東方移人録   作:移り人

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今回はオリキャラ注意です。


第十七話

「おーい、店主。暇だ」

「暇つぶしで店に来られても面倒なんだけど」

 

 俺の異変が終わってから数日、毎日が慌しかった俺の日常は平穏を迎えていた。それ自体は別に良いのだが、自分の分の仕事を終わらせると途端に暇になってしまうのだ。それに、俺が家で家事をしている間は文はネタを求めて飛び回っているので家には居ないのだ。

 文の居ない家の中で過ごしているのが暇になってしまったので、気分転換と面白さを求めて店主の店に冷やかしに来ていた。

 

「しょうがないだろ。本当に暇なんだから

「はあ、それで? なんのようだい」

 

 店主は一つため息を吐くと、面倒くさそうに問いかけてくる。まあ、俺に此処に来る用事とかはこれっぽちも無かったのだが。ただ暇を潰せればそれで良いのと思うのだ。

 

「ああ、暇を潰せれば何でもいい。文もどっか行ってるからやる事が無いんだよ」

「生憎とそんな物は無い……と言いたい所だけど、君が反応しそうな話なら知っている」

「本当か!」

 

 俺は店主の言葉に、思わず身を乗り出してしまう。そんな俺に落ち着くように声を掛ける店主は少しだけ笑みを浮かべると、その事について話し出す。

 

「ああ、僕は最近知ったんだけどね。人里に新しく外来人が入ってきて居るらしいんだ」

「外来人……確かに同郷の人間とも話がしたいと思っていた事もあるが」

 

 店主は外来人が人里に居ると言っている。だが、人里に何度か行っている俺だが今まで一度もそれらしき人物は見たことが無かった。ただ単に運が無かったのか、それとも俺が気づいて居なかっただけなのか? それは分からないが、面白そうだ。俺と同じように幻想郷に来ている人間が居る事は知っていたが、今まで会ったことが無かったからだ。

 俺はその話を聞き、取り合えずその人物に会ってみたくなった。話ができるならしたいし、どんな人物なのかも気になる。

 

「でも、何度か人里には行っているが、今までそんな奴見たことが無いぞ」

「うーん、たまたまタイミングが合わなかっただけじゃないかな。それに、その外来人は寺子屋で働いていると聞いた事がある」

「げ、寺子屋か……あまり近づきたく無いんだよな。ってだからか」

 

 寺子屋と聞き、あからさまに嫌そうな顔をする俺。そんな俺をいぶかしんだ店主は、どうしてなのか問いただしてくる。

 

「なんだい、寺子屋で何かあったのか」

「寺子屋って訳では無いんだけど、慧音さんに頭突きを貰った」

「それはご愁傷様だ。彼女の頭突きは痛いらしいからね。僕は貰ったこと無いけど」

「ああ、痛かった。それ以来、自然と体が人里の方向に向かうのを避ける様になった」

 

 思い出すのは宴会の席、一人の女性が近づいてきたかと思えば次の瞬間には死にたくなるほど痛い頭突きのお出ましだ。それ以来少し慧音さんには苦手意識が芽生えていたりする。

 寺子屋に行くか、それとも暇で暇でしようがなくなるかの二択を迫られた俺は、結局店主の店を離れて人里に足を運んでいた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 店主の店から瞬間移動を使い、人里の中に入り中を見ていく。此処には何度か来ては居るが、昔ながらの雰囲気を感じられるこの町並みは俺に心地よさを与えてくれる。

 俺が道をゆっくり歩いていると、ふとある人物が目に入った。幻想郷の人間の身長はそれ程高くは無い。寧ろ小さいくらいだ。それなのに、目の前に居る人物は百八十はあろうかと言う体型をしており、後姿しか見えないが肩幅もがっしりしている。周りにいる人里の人間よりも明らかに違う体格は、ある種の不自然さをかもし出していた。

 

 そして、これが一番の違和感なのだが、目の前の人物はスーツ姿という出で立ちをしており、その人物が外の世界から来たのだということを示していた。

 これはラッキーだと内心ほくそ笑む。人里に来て直ぐに件の人物に出会えるとは思っていなかったが、おかげで寺子屋には行かなくっても済みそうである。

 

「あの、少し話をしませんか?」

 

 俺はその男に近づき、話を聞くことにする。もともと、彼には話しかける積りだったが、その人物が男だと言うことに若干テンションが上がる。基本的に幻想郷に居る有名な人物は女性だけなのだ。俺が知っている限りでは男では店主くらいでは無いだろうか。そんな中では男の知り合いはあまり増えないもので、精々が人里で買い物をする時の知り合いくらいだ。

 

「うん? 良いよ。どこで話そうか」

 

 行き成り話しかけてきた俺に不愉快な顔を向けることなく……いやまて。なんだそれは。

 

「いや、待ってください。何ですかその頭は」

 

 その男は頭に覆面を被っていた。前から見て初めて気が付いたのだが、覆面にスーツにネクタイ。完全なる不審者の格好その物だった。さてと、警察は……居ないな。

 

「うん? これの事かい。いま流行の覆面だよ、知らないのかい?」

「知らねえよ! あ、いや知らないです」

 

 そのあまりにもなふざけっぷりに思わず敬語が抜けて、地で叫んでしまう。年上そうで、外の世界の人だから一応敬語の方が良かったかなと思ってやっていたのだが、見事に意味が無かった。

 

「うん、別に楽な喋り方で良いよ。それで、覆面についてだったけど、悪いけど秘密なんだ。ごめんね」

「あ、いや。別にいいけど……そうじゃなくて、外から来た人ですよね」

 

 そう言うと、目の前の覆面は驚いた様なポーズをする。そのポーズを見ると、バカにされたように思えてくるほどにうざいと感じる。

 

「うん? 君も外から来たのかい」

「そうだ。それで、暇つ……じゃなくって、外から来た人どうしで話でもしたいなと思って」

「ふふふ。うん、良いよ。それじゃあ、そこの茶屋にでも入ろうか」

 

 俺たちは、腰を落ち着けて話をするために、すぐ近くにあった茶屋の中に入って行く。中に入ると、人は少ないがちらほら見えて、店内も清潔感があり好感が持てる。後は味の方だが、これも店内に満ちている甘いにおいで期待は十分だ。

 

「うん、まずは自己紹介だね。僕は岸田真人」

「俺は時風移だ」

「うん、よろしく。それで何を話そうか」

「そうだな……外ではどんな仕事をしていたんだ? こっちでは寺子屋で働いているって聞いたけど」

「うん……外でもこっちでも僕は同じだよ。相も変わらずに人に物を教える仕事だよ」

 

 人に物を教える仕事って言うことは教師なのだろうか? 寺子屋で教えているので間違いないだろう。

 

「へー、教師なのか」

「うん、そんな大層な物じゃ無いよ。それに僕は今も何で人に物を教えているのか分からないような人間だからね」

 

 あー、地雷だったのかこれは。話を始めてからものの数分で空気が悪くなって行く。さすがにそろそろ話題転換しないとまずいだろう。

 

「あー、っとそろそろ小腹が空いてきたな。団子でも食べよう」

「ふふ、うん。そうだね、僕も何か頼むことにするよ」

 

 その言葉が聞こえたのか、店の主が何を頼むのか聞いてくる。俺はお茶と団子を三本頼み、覆面は団子に餡蜜を頼んだ。

 注文をしてから、しばらく経つと主が品を続々と持ってくる。そのどれもがおいしそうな香りを漂わせており、最近食べていなかった甘味に思わず涎が出てくる程だ。

 

「うん。早く食べようか」

「いただきます」

 

 そう言って団子を一口。すると、もちもちとした団子の触感が程よくて口の中に広がるみたらし団子の甘さがとてもおいしい。外では団子はよく食べていたが、ここの店はかなりおいしいと思う。

 覆面は、そんな俺の姿をその顔は分からないがじっとみながら団子を……どうやって食べるんだ?

 

「うん? やっぱりこの覆面が気になるのかい」

「あ、ああ」

 

 そうだなと、顎に手を当てながら考えていますよと言うポーズをする覆面。

 

「うん。君の事は少し気に入ったし、この覆面の秘密を教えてあげよう」

「本当か!」

「うん。だけど、条件があってね、それをクリアしないと同志にはなれないんだ」

 

 同士? なにやら不穏な発言が聞こえたがどう言う事なのだろうか? まさか、幻の覆面部隊でも居るのだろうか。そんな中に俺は無謀にも突撃しようとしているのではないだろうか。

 

「条件って……」

「うん、それはね……太陽の畑から向日葵を一輪だけ持って替える事だよ」

「はあ?」

 

 太陽の畑と言うのは何なのだろうか? 言葉からはただの向日葵畑と言うのが分かるのだが、そこから向日葵を持ってきてどうすると言うのだろう。それとも逆に、持って行くことに意味があるのだろうか。

 

「うん? 分からなかったかい。まあ、その方が都合が良いけど」

「都合が良い? 何のことだ」

「細かいことは気にしない事だよ。うん」

 

 条件自体は簡単みたいだけど、何か引っかかるんだよな。何か理由が有っての太陽の畑と言う場所なのだろうが、その理由がさっぱり分からない。まあ、教えてくれないみたいなのでこれ以上一人で考えても意味は無いだろう。それよりも、やることが決まったのなら行動だ、暇つぶしに話しに来たけどなかなか面白そうだ。

 

「はあ、じゃあ行く」

「うん、行ってらっしゃい。ああ、場所だけどお山の反対方向に進んでいけば多分つくから」

 

 多分ってなんだと突っ込みを内心で入れる。お山の反対側って、妖怪の山の反対側って事だよな? 確かにそっちの方向は遠いのであまり行ったことは無い。

 しようがない、飛んで行くか。空から行けば向日葵畑ならすぐに見つかるだろう。

 

「帰ってきたら覆面の教えろよ」

「うん、良いよ。君にはその資格がある。帰ってきた暁には君を同志として歓迎しよう」

 

 何故かこの覆面の話を聞いていると、俺はこのクエストを成功しては行けないんでは無いかと思えるから不思議だ。まあ、別に同士とかに成る積もりは無いし、覆面の事さえ聞ければそれで良いか。

 俺は残っていた団子とお茶を食すと、席を立ち太陽の畑に向かうことにする。その際に出口の方に向いた瞬間に物音がしたので振り返ると、そこには空になった食器を手にした覆面が居た。

 

「うん? どうしたんだい」

「いや、何でも無い」

 

 そう、なんでも無いのだ。恐ろしいほどの速さで食べることが出来る人間なんてこの幻想郷では珍しくとも何とも無いのだから。

 一つため息を吐くと、俺は太陽の畑に向かって歩き出した。

 




取り合えず投下。
反省はしている。後悔もしている。
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