Angel Beats! ―SCHOOL REVOLUTION―   作:伊東椋

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EPISODE.07 In GuildⅡ――Guild Blast

 ギルドの入口付近で待ち伏せをしていると、それほど時間も経たずに、天使が姿を現した。

 俺とゆりは、遂にここまでやって来た天使を迎え撃つため、前に出て銃を構える。即座に、ゆりの号令によって俺たちは天使に向かって引き金を引いた。

 天使の足に被弾。弾が天使の足を貫いた瞬間、天使はガクリと膝を折ったが、すぐにまた何かを囁くと、みるみるうちに傷が塞がってしまった。

 「対応が早すぎる…ッ!」

 異常なほどの治癒能力の高さ。再び立ち上がった天使は、ゆっくりと俺たちの方に向かって近付いてくる。その右手には、俺たちの恐るべき白い刃が下げられていた。

 俺たちは発砲を続けるが、天使の身に届くことはない。幾重にも飛びかかる火線を、天使は容易く弾き返しながらこっちに向かって歩いてくる。

 

 よし、もっとこっちに来い…ッ!

 

 天使が近づいて来ても、俺たちはただ撃ち続けるだけだった。それが無駄だとわかっていても、こちらから近接戦を仕掛けることも何もしない。

 もっと、ある地点まで天使を引き寄せるために―――

 無機質な瞳が俺たちを見据える。その無表情からは殺気も感じられない。ただ、生徒に注意をしようと歩み寄ってきたような、普通の生徒の雰囲気に見えなくもない。だが、その弾を弾き飛ばす刃は、確実に俺たちの身に危険を及ぼす厄介な存在だった。

 この空間は広い。岩や石ころしか無いここは、隠れようと思えば隠れることができる。俺たちの方に注意を引き寄せることができれば、広すぎる周りの空間にまで注意を向けることはできない。

 だから、前に居る俺たちばかりを見据えている彼女には、遠くから狙いを定めるスナイパーの存在など気付きはしなかった。

 

 パン―――ッ!!

 

 一発の軽い発砲音、それはまるで気が抜けるような、軽すぎる音だった。

 弾を弾き飛ばしていた天使の刃が一瞬、動きを止める。その刃が生えた手の腕には、一つの穴が開いていた。

 「……………」

 間髪いれずに、次々と天使の右腕、そして足に銃弾が貫く。回復する暇さえ与えないかのように、遠くから放たれる銃弾は、容赦なく天使の攻撃手と足を貫き続けた。

 幾つもの弾を浴びた天使は、地面に崩れたまま、動こうとはしなかった。動けないのだ。いくら以前より対応能力が早くなったとはいえ、一瞬の内に何発も銃弾をその身に浴びれば、回復にロスがかかり続ける。

 天使の治癒が始まる。一つ、一つと撃ちこまれた銃弾が吐き出されていくが、また新たな銃弾が天使の身を貫いた。

 「容赦ないわね……」

 俺の隣で傍観していたゆりが、ぽつりと呟く。

 いくら回復しても、また銃弾を撃ち込まれていく天使を、俺は見詰めているうちに、胸の内にもやっとした変な感覚が生まれるのを感じたが、その正体が何なのか、今の俺にわかるはずがなかった。

 「……ガードスキル、ディストーション」

 天使の身が淡い光に包まれた。

 そして遂に、その身に銃弾が届くことはなくなった。天使の強固となった身体は銃弾を跳ね返し、そしてその間に全ての傷を塞いだ天使が、またゆっくりと立ち上がった。

 

 その時、立ち上がった天使に颯爽と駆けていく人影を、俺は見た。

 

 

 あたしは遠方離れた岩の陰から、天使の小さな身体をスコープの十字に収めていた。

 頭の中がまるで氷のようにクールになり、指の先までの神経を敏感に尖らせる。

 「……ターゲット補足。 テェ…ッ!」

 スナイパーとなったあたしの指が、静かに引き金を引く。ただぐっと押しただけで、軽い音と振動と共に、銃弾が放たれる。十字の真ん中にあった天使の足が、ぱっと赤い花を咲かせた。

 そして次々と、回復する間も与えずに天使の身に銃弾を叩きこんでいく。

 頭の中が氷のようにクールになったあたしには、その所業が少し残酷であるという認識を与えることはない。ただ、目標を狙い定め、弾を撃ち込んでいく。慎重になりながらも効率を目指して仕事を行うのだ。

 だが、それもやはり長くは続かなかった。天使の身に、もう弾は届かない。

 「―――ちっ」

 あたしは舌打ちすると、銃を投げ出した。そして、こそこそと隠れて狙うという汚い役目を止めて、あたしは戦場へと駆け抜けた。

 

 

 

 天使の場に飛び込んだのは、沙耶だった。スカートの内から軍用ナイフを取りだすと、天使に向かって一閃した。だが、天使はそれを紙一重で避け、天使もまたその刃で応戦する。

 沙耶のナイフと天使の刃が火花を散らす。二人とも動きが速すぎて、俺は二人の競合いを追うのに精一杯だった。

 「彼女、近接戦もやれるのね……」

 ゆりが感嘆するように言葉を漏らす。

 だが、見ていてハラハラすると言えば、する。お互いに互角の近接戦闘を見せつけてくれているが、いつ沙耶がその刃に切り刻まれないが、心配で仕方がないのだ。沙耶の実力は俺も信じているが、天使も俺たち戦線メンバー全員を相手にするほどかなり強敵だ。

 「はぁ…ッ!」

 一旦、天使から距離を取った沙耶は、スカートの内に隠していたホルスターから拳銃を抜き出した。至近距離で拳銃の引き金を引くが、その銃弾さえ、天使に届くことはなかった。天使は身を傾けてそれを避け、そのまま流れるように、沙耶の心臓目掛けて刃を一直線に突き出した。

 「く…ッ!」

 それを間一髪で、沙耶が避ける。天使の白い長髪が、沙耶の目の前で靡いた。

 「はぁッ!!」

 そのガラ空きになった背後に、沙耶が拳銃の銃口を向ける。

 そして引き金を引く間際―――

 「…ガードスキル、ディレイ」

 

 沙耶の拳銃から放たれた銃弾が、天使の頭を――――

 

 

 「―――ッ!?」

 

 貫くことなく、銃弾は虚空を切り裂いた。天使の姿は沙耶の目の前にはいない。

 「消えたッ!?」

 沙耶は信じられないと言う風に驚愕の色を浮かべるが、俺は咄嗟に、沙耶に向かって叫んだ。

 「沙耶ッ! 後ろだッ!!」

 「な…ッ!?」

 一瞬の内に、天使は沙耶の背後に回っていた。

 信じられないスピードに、驚きを隠せない俺たち。だが、沙耶には驚いている暇さえ与えられなかった。俺の呼びかけに反応して振り返る沙耶。天使の刃が、沙耶の喉元に向かって斬りかかる。

 「―――ッ!」

 顎を引き、沙耶は上半身を後方に下げ、ギリギリの所で天使の攻撃を避ける。天使の切っ先が沙耶の喉元数センチ先を通り過ぎていった。

 「舐めるんじゃ―――ないわよッ!」

 体勢を戻し、一発を放つ沙耶。だが、またしても天使の刃に弾かれる。

 「ち―――ッ」

 続けてもう片方の手に握った軍用ナイフで切りつけようとするが、また天使が恐ろしいほどのスピードで沙耶の目の前から消え、背後に回った。

 「うあ…ッ!」

 同じ手に通用するか、という言葉を噛み締めながら、沙耶は背後からの攻撃を避けようとする。だがその天使の動きが速すぎて、無茶な避け方を身体に強制させる結果になってしまった。

 「―――ッッ!」

 身体を痛めてしまうような体勢で天使の一閃を避け、沙耶は遂に、ごろごろと地面を転がった。

 「は…ッ!?」

 地面を転がり、体勢を整えようとした沙耶だったが、既に天使が倒れた沙耶にその刃を振り下ろそうとしていた。

 

 

 無様にも地面に転がるあたし。無茶な避け方を続けたものだから、体中が悲鳴をあげている。そんなこともお構いなしに、あたしは決して戦闘の意思を緩めることはなかった。すぐに体勢を整えて反撃に出ようとする。

 ―――が、そんなあたしより早く、天使が次の攻撃に移っていた。

 無機質な瞳が、一瞬動きを止めたあたしを映しだす。その瞳に映る自分の顔は、さぞや滑稽な表情をしていただろう。人が、自分の死にゆく瞬間を覚悟した、そんな表情だった。

 大きく開かれたあたしの瞳が、天使の刃を映す。

 まるで、あたしの視界に入るものの動きが、全てスローモーションに見えた。

 天使の刃が、あたしに向かってくる―――

 

 「―――!」

 

 あたしの目の前で、天使が何かにぶつかり、横に吹っ飛んだ。

 その小さな身体が地面をごろごろと転がる。

 「音無くんッ!?」

 「大丈夫か、沙耶ッ!」

 吹っ飛んだ天使の代わりに、あたしの目の前に現れた人物は、音無くんだった。

 音無くんは天使に体当たりをして、あたしを助けたんだ。

 「…ふん、さすがあたしのパートナー。 ちゃんと相棒の危機を救ってくれるなんて、やるじゃない」

 「お前にこっぴどく絞られたからな」

 音無くんの手を借りて、あたしは立ち上がる。

 少し足元がふらついたが、なんとか大丈夫だ。

 「平気か?」

 「これくらいどうってことないわよ」

 あたしはニッと笑みを浮かべてみせる。

 それを見て、音無くんも安心したように微笑を浮かべた。

 「二人とも、そこから離れてッ!」

 ゆりっぺさんの声に、あたしと音無くんは足元から伝わる振動に気付いた。

 震源の先に視線を向けると、突然、巨大な砲身が姿を現した。それはほとんど大砲のような形をしており、どこを見ても砲台並みの兵器だった。

 「わ、すごッ! あんなものまで作ってたのッ!?」

 あたしは素直に感嘆の溜息と共に驚きの声をあげる。そのそばでは音無くんもあまりの壮大さに呆気に取られていたが、何かに気付いたのか、ハッと我に返る。

 「沙耶、天使がッ!」

 「―――!」

 視線を向けると、そこにはゆっくりと立ち上がる天使の姿があった。

 少し乱れた長髪を揺らすと、彼女はまたその無機質な瞳を、睨むわけでもなく、あたしたちを見据えた。

 「総員シェルターに退避しろぉッ!」

 砲台の周辺にいるギルドの隊員たちがあたしたちに警告を促す。

 「音無くんッ!」

 「ああ…ッ!」

 あたしは音無くんと共に、シェルターの方へ走る。ゆりっぺさんの後を続き、あたしたちはシェルターの中に身を隠した。

 ギルドの隊員たちも、シェルターの中へと避難する。

 「総員退避完了ッ!」

 「よし、発射用意ッ! 撃てェッ!!」

 一拍置いて、遂にその砲口から巨大な火球が吐き出されんとする。

 ―――と思いきや。

 

 「ぐわぁぁああああぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 聞こえたのは強烈な轟音と、天使では無くギルドの隊員たちの悲鳴。爆風がシェルターの中にまで吹き荒れ、あたしたちの身を土煙が襲いかかってきた。

 「はぁッ!!?」

 あまりの馬鹿らしさに、あたしは間抜けな声をあげる。

 砲台は見事に自爆し、木端微塵となっていた。もうもうとした煙の中、そこには散らばった砲台の残骸と、無様に倒れ伏せるギルドの隊員たちがいた。

 「砲台……大破……」

 「ち…ッ、やっぱ記憶にないもんはテキトーには作れねぇか……」

 「「テキトーに作るなぁぁぁッッ!!」」

 あたしとゆりっぺさんが、見事なコンビネーションでギルドの隊員に肘の一突きを決める。

 だが、天使もさすがに今の爆風には堪えられなかったみたいだった。仰向けに倒れていた天使は、ふらりと立ち上がった。

 「天使が起きるぞッ!」

 音無くんの声があがる。

 「お前たちッ!」

 その時、ギルドの入口から顔を出したチャーという男が、手榴弾をあたしたちに手渡しながら言った。

 「これでなんとかしろッ!」

 「ありがたいわッ!」

 あたしはギルドの隊員たちと同じように、手榴弾を受け取った。

 あたしが一つ目を投げ出す。だが、手榴弾は天使の寸前で弾き飛ばされ、あらぬ方向へと転がっていってしまう。

 しかし、転がった手榴弾はそのまま爆発。解き放たれた火焔と黒煙が天使の姿を包み込んだ。

 そして次々と投げ出されては、弾き返され、そして天使の周辺で爆発していく手榴弾。

 その間に、あたしたちは再びシェルターの中に逃げ込む。

 次々と爆発する手榴弾の炸裂と振動を背に抱えながら、シェルターの中に飛び込むと、既にチャーさんがギルド爆破のスイッチに手を添えている所だった。ギルドの爆破準備は完了していたのだ。

 そのチャーさんの隣には、ゆりっぺさん、そして音無くんもいた。

 「よし、ギルドを爆破する。 いいな?」

 「やって」

 チャーさんの問いかけに、ゆりっぺさんは躊躇無く即答する。

 チャーさんは一瞬思い浮かべる仕草を見せたが、すぐに「爆破ッ!」という掛け声と共にそのスイッチをぐっと押しこんだ。

 

 足元から、地震のような振動が断続的に発生する。そして響き渡る轟音。

 ギルドの大規模な爆破が始まった。

 それはあまりにも大きな爆発だった。まるでミサイル攻撃か精密爆撃を受けているかのような、凄まじい爆発であった。

 途切れることがない断続的な爆発が続く中、あたしたちはオールドギルドへの避難路を駆け上がっていた。

 駆け上がりながら横を見てみると、爆破炎上するギルドの光景が見渡せる。

 そして、キラリと光った小さな粒が、火の海に落ちて行くのが見えた。

 それは、天使だった。

 天使は頭から一直線に、崩れた瓦礫と共に燃え盛る火の海へと姿を消していった。

 「……………」

 あたしは駆け上がりながら、その光景を黙って見届けていた。

 

 

 ギルドは破棄され、代わりにオールドギルドに拠点を移したチャーさんたちギルドメンバー。

 この世界では強い念で記憶を具現化し、自由に物質を再構築できる。つまり、必要な記憶と職人としてのプライド、土くれさえあれば、また武器を製造することは可能なのだ。

 チャーさんの号令によって、ギルドの隊員たちが意気揚々と準備を始める。

 そしてゆりっぺさんも、リーダーらしい風格で、現場に指示を出していく。その姿はとても輝いていて、格好良かった。

 彼女を見てみると、この戦線のメンバーがどうして彼女に付いていったのか、よくわかる。

 そして、ゆりっぺさんの指示に意気揚々と従って動き回る彼ら。そんな光景を見ていると、不思議と暖かい気持ちが沸いてくる。

 「まだまだ俺たちの戦いはこれからだ、って感じね……」

 「まるで打ち切り漫画みたいな言い方だな」

 と言いつつも、音無くんは笑っていた。

 あたしも、笑顔を浮かべる。

 「ま、とりあえずこれからはもっと厳しい訓練をしなきゃね。 ギルドはこの通り破棄されちゃったし、今度は近接戦でも教えようかしら?」

 「おいおい、勘弁してくれよ……」

 「これからも天使と戦うためには、今日みたいな近接戦闘も時には必要になるってことよ。 あたしの戦いを見ていたら、わかるでしょ?」

 「それは……そうかもしれないが……」

 「―――と、いうことで。 また明日からビシビシ鍛えてあげるんだから、覚悟しなさいよね」

 そう言って、あたしはぽんと音無くんの胸に拳を当てる。

 「……まったく。 参ったな、こりゃ…」

 音無くんは額に手を当てつつも、溜息混じりの微笑を浮かべていた。

 あたしは音無くんと話しながら、今回の過程の一部分を思い出していく。

 

 天使が出現し、戦闘になった時。音無くんはあたしの期待通りになってくれたと証明された。

 そして天使に体当たりしてでも、あたしを助けてくれた、パートナーとしての功績。

 あたしの目の前に現れてくれたヒーローを、再び思い浮かべる―――

 

 くす…っと、あたしは微笑む。

 この子は鍛えれば鍛えるほど、期待通りに成長してくれそう。

 あたしの目に狂いはない。きっと、彼は物わかりが良い方なんだろう。

 なんだ、ちゃんとあたしのパートナーやってくれてるじゃない。

 

 これからも期待してるわよ、マイ・パートナー。

 

 

 こうして、あたしたちのギルド降下作戦は終了した。

 脱落していった戦線メンバーたちも後に合流し、あたしたちは地上に帰ってくることができた。

 しかしこの先にあたしたち、死んだ世界戦線にやがて激烈な変化が訪れることになるなんて、この時は夢にも思わなかったのだった―――

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