俺はただひたすらに歩いていた。行く宛もなく、帰る場所をも無くなりハッキリ言って途方に暮れていた。生きていくだけならば自分の能力でどうとでもなるだろう、だが今の俺には居場所が無く、ただ辺りをブラブラすることしかすることが無い。
いや、ブラブラとすること事態は嫌いでは無い、寧ろ好きな方である。だが、今は信じていた人達に裏切られ、今まで感じたことが無い絶望に囚われていたので、そんな風にのんきに過ごすことが出来そうに無いのだ。
「これからどうするかな……」
そう呟いて空を仰ぐ。空を見てみると雲が掛かり始め、次第に雨が降るのだろうと思わせる。雨が降るのならばどこかで雨宿りしなければ濡れてしまうので、帰る家の無い俺には流石にそれは困るので雨宿りできるであろう場所を探すため、また歩き始めた。
あれから10分程歩き続けてようやく見つけたのがすこしばかりガタの来ている山小屋だった。なるべく人の居ない場所に行こうとしていたら、知らず知らずの内に山の麓の近くまで来ていたのだ。だが、こんな場所でもどの道長居をする積りは無いので雨さえしのげれば別に問題は無かった。
「それよりも、何処に行こうか」
着の身着のまま飛び出してきたせいで荷物が何もなく、旅をするのには準備が足りない。それなら取りにかえれば良いと思うがあの家には戻りたく無かった。子供っぽいとは思うが、唯一信じていた人達が俺の事を邪魔だと怖いと思っていたのだ。その明確なまでの拒絶を感じてしまい、その場に居られなく成ってしまったのだからしようがないだろう。
進むべき道もない、帰るべき場所もない。それなら、いっそのことこのまま死んでしまえばどれだけ楽なのだろうかと思う。
こんなに胸が痛くて悲しい思いをし続けなければならないのなら……
「もう疲れた……」
そう呟いて古屋の中に体を投げ出すように倒れ込む。まあ、外で倒れるよりかはましだろうと思う。
そのまま床に横たわって居ると、次第に目を開けっ放しにするのがつらくなってくるが、窓や扉が開いていて肌寒く感じる。寒いところで眠ったら死ぬとか言われている事を思い出すな。
あれ? 雪の中で眠ったらいけないのだったかな?
まあ、どちらでも同じことだと思い、寧ろこのまま眠ったら楽になれると思い直し、この迫り来る眠気に抗うのを止めることにした。その時、最後に見た景色には不思議な空間が広がっており、謎の目玉が浮いているのを見て疑問を感じる前に意識を失った。
俺の意識が途切れる間際、既に目を開けることなど出来ずにどこからか聞こえてくる女の声に不思議に思う。
「ふふふ、ようこそ幻想郷へ。これからが楽しみだわ」
何を言っているんだと聞きたかったのだが、生憎もう既に体の自由は無く意識は深い闇の中に落ちていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
気がつくと俺の肌に湿った土の様な感触がした。俺は確かに古屋の中で眠っていた筈なのに何故土の感触がするのか疑問に思う。
気になったら直ぐにでも調べるのが俺のポリシーでもあるので、まだ眠たい目をなんとかして開けてみる事にする。だが、そこで見た光景は本来ならば在り得ない光景が広がっていた。
「何処だここ?」
気がついたら知らない場所でしたってのは良く聞く話だが、自分が体験することになるとは……物語に限っての話だけれども。
そう、いつの間にか何処だか分からない場所に俺は居るのだ。取り合えず此処が何処なのか気になって回りを見回してみると、一面に木々が連なっており前が良く見えないほどには生い茂っている。
更には足元が斜面になっていることから山、もしくはそれに近い場所だと思う。山ならば先程までいた、だが明らかに先程までいた場所ではない所に居れば違う場所にいるのだろうと言うのは理解できる。
だが何故?俺は絶対に動いていなかった、なのに別の所に居ると言うのは第三者が俺をこの場所につれてきたことになる。訳がわからない。だが、このままでいるわけには行けないだろう。別にこのままどうなってしまっても良いが、何故俺がこの場所に居るのかが気になって仕方がなかった。
「誰か居ないのか?」
俺は確認の為に声を上げる。その声は辺たりに響き渡った筈なのだが、この山の中には何の変化も起こらない。あまりにも不変なその世界は恐怖心さえ呼び起こすが、頭を振ってその考えを払い落とす。
「居ないみたいだな……なら行動に移すか」
そうと決まれば辺りを探索すべきだろう。此処は山の様な斜面になっていることから下に向かって降りていけば少なくともこの場所からは出られるだろうし、それに運が良ければ人に会えるかも知れない。会って此処が何処なのか聞かなければ。
そこからの行動は速いもので、適当にこの場所に目印に成るものを見立てて覚えておく。それが終われば少しずつではあるが歩き始めることにした。だが、何処まで歩いたとしても変わることの無い景色が続いていていい加減うんざりしてくる。能力を使って一気にかけおりてみようかと考え始めた時に、不意に何か別の生き物の泣き声が響き渡り草を掻き分ける音が鳴り響く。
驚いて音が鳴った方向に向き直る。こんな山の中に居れば何かしらの獣が出ても可笑しくは無いのに、それを警戒していなかった自分に腹が立つが、気持ちを切り替える。来るであろう外的に備えて身構えながら待っていると、十を越える数の獣の様な生き物が姿をあらわした。しかし、姿を見せた生き物達は自分の常識を遥かに越えた姿をしていた。
「何だこいつは……」
化け物
そう読んで指し使いが無いくらいだ。今までに見てきた動物よりも遥かに大きく、そして禍々しい。牙や爪はそれだけで人の命を奪うだろう。見ているだけで恐怖感が込み上げて来て脚が空くんでしまう。ジリジリと近づいてくる化け物を見ながら早く逃げないとと思うが、思うように足が動かずに焦ってしまう。
そんな俺を見てからとるに足らない奴だとでも思ったのか、獣だと言うのにその顔にニタニタした嫌な笑みを浮かべながら、その手に着いている爪を振りかぶる。
死ぬ、本当にそう思った。その降り下ろされる凶器が怖くて怖くてしようがなかった。だからだろうか、あんなにも死にたいと思っていたのに死にたくないと、その迫りくる<死>から逃げたいと思った。そう思った時には既に能力を発動させて咄嗟に横に転がるように移動した。
目の前の化け物が唸り声を上げて此方にイラついた様な声をあげる。絶対に殺せる相手だと思っていたのに避けられたのがそんなにも気に入らなかったのだろうか怒りを顕にしている。だが、相手が此方に対して怒りを顕にしてくれているのは都合が良い。何をするにしても集中力が削がれていれば行動に影響が出てきてから俺に有利になり、相手をしやすくなる。
「なら殺るしかないか」
こんな状況なら逃げるべきなのだろうが、何処に逃げれば良いのかもわからないのに逃げられる筈もなく直ぐにでも追い付かれるだろう。それならば、少しでも可能性がある内にこいつらを討伐するべきだろう、そうする事によって俺の危険が少なくなるのならば。それでも俺にとっては多勢に無勢なので勝てるかどうかはわからない、だが殺らなければ殺されるのだからやるしかない。
「さあ、かかってこい……」
ハッキリ言って恐い。今までこんな生物を見たことも無いのだ。だから足が空くんで動けなく成っていたどうしようかと心配したがそんな事は無く普通に動く、いや寧ろ今までよりも良く動き、何故かは分からないが心が踊る様な思いがした。
俺の言葉に反応したか、様子見と言わんばかりに少しずつ此方に詰め寄ってきて一匹ずつ突撃してくる。突撃してくる奴等には恐怖心を感じなかった、一匹ずつ来るのだから対処は簡単なのだ。だから、俺にとっての勝負の付け所は此処だ。一匹ずつならなんとかなるが、一斉に来られたら俺では対処が出来ないと分かっているので速攻で片を着けなければならない。
取り敢えず突撃してきた奴等には突進を横に回って回避をしてから、能力によって補助を着けた拳によって殴り付ける。流石に能力でイメージ通りに動く拳で殴れば一撃で倒れるみたいで殴る端から倒れて沈んで行く。
(やばい、楽しい)
敵を倒せば倒すほどに気分が高揚していき楽しくなってくる。逆恨みも甚だしいことだが、今まで俺に貯まっていた恨み辛みをこいつらを使って晴らせるのは実に心地よかった。
作戦なんて物は何も無い。ただ単に次々と跳んでくる奴らに、思わず口の端を吊り上げるとそれに合わせてその拳を振りかぶる。一撃、また一撃と殴って行き徐々にその数を増やしていく。倒れたところに追撃を入れ、その手を血の色に染め上げていく。
順調に一体ずつ沈めていくと、流石に不味いと思ったのか警戒をしはじめて体制を建て直そうとしている。
「させるか!」
此処で体制を建て直されるのは俺としては面白くないので、化け物の群れの中心付近に突撃をする。だが、流石にやり過ぎた見たいで敵に囲まれてしまう。それでも今の俺には恐怖心が一切沸かなかったし、こいつらに負ける積もりもなかった。
相手に囲まれたまま攻撃される前に先に攻撃を仕掛けることにする。
<あらゆるものを移す能力>で自身の体をイメージ通りに移し続けて、拳を振り上げ殴り付けたり蹴りを加え続ける。
殴っては血しぶきを上げ、蹴りを入れては鈍い音と共に奴らの形を歪めて行く。しかし、俺に出来ることは自身の体を思う存分使うしかない訳で疲れが貯まってくる。そうすれば、イメージが段々崩れ始めて動きが精細を掻き始める。
鈍くなった俺を見てからチャンスだと思ったのだろう一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。あるものは爪を、あるものは牙を使って俺を殺そうとしてくる。それを見て俺は避ける事に専念するしかなかった。この疲れた体では反撃することすら難しいと思ったのだ。奴等の攻撃を避け続けていても更に疲れは貯まっていく。
「いっッ……」
だから俺が奴等の攻撃に被弾してしまったのは当然の結果と言えるだろう。奴等の攻撃を回避し続けて、牙を使ってきた攻撃を避けた瞬間だった、背中に鈍い衝撃が走り地面に思いっきり叩きつけられたのだ。
苦しい、痛みで息が詰まってしまってまともに呼吸が出来ない。流石に骨までは行っていないみたいだが鋭い衝撃が全身に走り、息を詰まらせる。息も絶え絶えにその場で咳き込むことしか出来なくなってしまって、俺の能力の致命的な弱点が露出してしまう、脆いのだ俺は。
俺は自身の能力の本質はあらゆるものから逃げる事だと思っている。それを表すように、俺の能力は移動することに特化しているし、他の能力はあくまでも副産物だ。だから俺は何かを守ることは出来ないし、自身もまた攻撃を加えられれば直ぐに落ちるだろう。つまり、俺は攻撃を避ける事でしか防ぎようが無いのだ。
此処で俺は死ぬのかと思ったのだが先程死にたくないと思ってしまったのでこのまま諦める事が出来ない。しかし、俺の体は思うように動かずに焦りが俺から冷静な感情を奪っていく。
(くそっ! 動けよこのポンコツが)
懸命に動かそうとしても体は言うことを聞かない。もう駄目かと思い、攻めて奴等の内の一体でも道連れに出来ないかと考え、じっと前を見据えていると不意に風が頬を撫でるように流れ始めた。木々が揺れ、草花が舞い散る。
「あやややや、なかなか面白い場面に出会したみたいですね」
不意に何処かからか聞いていて心が休まる様な女の子の声が聞こえてくる。それは俺にとって奇跡とも呼べる瞬間だった。
自分の窮地の場面に現れた人物を見るために、何とかして顔を上に上げて介入者の顔を見ようとする。
其処に居たのは俺とたいして変わらない年頃の女の子だったのだが、不思議な格好が印象に残った。手に持っているのはカメラに手帳と言う出で立ちで、足の高い下駄? を履いている。黒い綺麗な髪に、不思議な赤い瞳が人間離れした美しさを感じる。
「だ……誰だ……」
かろうじて声を出すことは出来たが、掠れて聞き取りずらいことに成っていただろう。だが、行きなり現れた女の子について聞かなければいけなかったのだ。
「私ですか? 私は、幻想郷の伝統ブン屋、射命丸文です」
これが、俺にとって最初の奇跡とも呼べる出会いだった。
戦闘描写って難しいですね……
ついにあややの登場です。「うおー、あやちゃーん!」