俺が助けた彼女はもう死んだ   作:図らずも春山

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優悟、招く

「はい、全員いるね」

「はい」

 おっさんの問いに明が代表して答えた。

「それじゃ、ここに並んで。あ、一列にね」

 優悟はゴクリとツバをのんだ。いよいよ現世へ送られるのだ。

「お前先行けよ」「やだよ!あんたがいけばいいじゃない」「賛成。わかったらさっさと並んで」「だれでもいいからはやくしようぜ」「待てよ!納得いかねえぞ」「これは強制民主制。少数の意見なんか取り入れない」「さんせーい」「賛成!」「お前らひでえよぅ…」

「…あー、早く並んでくれない?」

 おっさんは少しイラついた調子で言った。

 半ば強制的に明が一番手となり、後ろに優悟、レン、楓という順番になった。

「はい、じゃあここに乗って」

 おっさんが明を誘導する

「こんな辺りですかい」

 といって明は転送装置の真ん中に立つ。

「そういうのは関係ないです」

「あぁ、はい」

「じゃあ行くよ」

 そう言うとおっさんは壁についたスイッチを押した。

「ちょっとまっt」

 何かを言おうとしていた明は一瞬で消え去った。

「はい、次来て」

 よばれた優悟は転送装置の上に立った。…瞬間、周りの景色がどこかへ吹き飛んだ。

「ふぇっ!?」

 今、転送されているのだと優悟が気づくのには数秒かかった。まさか装置の上に立った瞬間に転送させられるなんて…

 そんなことを考えていた優悟は、ふいに訪れた何かのショックで気を失った。

 

 だんだんと意識が覚醒してきた。

 優悟は瞼を開けた。まず視界に飛び込んで来たのは狭い路地裏から見える道路だった。その道路からはべっとりとした血の線が延びていた。優悟を撃った奴が引きずったのだろうか。

 優悟は自分の右胸を見てみた。着ていたTシャツは破れて血みどろになっていた、がその奥にはちゃんと優悟の体が見えていた。羽織っていた青いパーカーにも血がついていた。こんな状態では歩けない…が、なすすべもない。

 とりあえず何か行動を起こそうと考えた優悟は立ち上がってみた。重力が優悟の体にのしかかる。

  どうしよう…。とりあえず家に帰りたいんだけど…

 こんなに血が付いた服でうろうろしていたら変な勘違いをされてしまうだろう。かといってどうすることも出来ないのが現状だった。

  何かないか?

 キョロキョロと辺りを見渡すとある物が優悟の目に入ってきた。

  こ、これは…サングラス!?

 よくみると、ニット帽までおちていた。

 なんという幸運だろうか?これなら顔がわからないから行けるかもしれない。

 優悟はそれらを装着し、道路に人がいないことを確かめると、路地裏を飛び出し走り去っていった。

 

 

 楓は目を覚ました。見えるのはオレンジ色に染まった綺麗な空。それと住宅街。後ろには血のついた壁。

 楓は立ち上がろうとして、やめた。体がだるいのだ。とにかく疲れているのだ。

 楓は静かに目を閉じた。

 ーと、ふいに楓の鼻腔が心地よい匂いを捉えた。

  この匂いは間違いない。彼のものだ。

 そう断定した楓は目を開けた。

 目の前を一人の怪しげな少年が通り過ぎようとしていた。

「待って!」

 楓が声をあげると少年は立ち止まり、振り返った。そして楓を見て言った。

「月夜野……!?」

 

 

 

 優悟はニット帽にグラサン、それに血まみれの服でコソコソと家に帰っていた。もうすぐ家である。この姿を見た親はなんというだろうか。面倒臭そうなビジョンしか浮かんでこなかったので裏の勝手口から入ることにした。

 はたからみればただの泥棒である。

 優悟は角を曲がって細い路地に入っていった。勝手口に行くにはこっちのほうが近い。……多分。

 この路地の行き止まりの手前の角を右に行けばすぐに家だ。行き止まりが見えた……と思ったら、そこにはうなだれるように座り込む楓の姿があった。背後の壁は紅に染まっていた。

「月夜野……!?」

 まるで呼ばれるのを待っていたかのような速さで楓は目を開けた。

「助けて」

 至極冷静な声でそう言った。有無を言わさぬような視線を受けて優悟はしぶしぶ楓を家に連れて行くことにした。

 

 

 

 

 バタンとドアが閉まる。それは優悟の部屋のドアだった。

「ふぅぅ〜……」

 優悟は深い深いため息をついた。ドアにもたれかかり頭を抱える。天国なんかよりも自分の頭のほうがパンクしそうだった。

「ああああ」

 特に意味のない『あ』の連呼が優悟の口からこぼれ出る。

 なにをそこまで問題視しているのか、今の状況を短くまとめた次の『◆』から始まるのでそこを読んでもらいたい。いやはや、小説とは便利なものだ。

 

 

 

 

 なんとか無事に優悟の家にたどり着くことができた二人。慎重に中に入っていくと、幸いなことに親の姿はなかった。リビングのテーブルの上には「でかけます」という置き手紙があった。優悟の服は破れていたが、楓の服は血で汚れているだけであったため洗濯機で洗うことにした。お風呂もわかし、先に楓が入っている。

 あれ? うまくまとまんなかったぞ?

 

 

 

 

 と、まぁ、そんなわけで。

 優悟はあることを心配していた。それは楓が自分に寄せる好意であった。それはもう過剰な好意である。いくら考えてもその好かれる意味が優悟にはわからなかった。

(さて、どうしようか……)

 優悟は唸りながら考える。そんな時。

 コンコン。

「ひぎゃっ!?」

 いきなりのノックだったので優悟はひどく驚いた。

「今上がった」

 楓である。

「あ、はい」

 そーっとドアを開けるとそこにはバスタオルを巻いただけの楓がいた。そこをコソコソッと通り抜けようとするとガシっと手首を掴まれた。温かいぬくもりが伝わり、一気に体温が跳ね上がる。

「な、ななななんでしょうか!?」

 視線を合わせずに優悟は訊いた。楓は相変わらずの無表情である。

「私はどこでまってればいいの?」

(そっ……想定外だぁぁぁああ!!)

 優悟は改めて自分の迂闊さを恨んだ。

(どっ、どうする!? リビング? いや、ダメだ! 親が帰ってきた時の対処ができそうにない!)

 優悟の脳内で緊急脳内会議がひらかれた。

………………………

……………

……

 

「緊急招集! 緊急招集! これより、第185回脳内会議を始めたいと思います!」

 教壇のようなものを隔てて立った小さな優悟が声を張り上げる。

「今回の議題は『月夜野楓をどこにいさせるべきか』です! 意見のある俺は挙手してください!」

 すると早速何人かの小さな優悟が手を挙げた。

「はい、どうぞ」

「自分の部屋です! 多少のリスクがあるものの、親に見つかる確率は一番低いものとおもわれます!」

 さされた優悟は起立をしてそう言った。

「うーん、では、異議のあるものは手挙げてください」

再び優悟達の手が挙がる。

「はい、どうぞ」

「そのリスクが心配なのですが!? ここはやっぱり俺とはあまり接点の少ない所がいいと思います!」

「例えば?」

「うーん……。と、トイレ?」

「それはない。却下」

 周りの優悟たちも首を縦に振る。

「では、採決を取ります! 月夜野楓を自分の部屋にいさせることに異議のあるものはいますか?」

 司会役の優悟が優悟たちを見渡すが、手を挙げるものは誰もいない。

「はい、決定!!」

 

……

…………

……………………

 

「じゃあ、俺の部屋でじっとしてて」

 優悟がそう言うと楓は黙ってうなずいた。

 

 

 

 

「はぁ……」

 お風呂から上がった優悟は再びため息をついた。なんだか気怠いのだ。

 洗濯機はもう止まっていた。

 用意しておいた服に着替えると自分の部屋へ戻っていった。

 軽くノックをする。

「なに?」

「服の洗濯終わってたよ」

「……そう。ありがとう」

 優悟は楓とすれ違いざまに部屋に入った。そして辺りを見回す。

 とくに変わった様子はない。が、心なしか、ベッドにある布団が前より乱れている気がした。




続きは〜どうしようかなぁ~
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