まごう事なき戦争狂が。

 上手くやれば、長く遊べる手札(オモチャ)を、戦場から撤退するためだけに、使い潰すことを前提に計画に組み込むだろうか。

 

 もしかしたら、これは―――

 

 

 (…もしかして、切ったのではなく、切らされた(・・・・・)?)

 

 

 ミレニアムにとっても、あの場で手札を使い潰すことになったのは、想定外だったのではないだろうか。

 彼らが、戦場からの撤退を円滑に進ませるべく、万が一の為に用意してあった『保険』。

 本来なら、こちらの混乱に乗じて撤退するために、使う必要のなかったその『保険』を。

 東条少将の作戦によって、ミレニアムの想定を超える戦力に包囲されたために、仕方なく(・・・・)使い潰さざるをえなかったのではないだろうか、と。

 

 もちろん、確たる証拠などある話でもない。

 自分たちにとってかなり都合のいい解釈をしていることも否定できないだろう。だが。

 

 ビスマルクは、今の今までミレニアムという存在は、『既知』と『合理』の通じない、どこまでも『未知』と『不合理』であるもの、という先入観を抱いていた。

 

 実体をまるで掴めない、風船のように際限なく膨らんでいくミレニアムの虚像。だが。

 

 ここまでの調査結果と推測を聞いて思ったのだ。

 

 ―――そう思っていたのは、自分たちがそうであると思い込んでいただけで

 

 ―――実体が掴めないのは、自分たちが妄想を膨らませていただけで 

 

 

 (……もしかしたら、もしかすると私が思っているよりもずっと―――)

 

 

 その実体(・・)は、小さいものなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (まあ、それだけじゃないんだろうが(・・・・・・・・・・・・))

 

 

 深く考え込むビスマルクの尻目に、東条少将は引き続きデータを打ち込み作業を続けていく。

 そしてついに打ち込み作業が終わりを向かえると、東条少将はその打ち込んだデータをPCに読み込ませ、立体図(・・・)を仕上げていく。そして―――

 

 

 (これは……、やはりか(・・・・))

 

 

 全ての作業が終わり、立体航路図(・・・・・)が完成したその瞬間。

 ついに東条少将は確信を得た。

 

 

 そもそもの始まりは今朝、本土から急ぎで送られて来た、ミレニアムの飛行船に対する中間報告書、その追加分を読んだ時に感じた疑問(・・)だった。

 

 『ミレニアムが使ったのは、テレポートなどといったその場から移動するものではなく、光学迷彩のような姿だけ隠すようなものだった』という仮説。

 

 その仮説自体はいい。

 状況証拠しか無い為にその仮説は、未だ推測の域を出る事はないものの、テレポートしたなんてぶっ飛んだ仮説よりも、まだ理解しやすい方である。

 

 だが、もしそれが本当であると仮定して、ミレニアムの飛行船が光学迷彩のようなものを使って姿だけを隠したと仮定して。

 果たして400mを超える船体を持つ飛行船が、あの異様に航空機が密集していた空間で、しかも姿だけを消していたにもかかわらず、一度も航空機と接触事故を(・・・・・・・・・・・・)起こさずに(・・・・・)抜け出る(・・・・)ことなど可能なのだろうか、と。

 

 そのことを疑問に思った東条少将は、ジャワ島防衛作戦の終盤、ミレニアムの飛行船が消えた瞬間に周囲を飛んでいた全て航空機の航路図を手配し、立体航路図を起こすことにしたのだ。

 

 そしてその疑問の答えは目の前にあった。

 

 

 (全ての航空機が(・・・・・・・)独りでに何かを(・・・・・・・)避けるように(・・・・・・)飛んでいる(・・・・・))

 

 そこにはミレニアムの飛行船を捜索する航空機たちが開けた、謎の空間が広がっていた。

 大きさは、そう、ちょうど(・・・・)400~500m(・・・)くらいの何かが(・・・・・・・)スッポリと(・・・・・)収まりそうな大きさだ(・・・・・・・・・・)

 

 この場に居た航空隊員が裏切っていたとは考えていない。

 あの時、あの場所に集まった航空隊の隊員は、そのほとんどが艦娘の召喚で呼び出された者たちである為に裏切っているとは考えにくく、そもそもあまりにも数が多すぎる。

 

 そうなれば答えは一つしかなかった。

 

 これがミレニアムによって(・・・・・・・・・)引き起こされた(・・・・・・・)という事だ(・・・・・)

 

 

 (これほどの人員を無意識のうちに誘導する技術……、洗脳?あるいは幻覚か?)

 

 

 もちろん、これはだたの航路図から推測しただけで確たる証拠などある話でもない。

 

 自分でも、あまりにもぶっ飛んだ解釈をしていることも否定できないだろう。だが。

 

 東条少将は、ミレニアムの『未知』と『不合理』は、『既知』と『合理』の直線上にあると考えていた。

 

 完全には『既知』と『合理』の軛から完全には脱しきれてはいない実像。だが。

 

 この結果を見て思ったのだ。

 

 ―――確かに『既知』と『合理』の軛から完全には脱しきれていないのだろう

 

 ―――こちらが思っているよりもずっと、その実体は小さいものなのかもしれない。だが。

 

 

 (……もしかすると、こいつ等はこちらが思っているよりもずっと―――)

 

 

 きっとその正体(・・)は、ロクでもないものに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 あれから二人は、ここしばらくジャワ島防衛作戦の事後処理を優先した関係で、滞ってしまっていた書類の山脈の処理に掛かり切りになり、途中夕食も挟みながらも、それがひと段落する頃には、当たりはすっかり暗くなっていた。

 

 いつの間にか消灯時間である22時が差し迫っていることに、軽い驚きを覚えながらも、二人は手早く帰宅準備を整え、執務室を後にした。

 

 あたりは完全に暗くなり、外灯の明かりと、当直の歩哨たちの持つ懐中電灯とがユラユラと揺れ動く中、二人は帰宅する為に歩道を歩いていた。

 帰宅といっても、実際は基地内にある宿舎へと戻るだけ。

 だが、そこへ向かう歩道を歩くビスマルクの足取りは非常に軽かった。

 

 

 「やっと自分の部屋のベットで寝ることができるわ」

 

 「事後処理の業務の為にあちこち飛び回っていたからな。……だか出先でも仮眠室くらいは貸してくれただろう?」

 

 「いや、ベットのマットレスがやたら硬くてね……」

 

 

 そう言いながら、大きく伸びをするビスマルク身体からは、まるで聞こえる筈のない異音が節々から聞こえてくるかのようだった。

 

 

 「これで、あの二人の仲も戻っていたら、言うことないのだけれど……」

 

 「……ああ、プリンツとグラーフか」

 

 

 その言葉に東条少将は苦々しく言葉を返した。

 

 少し前より、ビスマルクと同じ、ドイツで生まれた艦艇であり、信頼できる仲間でもある、プリンツ・オイゲンとグラーフ・フェペリンの不仲が問題となっている。  

 

 今までそれほど悪くなかったにもかかわらず、『ジャワ島防衛作戦』が正式に決まった辺りで、急激に悪化した二人の仲。

 

 しかも、二人ともそり合わないとか、気に入らないことがあったなどで、喧嘩をしているといった様子ではなく、グラーフが、プリンツに対し、まるで怯えるように(・・・・・・・・・)距離を取り、そして当のプリンツはそのグラーフの行動に対し、気付いていないはずがないにもかかわらず、全く気にしていないかのような、いつも通りの自然体でいることが、その異様性を引き立たせていた。

 

 仲間内の、しかも同郷の仲間の不仲とあっては、東条少将から、リンガ軍港に所属する艦娘の総括を任されている秘書艦としても、二人の友としても、ビスマルクが動かない訳にはいかず、この不仲問題を解決するべく、僅かな空き時間を工面しながら、色々取り組んでは見たのだったが、残念ながら二人が不仲になった原因さえ掴むことが出来なかった。

 

 結局、それからすぐにジャワ島防衛作戦が始まり、『亡霊軍隊』改め、ミレニアムなんてものが出てきてしまった為に、そちらに掛かりきりとなってしまい、ここ二週間ほどは、二人と顔を合わせてすらいなかったのだが、「もしかしたら、ワンチャン、時間が解決していてくれないかな〜」などと、おそらく無駄になるであろう淡い期待を持っていたりもしていたのだ。

 

 

 「どう?私が居なかった間に、何か進展はあった?」

 

 「…………進展は合ったぞ?」

 

 「何で、そんな不明瞭な言い方を……」

 

 

 だが心なしか声を弾ませたように聞くビスマルクに、何故か東条少将は奥歯に物が挟まったような言い方に徹していた。

 

 

 「……何? なにかあったの……?」

 

 

 もうその時点で嫌な予感がしつつも、ビスマルクが恐る恐る聞いてみると、東条少将は諦めたように話し始めた。

 

 

 「確かにプリンツ・オイゲンとグラーフ・ツェッペリンの不仲については進展はあった………。

 ―――端的に言えば、悪化した」

 

 「悪化!?」

 

 「ああ、といってもプリンツの方自体には変化はなく、プリンツと接する時の、グラーフの挙動不審さに拍車がかかっているといった感じのようだが………。

 ……いや、あれだけの挙動不審を見てもなお、変わらないプリンツも、ある意味悪化していると言えるのか?」

 

 「なにをやってるのよ、あの二人は………」

 

 

 想定の斜め下を突き抜けた状況に、ビスマルクはこめかみを押さえて天を仰ぎ、深い、とても深いため息をついた。

 現状維持くらいは想定していたが、まさか悪化しているとは思わなかったのだ。

 仰ぎ見た空には、都会では見ることの出来ない美しい満天の星空が広がっていたものの、ビスマルクの汚泥のような心労を癒すには、ほど遠かった。

 

 

 「ホント、どこまでも祟ってくるわね、彼奴等(・・・)は」

 

 

 当時は何一つ分からなかったが、今ならば―――様々の情報を得ることが出来た今だからこそわかる。

 ビスマルクは夜空を睨めつけながら、おそらくこの二人の不仲の原因であろう、次から次へと問題ごとを引き起こしてくれやがる、今やビスマルクが抱えるストレスの大部分の発生原因であるド腐れ組織―――ミレニアムに思いを巡らせた。

 

 

 「ドイツ第三帝国の艦艇の魂を持つ二人と、総統の口にした(最後の大隊)を冠し、鉤十字(ハーケンクロイツ)を掲げるミレニアム。関係してないはずがないわね……」

 

 「当時は二人とも常に他の部隊と共に作戦行動していたからこそ、外部の者との接触はないと断定していたのだがな。

 ……いや、プリンツとグラーフの不仲が表面化したのも、ジャワ島奪還作戦の終盤、あの深海棲艦の死体で形作られた巨大な鉤十字(ハーケンクロイツ)を直後になるのか。

 ……そこからあの二人が何か(・・)読み取ったことに気付くべきだったか」

 

 「あの時は、まさかあれにホンモノ(・・・・)が関わっているとは思ってもみなかったわよ……」

 

 「まあ、あの時は『亡霊軍隊』の正体は『陸戦兵力を乗せた艦娘を含んだ空母機動部隊』という見立てが主流だったからな。

 あの鉤十字もただのブラフ扱いだった」

 

 「……私がそう判断したのは、それだけが理由じゃないんだけどね」

 

 「?どういうことだ?」

 

 

 慰めるように言った東条少将の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をしながらそう返すビスマルク。

 東条少将から問われると、彼女は気分を切り替えるかのように、大きくため息をつくと、ある出来事を話し始めた。

 

 

 「確か……ジャワ島防衛作戦が始まる前だったかしら。

 偶然、船団護衛の任務に就いていたレーベ(Z1)マックス(Z3)に会う機会があったから、非番だったユー(U-511)も交えて、一緒に昼食を取ったことがあったのよ」

 

 

 「本当はあの二人も呼びたかったんだけど、ちょうど任務でいなくてね」そう付け加えつつ、ビスマルクはその時の様子を思い出すように顔に手を当てながら話を続ける。

 

 

 「その時にね?あの印(鍵十字)の話題が上がったのよ」

 

 「……それで?」

 

 「私も含めてだけど、全員心当たりはないようだったわ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「………それは」

 

 

 ドイツ第三帝国に所属していた六人のうち、四人があの巨大な鉤十字(ハーケンクロイツ)を見ても何も感じなかった。

 だからこそビスマルクは、あの印はただの隠れ蓑、第三者が自身の正体を隠すために用意したただのブラフと切って捨てていたのだ。

 同郷の者たちから、自身の考えが間違いではないと肯定されていたがゆえに。

 今思えば、プリンツとグラーフにも聞かなかったのは痛恨のミスでしかなかったが。

 

 

 「……つまり、あの印にはドイツ第三帝国の艦娘のうち、プリンツとグラーフだけが感じ取れるメッセージ(思い)が隠されていたという事か」

 

 「プリンツとグラーフの態度からしても、メッセージと言えるほど上等なのものじゃないんでしょうけど……。

 ……結局、私たちはあの戦争(第二次世界大戦)ついて全ては知らなかったという事よ。

 私も含めてだけど、レーベもマックスもあの戦争(第二次世界大戦)では初期に沈んだ。ユーはそもそもドイツに居なかった」

 

 「まあ十分な戦果は上げたんだけど!」そう言いながら、ビスマルクはさらに話しを続ける。

 

 

 「でもプリンツとグラーフは……、重巡洋艦Prinz Eugenは、あの戦争(第二次世界大戦)を最初から最後まで戦い抜き、航空母艦Graf Zeppelinは、完成することはなかったけれど、戦争自体は末期まで生き延びた……」

 

 「ならば第二次世界大戦の中期、もしくは末期辺りか?

 その時にあの二人…いや二隻は、あのミレニアムが描いた巨大な鉤十字(ハーケンクロイツ)から何か(思い)を感じ取れるようになるほどの出来事(キッカケ)に遭遇した、と?」

 

 「具体例を上げるなら、あのミレニアムの前身となる部隊、もしくは組織との邂逅、とかかしら」

 

 「……期せずして、ミレニアムとかつての第三帝国との関わりを証明する形になってしまったな」

 

 

 頭に手を当て、もはや何度目かわからないため息をつく東条少将。

 

 

 「これはいよいよ二人とは腹を割って話し合わないといけないわね……」

 

 

 その傍らでビスマルクは、決意固めていた。

 もはや二人とも表面上は円滑に、過不足なく協力し合っているから、などと言っている場合ではない。

 自身がその脅威を認識するはるか前から、ミレニアムの魔手は仲間内に忍び寄っていたのだ。

 それにこれは、ビスマルク自身の失態であると考えていた。

 実際、ターニングポイントいくつかあったはずなのだ。

 だがビスマルクは、ジャワ島防衛作戦の準備に忙殺されるあまり、同郷の仲間に忍び寄る脅威をみすみす見逃してしまった。

 汚名は返上せねばならない。

 東条少将からリンガ軍港に所属する艦娘の総括を任されている秘書艦としても、二人の友としても。

 だが―――

 

 

 「そう一人で背負い込むな」

 

 

 ビスマルクに向け、東条少将はそう言葉を投げかけた。

 

 

 「気づけなかったのは俺も同じ、いや、むしろその脅威を見過ごした咎は、リンガ前線を任された俺が背負うべきものだ」

 

 「でも―――」

 

 「だから」 

 

 

なおも、言いつのろうとするビルマルクを手で制す東条少将。

 

 

 「これから挽回していけばいい。あの気取った亡者共に、我々の仲間に手を出すことが如何に愚かな行為だったかを、しっかりと教え込んでやる。

 その為にも、これからも手を貸してくれるか?」

 

 「Admiral( 提督)……」

 

 

 その言葉を聞いたビルマルクは、腑抜けていた自分を一喝するかのように、パチリと自身の両頬を叩いた。そして―――

 

 

 「ええ!任せて頂戴!」

 

 

 その後には先ほどの思い詰めていたビルマルクの姿は何処にもなく、自信に溢れた本来の彼女の姿があった。

 

 

 「……」

 

 「……」

 

 

 その後も、しばし無言で見つめあう二人。その距離は先ほどよりも近く、いや、現在進行形で少しずつ近づいていく。

 

 

 

 そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「何者だ!」 

 

 

 

 東条少将はその声と共に、ホルスターから素早く9mm拳銃を引き抜き、さりげなく位置を調整していたビスマルクは、瞬時に携帯艤装を展開しつつ一歩前進し、東条少将の盾となるよう構える。

 ほんの僅かな時間で戦闘態勢に移行した二人。

 艦娘特有の探知能力を以て外敵に気づいたビルマルクと、その彼女からアイコンタクトを受け取っていた東条少将が阿吽の呼吸を以て構える銃口、そして砲口は、揃って同じ場所へと油断なく向けられていた。

 そう、歩道を点々と照らす外灯の一つ、その根元付近へと。 

 

 

 「いやはや、全くもって見事な連携ぶり。

 さすがは海上自衛隊の若き俊英・東条少将に、かの有名なビスマルク女史でありますなぁ」

 

 

 その時、パチパチと気の抜けた拍手と共に外灯の死角に当たる暗闇から一人の男が現れた。

 茶色のソフト帽とコートを着こなす、紳士風の容貌をしたその男。

 それだけなら何の異常も感じられない。

 ここが一般人の出入りを厳しく制限され、哨戒の兵士も巡回しているリンガ軍港の敷地内であることを除けば、だが。

 未だ何の騒ぎが起きていないところを鑑みるに、この男は監視網に一切引っかかることなくここまでやって来たということだろう。

 リンガ軍港の心臓部であり、最も警備が厳重であるはずの作戦司令部にほど近い、この場所に。

 それを考えれば目の前の男を外見のみ判断するのはあまりにも危険すぎる。

 

 

 「ビスマルク、いつ気づいた?」

 

 「……本当についさっきよ。ここまで接近されるまで全く気付かなかった……」

 

 「なに?」

 

 

 油断なく交わしたビスマルクの言葉で、東条少将のこの目の前の男に対する警戒度はさらに跳ね上がった。

 

 彼女たち艦娘の身体能力は、携帯艤装に関係なく、人とは比べ物ならないほどに優れている。

 特に気配探知の精度は群を抜いて高く、測定の為に実戦演習をした陸上自衛隊・特殊作戦群の隊長をして、艤装を展開していない状態でも、艦娘の探知範囲半径1㎞から本人に気取られず奇襲することなど不可能と言わしめたほどだ。

 その艦娘である彼女が、目視できるほどの距離まで接近されるまで気づかなかった。

 その時点でこの目の前の男が只者ではないことが伺える。

 

 

 「こいつは本当に人間か?まさか艦娘じゃないだろうな」

 

 

 ここ最近どこかの誰かのせいで、男の艦娘という矛盾存在を真剣に議論していたからか、つい東条少将の口から出た疑念。

 別にそれ自体ただの冗談、ボヤキのようなもので誰かに答えを期待していたわけではない。

 だが―――

 

 

 「分からない(・・・・・)

 

 

 ビスマルクから気になる返ってきた。

 

 

 「……この嫌な感じ。人じゃない?艦娘?それにしては……。これは一体なに(・・)?」

 

 

 まるで異物を見るかのような視線をその男に向けるビルマルク。

 だが、そのような不躾な視線を送られている当の本人は、特に気にしているような様子を見せず、二人に対し仰々しく一礼をして見せた。

 

 

 「お初にお目にかかる。

 私の名はトバルカイン・アルハンブラ

 ミレニアムにおいて中尉の地位を頂いております」

 

 「ッ!?ミレニアムですってッ!?」

 

 

 ほんのつい先ほどまで話題に上っていたその名に、ビスマルクは思わず驚きの声を上げてしまった。

 だが警戒しつつも驚きを隠せないビスマルクとは違い、東条少将はトバルカインと名乗るその男を一切感情の読めないその瞳でまっすぐに見据えていた。

 

 

 「それで?

 ミレニアム所属のトバルカイン・アルハンブラ中尉。

 こんな夜更けに、我々に何か用でも?」

 

 

 ホルスターから引き抜いた9mm拳銃の銃口をトバルカインに向けながらそう問いただす東条少将。

 だが、東条少将から銃口を、そしてビスマルクに至っては携帯艤装の砲口を向けられてもなお、トバルカインはニヤニヤと余裕の笑みを崩すことはない。

 

 そしてトバルカインの口から語られた内容は、予想だにしないものだった。

 

 

 「……会談の申し込みを(・・・・・・・・)我々ミレニアム(・・・・・・・)と君たちとの(・・・・・・)

 

 「………なに?」

 

 

 まさかの会談の申し込みに、今まで感情の揺らめきを見せないようにしていた東条少将から、僅かに驚きの色が見えた。

 そしてトバルカインは、その会談の内容を詳しく語り始めた。

 

 

 「今日より一週間後の正午、このリンガ軍港に、我々ミレニアムの空中艦隊が寄港致します。

 そしてその時に、そちらの代表と、こちらの名代(・・)とで会談の場を設けていただきたい」

 

 「……そちらの代表というのは日本政府としての代表と、そう受け取ってもいいのか?」

 

 「ええ、そう受け取ってもらって構いません」

 

 

 その内容とは日本政府とミレニアムとの会談。

 何故今更?などという疑問はひとまず置いておくとして。

 それ自体は理解できなくもない内容であると言える。だが―――

 

 

 「……なら何故我々(自衛隊)に話を持ちかけた。

 日本政府と話し合いたいのであれば、先ずは外務省に話しを持ちかけるのが筋だろう」

 

 

 本当に会談を申し込みたいのであれば、そちらに頼ればいいのだ。

 断じて自衛隊の、しかも最前線の一司令官如きに持ち込む案件ではない。

 

 

 「なに、我々としても、余計な手間は省きたいのでね。

 建前にしがみつく(テロリストと交渉しない)腰抜けの所に向かうより、こちらを優先したのですよ」

 

 

 東条少将のその問いに、トバルカインは肩を竦めながらそう答えた。

 

 その真意を答える気がないと分かるトバルカインの言葉を聞き、東条少将は前に立つ、ビスマルクにわずかに視線を向ける。

 その視線に気づいたビスマルクは、目の前の男を油断なく警戒しつつも、東条少将に任せるという意思を込める意味で、小さく頷いた。

 

 三人の間で生まれたしばしの空白。

 東条少将の返答次第では、この場が戦場になり得る緊迫した状況。

 しかしトバルカインへの返答を考える東条少将と、油断なく構えるビルマルクとは違い、トバルカインは相変わらず余裕の感じられる笑みを浮かべていた。

 しばらくののち―――

 

 

 「………分かった。会談の申し込みを受けよう」

 

 

 

 東条少将は固い声で、トバルカインの会談の誘いを受け入れた。

 

 

 「それは重畳!」

 

 

 トバルカインがワザとらしく喜びの声を上げる中、ビスマルクからは不満げ、というより心配するような感情が見て取れた。

 

 ビスマルクの言いたいことは分かる。

 「ミレニアムとの会談の申し込みをわざわざこの場で決める必要はなかったのではないか」という事なのだろう。 

 確かに、昨今における台風の目といっても過言ではないミレニアムとの会談の是非を一地方軍の少将が決めるには、あまりに荷が勝ちすぎている。

 本来なら、国のトップとまでは行かないまでも、最低でも自衛隊上層部が出張るような案件であるのだ。

 それを考えれば、いったん持ち帰って上層部にお伺いを立てる為にも、この場においては回答を避ける方が正しい判断ではあるのだ。

 

 だが。

 東条少将はトバルカインが発したある一言(・・・・)を聞いて、もはや自分たちには(・・・・・・・・・)時間が残されていないこと(・・・・・・・・・・・・)に気づいた。  

 

 

 「では、その日を楽しみにしておりますよ」

 

 「まあ待ちなさいよ。

 今日はもう遅いんだし、泊まっていも良いんじゃない?」

 

 

 話し合いを終えようとするトバルカインに、ビスマルクは割り込むように声をかける。

 

 

 「色々聞きたい事もあるし……、たっぷり(・・・・)歓迎させてもらうわよ!」

 

 

 その言葉と共に、遠くからバタバタと走り寄る複数の足音と、敵発見を知らせるホイッスルの音が響き渡った。

 ビスマルクはトバルカインを発見したその瞬間から、密かに相互通信を開き近場の艦娘に連絡、その艦娘から歩哨に連絡させることで包囲網を完成させていた。

 そもそもビスマルクは話し合いがどういう顛末を辿ろうと、トバルカインの身柄を確保するつもりでいた。

 いくら会談の申し込みの為とはいえだ。

 自衛隊の保有する基地に無断で入り込んだ侵入者には違いないのだ。

 それを見逃がすつもりなど、ビスマルクには毛頭なかった。

 

 

 「じきに他の艦娘たちも来るわ。

 ミレニアムの特使として、身の安全は保障するし、しばらくすれば解放してあげるから、今は大人しく投降なさい」

 

 

 そう冷淡に言い放つビスマルク。

 だが、危機的状況であるにもかかわらず、トバルカインは相変わらず人を食ったようね笑みを浮かべていた。

 そして―――

 

 

 「それはそれは、魅力的なお誘いではありますが……、今回は遠慮しておきましょう。

 残念ながら、まだこれから寄らなければならない(・・・・・・・・・・)所があるのでねぇ!」

 

 

 その言葉と共に指を鳴らすと同時に、トバルカインの姿は紙吹雪のようなものに包まれた。

 

 

 「くっ、なんだ!?」

 

 「これはッ!?トランプ!?」

 

 

 突如として発生した夥しい紙吹雪―――トランプの嵐に東条少将とビルマルクは、咄嗟にその場から飛び退き、トバルカインから距離を取ってしまった。

 そして。まるでトバルカインを守るよう、彼を中心に発生したその嵐は、次第に強くなっていき、彼の姿を覆い隠してしまう。

 

 

 「心配せずとも、これから我々とは幾度も相まみえることになる。

 そう、嫌でもね(・・・・)

 

 

 そして嵐の中より聞こえたトバルカインのその言葉を最後に、トランプはまるで上昇気流に巻き込まれたかのように、一気に空へと舞い上がるように弾け―――

 

 

 「……やってくれるわね」

 

 「………」

 

 

 彼の姿は何処に居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 しばしの間、無言で立ち尽くす二人。

 するとビスマルクは、歩道の傍に落ちていた小枝をおもむろに拾い、さっきまでトバルカインが立っていた場所へと放り投げた。

 放り投げられた小枝は、途中見えない何かに当たる(・・・・・・・・・・・・)、という事もなくそのまま地面に落ちカラカラと転がっていく。

 それを見届けたビルマルクは、苛立しげに頭をガシガシと掻きながら、東条少将へと向き直った。

 

 

 「……これからどうする?」

 

 

 様々な意味が込められたビルマルクの問いかけ。

 その問いかけに東条少将は、この空の何処かに隠れ潜むミレニアムを見据えるように天を仰ぎ―――

 

 

 

 「さて(・・)どうするか(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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