家に帰ってきた俺は、一通りの用事を済ませると自分の部屋に戻ってきていた。予めに敷いてある布団を跨ぎ、その奥にある机の前に立つ。
「よし、始めるか」
そう言って、目の前にあるものに手を伸ばす。机の上に置いてあるそれは、何時かの日に店主の店で買ってきた水晶の山だった。それらは元々の形はどれもが不恰好であり、ごつごつとしていたのだが、既にその形は丸みを帯びる事に成っていた。だが、それらの中には少し尖りを持ったものもある。
何故なら<伸と縮を操る程度の能力>で形を伸ばしたり縮めたりしただけだからだ。流石にまだこの能力には慣れては居ないので、完璧にとは行かなかったがそれでも良い線までは行っているだろう。
それはさておき。俺は机の上に置いてある水晶を二つほど取り出すと、ソレを手ごろな場所に置く。そうして、一つでけ水晶に手を翳すとゆっくりと目を閉じる。自分の中に存在する力を解放して行き、自分の中に力が流れ、行き渡って行くのをその身で感じる。
最初はゆっくりとその流れは進んで行き、それが徐々に速さを持っていきながら俺の体の中を駆け巡る。
「ふっ……」
小さく息を吐くと、体に流していた力<霊力>を水晶に翳している右手に集めていく。少しずつ制御しながら集めた霊力を同じように少しずつ水晶に移していく。 本来ならば、この水晶のように何の力を持たない物に力を込める事は難しく、紫さんから貰った力のある宝石で無ければ直ぐに力が流れてしまう。
何故かと言うと、霊力に限らずに力と言う物は基本的に流れてしまえば消えてしまうものだ。火力然り、燃やせる物が無くなれば自然に消えるように。風力然り、風が止めば流れていた風も消えてしまう。しかもこの力は幻想の物であり、それを現実に起こすのだ。
だが、矛盾しているがそんな事は現実には起こらない、起こってはいけないのだ。幻想は既に人々から忘れ去られているのだから。
話を戻すが、力は世界に長く存在する事は出来ない。精々が次々に燃料を投下し、消えないように抗う位だ。これと同じで、幻想の力も世界の修正によって長くは存在できずに、消えないようにする為に霊力や魔力等を消費し続ける。もし、能力を展開する時だけに霊力を消費するのならば、既に世界は幻想に溢れ返っているだろう。維持に必要な力が無ければ、半永久的に存在し続けるからだ。
そうなってしまえば、世界は完全に崩壊してしまうだろうが、そんな事を見逃す世界でも無く直ぐに修正されてしまう。
「……」
無言で霊力を移していく。本来ならばこの力も流れてしまえば世界の修正で消えるだろう。
だが、ソレを俺の能力で霊力が外に漏れないように移し続ける。そうする事によって中にある霊力を廻し続けるのだ。水晶と言う媒体に能力を固定化させる。それは、霊力を溜め込むための入れ物で、零れないように蓋をするのだ。
蓋をするのにも力が必要だが、ソレは微々たる物でしかない。水晶と言う媒体に固定化させることによって世界に流れるのを防げるからだ。
ぶっちゃけこれは店主のマジックアイテムを参考にして作ったものだ。
「これで一つ終わりっと」
霊力の固定化に成功したのを確認すると、今回も上手く出来上がったと一人小さく頷くとともに、机の上にある棚に並べて置いてある水晶と同じ場所に置く。一日に一つずつ作ってきたそれは、俺の一日分の霊力が込められている。霊力が空っぽになるまでは使っては居ないが殆どの霊力を移しているのだ。
流石にそこまですれば疲労で倒れてしまっても不思議では無いが、問題は無かった。何故なら……
「さて、もう一つと行くか」
流していた力を霊力から<妖力>に切り替える。殆ど空になってしまった力が、妖力によって再び体に満ちていく。
上手く流れているのを確認すると、先ほどと同じように水晶に手を伸ばし、妖力を移していく。固定化されたそれは同じように水晶の置いてある場所に並べる。
「さて、これだけあれば博霊の巫女とも少しは戦えるかな?」
そういって目の前に並べてある水晶。霊力、妖力を合わせたその数十個がある。大量に作れないのがこの水晶の難点だが、予備のタンクがあると言うのは便利なものだ。幻想郷を守護する博霊の巫女と戦うのだ、幾多の妖怪を退治してきたと言う彼女相手に準備をして余ると言うことは無いだろう。
「んっー、疲れた……」
そう言って近くに敷いてある布団に身を投げ出す。流石に此処までは取っては居ないが、人里の人間たちも同じような感覚だったのだろうと思ってしまう。
まあ、明日になれば大分回復するはずなので、今はただこの迫りくる睡魔にその身を委ねながら、夢の世界に誘われるとしよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆
所代わり、移りが未だに寝ているころ。一人の少女が境内に立っていた。
「あーもう、なんでお賽銭が集まらないのよ!」
何時ものように朝起きてお賽銭の中を覗いてみたのだが、ここ最近は参拝客が殆ど来なくなり相対的にお賽銭が減ってしまったのだ。元々、この神社は妖怪神社と言われるように妖怪の様な人外が立ち寄ることで有名で、人里のものはあまり訪れる事は無いのだが、それでも来る人は居たのだ。
だが、現状は人が来る気配は無く状況は良くない。
「これじゃあ、私が掃除をする意味あるのかしら? まあ、結局するのだけれど……」
この神社、博麗神社の巫女である<博麗霊夢>はかなり困っていた。元々彼女は巫女という職業故にお賽銭以外の定期収入が無く、毎日少ないお賽銭でやりくりしていたのだが、ほぼゼロに等しいお賽銭ではどう足掻いても生活するには足りない。
神社には少しは備蓄が有るが、それも時間とともに無くなるのは明白だ。そうなる前にこのお賽銭状況を何とかしなければならないだろう。そう考えると頭を抱えてしまいそうになる。
「まさか、これは異変……違うわね」
もし本当に異変が起こっていたのなら、もっと何かしらの大きな変化が起こるはずなのだ。だが、霊夢が見ている限りでは何もおかしい所など無く、強いて言うのならば参拝客の減少くらいだ。霊夢として見たのならば異変といえるが、博麗の巫女として見たのなら別に異変でも何でもない。
「邪魔するぜ、霊夢」
一人如何するべきか考えていると、空から一人の少女が降り立って来る。箒に跨ったその姿は如何にも魔女と言う格好で、彼女自身も人間だが普通の魔法使いと名乗っている霧雨魔理沙が霊夢の隣に歩み寄ってくる。
だが、例え友人であろうと毎度毎度に、この神社でお茶を飲みに休みに来るのは止めてほしいと思う。
「お茶は出ないわよ魔理沙」
「そりゃ無いぜ霊夢。せっかくこの霧雨魔理沙さんが面白い情報を教えに来てやったのに」
霊夢は言葉を詰まらせる。毎回この友人はこうやって人が興味を引くように話すのだから意地が悪いだろう。こうやれば霊夢が断れないのを分かっているのだから。
実際にこの面白い情報と言うものに興味が出てしまった霊夢はもう既に魔理沙を追い返す事は出来なかった。
「しょうが無いわね……一杯だけよ」
「恩にきるぜ」
中に入り、魔理沙を客間に待たせている間に霊夢はお茶の準備をしていた。何時ものようにお茶葉にお湯を淹れていく、それは何度も繰り返し精錬された動きだった。そう、まるでここ数日間同じような物を使って、同じような動作をしていた様な……
お茶が入れ終わり客間に戻った霊夢は、その出来上がったお茶を魔理沙の前に静かに置く。目の前にだされた物を見て、魔理沙は思わず溜息を吐いてしまう。
「なあ霊夢……」
「な、なによ」
「これ、お茶って言えるのか?」
そこに在ったのはお茶……基、使いまわした茶葉を通したお湯。限りなく薄くなっており、もはや温かいお湯<白湯>みたいな状態にまで成っている。お茶を淹れようとしてどうやったらここまでに成るのだろうか。
「仕方無いじゃない。最近お賽銭が少ないんだから、それだけでも出ただけ感謝しなさい」
「ははーん、やっぱりな」
意味ありげに声を上げる魔理沙。彼女は何かが分かったかのように面白がってニヤニヤしている。
「何がやっぱりなのよ」
「まあ、落ち着けって。ちゃんと話すからさ」
そのまま魔理沙は、目の前に出されたお湯を飲んでみるも、少しお茶っぽい味がすれば良いなと思えるような味だった。つまり全く味がしない。
「素材の味が引き立っているぜ」
「冗談は良いからさっさと話なさい」
遠まわしに不味いと霊夢に言ってみると、その事に気が付いたのだろう。ジト目で魔理沙の事を睨み始める。
「分かったよ、そう急かす物じゃ無いぜ」
小さく魔理沙が咳をすると、あらかじめ話す内容を決めていたかのように、決められた文章を読み上げる感じの声で話し始める。ぶっちゃけかなり魔理沙っぽく無い。
「それがだな、ついさっき人里にまで買い物に行っていたんだが、どうにも里の皆の元気が無いんだ。何時もなら八百屋や魚屋が声を張り上げているのにそれさえも無いし、子供たちも外で遊んでいないんだ」
「で、それがどうしたのよ」
「話は最後まで聞く物だぜ。流石に様子がおかしいと思ってな、何かおかしい所が無いかと思って探して見たんだよ。そうしたらなんと、何者かに人里の人間の霊力が吸われて行っているのが見えたんだ。直ぐに霊力を追って見たんだが、気づかれたみたいで逃げられたぜ」
その情報は霊夢は始めて聞いた。普段神社から出ない彼女は、あまり人里には行かないからだ。もしその話が本当ならば、何かを企んでいる人物が居て、そのせいで参拝客が減り、お賽銭が減ってしまったのだろう。そうと成れば直ぐにでも動かなければ成らない、神社の営業妨害をする輩は退治しなければならない。
だが、仮にもあの魔理沙から逃げ切れるほどの人物だ、一筋縄では行かないだろう。
「そう、ありがとう魔理沙。それで、誰にこの事を説明する様に言われたのかしら」
「あれ、もうばれたのか。だが教えないぜ、面白くないからな」
「……」
霊夢が、今回の事を魔理沙に問いただすと、魔理沙がふざけた事を言い始めたので半ば本気で霊夢は切れかけていた。
「うわっと、冗談だぜ。だが、教えるわけにはいかないんだ」
「そう。ありがとう魔理沙」
そう言って一人音も立てずに立ち上がる霊夢。その体からは怒りが溢れており、傍から見るとかなり恐ろしい光景だ。そのままゆらゆらと歩いて行き、扉を開ける。
「お、おいどこに行くんだぜ?」
「決まっているでしょう。これは異変よ、私に対する戦線布告だわ」
「やっぱりそう言うと思ったぜ」
「なに? 魔理沙も行くの?」
魔理沙が着いてくると言うのならば彼女は商売敵になるのだ。絶対に自分が異変の主を退治したい霊夢にとっては、あまり着いてきて欲しくなかった。魔理沙は異変の主を知っているみたいなので、先に倒されては堪ったものではない。
「いや、今回は見送るぜ」
「あら、珍しいわね。魔理沙がそんな事を言うなんて」
「まあな、私にも色々あるんだぜ」
魔理沙の言う色々が個人的に気に成るのだが、多分だが異変の主に口止めされるのと同時に戦わないようにでも言われているのだろう。
そうでなければ彼女の事だ、真っ先に戦いに行っていたに違いが無い。それに彼女が来ないのならば、このお賽銭の恨みを全力で異変の主に向けられる。
「分かったわ、それじゃあ私は行くわよ」
「ああ、行って来い。終わったら宴会には呼んでくれよ。まあ、呼ばれなくても行くけどな」
自分の友人である魔理沙の言葉に返事を返してから、霊夢は太陽が傾き始めている空に向かって飛び始めた。向かうべき方角は自分の感を信じて、力が徐々に大きくなっている妖怪の山に向かって進んでいた。
ぶっちゃけ話が全く進んでいないでござる^^
なんか変な事になっているのは気のせいだろう。