東方移人録   作:移り人

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第十話

 異変についての話し合いから日を跨ぎ、各々の仕事が一段落して太陽が沈もうとする時間に俺たちは集まっていた。

 

「それじゃあ始めるぞ」

「ええ、やって頂戴」

「頑張って下さい、移」

 

 その言葉に俺は一度だけ頷くと、目の前に開かれているスキマに手を伸ばす。スキマの中に手を入れ、その次に頭も入れていく。本当は顔は出さなくてもいいのだが、ちゃんと狙いをつけてより効率よく移し取る為に出している。

 そもそも、このスキマの出口は基本的に人目に尽き難い場所なのだから、少しくらいの露出は問題は無く、それに移し取るのに集中していても近くに文と紫さんが居るので余計な心配が無い。

 

「なんか変な気分だな」

 

 スキマの中を潜るという経験はした事が有るが、この様に中途半端に体の一部分だけをスキマに潜らせると言うのは初めての体験だった。体がそれぞれ違うところに存在しているような感じがしてかなり変な気分になる。

 

「悪く思わないでくれよっと」

 

 外に出ると、近くに居る人里の人間たちに狙いを付けて、能力を発動させる。人里の人間たちにばれないように細心の注意を払いながら少しずつ、少しずつ霊力を移し取っていく。移し取った霊力を右手の手のひらに集めて、そこから自分の力に混ぜ合わせ霊力の色を自分の色に変えていく。そして変換した霊力を左手に集め直して、水晶玉に送り込んでいく。このスキマの近くの人間の霊力を一通り集めたら、スキマから体を元に戻す。

 

「それにしても、本当にこの水晶玉を貰っても良かったのか? 貴重なんだろう」

「別に良いわよ。これは今回の貴方に対する報酬のようなものなのだから」

 

 俺が先ほどからわざわざ霊力を自分の霊力と混ぜ合わせてから、水晶玉に移しているのはこのためだ。紫さんが報酬としてこの水晶玉をくれると言うので、自分に使いやすいように調整するようにしているのだ。

 

「いやー、それにしても何時見ても綺麗な水晶ですね」

「そうだな、俺もそう思う。それにしても、今日は椛さんは居ないんだな」

「あややや、椛には見回りがありますからね。白狼天狗である椛は妖怪の山を巡回していますよ」

 

 今日は椛さんは来ては居なかった。白狼天狗と言う種族は基本的には妖怪の山に来るであろう敵対者に警告、それが適わなければ強制的に排除するようになっている。本来ならば俺も排除対象なのだがどれもこれも文のおかげと言う訳だ。

 

「あの子はそれで良いのよ、しっかり警備してくれたらそれで良いわ」

「大丈夫ですよ、椛は真面目ですし警備にも向いていますから」

「それもそうね、それじゃあ次に行くわよ」

 

 そう言って紫さんは一度スキマを閉じる。次に開く場所は予め決めていたのだろう、迷うそぶりも見せずに別のスキマを開く。その先に通じる場所は完全に計算付くされており、人々の目には死角になるように成っている。

 

「はいよっと、行ってくるよ」

 

 再度感じるスキマの何とも言えない変な感覚を感じながらも、これも仕事だと我慢しながら潜っていく。再び訪れる人里は大通りと呼んでいいのか分からないが、人が忙しく動き回り、客寄せなどで大いに賑わっている場所だった。

 繰り返すように人里の人間から、少しずつ、何度も何度も霊力を移し取っていく。先ほど移していた場所は人が少なかったから直ぐに終わったが、此処ではそうも言っていられそうにない。ただでさえゆっくり精密にやらなければいけないのに、人が多いせいでやる事は変わらないのだが余計に辛く感じる。

 

「……終わった」

 

 長かった。ずっと能力を細かく操作していたので精神に掛かる疲れが異常なほど感じる、もう動きたく無いと声を高らかに叫びたい気分だ。だが、そのおかげもあってか、より効率よく霊力を集めることに成功した。実際にやるべき事は人里の人間の霊力の減少による疲労状態に陥れる事なのだが、何かを集めると言う行為が楽しくってついつい実が入ってしまうのだ。旅先でのお土産を買い漁る時のような感じだろうか? 

 

「あら、ご苦労様。次に行くわよ」

「ちょ、少しは休憩と言う物をくれると助かるんだが……」

 

 いくら楽しくっても疲れるものは疲れるのだ。特に終わった後などの気が抜けた時などは疲れが波が来たかのようにどっと押し寄せて来るのだ。それなのにどんどん働かせようとする紫さんマジスパルタ。

 

「そうですね、結構時間が経ってますしお茶にしませんか?」

「そうねー、根を詰めても効率が悪くなったら意味が無いものね」

 

 ああ、こういう時に気を回してくれるのはとても嬉しい。疲れた体と言っても精神的にだが、冷たいお茶を一息で飲み干したりすればそれだけでも気分は良くなるというものだ。

 

「た、助かる」

 

 俺は疲れで動くことが億劫だったので、文がお茶を取りにいく。家にあるお茶は、外に居たころには冷蔵庫で冷やしていたお茶を好んで何時も飲んでいたのだが、この幻想郷ではそうも行かない。冬ならば何時でも冷やせるが今は夏の一歩手前なので暑くてしょうがない。そこで使っているのが、河童の渓谷にある川の水だ。普段の飲み水に使えるほどに水が透き通っており、そして何よりも冷たく気持ちが良い。その冷たさを利用し、スイカを水で冷やすようにお茶を容器に入れてから冷やすことにしている。

 なので、取りに行くのにもそれなりに時間が掛かるのだが……

 

「持ってきましたよー」

 

 ここに居る面子には全く関係の無い話だろう。文に掛かればそれこそ高速に取りに行く事が出来るし、俺や紫さんならば文字通り瞬時に取りに行く事が出来る。

 

「相変わらずの速さね、文」

「それほどでもありますよ。幻想郷最速を名乗っているのですから」

 

 天狗という種族の妖怪は総じて速い者なのだが、文はその中でも更に速く幻想郷最速を名乗っても何の違和感すら感じさせない程だ。実際には誰が一番速いのか気になるものだが、俺の中では文が負けるところは想像が出来なかった。

 

「はい、お茶ですよ」

「ああ、ありがとう」

 

 文から受け取ったお茶を息を付かぬままに飲み干す。喉を通る心地よい冷たさが疲れきった心と体に染み渡って行く。中にあったお茶は瞬く間も無く無くなってしまう。もう一杯飲むためにもう一度お茶を淹れ、今度は少しずつ飲んで行く。

 静かな時間が続く。ふと、外を眺めてみればもうじき日が暮れようとしていた。完全に日が落ちるまでに移し取るのを終わらせなければ、大抵の人間は家の中に入って霊力を集める効率が落ちてしまうだろう。

 

「さ、速く終わらせようか」

「そうね、スキマを開くわ」

 

 再度開かれたスキマを潜り、先ほどと同じように霊力を集めて行く。変わらずに何度も。大抵の人里を回り終えると漸く今日の作業が終わることになる。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「店主、邪魔するぞ」

「ああ、移くん。いらっしゃい」

 

 異変と呼んでも良いのか分からないが、異変を始めてから三日が経った。当初の目的である、博麗神社の人払いは順調に進んでいた。これまでは何人かは参拝客が来ていたようだが、紫さんによると、以前よりも参拝客は減ったと言っていたからちゃんと効果はあるのだろう。

 以前、今まで一緒に居たのにその事をどうやって調べたのか聞いてみたら、自分の式に見張らせていると言っていた。式と言ったら、陰陽師などが使っている式神などが出てくるが。彼女の言う式とは使い魔の様な者らしく、以前に名のある妖怪を式にした者だと言っていた。名のある妖怪をそんな雑用みたいな仕事を押し付けて良いのかと思うが、主の命令だからしようが無いのだろう。

 

「今日は何をしに来たんだい? 前みたいに買い取りかな?」

 

 さて、いま俺は香霖堂に来ている。今回はとある用件があり、此処まで訪れていた。

 

「いや、今日は少し買いたい物があってな」

「買いたいもの? 何が必要なんだ」

 

 そう、買い物だ。紫さんに頼めば何とかして貰えたかもしれないが、彼女に頼りすぎるのも良くは無い。それに、今回欲しい物は定期的に補充がきか無ければならないのだ。紫さんのように何時も何処に居るのか分からないようではだめなのだ。

 

「宝石だ。出来れば純度が高いものが良いが……」

「ほう、宝石かい。ちょっと待って居たまえ」

 

 そう言うと店主は店の奥に行ってしまう。奥の部屋で何かを探すような音と、整理されていない商品に当たる音が響いていた。暫くすると、何かをやり遂げたかの様な顔をしながら店主が戻ってくる。

 

「あった、ダイヤモンドで良いかね? 値段は百万で良いかな」

「だ……駄目に決まっているだろ!」

 

 なんだその莫大な値段は! そんな大金など持ったことなど無いわ。というか何でダイヤモンドを持ってきたし。そんな高価なものは使えないだろ。

 

「な、なにがいけないって言ううんだい?」

 

 まるで訳が分からないとでもいうように言う店主。訳が分からないのはコッチの方だ、ダイヤモンドを持ってきたのはまだ良いとしようだが、そのありえない値段設定は何だというのだろうか? いくらなんでも百万は高すぎるだろう。

 

「高すぎるんだよ! 少しは値段を考えろ」

「うーん、駄目かい?」

「駄目だ」

「はあ、わかったよ。次をもってくるよ」

 

 店主はとても残念だとでも言うように、肩を竦めさせると、再度部屋の奥に戻って行く。そして、戻ってきた店主の手には色とりどりの宝石が並んでいた。

 

「ルビー、サファイア、エメラルド。オパールにトパーズ、ラピスラズリにアメジスト。どれもこれも値段は二十万だよ、どうだい?」

「だから高いって言ってるだろ……」

「高いって言われてもね、貴重品だからね」

 

 それはそうなのだろう、基本的にこの幻想郷で宝石が加工される事はありえない。だから、この幻想郷にある宝石は全部外の世界で忘れられた物が流れ着いた物のなのだが、如何せん宝石故に大事にされる物が幻想入りする可能性はとても少ない。むしろ良くここまで宝石を持っているものだと言えるだろう。

 

「仕方がない……一番安いので良いから持って来てくれ」

「良いのかい? そうしたら原石のままや、形が崩れている物なんかになるけれど」

「別に良い。形は後で俺が変えるから」

 

 そう、最初からそう注文しておけば良かった。形が尖っていたりしても、能力で伸ばしたり縮めたりすれば自分の好きな形に変えることが出来るのだから。

 

「分かったよ、ちょっと待っていてくれ」

 

 そう言って次に持ってきたのは、腕一杯に大量に抱え込んで持ってきた水晶だった。

 

「って、また水晶かよ」

「あれ、駄目だったかい?」

 

 いや、別に駄目ではないんだけれども、どうしてこうも間々ならない物なのだろうか。いっその事開き直ってしまった方が良いかも知れない。

 

「いや、それで良い。それにしても何でそんなに大量にあるんだ?」

「少し前に何時ものように珍しい物を無縁塚で探していた時に拾ったんだよ」

 

 無縁塚とは、その名の通りに無縁の者の墓場といったような場所らしい。実際に行ったことは無いのだが、危険なので余り近づかないで下さいと文に言われた場所だ。外から何かが流れ着くときには此処に流れ尽きやすいのだとか。

 

「へえー、それで幾らで売ってくれるんだ?」

「そうだね、これはあまり売り物にならなそうだったし、一万で良いかな」

 

 一万と聞くと高く感じるが、あの量で一万円と言ってくれるのだから良心的なのだろうか? 

 

「全部買った」

「毎度あり」

 

 それでも結局買うしかないのだが。良い買い物をしたのだと思うことにしよう。

 

「そう言えば、何のために宝石を買おうと思ったんだい?」

「ああ、店主に言っていなかったな。霊力と妖力を宝石に込めようと思ったんだよ」

「ほう、それは面白い。どうやるんだい」

 

 そう、今回此処に来た目的は戦闘用の宝石の確保にある。博麗の巫女と戦うのだ、少しでも戦力を上げておきたい、それこそほんの少しででもだ。そのために水晶玉に力を移す事から、これを戦闘に使えないかと考えたのだ。だが、あの水晶玉では大きすぎて戦闘中に邪魔にしかならない。それならば縮めれば良いとは思うが、それはまだ時期では無い。大きさとは許容量に直結しているのだ、わざわざその利点を潰す訳にはいかない。だからこそ新しい宝石を捜しに此処まで来たのだ。

 

「俺の能力を使ってな。それじゃあ、これから忙しく為るからそろそろ帰るよ」

「そうかい……また来てくれたまえよ」

 

 帰ってから直ぐにでもこの大量の水晶を改造しなければ為らないのだ、それに人里の霊力集めもある。やることが多いので直ぐにでも取り掛かりたかったので、店を出ると共に瞬間移動によって家にまで帰っていた。

 

 




次話投稿です……疲れた。
宝石の値段なんかは適当です。ぶっちゃけ適正価格なんて知りませんし。
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