空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第8話 通商破壊戦

 二週間前、一夜にして深海棲艦の勢力圏内である、インドネシア・チルボン飛行場が壊滅した。生存者はゼロ。

 何者かに戦略物資を強奪された痕跡があり、この飛行場を統括していた飛行場姫の姿もどこにもなかった。

 この事件を皮切りに、相次いで飛行場・集積地・泊地が正体不明の何者かに襲撃され物資を強奪されるという事態が頻発する。

 こちらもやはり一夜にして壊滅し、それらの基地を統括していた司令官―――姫級・鬼級、防衛部隊共に生き残りはなし。

 深海棲艦勢は、哨戒・監視網を密にし、増設したレーダー群による監視を強めるものの、それをあざ笑うかのように監視網をすり抜け、基地が襲撃されていき、あまりの被害の多さに完全な勢力圏内であるはずの、ジャワ島の航空支援能力は極端に

低下していた。

 また、リンガ・ブルネイ・タウイタウイを中心とした東南アジアでの人類側との最前線の戦場では、海では数十隻の艦隊群、空では数百機もの爆撃・戦闘機群、陸では数十万もの陸戦兵力が、人類とそれに味方する艦娘との衝突を繰り返しており、リンガ前線への補給と航空支援を担当するジャワ島の基地群の機能低下は深海棲艦にとっては致命的な痛手だった。

 そこで深海棲艦勢力は徹底的な哨戒・監視網の強化と、今まで以上の大規模な輸送船団の派遣を決定。

 基地の修復と戦力の強化、前線への支援能力の拡充を図った。

 

 

 

 

 

――――1999年6月4日 AM1:00 インドネシア ジャワ島近海

 

 

 

 夜も深まった午前一時頃。月明かりが明るく照らす海に大量の黒い影がいくつも蠢き、群れを成して突き進んでいた。

 深海棲艦勢力のジャワ島に向け派遣された物資輸送船団である。

 その構成は、空母級1隻、戦艦級2隻、重巡洋艦級5隻、軽巡洋艦級2隻、駆逐艦級24隻で輸送艦級33隻を護衛するというものだった。

 全67隻、約15万分トンのもの戦略物資と兵士を積んだ船団は警戒を怠らず、約12ノットで西へと進路をとり、目的地へと向かっていた。

 目的地まで後四時間、夜明けと共に到着するだろうという時、輸送艦を中心に配置し周辺を囲う護衛艦隊の内南側、つまり船団側面を守る駆逐艦級のソナーがおかしなを音を捉えた。

 それは、探信音の群れ。

 複数の探信音が少しづつ、船団に向けて近づいてきていた。

 駆逐艦級はその音の正体は分からなかったものの、海を走る6本の雷跡から、潜水艦による魚雷攻撃と判断。

 即座に船団全体に報告し、艦隊全体が魚雷を避けようと回頭を開始。

 しかし、6本の雷跡はあろうことか、まっすぐ直進せず、それぞれ目標を定め、その目標に向けて進路を変え突き進んでいく。

 目標とされた6隻の艦艇、空母級1隻、戦艦級2隻、重巡洋艦3隻は必死で回避行動を行うものの、その雷跡は

どこまでも目標を追尾し、ついには船底に潜り込んで炸裂。

 対魚雷防御を施されているはずの大型艦艇が、ただの1発の魚雷で等しくすべて、巨大な水柱を上げ、底から持ち上げられるように割けた。

 引きちぎられ2つになった船体の断面から大量の海水が流入し、海面に重油と船の破片をまき散らしながらゆっくりと沈没。

 それを何もできず見ていることしかできなかった駆逐艦群は怒り狂いながら下手人の潜水艦の捜索始める。

 しかし彼らもすぐ沈没し始めた艦艇の後を追うこととなる。

 今度は空から飛来した34発のⅤ1改が軽巡洋艦と駆逐艦の群れに次々と着弾。

 戦艦の主砲クラスの威力を持つそれに軽巡洋艦・駆逐艦が対抗できるわけもなく、巨人の手のひらでぺしゃんこにするように、艦橋と主砲、そして船体を爆圧で押しつぶしていった。

 あっという間に、護衛艦艇すべてが無効化された輸送艦群は、船団を解き、蜘蛛の子を散らすように逃走を開始。

 しかし、輸送艦特有の足の遅さと、攻撃を仕掛ける者達の特殊性が災いし、10分もたたず、すべての輸送艦が狩られ、67隻もの輸送船団は、一隻の生存艦も残すことなく、海の底に消えていった。

 

 

 

 

 

 「ま、こんなもんか」

 「はぁー、すごく楽しかったです……」

 

 輸送船団を全滅させたマキナとU-890は通信回線を開き、会話を楽しんでいた。

 

 「絶好調じゃねえか」

 「工作・諜報任務も楽しいことは楽しいですが、やはり私達、Uボートの存在意義である通商破壊戦ほど心が躍るものはないですねっ!」

 

 とりわけ輸送船団襲撃作戦にかけるU-890の意気込みは凄まじく、作戦が完璧に成功した今この時、

見る者を魅了するような美しく、そして可愛らしい微笑みを浮かべていた。

 

 「しかし、空母1隻、戦艦2隻、重巡洋艦3隻、輸送艦3隻の戦果とは。Uボートの先輩方に良い報告ができそうです!」

 「いや、お前のその魚雷は卑怯臭いからな…というか最初の攻撃、

よく全弾命中したな」

 

 U-890が今回の作戦に使用した魚雷は、 533mm魚雷改。

 接触信管ではなく磁気信管を使用し、魚雷防御の施された側面ではなく、泡の膨張と収縮を利用し構造物を破壊するバブルジェットによる防御力の弱い船底破壊を狙い、マキナより送られてくる位置情報と、魚雷に備え付けられたソナーとで目標を追いかけ、船底に潜り込んで起爆する。

 そして過剰な攻撃力を持たされた追尾魚雷はその性能を遺憾なく発揮し主力艦6隻と輸送艦3隻を沈める大戦果を挙げた。

 

 「だが、この作戦、群狼作戦に分類されんのか?」

 「うーん、群狼作戦の条件は潜水艦3隻以上ですけど…私達、潜水艦1隻と飛行船1隻ですから、分類されないと思います。でも――――」

 

 割とどうでもいい会話をだらだら続ける二人。するとマキナの方に通信が入った。

 

 「――――ん? おっと、深海棲艦・集積地制圧部隊より、作戦完了の通信だ。

俺は今から、あいつらと強奪した物資を拾って帰るから、お前は先に本拠地に戻れ」

 「了解です」

 

 二人はもはや重油と艦艇の残骸が残る海域に見向きもせず次の作戦行動に移って

行った。

 

 




 この護衛船団は、二次世界大戦中、ソビエト連邦に送られた連合国軍の援助物資輸送船団のうちの一つ、PQ17船団をモデルとしています。

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