東方移人録   作:移り人

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第十二話

「くっ……」

 

 正直に言って侮っていた。相手は魔法使いでも無いたかだか人間の魔女。圧倒的の速さを誇る天狗の相手には成らないと思っていた。だが結果はどうだろう。それなりの速さを出しているにも関わらずに、まだ捕まえる事が出来ていなかった。追いつくので精一杯だった。

 

「ん? 何だ文じゃないか。どうしたんだぜ」

 

 こちらの気持ちも知らずにのんきに飛びながら話しかけてくる。その余裕そうな態度が少しむかつく。

 

「貴女が勝手に帰るから連れ戻しにきました」

「何でだ? 話はもう終わったぜ」

「そう思っているのは貴女だけです」

 

 まさか本当にそう思っているとは思わなかった。絶対にその後の展開を予想して面倒くさくなって逃げてしまったのだと思っていたのに。

 

「だけど悪いな、私も忙しいんだ。もし連れ戻したいのなら力づくでだぜ」

 

 そう言うと魔理沙はその手に二枚の紙の札を取り出す。それはこの幻想郷に住まうものならば誰でも知っている行為。スペルカードルール、つまり弾幕ごっこの始まりの合図だ。魔理沙はお願いを聞いて欲しければ私に勝てと言っているのだ。

 

「忙しいと言っている人間のやる事ではないですね」

「はは、違いないぜ」

「分かりました、その挑戦受けて立ちます」

 

 文も同じように二枚のスペルカードを取り出す。それは弾幕ごっこに応じるという事に他ならない。負ける積もりは全く無く、それは文の自信とプライド故の物だ。

 

「それじゃあ私から行くぜ」

 

 そう言うと魔理沙は一枚のスペルカードを選び、ソレを見せ付けるように高く上げて宣言する。

 

彗星「ブレイジングスター」

 

 その宣言と共にスペルカードが発動される。それはまるで空に流れる一つの流星のように、光を放ちながら突き進んでいく。このスペルカードを使って魔理沙は進んでいく……文とは反対方向に向かって。そう、まるでこの場から逃げるように。

 

「ははは、捕まえられるものなら捕まえてみろだぜ」

「はい?」

 

 訳が分からない。こちらに向かって突進してくると思っていたので、それに対して構えていたらスペルカードを使って速攻で逃げ始めた。

 確かにその行動は逃げるということに対しては効果的と言えるだろう。現に文は動きを止めたまま動くことが出来ずに、魔理沙はどんどんと離れて行く。だが、これは美しさを競う弾幕ごっこでは無いのだろうか。正面から華麗に戦うと思っていたから呆然としている。

 

「は! ま、待ちなさい」

 

突風「猿田彦の先導」

 

 目には目を歯には歯を、スペルカードにはスペルカードだ。魔理沙はスペルカードを使って距離を取られてしまっているのだ。普通に飛んで行ったのでは追いつけない。だが、魔理沙は本当には分かっていなかった。

 

「ふふふ、見せて上げましょう。天狗の力を」

 

 幻想郷でも屈指の力を持つ妖怪の山の天狗の速さを。そして、その中でもトップクラスの実力を持つと言う事はどういう事なのかを。

 

 文は風をその身に纏うと、そのまま魔理沙が逃げて行った方向に向かって凄まじい速さで飛んでいく。文自身の速さと、文が操る風の相乗効果によって普段以上のスピードで飛ぶことが出来るのだ。

 

 飛ぶ、もっともっと文が出せるスピードを上げていく。すると、次第に先に逃げて行った筈の魔理沙の背中に追いついていく。こんなにも速く追いつくことが出来たのは文自身の速さもあるが、魔理沙が作戦が成功して油断していたのが大きいだろう。

 

「追いつきましたよ、魔理沙さん」

「げ、文か。追いつくの速過ぎだぜ」

「当たり前です。私より速い人間は居ません」

「なら、私に負けてそんな事は言えなくなるぜ」

 

 そう言うと魔理沙は緩めていたスピードを上げる。魔理沙の持つ魔法の元になる八角形の物体<ミニ八卦炉>の火力をどんどん上げていき、直ぐにトップスピードに乗る。

 魔理沙に負けじと追随する文も本来はあまり全力で戦おうとはしないのだが、全力に近いスピードで飛んでいく。徐々にお互いの距離の差が無くなっていき、距離が縮まっていく。

 

「流石だぜ文。だけど、これは競争じゃなくて弾幕ごっこだぜ」

 

 魔理沙は少しだけ後ろを振り向き、文の位置を確認すると星型の弾幕を文に向かって飛ばしてくる。殆ど全力で飛んでいた文には避けるために少し速度を緩める必要があった。

 そして、出来てしまった隙の間に魔理沙はどんどん先に進んでしまう。またもお互いの距離が離れる。

 

「それなら私だって負けませんよ」

 

 魔理沙を追うにはそれなりのスピードを出さなければならない。だが、このまま飛んでいっても被弾してしまうだけだろう。ならどうするかと言うと、これもまた弾幕で応戦するのだ。今、文が展開しているスペルカードの力を使う。自身に纏わせた風を弾幕が当たる瞬間にだけ力を強くして弾幕を弾き、被弾しないようにする。

 これならばわざわざ速度を抑えて避ける必要が無くなり、本気で追いかける事が出来る。

 

 追いかけっこが続く。だが、弾幕を展開しながら進む魔理沙と、それらを気にせずに進んでいく文とではどうしても差がでてしまうのは当然と言えるだろう。その結果、確実に距離が縮まっていき、最初に魔理沙が取っていたアドバンテージが無くなってしまう。

 だが、この事に文は少し不安に思う。魔理沙程の力を持つ人間がこんなにも意味の無い事を続けるのだろうか? 最初は上手くいったが次にはもう意味が無くなって居る事に魔理沙も分かっている筈だ。それなのにどうして……

 

「観念して下さい、魔理沙さん」

 

 そう言いながら手を伸ばす。もう少し、あと少しで目の前の人間に手が届くだろう。だが、魔理沙の顔を見てみると小さくだが、確実に勝ちを確信した者の顔をしていた。

 身体が危険を訴える。このまま此処に居れば確実にやられてしまう。だが何故? 追い詰めているのは自分の筈なのに。

 

「掛かったな。これで終わりだぜ、文」

 

 そういって魔理沙はその手にミニ八卦炉を取り出し文に向けてくる。

 まずい、これだけは受けてはいけない。まともに食らったりすればただでは居られないだろう。魔理沙の代名詞とでも言うべき技。だが、今の文には避ける事が出来ない状態だ。同じような作戦に引っかかってしまった自分が嫌になる。

 だが、なんとしてもこれだけは防がなければならない。

 

恋符「マスタースパーク」

竜巻「天孫降臨の道しるべ」

 

 瞬間、二つの大きな暴力がぶつかり合う。方や、光が世界を包み込み、轟音を撒き散らしながら進んでいく極大の光のビームを前方に打ち出して相手を倒そうとする技。それはまともに食らってしまえば普通の妖怪では一溜まりもないだろう。

 そして、此方もただではおかない。その身に台風そのものを纏い、凶悪な風を彼女を中心にして起こし続ける。それは小さな竜巻のようで、竜巻の何倍もの力がある。

 

 その結果、勝負が付いた。引き分けだ。魔理沙が放ったマスタースパークが文に届く寸前に、文もまたスペルカードを発動することが出来た。文が発動したスペルカードによって、本来ならばその風で竜巻を起こし相手を巻き込み吹き飛ばす技なのに、風を起こしその身に纏わせる事によって、一気に防御力を上げることにしたのだ。

 そうする事によって光が風に当たると共に屈折させて行き、徐々にだがその軌道がズレて行き、終にはマスタースパークが空高く打ち上げられる事になる。

 

「へへ、やっぱり強いな」

「そう言う魔理沙さんもです」

 

 二つの力が収まったその場には、無傷な姿で二人が立っていた。結果だけ見れば、守りに徹した文の完全勝利に見えるが、そもそも文の速さならばまともにあの技を受ける必要は無かった。だが今回は隙を作らされ、油断しているところを狙われてしまった。だからだろうか、文はこの結果が気にいらなかった。

 魔理沙も同じだ。完全に決まった作戦なのに、自分の力不足で文の守りを突破できなかった。何時も弾幕はパワーだと言っている彼女にとって見れば最悪の結果だ。

 だが、それでもお互いにお互いが凄いと理解でき、お互いを健闘しあうことが出来るのだから良いのだろう。

 

「さ、私の負けだ。話を聞くぜ」

「な! 何を言っているんですか。あれはどう考えても私の負けです」

「ふざけるなよ文。だれの目から見ても私の負けだぜ」

 

 だが、どうしてこうなったのだろうか。お互いが自分の勝ちを宣言しているなら兎も角、お互いに自分が負けたと本気で言い合っている姿がなんと滑稽なものか。

 

「なら引き分けで良いんじゃないかしら」

「そうだな。このままじゃ拉致が明かないし」

 

 そう言ってこの場を収めるために出てきたのは、幻想郷の賢者と移だった。二人はまるでどこからとも無く出てきて仲裁に入る。

 

「移に紫さんも行き成り現れないで下さい」

「へー、それが移の能力か?」

 

 二人が現れた事に文はため息を吐き、魔理沙は一瞬の内に現れた移の能力に興味の対象を移す。

 

「ああ、丁度謎の光が空に向かって伸びていくのが見えたからな。様子を見に来たんだ」

 

 本来ならば、文を待つために人里で待っていただろうが、文が向かった方向で巨大なビームが空高く打ち上げられていたので何かあったのかと心配になってしまったのだ。

 

「それで、話は聞いて貰えるのかしら?」

「ああ、勿論だぜ」

「駄目です私は勝っていません」

 

 頑なに自分が負けたのだから話を聞いて貰う権利は無いと主張する文。別に魔理沙が良いと言っているのだから問題ないのではと思うだろうが、文自信が認められないのだから仕方が無い。だが、此処でこのまま魔理沙に帰ってもらっては困るのだ。

 

「まあ良いじゃないか。本来の目的は達成できているんだから」

「ですが……」

「何時までもうじうじしないの」

 

 文は一つ溜息を吐くと小さな声で肯定の言葉を言う。此処で感情に任せて大事な事を逃しては意味が無いからだ。

 

「それじゃあ良いかしら」

「おう、何時でも良いぜ」

 

 その言葉に合わせて紫さんは一つ咳払いをすると、黙々と話し始める。

 

「異変の事は話したわね。そこで貴方にお願いがあるの」

「なんだ?」

「この異変に関わらないで欲しいの」

「断る……と言いたいところだが、今回の異変は別に危険な物でも無いし、私は霊夢に任せるぜ」

 

 紫のお願い。それは魔理沙にこの異変に手を出すなと言う事だ。彼女がもっとも懸念していたのが霊夢以外の退治屋が移を倒してしまう事だ。今回の目的は霊夢の訓練の様な物なのだ。それを魔理沙のようなほかの人妖に退治されたらたまった物では無い。だから出来る限りほかの退治屋には動かないように言っておく必要があるのだ。

 

「そう、ありがとう。後はこの事を霊夢と茶のみ話にしてくれて良いわよ」

「わかったぜ。こりゃ霊夢も災難だな」

 

 確かに、この話は霊夢にとって見ればかなりの迷惑行為だろう。異変に動かされるためにお賽銭の量を減らされ、日々の使えるお金がどんどん減っていくのだ。営業妨害で訴えたら勝てるレベルだ。

 

「さて、用事も終わりましたし帰りましょうか」

「そうだな。帰ったらやる事が沢山あるしな」

「? 文と移は付き合っているのか」

 

 行き成り魔理沙がはっちゃけた話を振ってくる。

 

「な、何をい、言っているのですか!」

「そうだぞ、まだ付き合っていないだけだ」

「ほうほう、まだ付き合って居ないのか。今後が楽しみだぜ」

 

 文がその言葉に反応して、顔を真っ赤にしながら反論して、移は恥ずかしがっては居るものの文に対して好意を抱いているので、満更でも無さそうだ。

 

「ふふ、仲が良いわね」

「そうだな。参考にいろいろ聞きたいぜ」

「ち、違います。いえ、違わないですけど違うんですよ」

 

 文の弁解に、紫や魔理沙、移までもがその姿にニヤニヤし始める。完全に文はアウェーに為っていた。こうなってしまえば後はいじり倒されるだけだろう。

 

「ニヤニヤ」

「ニヤニヤ」

「ニヤニヤ」

 

「あー、もう。からかうのは止めて下さいよー!」

 

 文がそう叫びながら、高速でどこか別の場所に飛んでいってしまった。少しからかい過ぎたと三人は思っていたが、文の滅多に見られない姿と引き換えならば安い物だと考えていた。

 

「行っちゃったな」

「そうね、そろそろお開きかしらね」

「そうだな。じゃあ私はもう帰るぜ。また宜しくだぜ」

 

 そういって、魔理沙も自分の家に帰っていく。残されたのは移と紫だけに為っていた。

 

「それじゃあ私も帰るけど。異変の準備は出来ているかしら」

「勿論だ。取っておきの準備も進んでいるしな」

「そう、それなら良いわ。私はもう寝るわ、お休み」

「お休みなさい、紫さん」

 

 眠そうに瞼を擦りながら紫はスキマを開くと、その中に体を滑り込ませていき姿が見えなくなる。

 

「さて、帰るか」

 

 一人残された移は、今回の事を考えていた。紫が一番魔理沙に伝えたかった事についてだ。彼女はついでに言っていたが、霊夢と茶のみ話にこの話をすると言う事は確実に彼女の耳に入ることになる。それはつまり、異変が間もなく始まると言う事を意味している。

 そして、最後の確認も俺がちゃんと力を蓄えているかの質問。と言う事は残り時間は持って数日と言った所だろうか。

 

 この事から移は、最後の準備に取り掛かるべく動くことになる。さて、取り合えずは夕食を作るところから始めないといけない。機嫌を損ねている文にも何か言わないといけないしで、やる事が山積みなのだ。

 なにから始めるか頭で考えながら、その身を能力に委ねてその場を後にするのであった。

 




続きの投稿です。
やっぱり戦闘を書くのは難しかったです。
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