Angel Beats! ―SCHOOL REVOLUTION―   作:伊東椋

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EPISODE.38 Solved Mind

 対天使作戦本部として活用されている私たちの根城。私は日に日に重ねた研究のもと開発した、新技を日向先輩にかけようとしたが、お付き合いが悪い日向先輩は相手をしてくれなかったので諦めた。代わりに大山先輩にかけてみたけど、どうやらまだ研究は必要のようだった。まだまだドキツイ技を完成させて、いつか日向先輩にお見舞いさせてあげなくては。積年の恨み、思い知るがいいヒッヒッヒッ。

 「必殺・卍固めぇぇぇぇッッッ!!!」

 「ぶぎゃあああああああッッ!!? な、なんで先ぱ……ッ!? ギブ、ギィィブッッ!!」

 いつの間にか、私は日向先輩にまたしても攻撃を受けていた!?

 な、なんで…?!

 私、何かしましたかっ!?

 「お前、心の声がダダ漏れなんだよおおおおッッ!!」

 「にゃ、にゃにいッ!? ユイにゃん、まさかの大失態だとぉっ!?」

 「どうやらお前にはまだまだお仕置きが必要みたいだな……死ねやああああッッ!!」

 「ぐぎゃああああああッッ!! 先輩、これは洒落になりませ……ッ?!」

 ロープ、ロープ!と手をバンバンと叩く私だったが、日向先輩の締め付けは容赦がなかった。

 「あはは、二人とも相変わらず仲が良いね」

 そんな光景を、動く犬のぬいぐるみを椎名先輩と一緒に戯れていた大山先輩が、ニコニコと微笑ましそうに言っていた。

 「そんなことないですって……! 大山先輩、助けてくださ……ッ!!」

 「僕には二人の邪魔なんて出来ないよ」

 お、大山先輩……もしかしてこれはさっきの新技かけさせていただいた時の仕返しですか!?

 その純粋なほどに輝いた笑顔が逆に恐いですッ!

 「ねっ、椎名さん。 これ、可愛いね」

 「浅はかなり……」

 結局、大山先輩も自分たちの空間へと帰ってしまった。

 ちょっと椎名先輩! 顔をほのかに染めてる暇があったら私を助けてくださ……

 「とどめだぁぁぁぁぁッッ!!」

 「ぎょおおおおおッッ!? も、もう無理でふううううッッ!!!」

 こうして、かわいそうなユイにゃんは日向先輩に徹底的にしごかれてしまうのでした。

 

 

 「うう……ひなっち先輩、許すまじ……」

 色々と大変なことになりそうだった身体がようやく落ち着いた頃、私はお花畑の帰りから校長室に向かってとぼとぼと廊下を歩いていた。

 「何か、ひなっち先輩をぎゃふんと言わせる方法は……ん?」

 校長室を前にして、私は丁度音無先輩やゆりっぺ先輩たちと出て行った新入りの直井先輩が戻ってきた所を鉢合せになった。直井先輩の横顔がどこか悲しそうな表情をしていたけど、何かあったのかな?

 「……!」

 ユイにゃんの天才的な頭の中で、ぴーんと電球が光った。

 ふふ、とつい不敵な笑みを浮かべてしまう。

 「直井先輩~♪」

 「……なんだ、貴様は」

 校長室の扉に手をかけようとした所で、直井先輩は私を見つけると、嫌そうな顔を向けてくれた。

 「ちょ~っとお時間取らせてもらってもいいですかね? 実はユイにゃん、直井先輩に用がありましてぇ」

 「断る。 貴様なんぞのために取る時間など一秒単位も無い」

 「ああぁんッ! そんなこと言わずにいいい聞いてくださいよぉぉぉ」

 「…くっ、しつこい奴め」

 直井先輩の袖を掴んで離さない私に、直井先輩は更に嫌そうな顔を向けるが、とうとう私のしつこさに負けたのか、これ見よがしに溜息を吐くと、私の方に向き直った。

 「で、この神である僕に何の用件だ?」

 「ははっ! 実はですね、直井先輩にちょっと頼みたいことがありまして…!」

 直井先輩の眉が、ピクリと反応する。

 「……この僕に、頼み事だと?」

 「……いけませんかね?」

 「貴様、僕は神だぞ」

 「神様でしたら、人の頼みは聞くべきだと思います…ッ!」

 「……何を言っているんだ、貴様は」

 「神様は心も寛容であらされるべきだと思います…! 人間のような狭い心を、まさか神様が持っているわけないですよね?」

 「……………」

 思いついたことを適当に言ってみたが、直井先輩は黙して語らなかった。

 あれ……やっぱり駄目だったかな。

 直井先輩の鋭い瞳がジッと私の瞳を見据える。ここで催眠術なんかかけられちゃったらどうしようか。

 やがて、「ふん」と微笑ましげに鼻を鳴らした直井先輩の反応に、私は好感触を得た。

 「ならば僕を崇めよ、そして称えよ。 察すれば、貴様の願い、叶えてやらんこともない」

 「はは~っ!」

 やっぱこいつアホですね、と心の中で呟いておいて、私は先輩を崇拝するフリをする。

 それを見て満足げ(やっぱアホだ)の直井先輩は、うんうんと頷くと、「で?」と遂に声を掛けてくれた。

 「貴様の願いはなんだ?」

 「はいっ! 実は直井先ぱ……じゃなくて、神様にお願いしたいことがッ!」

 

 

 

 「…なんだ、お前らが同時に入ってくるなんて珍しいな」

 ソファで欠伸をかいていた日向先輩が、同時に入ってきた私と直井先輩を見かけると、一番に私たちに声を掛けていた。

 「音無たちはどうした?」

 「……………」

 日向先輩の質問に、直井先輩は複雑な表情を浮かべたが、「貴様には関係のない話だ」と一蹴した。

 「なんだよそれ」

 「なんだ、文句でもあるのか? この僕に」

 「なんでお前はいつも挑発気味なんだよ……」

 「挑発しているのは貴様だ。 どうやらまだ身の程をわきまえていないようだ」

 ニヤリと悪い笑みを浮かべた直井先輩が、日向先輩に近付いた。ソファに座っていた日向先輩は直井先輩から距離を取ろうと遠のいた。

 「お前、音無がいないからって好き勝手……」

 「黙れ。 さぁ、僕の目を見るんだ」

 始まった。

 直井先輩の背後で、私はその始まった計画をニヒヒと笑みを浮かべながら見守る。

 私が直井先輩に頼んだ内容。

 それは―――

 

 「日向先輩に、ある催眠術をかけてほしいんです」

 「あいつにか? ……何だ、また洗濯バサミの有能さに気付かせるのか?」

 「いえ。 かけてほしい催眠術の内容は今から言います。 それは――――」

 

 直井先輩の催眠術が、日向先輩にかけられる。

 「さあ、今から貴様は犬だ。 主の足となり、主のもとでだらしなく舌を出して言いなりになる犬になるんだ。 さぁ……貴様は今から人ではなく、犬になるのだ……」

 「い、犬……犬……」

 そう、日向先輩にかける催眠術の中身。それは―――犬!

 そして、主は―――

 「…こんな所だろう」

 「ありがとうございます直井先ぱ……じゃなくて神様ッ!」

 私はいよいよ犬になっただろう日向先輩のもとへ飛び出した。ソファの上で、うずくまった日向先輩を前にする。催眠術をかけられ、うずくまってじっと動かなくなった先輩の姿を見て、私は少し不審に思った。

 「本当に催眠術かけたんですか?」

 「当たり前だ。 こいつは確かに、今は犬になっているはずだ」

 「へぇ、どれどれ……」

 私の作戦。それは、直井先輩の催眠術を利用して、今まで私に酷い仕打ちをしてきた日向先輩を犬のようにすることで、今までの恨みを晴らすこと!

 そして犬になった日向先輩の主は―――私ことユイにゃん!

 ふふふ、さぁて。どんなお返しをしてあげようかなぁ

 「ふふ、さぁひなっち先輩。大人しく―――」

 「わんっ!」

 「……わん?」

 今までうずくまっていた日向先輩が、私が名前を呼ぶと、突然顔を上げて「わんっ」と鳴いた。だが、うずくまった時の姿勢、つまり四つんばいになったままだ。そして、犬のように舌を出して、はっはっはっと息を漏らしている。間違いなく、まごうことなき犬だった。

 「おおおっ! ほ、本当に犬になってます…ッ!」

 「ふ、当然だ。 神に不可能はない」

 誇らしげに帽子の鍔を掴む直井先輩を尻目に、私は改めて目の前で四つんばいになっている日向先輩をまじまじと見詰めた。

 犬のように息を荒立てる日向先輩を前に、私は生唾を飲み込んだ。

 「お、おすわり!」

 「わんっ!」

 「お手ッ!」

 「わわんっ!」

 「三回まわってわんッ!」

 「わんっ!」

 私の言われたことに忠実に従う日向先輩のその姿は正しく犬。犬耳と犬の尻尾が錯覚で見えてしまうほど、立派な犬になり果てていた。おすわりをして、子供のような腑抜けた顔を浮かべる日向先輩を前にして、私は身体の内からこみ上げてくる興奮を抑えきれなかった。

 「凄いッ! 本当にお犬さんだーッ! ひなっち先輩が正真正銘の犬になってるぅ~」

 「ふん、畏れ入っただろう。 さぁ、僕を崇めるが良い」

 「うひゃあーッ! ひなっち先輩、きも可愛いぃぃ~~」

 「…おい、僕を無視するな」

 私は後ろで舌打ちを立てる直井先輩のことをすっかり蚊帳の外にして、犬になった日向先輩のことばかり構うようになっていた。

 「ふふふー。 今日からひなっち先輩……いや、ひなっちは私のペットだよ。私の言うことをちゃんと聞くんですよ~?」

 「ユイの奴、すっげえ悪ぃ顔してるぜ……」

 「放っておけ」

 「それにしても日向くん、本当に犬みたいになってるねー」

 「Its the highest!」

 「浅はかなり……」

 そんな私たちを他の先輩がたが各々の視線で見ていたが、そんな周りの視線を気にすることはなかった。むしろ先輩がたの方から呆れてぞろぞろと離れていった。

 「んふふ、さぁてどんな事をさせてやろっかな。 とりあえず散歩でもいこうかひなっち!」

 「わんっ!」

 「あの女、そのまま奴を外に連れ出すつもりか。 鬼畜な奴だ……」

 何かぶつぶつと呟いていた直井先輩を置いて、私は日向先輩を連れて校長室をあとにした。

 

 

 校舎を出て、学園内を歩く私たちを、一般生徒たちからの視線とざわめきが集まる。それも当然、私は本当に犬を散歩に連れ出すご主人様の如く、日向先輩を首輪と紐を繋げて散歩をしているのだから。

 「ふふふ、これこそ上下関係を公然と知らしめる行為。 同時にひなっち先輩の醜態が今、大勢の一般生徒たちの目に映っていますよ」

 「わんっ!」

 周囲からの視線と、どこからか聞こえてくるヒソヒソ話。これで日向先輩の醜態が学園中に知れ渡ることだろう。ふふ、人の恥がより多くの人たちに記憶されることこそ、人にとっては最大の屈辱。私は今、日向先輩を学園周知の変態さんに見せかけているのだ。

 「ふ、こんなものでいいかな。 さてひなっち、今度はフリスビーを投げるよ」

 「わんっ!」

 嬉しそうにぱたぱたと尻尾を振る(ように見える)日向先輩を前に、私は手に持っていたフリスビーを思い切り投げた。

 「うぉぉおおりゃあああぁぁぁ……ッッ!!」

 フリスビーは物凄い勢いで彼方に吸い込まれ、あっという間に小さくなってしまった。

 「あちゃー。 さすがにやりすぎたかな……これはさすがに取れに行けな……」

 気が付くと、フリスビーを投げ出すのと同時に飛び出していったらしい日向先輩が、遥か彼方に飛んでいったフリスビーをダッシュで追いかけていく姿を見つけた。

 「おおおっ!? ひなっち先輩、必死だッ!」

 そして颯爽と戻ってくる日向先輩に思わず私は「早ッ!?」と驚きを隠せなかった。まさかここまで犬になり切れているとは思わなかった。

 「よしよし、おりこうさんだねー」

 とりあえず、ちょっとだけ動揺しながらもフリスビーを咥えた日向先輩を褒めることにした。その時、まるで日向先輩は犬のように喜んだ。私に頭を撫でられた日向先輩はまるで子供のような笑顔を浮かべると、フリスビーを口から離し、私の方にその身体を近づけてきた。

 「え……え…? ちょ、ちょっと待…ッ!」

 遂に懐くように近付いてきた日向先輩に倒される私。日向先輩の下敷きになって、私は更に動揺した。何故なら、端から見れば男が女を押し倒しているようにしか見えない構図であり、そして私は押し倒されている側ということになるからだ。

 「ひゃあッ!? ひ、ひなっち先輩、は、離れ……」

 私はぐっと日向先輩の胸を押すが、犬耳を生やし、尻尾を振っている(ように見える)日向先輩の身体は私なんかよりもずっと大きいから、離すことなど出来るわけがない。

 「ひなっち先輩、いい加減にど―――」

 そして遂に、みるみる近づいた日向先輩の顔が―――

 私の頬を、ぺろっと柔らかいものが一瞬触れた。それが、日向先輩のお口から伸びた舌だと気付くのに、私の思考は理解に及ぶまで少々時間を必要とした。

 「……………」

 日向先輩に舐められた、という事実が私の思考回路に追いつくと、私は顔から火が噴き出るのではないかというぐらい顔が熱く感じた。

 「ひゃああああああああああああッッッ!!!?」

 これまでにないくらい、日向先輩に卍固めを決められるより大きな悲鳴が私の口からやすやすと響き渡った。

 「ちょ、ちょっとひなっち先輩…ッ! いくらなんでもこれは……ッ! ていうかどいてぇぇぇぇッッ!!」

 「わんわんっ!」

 「わんわんじゃなくて……ひゃああああッッ!!? な、舐めないでぇぇぇぇッッ!!」

 私は足をジタバタとさせるも、私の身体から日向先輩が離れることはなく、私はされるがままになっていた。

 「わふ…っ」

 「ひぅ…ッ!? 今度は吸…ッ?!」

 このまま完膚無きまでに私の純情が汚されるのかと諦めかけていた時―――

 「なに外でイチャついてるの? あなたたち」

 「あ…! ゆ、ゆり先輩…! た、助けてくださぁぁぁぁいッッ!!」

 そこにいた救世主は私たちの頼れるリーダー、ゆり先輩だった。ゆり先輩は「うわ~…」と、顔をほのかに朱色に染めて私とひなっち先輩の縺れる光景を見学していたが、私は呑気に見学などしてもらうほどの余裕がないため、ゆり先輩にSOSを呼び掛けた。

 「ゆり先輩、助けてくださ…ッ! わ、私このままじゃ…ひゃあんッッ!?」

 首筋を舐められて、私は変な声を出す。普段こんな声出したことないのに…ッ!

 「ふぇ…ッ! ひなっち先ぱ……も、もう許してぇ……」

 「何だかこのまま放っておくと放送コードに引っ掛かりそうね……」

 ゆり先輩は溜息を吐くと、私とひなっち先輩の所に歩み寄った。

 「日向くん」

 押し倒した私を舐めるのに必死な日向先輩に、ゆり先輩の声は届いていない。だが、日向先輩に届こうが届かないが関係ないのか、ゆり先輩はそのまま続けた。

 「おいたが過ぎるんじゃないかしら?」

 ゆり先輩がニッコリと微笑むと、次の瞬間、日向先輩の後頭部から嫌な音が響いて、日向先輩の身体がそのままドサリと私の上に落ちてきた。

 「ぐぎゃッ!? お、重い……ッ!」

 「大丈夫?」

 ゆり先輩がよいしょ、と倒れた日向先輩の身体を私の上からどかしてくれた。日向先輩の身体が無造作に転がる。仰向けに転がった日向先輩を見ると、すっかり伸びた表情をしていた。

 「たはは……助かりました、先輩」

 「いいのよ。 ていうか、何がどうやってあんな状況になったのよ?」

 「あ、あははー……話さないと駄目ですか?」

 「私はあなたたちのリーダーよ。 聞く権利はあると思うけど?」

 「で、ですよねー」

 私は苦笑いを浮かべるが、対するゆり先輩はジトッとした視線で私を刺していた。私はそんな視線を痛く感じながら、洗いざらい全ての事をゆり先輩に打ち明けた。

 ゆり先輩は最初から最後まで、腕を組んで黙って聞いていた。

 「……なるほどね。 つまり―――」

 ふむ、と顎に指を当て、納得したような表情を浮かべたゆり先輩は―――

 「いつものあんたたちのしょうもない喧嘩かぁぁあああぁぁぁッッ!!!」

 「ご、ごめんなさぁぁぁぁい……ッッ!!」

 「まったく、聞いて損したわ。 要はさっきの事だって、あなたの自業自得じゃない」

 「う…ッ」

 何も反論できない私だった。

 「罰として、そこに転がってる日向くんをあなたが最後まで責任を持ってどうにかしなさい」

 「え、ええッ!? それってどういう―――」

 「じゃ、あたしは帰るから」

 「ふ、ふえッ!? ゆ、ゆり先輩ぃぃ……ッ?!」

 そして、ゆり先輩は本当に私たちを残して帰ってしまった。

それにしても、ゆり先輩がどことなく元気がなかったように見えなかったけど、何かあったのだろうか。

 しかし、今は自分に置かれた現状を何とかしなければいけない。

 「うう、どうにかって……どうすれば良いんですかー」

 私はチラリと、そこで転がって気絶している日向先輩を一瞥した。元はと言えば、私に原因がある。それは理解しているつもりだ。でも、相手が日向先輩だから、私はついよくやってしまう。日向先輩とはいつも喧嘩腰。でも、それは―――

 「……そんなこと、ないもん」

 ぽそり、と私は一人言葉を漏らしていた。

 「……ふん」

 私はそっと、日向先輩のそばに腰を下ろした。

 

 

 「……寒ッ」

 ぶる、と震え上がると同時に、「んあ?」と間抜けな声をあげて目を覚ました日向先輩。私は優しく言葉を掛けるように努めた。

 「やっと起きましたか? 日向先輩」

 「ユイ……?」

 優しく、のつもりだったが、つい無粋になってしまった。でも、日向先輩は何も感じていないようだった。

 「あれ…? 俺、何でこんな所に……」

 空はすっかり日が落ちて薄暗くなり、肌にもひんやりとした空気が感じられる。結局、日が落ちるまで私は日向先輩の寝顔を拝む羽目になってしまった。

 「ていうか俺、何でこんな所で寝てたんだ……? しかも頭が痛ぇ……」

 「さ、さぁ? な、何ででしょうねー」

 私は知らないフリをして、あらぬ方向に視線を逸らす。

 そんな私を、日向先輩が訝しげにジッと見詰めていた。

 「お前、寝てる俺に何か悪戯したんじゃないだろうな?」

 「そ、そんなことしませんよ…ッ!」

 「そうか。 で、俺が何でこんな所で寝てたのか、そばにいたらしいお前は知ってるんじゃないのか?」

 「そ、そんなことありませんよ? 私は偶然、ここを通りかかってですねー……」

 「本当かよ……じゃあ何で目を逸らすんだよ」

 「そ、そんなことないですって!」

 「俺の目をちゃんと見て答えろよ」

 日向先輩の顔が、また私の方に近付く。また、また…ッ!

 そんな見ろって言われても、あんなことがあって、色々な意味で見られるわけないでしょう!?と、私は心の中で叫ぶも、そんな私の声は日向先輩に届くわけもない。

 「……ん?」

 「な、なんですか? 先輩……」

 「ユイ、首に何か痕が付いてるぞ?」

 「―――ッ!?」

 私は日向先輩に指摘された首筋のある部分を手で隠した。そこは、日向先輩が散々舐めまわした場所であった。

 「……………」

 「…? どうした、ユイ?」

 「ば……」

 「ば?」

 私の震える顔を覗きこんだ日向先輩の身体を、私はがっしりと両腕で捕縛した。

 「ひなっち先輩の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 「ぎぃやああああああああああああッッ!!?」

 私は必殺のジャーマンスープレックスをお見舞いした。

 再び後頭部を強打することになった日向先輩はその場で撃沈した。

 「な、なんで……おま……」

 「ふんっ!」

 私は地面に倒れ伏せる日向先輩を置いて、大股でその場から立ち去ろうとした。

 トマトのように真っ赤にした顔を、日向先輩に見せないように。そして、首筋に一つ付いた痕。くっきりと浮かんだ、先輩の印を―――


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