空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第7話 宣戦布告

 強襲作戦が開始されてから四時間後、飛行場を完全に制圧したミレニアムの本隊は、外周陣地へと進撃を開始。

 外から来る敵には、強固な防御力を発揮する陣地も、内部から食い破られては本来の力を発揮することができず、また、司令官たる飛行場姫が倒されたことで指揮系統が乱れ、散発的な抵抗の末、次々と陥落していく。

 一部の兵士級は陣地から脱出し、周辺に点在する森に逃げ込むものの、罠を張り巡らして待ち構えていたベルンハルト小隊により、狩りの標的となる野兎のごとく次々と仕留められていった。

 

 

 

 

 

 

――――1999年5月8日 AM3:00 インドネシア チルボン飛行場 

 

 飛行場から離れた外周陣地で断続的な銃撃音が響き渡っている最中、空を飛行していたマキナは船体下部にある

複合レーダーを艦内に収容し、着陸のために少しづつその高度を下げ始めた。

 着陸地点周辺をミレニアムの兵士が警戒する中で、マキナの船体がゆっくりと着陸。

船体後方に存在する巨大なタラップが地面に降ろされ、乗組員が格納庫に生け捕りにした兵士級や戦車級や兵器の残骸、飛行場に備蓄されていた深海棲艦の戦略物資を次々と積み込んでいく。

 飛行船周辺がにわかに活気付く中、飛行船から降りてきたマキナは、無線で掃討作戦を行っているU-890を呼び出した。

 

 「こちら、マキナ。U-890、作戦の進捗状況はどうだ?」

 『こちら、U-890。後、三十分ほどで外周陣地の制圧作戦が終了します』

 「ではU-890。作戦が終了し次第、後始末を本隊とベルンハルト小隊に任せ、司令部と合流せよ」

 『了解』

 

 U-890に対し、合流の指示を出したマキナは、近くの瓦礫に腰掛け、船体から送られてくる情報を処理しながら

彼女の到着を待った。

 

 

 

 

 

 地上に着陸したマキナから1㎞ほど離れた地点。

 二個小隊が厳重に警戒する場所に、マキナとU-890が姿を見せた。

 それを確認した小隊のメンバーは素早く敬礼をし、二人を警戒網の中心へと案内していく。

 そこには体の艤装を破壊され、全身から血のようなものを流し、息も絶え絶えの飛行場姫が、地面に打ち込まれた杭と繋がる太い鎖で、雁字搦めに縛られており、飛行場姫から距離を開けた周囲には、小隊員の構える重機関銃とパンツァーファウストが一部の隙も見逃さぬよう監視の目を光らせていた。

 マキナは自身の艤装を展開し、U-890を伴いながら、監視の中心へと歩みを進めていき、人を周辺の小隊員を睨めつけていた飛行場姫に向かって、声をかけた。

 

 「ご機嫌いかがかな?飛行場姫。俺はミレニアム空中艦隊旗艦ーDeus ex machina(デウス・ウクス・マキナ)。端的に言えばお前の飛行場を襲撃し、壊滅させた元凶だな」

 「第一声でそこまで喧嘩を売らなくても……」

 

 無言で小隊員を睨めつけていた飛行場姫だったが、話しかけきた二人の艦娘(一人は男だが)の姿を見つけると、

今までの比ではない殺意と憎悪を込めた視線と呪詛の言葉を吐き出し始めた。

 

 「人類二味方スル忌々シイ艦娘共メッッッ!!!」

 「…ご機嫌斜めみたいだが、割と元気そうだな。しかし、分かるだけでも7発のⅤ1改の直撃食らって、なんでこんなに元気なんだこいつ?一発あたり850㎏の高性能炸薬が詰まったミサイルだぞ?」

 「艦娘は深海棲艦を元に生み出された者―――言わばコピーですから、オリジナルの方が性能がいいのでは?」

 「しかし、――――」

 

 飛行場姫の呪詛の言葉を軽く流し、二人は彼女の性能についての議論を始めた。

 敵としても見られてない屈辱に顔歪ませ、睨めつけるものの、二人は少しの動揺も見せない。

 

 「おっと、こんなことをしている場合じゃなかった」

 「そうでしたね」

 

 話を切り上げた二人は睨めつける飛行場姫に向き合い、又声をかけてきた。

 

 「さて、この基地の司令官たる飛行場姫。我々ミレニアムの強さを存分に分かってもらえただろう。

その上でだ。一つ君たち深海棲艦側に一つ提案がある」

 

 提案などという言葉を出してきたマキナに対し警戒を強める飛行場姫。

 そしてマキナは頬を釣り上げ、三日月のような笑みを浮かべ、とんでもない提案をしてきた。

 

 「我々ミレニアムと手を組まないか?」

 

 

 

 

 

  その提案をされた飛行場姫は最初、その言葉の意味を理解ができなかった。

 飛行場を襲撃し壊滅させた張本人が、その司令官に対し「手を組もう」などという言葉を吐くとは。

 その言葉の真意を探るため二人に質問を投げかける。

 

 「……ドウイウツモリダ?ナニガ目的ダ?」 

 「目的、目的か…。我らが指揮官の言葉を借りるならば、『我々には目的など存在しない』。

戦争という手段さえ取れれば目的は選ばねえよ。お前ら深海棲艦勢と組むことも些末な問題にすぎんさ」

 「ああ、そもそも此方からの通信の一切を無視し、あまつさえ先制攻撃までを始めたのはそちらが先です。

映像記録も残っていますので必要ならば後でご確認ください。

 その報復と、我々ミレニアムの示威行為として、こちらの飛行場を強襲させていただきました。

 その両方が達成された今、我々はあなた方深海棲艦に対しての、恨みはありません。

 ここはお互い遺恨などは水に流し、お互いに手を取り合いませんか?

 我々の軍事力はこちらに示した通り。強力な同盟国としてお役に立てると思いますよ?」

 

  制圧が終わった飛行場に深海棲艦とは別種の狂気が満ち満ちていた。

 戦争という手段のために目的を選ばず、深海棲艦勢力と同盟を結ぶことすら些末な問題と切って捨てるマキナと

自分達を強力な同盟国として積極的にアピールをするU-890。

 その交渉を遠目に楽しそうに見守る小隊員も、全員どうしようもなく狂っていた。

 

  しかし、狂っているのはミレニアムだけではない。

 深海棲艦もまた、どうしようもなく狂っている。

 

 「フフフ、フフフフフ」

 「あん?何がおかしい?」

 

 突如、笑い出した飛行場姫を訝しげ見るにマキナ。

 飛行場姫は質問には直接答えず、ただひたすらに笑う。

 そして、ひとしきり笑い終えた飛行場姫は、雰囲気を一変させ、内側に潜むどす黒い狂気を前面にさらけ出した。

 

 「フザケルナ、我々ノ模造品二スギナイ、ガラクタ共メッッ!!!

 手ヲ組ム?同盟? ハッ、オマエタチ艦娘モ、人類モ全テ、一人モ、一欠ケラモ残サズ皆殺シダッッ!!!

 一人ノ例外モナク完全二ナッッ!!!」

 「いいな、いい宣戦布告だ。まぁ、分かりきった事だが一応確認しておかないとな。交渉は?」

 「決裂ダッッ!!!」

 

 その直後、飛行場姫は最後の力を振り絞って自身の体に巻きついていた鎖を引きちぎり、艤装の類を展開していないように見えたマキナへと突撃を開始。

 即座に反応した小隊員が発砲し歩みを止めようとするものの、止めることは叶わず、飛行場姫は一心不乱に前に進み、距離を詰めていった。

 艤装は完全に潰されたが深海棲艦特有の怪力が無くなったわけではない。

 ましてや彼女は深海棲艦の上位個体。近づくことができれば素手で艦娘の装甲を破壊し殺すことができる。

 最後に艦娘を一人でも道づれにしようと手を伸ばした瞬間――――飛行場姫の腹部に何かが着弾し、強烈な力で

後方へと弾かれるように、吹き飛ばされた。

 何とか体を起こし、飛んできた何かを確認すると、それは初撃で飛行場の機能を消失させ、散々彼女に撃ち込まれた兵器、信管が作動しないよう設定されたⅤ1改だった。

 そして、艤装を展開していないように見えたマキナの後方、何もないはずの空間の一部が揺らめき、あそこから

Ⅴ1改が飛んできたのだろう、白い煙が上がっている。

 

 「後少し足りなかったな?」

 

 人を馬鹿にしたような笑みを浮かべるマキナの後ろの揺らめきが徐々に大きくなっていき、そこから34門のⅤ1改の発射口が顔を出した。

 飛行場姫は察する。これで、止めを刺すつもりだ、という事を。

 複数の甲高い音が響き渡る中で、マキナは別れの挨拶をするように軽く手を振った。

 

 「では、さようならだ。飛行場姫」

 「オノレオノレ模造品共ガァァァァ!!!」

  

 マキナが手を降ろした直後、発射された34発のⅤ1改は一発の例外なく飛行場姫へと殺到し着弾。

 艦娘の艤装として能力が半減しているにも関わらず、圧倒的な破壊力を発揮し、中心にいた飛行場姫を周辺の

風景ごと完膚なきまで消し飛ばした。

 盛大な炎と煙を上げる着弾地点を見据えるマキナに、近くで見学していたU-890は暢気に話しかける。

 

 「これで一連の作戦は終了ですね」

 「ああ、この作戦はな?だが、深海棲艦勢から素敵な宣戦布告をもらったんだ。まだまだ楽しめるぞ、戦争を」

 

 そしてマキナは炎を背にし、無線で大隊全員に呼びかけた。

 

 「こちらマキナ、大隊各員に伝達。深海棲艦司令官よりミレニアムに対し、宣戦の布告を受けた。

これよりミレニアムは深海棲艦と戦争状態に突入する!!!」

 

 飛行場全体がミレニアムの兵士の歓喜に包まれている中、マキナは虚空に向かって声をかける。

 

 「少佐殿、ここには我々を養うに足るだけの戦場が確実に存在しますよ?」

 

 

 

 

 

 その後、一通りの物資を略奪したミレニアムは素早く撤収し、日が昇る頃には、完膚なきまで破壊された飛行場基地と深海棲艦の残骸だけが残されていた。 

 

 

 




 少佐の発言で、英国と対等関係で宣戦布告をするなど、割とミレニアムを国として
扱っていたところもあるので、この小説ではミレニアムを国として扱ってます

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