俺が助けた彼女はもう死んだ   作:図らずも春山

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優悟の最期

「あんたまた宿題やらずにゲームしてたの!?」

 またこのくだりか。成瀬優悟はテレビゲームをつづけながら言った。

「別に後でやるからいいだろ。今いいところなんだよ」

「ゲームは宿題してからって約束でしょうが!」

 そういって優悟の母はテレビの電源を切った。

「あぁ~! 何すんだよ! 後少しでハイスコア更新だったのに!」

「うるさいわね! ゴチャゴチャ言ってる暇があったら宿題をしなさい! ぶっ叩くわよ!」

「はいはい。やりゃぁいいんだろ? じゃあやりますよ!」

 優悟はナメた態度で母の前に立った。すると予告通りに平手がとんできた。

「!!」

 瞬間、優悟がみてる世界がスローモーションのようになった。優悟は母の平手打ちを軽々とかわし、自分の部屋へと去って行った。

「このバカチンが! まちなさい!」

 背中に浴びせられる罵声を無視し、優悟はヘヤに入りドアを閉めた。あいにくなことにこのドアにはカギがついていなかった。

 部屋に入ったが宿題をやる気はない。宿題なんてもっていくその日にやればいいんだから。

 そのまま布団に潜り込んで目覚ましを8時にセットし、優悟は眠りについた。

 

                       ◆

 

「何てことをおっしゃるんですか!? お嬢様!」

 広い屋敷の中にひとつの怒号が走る。

「何って、今日は一人で外に出ると言っているだけのこと」

 凛とした少女は怒鳴りつける初老の男とは反対に静かな声でそう返した。

「何が“だけのこと”ですか! じいも一緒に着いて行きます!」

「わかった。ちゃんとお留守番しててね」

「なんでそうなるんですか!? じいは心配でなりませんぞ!」

「フッ……じいも年老いたな……」

「年のせいなんですかこれ!?」

「一人で行かせてくれないと、私じいのこと嫌いになっちゃう」

「ぐっ……!」

 お嬢様とよばれた少女は勝ち誇ったような顔でじいを見た。

「でも、もしお嬢様の身に万が一のことがあったら…じいは……」

 少女はじいの肩に優しく手を置いた。

「大丈夫。万が一のことなんて滅多におこらないから」

 

                       ◆

 

 優悟は友人•鮫島祐助とともに、駅前のゲームセンターにやってきていた。月曜日の夕方だが大人が客の大多数を占めていた。

「これが噂のゲーム•シラハドリマシンか……」

 だれともなしに祐助が言う。優悟は無言で頷いた。

 そう、今日の目標はこのゲームのハイスコア更新である。

 まずは祐助がやってみることになった。お金いれると最初にレベルの選択画面が出てきた。レベルは4っつのレベルにわかれており、したから[易しい]、[普通]、[難しい]、[神]というふうになっている。祐助は迷わず普通を押した。

 ここで少しゲームの説明をしておこう。

 このゲームは勢いよく倒れてくる棒をしらはどりの要領でタイミング良くキャッチするゲームである。棒の先端部の両端にはボタンがついており、そこを決められた角度でタイミングよく押せば高得点につながる、という具合だ。

 祐助が[普通]のボタンを押すとゲーム画面が暗転した。そして画面上に一本の線が表れ、「この位置でボタンを押してね」と出てきた。数秒間でその文字も消え、辺りの空気が張り詰める。

 

 と、突然画面に“!!”が表れ、それと同時に棒も倒れてきた。

「えっ、ウソだろ!」

 祐助の悲痛な叫びも虚しく棒は倒れた。

 そしてその上で祐助の手が合わさる。

「………」

 しばしの沈黙の後、祐助が無言で優悟の肩に手を置いた。祐助の熱い思いを受け止め、優悟はゲーム•シラハドリマシンにお金をいれた。そして迷わず[神]を選んだ。

 画面は暗くなり、線と文字が出てきて文字が消える。

 と、突然優悟のみている景色がスローモーションになった。

 優悟は小さい頃からFー1をみていたためか、動体視力が非常に優れて、自分の周りに速度の速いものがあると、その速度に比例してスローモーションに見えるというおかしな体になってしまったのだ。ちまたでは、“奇跡の瞳”とまでよばれるほどだ。

 ゆっくりと棒が倒れ始める。今の優悟にとっては、線に合わせてボタンを押すことなど容易いことだった。狙いを定めて手を合わせる。そして棒の勢いを殺しその場にとどめさせる。これも大事な加点方法のひとつなのだ。

 「よっしゃあああああああああ!」

 なぜか優悟よりも祐助のほうがよろこんでいた。

 

                       ◆

 

帰り道、優悟は祐助と別れひとりでかえっていた。今日の事を思い返す。結局、ランキングでは1位にはなったのだが、なんと優悟と同立1位がいたのだった。“ぷー”という名前のそいつは先週やった動体視力がモノを言うゲームでも優悟と並んで1位だったのだ。とんだ大物がいたものである。

 ブブブ、っと携帯が鳴った。母親からだ。「帰ったら宿題やりなさいよ」とかいてある。文末には顔を真っ赤にして起こる顔の絵文字が添えられていた。

「わかってるって。絶対やるから」と優悟は返信した。もちろんそんなつもりはない。やるかどうかは気分次第だ。

 と、突然また世界がスローモーションになった。しかも今までの遅さとは比べ物にならない程の遅さだ。もの凄い速度の物体が自分の周りにあるらしい。一体全体なんなのだろうか。

 ふと視界の隅で光る物を捉えた。それは前を歩く一人の少女の左側の細い路地から夕日を反射しながら、ゆっくりと、しかし確実にこちらに向かってきている。いや、こちらではない。前を歩く少女に向かってだ。

 そのとんできている物体は優悟にもすぐにわかった。

 あれは

 ――弾丸だ。

 思うがはやいか、優悟は少女に向かって走りだしていた。

 きっと俺の動体視力なら携帯で防げる!

 優悟は少女のすぐ後ろまできていた。弾丸はというと、相変わらず少女の脇腹貫通ルートを辿っていた。

 優悟は少女にむかって勢い良く飛び込んだ。

「あぶぅぬあああああああああいいいい!!」

少女が優悟の声に気がつき、振り向く前に優悟は右手だけで出せる限りの力で押した。そして左から飛んでくる弾丸に合わせて携帯をかざした。今の優悟からして数秒後、弾丸が煙をだしながら携帯に食い込んだ。これで新しい携帯がもらえる。計画通り。

 弾丸を止めたはずなのにスローモーションはおわらなかった。何故だ?速い物がないとこうならないはずなのに…。

 ーーまさか!?

 優悟は先程弾丸がとんできた方角に目をやった。そこには最悪な光景がひろがっていた。

 もう一発弾丸がとんできていたのである。

 優悟は悟った。

 もうだめだ。

 それは一瞬だった。

 体を鋭い衝撃が駆け抜け、真っ赤な血飛沫が宙を舞う。

 呼吸をしようとするのだが、ヒューヒューと外にもれていく。

 優悟は自分の体を見回した。

 深紅に染まった右胸は肺の辺りに穴が空き、そこから血が噴水のように吹き出てくる。

 なんだコレ、なんだコレなんだコレなんだコレなんだコレ。こんなはずじゃなかったのに。

 激しい痙攣が止まらない。自分から自分が溶け出していくようだ。

 まだ、死ぬわけには、逝か、ない。

 だって、まだ宿、だい、してな

 

                       ◆

 

 少女は突然突き飛ばされたことに怒りを覚えながら振り向いた。そこには血飛沫をあげながら倒れていく少年の姿があった。そして状況を理解する。

 少女はすぐさまおきあがると駆け出した。とにかくここから逃げなければ。

 ここらへんは初めてくる場所だったが、今はそんなことは関係ない。

 少女は必死で逃げた。右、右、左、左、左、右……

 しかし追いかけてくる足音はなくならない。何故そこまで執拗に追いかけてくるのか少女にはわからなかった。

 気がつくと、行き止まりの一本道にぶつかってしまった。後ろを振り返ると銃を持った男が迫ってきていた。

「フフフ、残念だったな……」

 追い詰められてしまった。男は足早にこちらにやってくる。乱れた呼吸を整えつつどうすべきか考える。だがいくら考えても答えは見つからなかった。

 もう、終わりだ。

「じっとしてろよ……」

 そういって男は少女のアゴをつかみ、銃口を少女の口のなかにいれた。重たく無機質な鉄の味が口いっぱいに広がってゆく。

「んっ……!」

 しかし少女には抵抗する気力も体力もなかった。

 こんなことではじいにあわせる顔がない。

「これでしまいだ」

 いや、もう二度と顔を合わせることはできないかもしれない。

「らッ!!」

 辺りに銃声と大量の血が飛び散った。

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