東方移人録   作:移り人

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第十四話

「移、起きてください!」

 

 朝になっても未だに眠り続けていた俺の耳に、文の声が聞こえてくる。その声はどこか焦りが感じ取れ、どうしたのだろうかと思う。多分何かしらの出来事が起こったのだろうが、焦るほどの物なのだろうか。

 

「ちょっと待ってくれ。直ぐに出る」

 

 文の声に急かされる様に、俺は急いで身支度を済ませると声が聞こえてきたであろう場所、この家の外に向かう事にする。

 外に出るために今を通ると、ちらりと立て掛けてある時計に目が入る。そこに指されていた時間は既に九時を越えている。外の世界では、特に何も無い時などはそれ程遅いとは思わないだろうが、一般的に朝と夜が早い幻想郷では完全なる寝坊だ。

 

「おまたせ」

 

 玄関を通り、外に出ると。其処には二人の妖怪が立っていた。一人は勿論、俺を呼び出したこの家の主である文と、幻想郷の賢者である紫さんだ。

 

「あ、遅いですよ移」

「そうですわ。寝坊は駄目よ、私だって眠いのだから」

 

 そう言って紫さんは、スキマから扇子を取り出すと、口元を隠す。多分だが、おもいっきり眠そうにしている事から欠伸を隠しているのだろう。その眼には少しだけ涙が溜まっているので間違いないだろう。

 

 それにしても驚いた。基本的に妖怪と言うのは夜に潜む者だ。紫さんはそれの典型と言っても良いほどに日中には余り活動しようとはしない。それなのに今、紫さんが此処に居るということから考えられるのは、何か大事な事が有るからだろうと言う事だ。

 

「すまない。それで、なんの様だ?」

「それがですね。予想よりも霊夢さんが速く動き出してしまいまして」

 

 なん……だと……もう動き出したと言うのか。てっきりもう少し遅い時間に来ると思っていたのだが。と言うか、まだ全然準備も何もしていないのに来るなんて卑怯だろ。まあ、来てしまったのならば仕様がないが、もう少しゆっくりして来て欲しかったと思う。

 

「それで? 今はどうなっているんだ」

「今は、哨戒天狗たちが霊夢さんを抑えています。椛も其処に」

 

 それは大丈夫なのだろうか? 天狗の強さは幻想郷の中でも上位に位置するといっても、哨戒天狗は下っ端の部類だ。常に妖怪の山を見張り、侵入者を排除してきた彼女たちの力を信頼していない訳では無いが、色んな人から聞いた博麗の巫女のイメージだと、相手にすら成らないような気がしてならない。

 

「それでも大半がぴちゅっている見たいでね。そろそろ戦う準備をして欲しいのよ」

 

 やっぱり駄目だったよ。他の天狗たちには悪いと思うが、もう少しで良いから足止めをして欲しかった。哨戒天狗たちに取ってみれば、勝手に進入して来た巫女に退治される様な物なのだ、いい迷惑だろう。

 

「分かった。それでも、その調子だったら直ぐにでも此処に来るんじゃないのか?」

 

 そう、準備をしている最中に不意打ちで倒されたとなってはお話にも為りはしない。また、不意を撃たれなくても、準備もまともに出来ていない状態で襲われたら勝ち目が無いに等しい。

 

「大丈夫です。その為に私達が居るのですから」

「ああ、その事なんだけどね文」

「はい? なんでしょう」

 

 一つ、溜めを置いてから幻想の賢者はとんでもない事を口にしだす。

 

「私はもう帰るわ」

「は?」

「はい?」

 

 あれ? なんかよく分からない言葉が俺の耳に届いたんだけど気のせいかな? そう現実逃避をしてみるも結果は変わることは無く、其処には何時もの様に怪しげに佇んでいる紫さんが居た。

 

「帰ると言ったのよ。私はもう眠たいわ」

 

 そう言って、またも小さく欠伸をする。その様子をみる限りでは本当に眠たいらしい。普段、この時間帯はまだ眠っている紫さんからしたら、少し無理をして来たのかも知れない。

 

「な、何ですかそれは。私と一緒に霊夢さんを足止めをする予定じゃなかったんですか」

「そうする積もりだったのだけれどね。流石に私が直接戦う訳には行かないのよ」

 

 まあ、一応は納得できる事を言っている。確かに、紫さんが直接戦えば最初から紫さん一人で良かったんじゃね? 見たいな事に成りかねない。しかし……

 

「紫さん……本音は?」

「早く帰って眠りたいわ」

 

 やっぱりだよ、こんちくしょう。ただ、紫さんが眠りたいだけだったよ。だが、確かに足止めをするのにこの二人を同時に出すのは些か戦力過多と言えるだろう。何せ、一人は圧倒的なまでのチート能力を持っているのだから。それならば文一人で良いのかも知れない、そもそもが勝つ必要が文達には全く無いのだから。むしろ負けて貰わないと今回の意味が無い。

 

「それに、元々私は見ているだけにしようと思っていたのだから変わらないわ」

 

 やっぱり、紫さんには其処のところは分かっていた様だ。そもそもがこの戦いは紫さんにとって勝つのが目的では無いのだから。

 

「はあ、仕方が無いですね。それでは、私はもう行きますね」

「ああ、ちょっと待ちなさい文」

「何でしょうか?」

「ちゃんと負けてくるのよ」

 

 文に負けてくるように紫さんが言う。確かにその方が良いのは俺でも分かるが、あまり露骨にしない方が良いのでは無いだろうか。手加減されていると分かったら侮辱と取られる可能性がある。

 

「はい、手加減しますので大丈夫です」

 

 大丈夫ですと言っているが、少し心配だ。態とと言っても、退治されるのは変わらないのだから。怪我をするかもしれないし、何か事故が起こるかもしれないのだ。そうしたら俺はどうしたら良いのか分からなくなる自信がある。

 だが、これだけは言えるだろう。俺の大事な<居場所>を奪う様な事になれば俺はソイツを許すことは無いだろう。

 

「文、気を付けてくれ」

 

 そう言うと、文は一瞬きょとんとした顔になるが、直ぐにその顔に笑顔を浮かべる。それはまるで、俺に何の心配は無いのだと伝えるかのように。

 

「はい、行ってきますね」

 

 文は、笑顔を浮かべたまま空に飛び立つ。ゆっくりと風が舞って行く中で、文は既にその姿が見えなくなるほど遠くに飛んで行っていた。

 

「心配そうね」

「ああ、文にもしもの事が有ったらと思うと……」

 

 もしもの事があれば、俺は……

 

「大丈夫よ。文はそんなに弱くは無いわ。それに、霊夢だって悪い子じゃないのだから」

「そう、だよな」

 

 そう、別に何も問題は無いはずだ。文がそう簡単にどうにかなる筈が無いのだから。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 家に戻ってきた俺は、直ぐに自分の部屋に行くことにする。部屋の中に入ると、俺が今回の戦いに使うために準備してきたものが置いてある場所の前に行き、目の前にあるソレを手に取る。

 

 一つは、俺が自らこめた霊力と妖力が込められている水晶、その数合わせて十個にも上る。今回の異変の報酬として貰った水晶玉を使うには惜しいものなので、今回は置いていく事にする。

 二つ目は、店主から貰ったマジックアイテムであるナイフだ。流石に弾幕ごっこで直接使うわけには行かないが、切れ味の方は折り紙つきだ。何せ妖怪を貫く事が出来るのだから。だが、今回は使う目的が違うのでそれは関係ないことになるのだが。

 

「よし、こんなものかな」

 

 そう言って、俺は動かしていたその手を止める。取り出した二種類のマジックアイテムをその手に取ると、一つずつ見ていくことにする。何処かに不備は無いか、壊れていたりはしていないか念入りにチェックして行く。万が一にでも戦闘中に使い物にならなく成ってしまったら目も当てられないからだ。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

 点検が終わり、大まかな準備が終わった俺は、戦う前の最後の準備をするために外に向かうことにする。外に出た俺は、家の裏側に回りこむと其処に有る木々が円形に切り倒されて出来たかのような広い空間に出る。

 其処は最近出来た場所であり、俺が普段の弾幕練習の場所を探していると、それを見た文がこの場所一帯にある木々を風で切り倒しのだ。そのおかげもあってか見晴らしも良いし、広さも十分にあるので弾幕ごっこに丁度良い場所なのだ。

 

「……」

 

 この場所<裏庭>に着くと、俺は適当な場所に腰を下ろすことにする。少しズボンが汚れてしまうが、これからもっと汚れる予定なのだから別に良いだろう。

 腰を着けると、俺はゆっくりと目を閉じる。そして何時も水晶に力を移すときに行っている様に、俺の中の力を体中に流していく。力が外に流れないようにゆっくりと流したり、速く流したりする。

 これはある種のウォーミングアップの様な物だ。普通、運動をする前にはストレッチをする様に、俺は霊力や妖力を使うときには大体この動作を行うようにしている。まあ、とっさに動けなければ行けない時もあるので、一概に良いとは言えないのだが、時と場合によりけりだ。

 

 静かな時間が続く。ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせていく。聞こえて来るのは小動物や鳥の鳴き声や木々の擦れる心地よい音。このまま此処に居ると、博麗の巫女が来ている事などどうでも良くなって来てしまうから不思議だだ。

 だが、このままで居られる筈など有る訳が無く……

 

「やっとみつけたわ。異変の主」

 

 其処に居たのは、一人の少女だった。年は魔理沙と同じくらいなのではないかと思う。赤と白を基調にした巫女服を

着ており、その手には御払い棒を、頭には大きな赤いリボンを結わえている。

 だが、何よりも目立つのが……

 

「腋……巫女?」

 

 そう、腋が空いているのだ。幾ら雰囲気やイメージなどが巫女っぽくってもその一点で巫女と読んで良いのか分からなくなる。俺が思う巫女って言うのはもっと神聖で、それでいて清楚なものだと思っていたのだが。

 

「腋って言うな。これは霖之助さんが作ったのよ」

 

 結構気にいっていたのにとか言いながら、目の前の少女がブツブツと呟き出す。それにしても店主、お前はそれで良いのか。なぜ腋を露出させる必要があったのか、全くナイス……じゃ無かった後で話を聞こう。

 

「ごほん。気を取り直して、貴方が異変の主で良いのかしら」

「ああ、そうなるのかな。そう言うお前は博麗の巫女で良いのか」

「そうよ。さて、私が何をしに来たのか分かるわね」

 

 ああ、分かっている。そもそも悪いのは完全にこちら側なのだ、なので退治されても何の文句も言えないだろう。だが、おれ自身このまま退治される積もりは更々無いので、正々堂々と彼女と弾幕ごっこで戦うのだ。

 それに、俺は彼女と戦ってみたかったのだ。今の俺がどこまで戦えるかは分からないが、試してみたっかたのだ。そして証明するのだ、もう俺は弱くは無いのだと、文の為に戦えるのだと。

 

「ああ、俺を退治しに来たんだろう。博麗の巫女」

「霊夢で良いわ」

「は?」

「博麗霊夢よ。名前で良いわ」

 

 そう言う事か、行き成り名前を言い出すからなんだと思っていたのだが彼女なりの自己紹介の様な物なのだろう。それなら俺も名乗らなければしつれいだろう。

 

「俺は時風移だ」

「宜しく。さてと、とりあえず聞いて置くけど異変を止める積もりは無いかしら」

 

 いや、ぶっちゃけると俺は早く辞めたいんだけどな……それなりの量の霊力を集めることは出来たし、俺の目的の大部分は終了していると言っても良い。それに最近忙しくってのんびり出来ないから早めに終わらせたかった。

 だが……

 

「そういう訳には行かない」

 

 そう、ここで降伏してしまえば何の意味も無くなってしまい、俺が紫さんにぶっとばされてしまうかも知れないのだ。逃げることは出来ない。

 

「そう、ならお賽銭の恨み。晴らさせて貰うわよ」

 

 そう言って霊夢は懐から三枚のスペルカードを取り出して此方に見せ付けてくる。弾幕ごっこの挑戦の合図だ。その目はとても真剣で、これが人里の為だとかだったら格好も着いているのだろうが、お賽銭の為と言うのだか何とも言えない。

 

「出来るものならな!」

 

 それに答えるように俺も霊夢と同じ枚数のスペルカードを取り出す。弾幕ごっこは今このときに始まりを告げる。俺たちはお互いに距離を取ると、同時に通常弾幕を展開していく。

 そして、初めての練習以外の弾幕ごっこが幕を開ける。

 




やっとこさ霊夢の登場です。原作主人公ェ
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