Angel Beats! ―SCHOOL REVOLUTION―   作:伊東椋

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EPISODE.04 Enlistment

 目覚めて早々、突拍子もないことに巻き込まれたと思う。

 まぁ、自分から飛び込んだってことも否定はしないけど。

 

 あの戦争のような騒動の後、あたしは自分が助けた彼に、変な集団のもとにそのまま連れていかれた。

 広すぎる学園、その中でも学園のトップがいるはずの部屋である、校長室が彼らの根城だった。

 そこであたしは、今の校長室を統べるリーダーと面会し、そしてこの世界の話を聞かされた。

 この世界は、所謂死後の世界であって、ここにいるのは死んだ者しかいない。

 死後の世界は、本当にあった。

 

 あー、やっぱりあたし死んだんだな……

 

 なんて、あたしには納得できそうだけど、あくまで100パーセント信じられる話というわけにはならない。何か絶対に納得できるような証拠を見せてほしい。

 「何なら、見せましょうか?」

 変な集団のリーダー格である彼女がそう言った。

 「何なら死んでみるか」

 大きな武器、ギルバートというものを持っている不良チックな男が、いやらしい笑みを浮かべる。

 「え~、野田君。 さすがに女の子はマズイよ……」

 「本当に容赦がないな、お前」

 「鬼畜だな」

 「んだとぉッ!! テメェら、何か勘違いしてないか?」

 「お前が想像以上の、女の子さえ痛めつけようとする変態だということがわかったが?」

 「違ェッ! 俺様がんなことするかッ!」

 なんだかもめているみたいだ。しかも、あたしの身が何だか危うい気がするのは気のせいだろうか。

 「わざわざこの女を殺さずとも、別の野郎を殺せばいいだけの話だ」

 「それでなんで、俺を見る」

 あたしの隣、音無くんという男の子が嫌そうな表情を浮かべる。

 「お前は既に何度も死んでるからな。 また三度や四度目、死ぬ回数が増えても変わらんだろ」

 「無茶苦茶だ……」

 額に手を当てて、呆れる音無くん。

 大きな武器を構えなおした野田くんが、ニヤリと笑うと、音無くんに近づく。

 「もっぺん、死んでみるか…?」

 「断ると言ったら?」

 「またあの時のように、100回殺す」

 「どっちにしろ殺すんじゃねぇか!」

 じりじりと音無くんに近づく野田くん。とりあえず、穏やかではない雰囲気なのは確かだった。

 「ちょっとあなた、音無くんに何する気?」

 あたしが音無くんの前に現れたことで、野田くんの足が止まる。

 「な…ッ、そ、そこをどけ…ッ!」

 何故かあたしを目にすると、戸惑い始める野田くん。

 今まで彼を見た限り、結構周りに荒っぽい所を見せつける所謂チンピラみたいな人間だが、同時に相当の馬鹿っぽい。やけに音無くんを目の敵にしていて、そしてこの集団のリーダーの前だと、妙に大人しくなる。

 「あんな野田君、何だか珍しいね」

 「あの娘がゆりっぺに似てるから、手が出せないんだろ」

 女々しい男の子と青い髪をした男の子がヒソヒソと話している。

 「~~~~~ッッ」

 どうしても音無くんの前から避けないあたしを目の前にして、どうすることもできない野田くん。あたしのジッと突き刺す視線に、とうとう耐えきれなくなったのか、「ちっ」と舌打ちすると、その大きな武器の刃を下ろした。

 「女に庇われるとは、お前も男が廃るな」

 あたしの後ろにいる音無くんにそんな言葉を吐き捨てると、野田くんは背を向けて立ち去った。

 「悪いな……なんだか、俺、助けられてばかりだ」

 「気にしないで頂戴」

 あたしはどちらかといえば、王子様に助けられるヒロインというより、ヒロインを悪の手先から守るナイトの方がピッタリだと思ってるから。

 自分で言うのもあれだけど。

 

 と、突然。いきなり「おぼぇッ!」と、何かカエルが踏みつぶされたかのような断末魔が響いた。

 

 周囲が呆然と見た先には、校長室から出ようとした野田くんが巨大なハンマー状の物体によって、校舎の外に吹っ飛ばされた光景だった。

 

 「あいつ、またか……」

 「アホだな」

 校長室の窓から、地面に叩きつけられてピクリとも動かない野田くんを、皆が見下ろしながら呆れていた。

 「どう? わかってくれたかしら」

 校長の椅子に座り、ニッコリと微笑む、皆からゆりっぺと呼ばれたリーダーが、あたしに言う。

 その手に握られているスイッチが気になるが、あえて無視することにした。

 「そうみたいね……」

 「今見てもらった通り、この世界は死んだ後の世界。 だから、この世界でどんな死ぬような目にあわされようが、死ぬことはないの。 だって、もう死んじゃってるんだから。 あそこでの垂れ死んでる野田くんも、後に復活するわ」

 「へ、へぇ……」

 さらりととんでもないことを言ってのけているが、実際そういう世界だから、言えることなのだろう。

 それにしても、彼女と自分は気が合いそうだと思えるのは何故かしらね。

 そしてこの世界について、彼女はあたしに、更に説明を加える。ここは死んだ人間たちがいる世界だが、自分たち以外の生徒や先生は、NPCという、人間のフリをした存在らしい。自分たちも他の生徒と同じ普通の学園生活を送っていると、いずれ消されてしまうという。

 だが、消された後はどうなるのかわからない。

 その前に、ここに集うのは皆、理不尽な人生の末に死に絶えた者たちばかり。自分の人生に納得できなかった者たちが集まり、神への反逆を目的に行動している。

 ―――SSS。死んでたまるか戦線。

 何度も改名し、現在も正式名称を募集中の戦線団体。

 そしてこの戦線は、日々、神の手先ではないかと思われる、天使と戦う毎日を過ごしているだそうだ。

 「その天使に、あなたは正面から立ち向かい、そして魅力ある戦い方を見せてくれた。 その実力を見越して、あなたをこの戦線に勧誘するわ」

 そう言って、彼女はあたしに手を差し伸べる。

 こんな世界に来て、変な集団と一緒に一人の女の子と戦った挙句、その集団に誘われた自分。

 突拍子もない展開だとはわかっているが、自分はどうするべきか。

 確かに、あたしも自分の人生に納得はしていない。

 

 学校にも行けず、勉強も恋もできず。

 

 自分にも訪れるはずだった青春を、駆け抜けたかった―――

 

 その想いは、ここにいる皆にも共感できることかもしれない。

 

 彼らもまた、まともな青春をおくれなかった者ばかりなのだから。

 

 まだこの世界に来て右も左もわからない。ならば、この戦線にしばらく身を置くのも、悪くないかもしれない。

 何も知らないままで、ただで消えるのも、御免だし―――ね。

 

 そして、あたしは戦線に入隊する決意をした。


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