Angel Beats! ―SCHOOL REVOLUTION―   作:伊東椋

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EPISODE.70 Another Sacred Treasure

 いつの事だっただろう、今となっては遠い昔のようだった―――

 夜の校舎で、あたしは似たような空間を探索したんだ。

 難問を解き、試練を潜り抜け、ひたすら下へと目指した、迷宮の地下空間―――

 あの時、あたしの隣にはもう一人のパートナーがいた。

 でも、今のあたしの隣には―――

 

 

 

 「……まさか、またここに来る事になるなんてね」

 そこへ辿り着いたあたしは、嘆息を吐く思いでそう呟いた。

 延々と続くと思わされるような長い通路の果てに待ち構えるようにあった古びた扉。プレートの錆が酷過ぎて、その部屋が元々どういった部屋なのかはわからない。だが、あたしはその部屋を既に知っていた。

 いつかの時、間抜けにも捕らわれたあたしが幽閉されていた場所。

 あの時は、随分と彼らに迷惑を掛けてしまった。一流のスパイを自称する身分が何たる座間だろう。

 だが、その後悔も今は不必要だ。あたしはそんな仲間たちのためにも、この扉を開けて先へ行かねばならない。

 再び、その扉が開かれる。

 手で押すと、ギイ、と錆び付いた音を立てて扉が開く。ゆっくりと開かれた扉から、倉庫特有の匂いが鼻をお出迎えした。

 かつて、ここに閉じ込められ、全ての記憶を取り戻した場所―――

 あたしはそこへ、再び戻ってきた。この世界の暗部に立ち向かう武器を手に入れるために。

 

 

 暗闇に慣れた目が捉えた光景は、山のように鎮座した壊れたコンピュータの数々だった。一昔前の懐かしいタイプを思わせるパソコン機器類はどれも撃ち壊されたように、その真っ黒な画面と太った頭に埃を被らせて沈黙している。

 あたしはそれらの中から、あるものを探した。山を崩し、銃痕を付けたものは全て掻き分け、望みは薄いその探しているものがある事を願いながら、あたしはひたすらに機器の山を崩し分けた。

 そして、見つける。ただ一台、穴を開けた中から唯一無傷である、そのパソコンを引っ張り出した。

 「動くかしら……」

 埃を払い、画面を制服の袖で拭きとったあたしは、画面を真っ黒にさせたそのパソコンをそばにあった机の上に置いた。

 「よいしょ……っと」

 引っ張り出したパソコンの後部に、同じく床に垂れていたコード類を差し込んだ。スパイ足る者、その手際の良さは健在だ。

 デスクトップの端にあるスイッチを押す。

 電源が入るか不安だったが、無事に息を吹き返したパソコンを見て、あたしは安堵の吐息につく。

 あれだけ撃たれた中で、よく無事に生き残っていたものだ。それは奇跡だろうか、それとも―――

 「―――!」

 ぴこん、と画面にある数字が浮かぶ。それが100%を満たすと、数字の羅列と英語が嵐のように入れ交えながら切り替わると、やがてその単語を表示させた画面に行き着いた。

 

 

 ―――ANGEL PLAYER β―――

 

 表示されるソフト名―――その名はあたしの脳裏にしかと刻まれている。

 

 

 今回の騒動に際する影の存在は、この世界の住人であるNPCが変容した姿だと思われる。突然現れた影の正体は誰にもわからないが、もしNPCを、立華奏が利用していたソフトのように書き換えが可能だったとしたら、何者かがそのソフトを使ってNPCを影に変えて自分たちに襲いかかっていると言う考えれば十分にあり得る事だった。

 そして、あたしたちは既に知っている。

 立華さんのAngel player、何者かが影の操作に使っていると思われるソフト、それらと似たようなものを―――

 「このソフトもまた、その一種に過ぎないとしたら……」

 何かが掴めるかもしれない。

 似たようなソフトをこちら側から利用し、何らかの形で相対させる事が出来れば、道が開かれる可能性はある。

 「……考えてみれば、皮肉な話ね」

 かつて自分自身に牙を向いた事があるものを、今度はこちらから対抗策の一つとして利用しようと言うのだ。

 「それでも、あたしは……」

 だが、それは危険でもあった。そのソフトを使うとしても、それがこちらの思い通りになるとは限らない。もしかしたら再びこちらに害を為すものを起動させてしまう可能性も十分にあった。

 「それでも、あたしは賭ける。 全てを思い出せてくれた神器に―――!」

 切り替わった画面を見据えて、あたしはエンターキーを押す。

 その瞬間―――

 

 

 

 

 「……………………」

 

 

 まるで火が灯ったかのように、背後にふっと現れた気配。振り返ったあたしが見た先には、あたしの思った通りの人物がそこに立っていた。その眼鏡の奥に光るエメラルドグリーンの瞳を宿した女子生徒を、あたしは知っている。その腕には、彼女の存在を象徴するように『書記』と書かれた生徒会の腕章があった―――


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