東方移人録   作:移り人

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第十一話

 俺たちが異変を起こし始めてから、既に十日が経とうとしていた。人里の人間たちには悪いと思っているが、霊力を移し続けて結果里の人間たちの顔に疲れが見えるように為ってきていた。そして、博麗神社に行く参拝客が減っているにも関わらずに、博麗の巫女が動き出す気配は何処にもなかった。やはりこの程度の異変では博麗の巫女は動かないのだろうか? 自分たちがやっている事は本当に意味があるのだろうかと疑問に思い始めていた。

 

「それじゃあ今日もよろしく頼むわよ」

「はいよ」

 

 何時もの様に霊力を集めるために縁さんが作り出したスキマを潜ると、少しだけ外に出て人里を確認する。こちらがばれる心配は無いので気が楽だ。近くにいるのは通行人や店売りの人たち、数十人はそこに居た。 

 最近になって、大分慣れてきた霊力の移動はかなりスムーズに出来る様に為っていた。当初は拙い移動だったのが今では少し懐かしい。やはりこういう物は慣れが一番なのだろう。取り敢えず、周囲に居るであろう人間の霊力を知覚し、ソレを手のひらに集めるように移し続ける。しばらくすると、完全に霊力を移し終わる前に能力の発動を終了させる。さすがに全てを移し取れば人が倒れたり、少しばかり危険だからだ。

 

「終わったぞ」

「お疲れ様です」

「お疲れ様ね。次に行くわよ」

 

 作業が終わると共に、俺は更に別のスキマにを潜る為にノーモーションで出されたスキマに手を伸ばす。そして、あと少しで触れるか否かの所で俺は動きを止める。俺の突然の動きに文と紫さんはそに顔に不思議そうな表情を浮かべる。

 

「この調子で本当に博麗の巫女は此処に来るのか?」

 

 それは俺の中で少しずつ大きくなって来ていた当たり前の疑問だ。はっきり言ってこの程度の事では異変と認められていないのでは無いだろうか? 果たして、博麗の巫女はこの異変に気が付いて居るのだろうか。ここまで俺たちは人里の人間にはばれない様に細心の注意を払ってやってきた。だが、逆に言えば気づかれずに巫女が来ない場合も出てきてしまうのだ。

 

「そうね、確かに一理あるわ。このまま動かないのなら何か切っ掛けをを作らないといけないわね」

「切っ掛け……ですか? それなら私が新聞で宣伝しても良いですよ、有料で」

 

 金を取るのかよ、と思わず心の中で突っ込みを入れるが、確かに文の言う通りにそれも一つの手段と言えるだろう。だが、それでは最初からバレない様に行動していた意味が無くなり、あらゆる所から苦情が出るだろう。例えば、何で俺たちだけ人里を襲っておいて、妖怪たちは駄目なんだとかだ。

 

「悪いけれども遠慮しておくわ。まあ、いづれ何かしらのアクションが起こるでしょう。その間までに移には力を付けて貰わないといけないのだから頑張りなさい」

 

 俺はその言葉に一度だけ頷くと、再びスキマの中に入っていく。また、慣れたと言っても気持ちが悪くなるスキマを通り抜け、人里に出ると霊力を移すために能力を発動させる。発動した能力は、人々に気が付かれる事なく、真綿で首を締め付ける様にゆっくりと力を奪い取っていく。慣れと言う物は怖いもので、今は罪悪感を感じることもなくまるで作業をするかのように淡々とこなしていく。

 

 「そこまでだぜ」

 

 不意に、自分の死角から女の子の声が聞こえてくる。しかし、女の子の声と言ってもその口調は何処か男っぽい気がする。

 人に見つかることは無いと思っていたのに人に見つかってしまい、内心では心臓が緊張によって鼓動がどんどんと速くなっていく。これは基本的に人にばれる訳にはいかないのだ。そんなことになれば、妖怪たちが我先にと人里を襲いにきて無法地帯に為ってしまうだろう。そうしたら幻想郷の危機だ。

 緊張で固まった体に鞭を打ち、無理やり動かしてから件の人物を見るために振り向くと、そこには如何にも魔女といった風貌の少女が立っていた。頭には三角帽を被り、黒を基調とした服を着ている。そして何よりも彼女を魔女だと思わせる物が、その手に持っている箒だろう。何時の時代でも魔女と言えば魔法の箒なのだ。

 

「な、何の用だ?」

「しらばっくれるんじゃないぜ、お前がこの人里で起こっている謎の疲労の正体だろ」

 

(まずいぞ、どうするんだ紫さん)

 

 俺は軽くパニックを起こしながらも、あらかじめ決めておいた連絡用の手段を用いる事にする。目の前の少女に聞こえないように小さく声を出してから紫さんに助けを求める。本来ならばその声では届かないだろうが音というのは振動だ、それを能力によって指向性を持たせることによって近くにある俺が通ってきたスキマに向けて移していく。

 だが、それだけでも届かない。徐々に波が弱くなって行き、次第に消えてしまうからだ。そこで、向きを持たせた声に能力を固定化させる事によって俺の制御から離す。これは宝石に力を移すという所から思いついた物で、同時に能力を使うのが難しい俺は能力を固定化させる事によって、一度工程を切ってから再度能力を使うという方法を考えていた。これならば俺でも同時に能力を使える様に見せる事ができるのだ。

 固定化した声はそのままでは届かない、だからここでもう一つの能力を使う。<伸と縮を操る程度の能力>これによって俺とスキマまでの長さを縮める事によって、直接声を届かせるのだ。

 

(そうね、丁度良いわ。少し待っていなさい)

 

 耳元で声が聞こえる、俺には見えないが耳元には小さなスキマがあるのだろう。それにしても待ってろとは……

 

「おい、何をブツブツ言っているんだぜ」

「ああ、何でも無い。それにしてもどうして俺だと思ったんだ? 参考までに教えてくれないか」

 

 取り合えずは時間稼ぎをしないといけないな。紫さんがこっちに来るみたいだから、話でもしていれば良いだろう。

 

「ん? そんなのは簡単だぜ。この人里を全て飛んで回っていったんだぜ」

 

 その言葉を聞いて、俺はしばらく開いた口が塞がらなかった。外の世界の町程では無いが、数百人が暮らせる村だからそれなりに広さがある。それを全部見て回ったとこの少女は言っているのだ。

 

「本当に貴女は相変わらずの様ね」

「あややや、その様子を見てみたかったですね。面白そうな記事が書けそうでした」

 

 スキマからは紫さんが、空からは文が現れる。まさか全員で来るとは思わなかった。

 

「それ程でも無いぜ、それにしてもこんな大物達が揃って何をしているんだ? 返答次第じゃただでは措かないぜ」

 

 そう言って彼女は、懐から何かを取り出す。それは何かのマジックアイテムなのだろう、素人の俺でも一目見ただけでそれなりの物だと理解できる。手の平サイズのそれを此方に向けながら分かりやすく敵意を向けてくる。

 

「あら、貴女に何が出来ると言うのかしら?」

「試してみるか? 私を甘く見て貰っちゃ困るぜ」

 

 辺りに不穏な気配が漂い始める。ピリピリとした空気に気を抜いてしまえば思わず気圧されそうになってしまう。

 

「辞めて置くわ。そもそも貴女と戦う積もりは無いもの」

「戦う積りが無いだって? ならなんでこんな変な事をしているんだ」

「変な事って言われたよ……それなりに頑張って居たのに」

「あややや、ちゃんと分かっていますから落ち込まないで下さいよ」

 

 ピリピリとした空気が無くなってホッとした瞬間に、自分のしていた事が変な事扱いされてしまった。ああ、確かに傍から見れば影でこそこそしている不審者に見えるが、これでも大事な事なんだぞ。ちくせう。

 

「それよりさっきから気になって居たんだが、そいつは誰なんだ? 何故かいじけているぜ」

「気にしないで頂戴。彼は最近幻想入りして来た人間よ」

「へー、そうなのか。てっきり新しい妖怪かと思っていたんだけどな」

「違う。いや、違わないけど違うんだ」

 

 確かに今の俺の体は半ば妖怪と化しているが、少なくとも俺が人間であった事は変わらない。いや、結構便利な事もある身体だから気にいってはいるけれど……なんだかな。

 

「そうなのか? まあ私としてはどっちでも良いが、新入りが居るなら自己紹介をしなくっちゃな。私は普通の魔法使い霧雨魔理沙だぜ、お前は?」

「俺は時風移だ」

 

 そう言うと目の前の少女、霧雨魔理沙はその手に持っていた八角形の不思議な形をした物を懐にしまう。武器と思われる物を仕舞うということは此方の事を信じて貰えたのか、そうでないとしても敵意は完全に無くなったみたいだ。

 

「それじゃあ、話して貰えるんだろうな」

「勿論よ、その為に来たのだから」

 

 紫さんが今までやってきた事についての話や、何故このような事を始めたのか説明を始める。それは要所要所を丁寧にまとめており、とても聞きやすく更には長い時間掛かるだろうと思われた説明が少しの時間で終わった。

 

「つまりお前たちは人里をどうこうする積もりはないんだな」

「当たり前よ、私がそんなことをする訳がありません」

 

 確かに彼女程この幻想郷を愛している人物は居ないだろう。そうでなければ長い間この地を守り続け、幻想郷の為に全力を尽くす訳が無い。今回もそうだ、紫さんは幾つも先を見据えて行動している。それは結果的にこの幻想郷の為になるのだろう。

 

「そうか、なら私はお役御免だな」

 

 そう言うと魔理沙は、その手に持っている箒に跨る。どうするのか思っているとそのまま空に浮かび上がったのだ。幻想郷は何でも有りだと思っては居たが、流石に箒で空を飛ぶような如何にも魔女みたいな人間が居るとは思わなかった。

 

「それじゃあ、また今度だぜ」

 

 その声と共に、魔理沙は空に飛び上がり物凄い速さでどんどんと離れて行く。

 

「お、おい紫さん。どっかに行ったぞ、良いのか?」

「文、追いかけなさい。まだ間に合うわ」

「はい、お任せください」

 

 一瞬にして、この場から逃げるようにして去っていった魔理沙に抜けていた気を引き締めると、文に追いかけるように紫さんが言う。対する文もそのことは分かっていたようで、その声が届く頃には飛び立つ寸前で、その次には魔理沙を追っていた。

 

「ふう、これで一安心だな。それにしても紫さんが逃げられるとは思わなかった」

「あら、私でもミスはするのよ。それにまだ安心は出来ないわ」

「え、何でだ? 文の速さなら追いつけるだろ」

 

 そう、俺の知る限り文に速さで勝てる者は見たことが無い。それに、文自身が最速を名乗っているのだから。

 

「問題は魔理沙も同じくらい速いって事なのよ」

「それは考えていなかったな。まさか文並に速い人間が居るとは思わないし」

 

 だけど、それでも俺は……

 

「それでも俺は文なら大丈夫だと思っている」

「ふふ、そうね。それなら此処で待っていましょうか」




かなり久しぶりの気がする。
最近家に帰ったら直ぐに寝てしまい書く時間が作れなかった(´・ω・`)
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