東方移人録   作:移り人

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第三話

 行きなり現れた謎の女の子に、この場に居た誰もが動きを止めてしまっていた。おれ自身もそうだが何よりもあの化け物共が怯えているのが分かり、この少女がますます何者かが気になる。何かしらの力を持っているのだろうが、何故かそれだけでは無い様な気がするのだ。

 

「少し話を聞いても良いですか」

「な、なんだ……」

「貴女は外来人ですよね?」

 

 外来人? なんだそれは。外来……外から来る人と言うことなのか。それなら俺はこの訳の分からない化け物が居る世界なんて知らないので、まず此処の住人では無いから外来人なのだろうか?

 

「多分……ッッ」

 

 くそっ! まだ攻撃をされた箇所が痛み続ける、こんな事ならもう少し慎重に戦っておけば……って、あの化け物どもの事をすっかり忘れていた、早く何とかして撃退するなりしないとまずい。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「あ、ああ大丈夫だ」

 

 射命丸文と名乗った女の子が行きなり目の前に顔を近づけながら話をかけてきた。正直に言ってかなり可愛くって、心臓がバクバクいっている。今まででこんなに至近距離から女の子の顔を見た経験をしたことが無いものだからどう考えれば良いものか……じゃなくって奴らのことだ。

 

「ッッ、そんな事より奴等は!」

 

 大きな声をだそうとするとやはり攻撃をされた背中にあわせて痛みが走るが、気にしてはいられない。そんな事を気にしていられる場面では無い。射命丸さんが来たことで抜けてしまった緊張感を再度引き締める。

 

「奴等? ああ、あの低級共の事ですか。大丈夫ですよ、なんにも問題はありません」

 

 問題は無いって言うがそんな馬鹿な事な事があるのか? 俺が能力を使って戦って苦戦したのだ。確かに奴らの個々の力は低いと言えるが、数は力だ。それを大丈夫の一言ですませて、奴らのことを低級と言えるなんて……一体何者なんだ?

 

 あの化け物どもはまだ諦められないらしく、俺たちの回りをグルグル回って様子をみている。徐々に間合いを詰めるように、絶対に獲物を逃がさないようにしている。

 新たの介入者に警戒をしているのか、先ほどまでの弱いものを嬲るような気配では無く、確実に獲物を手に入れる為に動いている。

 

「グルルル」

 

 唸り声を上げてこちらを威嚇しながらも、こちらの隙を伺いながら走り続ける。

 

「うるさいですね、邪魔です消えなさい」

 

 だが、奴らはケンカを売ってはいけない相手に手を出そうとしてしまった。この地に住まうものならば誰でも知っている絶対の存在に。人々からは天狗と言われる種族に。

 

 その一言で何処からか取り出した団扇の様な物で軽くひと扇ぎすると、先程感じた様に風が頬を撫でるように流れ始める。それが次第に強くなっていき、化け物共を吹き飛ばして行く。右に左に荒れ狂う風は、遂には俺が狙われている訳でも無いのに、余りにも強い強風で目が開けられずに、吹き飛ばされない様にするだけで精一杯だった。

 次第に風の強さが弱まっていき、目が開けられる様になって来たので、目の前の光景を見てみると、其処には死屍累々と言う言葉があるがそれが相応しいだろう、荒れ狂う風によってその体は凄惨な事になっていた。

 風によりその体は所々が引き裂かれ、折れた木の枝がその身を刺し貫いている。だれも無事なものは居らずに、何も喋ることが出来ずに横たわっている者や、呻き声をあげて居るもの様々だ。

 

「凄いな……」

 

 この光景を見てみると本当に凄いと思う反面恐ろしくもある。俺の事を恐れていた人達はきっとこんな気持ちだったのだろう。

 だがそれよりも一番に思った事は、助かって嬉しい気持ちと、助けてくれた事に対する感謝の気持ちで胸がいっぱいになっていた。まだ俺は生きていられるのだと……一度諦めかけた事だから少し不思議な気持ちだ。

 

 感謝の言葉を伝うようと思いすこしばかり回復した体を相変わらず苦しいが起こすことにする。

 

「文々。新聞です! 取材にご協力ください」

「はい?」

 

 ありがとう、そう言おうとした瞬間に出鼻を挫かれてしまった。取材とか言っていたが、いきなりのことに少しだけでも反応できたことに誉めてほしい。

 

「ありがとうございます、では最初の質問です」

 

 さっきの返事を肯定と受け取ったらしくどんどん話を進めていく。

 

「ちょっと待ってくれ、えー射命丸さん。俺にも幾つか聞きたいことがある」

「はい、なんでしょうか?」

「此処は何処なんだ?あんな化け物が出てくる場所なんて俺は知らないぞ」

 

 普通に考えればこんな化け物が存在しているところなんて、日本には、いや世界にだってあり得るはずが無い。それなのにこんな奴等が現れるのだ、何処か現実離れした場所にいるのだろう。そう、例えば異世界の様な物語の世界のような。

 

「此処は幻想郷と呼ばれる場所です。人と妖怪が共に暮らし、忘れさられたものたちが集う場所。妖怪や妖精、果てには神さまも存在する最後の楽園です」

 

 妖怪ときたか……更には神様まで登場する世界ときたか。普段の俺ならそんな事は信じなかったかもしれない、だが先程まで戦っていた奴等は現実離れしていたから、妖怪と呼ばれる存在なのだろう。それにおれの目の前にいる少女の存在は確かで、これは現実なんだと言う事を物語っている。

 

 そのあとにも、幻想郷についての話は続いた。妖怪の事や人里の事。能力の事や、スペルカードと呼ばれる幻想郷特有の戦いの事など、およそ俺にも必要そうな事を聞いていった。大体のことを聞く事ができて満足だが、これではどちらが新聞記者なのか分かったものではないので、最後の質問をする。

 

「ふう、じゃあ最後にひとつ聞いてもいいか」

「はい、どうぞとうぞ」

「貴女は何者なんだ?」

 

 最初から俺が抱いていた疑問点、圧倒的とも言える力を持ち風を自ら操り空から飛んでくるような人だ。俺の予想がただしければ……

 

「私は鴉天狗です、それに結構偉い人なんですから」

 

 鴉天狗か……それは日本の妖怪の頂点を位置する存在じゃなかっただろうか。河童、鬼、九尾と言った日本を代表とする妖怪たちと同じように。

 それでも。えっへん、とか擬音が着きそうな感じで胸を反らす姿を見ているとそんな事はどうでも良い感じになってくるから不思議だ。

 

「そうか、ありがとう。色々と話が聞けて良かった」

「いえいえ、此方も話を聞くのですからお互い様です」

 

 そうだな、新聞の取材とかを受けるのは始めてだが、楽しそうだから別に問題はない……それよりも上手く話せるだろうかと心配になってくる。普段人と話すことなど無い俺の事だから気をつけなければ。

 

「それでは改めまして、お名前を教えて下さい」

 

 忘れていた。確かに俺は名前を名乗っていなかった気がする。確かに相手が名前を言っているのに名乗り返さないのは失礼だろう。

 

「俺は時風移だ」

「次の質問ですが、貴女は妖怪と戦って居ましたが何かしらの能力があるのでしょうか」

 

 これを話すことは自分の弱点を諸に晒すことになってしまう。だが、俺は何かしらの思惑があるにしろ自分を助けてくれて、親切に色々教えてくれた少女に嘘を吐く事が出来なかった。いや、吐けなかったと言った所だろうか。こんな見知らぬ地にて、一人迷い込んだ様な物なのだ。誰も居ない場所で初めて会った彼女に頼るしか無いのだから。

 

「俺は昔からありとあらゆる物を移す事が出来た。幻想郷風に言えば<あらゆるものを移す程度の能力>だな」

「それは便利そうな能力ですね、どんな事が出来るのですか」

 

 そのあとにも射命丸さんの質問は続いていき(途中にどうでも良いのでは無いだろうかという質問を含め)一時間位たっただろうか、いい加減終わって欲しいと思いながらも、恩人である少女の為なのでそう言う事はいえないのだ。

 

「それでは最後の質問です。貴女は今後どうするつもりですか?」

 

 もうすぐ終わりかと思い、一瞬脳裏に俺と両親で一緒に暮らしている姿を想像するが、もうその居場所は無くなってしまったのだと思い直す。もう帰る場所など無いのだと……

 

「元の世界に帰るつもりは無い。幻想郷で暮らしていくことにするよ」

 

 居場所が無くなってしまった俺には帰る場所など何処にもないのだから、迷い込んだこの幻想郷は全てを受け入れる。それは俺にとってもっとも願っていた場所だ。

 だからだろうか、俺はこの幻想郷でなら自分の居場所を見つけられるのでは無いかと思ったのだ。

 

「そうですか分かりました。あ、でも幻想郷で暮らして行くのに住む家はどうするつもりですか?」

「そうなんだよな、家も無ければ仕事も無いからどうするか……出来れば能力を生かせる仕事が良いのだけどな」

 

 そもそも人里が俺の事を受け入れてくれるかどうか。普通の人間ならば、それ一人だけで人里に致命的な打撃を与えられるような存在はお断りだろう。いくら妖怪の賢者が定めたルールがあるからと言って、そう簡単には納得はできないだろう。もし住む場所が無いとか言われたらどうしょうもない。

 

「私に良い考えが有ります」

 

 先程まで何か考え事をしていたらしく、顎に手を当てたままの状態で不穏な発言をする。何かが閃いたらしいが、その言い方は少し駄目なフラグが立ちそうなので辞めてほしい。

 

「本当か?」

「勿論です。取り敢えず私に付いてきて下さい」

「分かった」

 

 そういうや否や射命丸さんは飛び上がったと思うと空に向かって飛び始めたのだ。これも能力の応用で出来るのだろうか?

 

「あやややや、すみません移さんが飛べないことを忘れていました」

 

 そう言って俺が漠然と眺めているのを見て、俺の隣にふわりと着陸する。その時に風と一緒に若草の様ないい匂いがして少しだけドキドキしてしまう。さっきから変なことを考えすぎだ俺。煩悩退散。

 

「あ、ああ。今まで飛んだ事はなかった。でも飛んで行くならどうやって行くんだ?」

「そうですねー、歩いても行けるのですが飛んだほうが速いですから私が抱えて飛びますよ」

 

 彼女は今なんて言ったのだろうか? 抱えて飛んでいくと聞こえたのだが、それなんて羞恥プレイ? それに俺ならば能力を応用すれば飛ぶことも可能なのではないかと思うのだが。

 

「いやいや、ちょっ「では、飛びますよら!」まぁぁっっっ!」

 

 全く話を聞かれずにそのまま連れ去られた。飛んでいたときの記憶はいまいち覚えてはいなかったが、一言述べるとしたらただ速かった、そしてこわかった。二度とこの少女の速度で飛びたくは無いと思ったほどだ。

 

 始めて空を飛んだ爽快感に浸る間もなく俺は余りの速さにただ早く終わらないかと願い続けていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「着きましたよ移さん」

 

 やっと終わった……時間から観ればほんの少しの時間だろう、だがそのほんの少しの時間だけで俺はグロッキー状態にまで追い込まれてしまっていた。

 

「……」

「あやややや、すみません何時ものように飛んで仕舞いました」

 

 話す気力すら浮かばない。それには何時もこんなに速く飛んで居るのかと思うと、またハキケが込み上げてくる。

 

「あの、私が言うのもなんですが大丈夫ですか?」

「あ、ああ……少しだけ休めば大丈夫だ……」

 

 射命丸さんが心配そうに俺の顔をのぞきこんで来たのだけれど、それにすら反応するだけで精一杯だった。

 何しろ、吐き気も然る事ながら全身に掛かる負荷が物凄い事に成っていた。ぶっちゃけると、回復してきたダメージが再発しかける程には……

 

「そうですか、では話すのは後にして少し休みましょう」

 

 そう言って目の前にある、木で出来たらしい家の扉を開いて中に招き入れる。それに対して俺は逆らう気持ちもなくただ休みたかったので、着いていくことにする。

 

「取り敢えず椅子に座っておいて下さい」

 

(ああ助かる。座れるだけでも楽になる)

 

 しばらく俺と射命丸さんは、一言も喋らずに静かにしていた。その沈黙は俺にとって辛いものではなく、心が休まる様な静けさだった。こういうのも悪くない、そう思えた。今までの俺は両親と静かにして共に過ごすと言うことはしたことが無かった、ただ俺が静かにすることで相手に不快な気持ちを与えているのでは無いかと思うとそんな事はしていられなかった。

 

 だが、この空気は悪くないと思えるから不思議だ。

 

「さて、そろそろ説明してほしい」

 

 だがそんな好ましい空気でも、聞かなければならないことがある。何故此処に連れてこられたのか、此処は何処なのかだ。

 

「簡潔に言えば、私が貴方を雇うことに決めました」

「雇う?」

「はい、移さんも知っての通りに私は新聞記者です。ですが最近異常な事が起こり始めていましてね、だから助手を雇おうとしたんですよ」

「だけど新聞記者の仕事なんてしたことが無いぞ」

「問題はありません、取り敢えずは新聞配達をしてもらい慣れてきたらネタ集めを手伝って貰いましょう」

 

 新聞配達の仕事か……定番と言えば定番だが、なんで射命丸さんの仕事の手伝いなんだ? 俺としては有りがたいけど疑問が沸いてくる。

 

「でも、なんで俺なんだ? 天狗の仲間に頼めば良いじゃないか」

「あやややや、それはですね、他の鴉天狗は自分の新聞を作るのに忙しいですし、部下を私情で動かす訳にもいきませんので……」

 

 ああ、なるほど。天狗の社会は厳しいと言う事なのか、それなりの柵とやらがあるのだろう。其処に丁度良く俺という対象が現れたのだから雇うことにしたのだろう。

 

「それに、私の速さに着いていける人が少ないですし、移さんなら能力で着いてこれる筈ですしね」

 

 最後の奴で納得してしまった。あんな速さの妖怪がそこら辺に居て堪るかと言いたい。それに俺なら、それこそ瞬間移動を使えば一瞬で済むし、高速移動もお手のものだ。だがあの速さ、お前はダメダ。

 

「分かった、俺のためにここまでしてもらってありがとう射命丸さん」

「別に気にしないで下さいよ、それに私の事は文で良いですよ、一緒に住むんですから」

 

 は? いやいや、今なんて言ったのかな? 男の子としては嬉しい申し出がきこえてきたのだが、どう考えてもあり得ないことが聞こえたのだが。具体的に言えば、水と油が交じり合うことくらい在り得ない。

 

「今なんて?」

「私の事は文で良いですと」

「そのあと!」

「一緒に住むことですか?」

「そう! なんだそれは、流石にありえないだろ」

 

 聞き間違いでは無かったようだ。そんなことをしたら俺の精神力が大量に失われてしまう。ただでさえ疲れが溜まっているというのに、このままでは休める時間が無くなってしまう。

 

「すみません、でも空き家が無かったので此方のほうが都合が良いと思ったのですが」

「そ、そうなのか。それならまあ仕方がないのか?」

「ええそうです、それに移さんが来てくれれば掃除に料理などを任せて……あ、いえいえ、なんでもありませんよ?」

 

 これは最初からそういう腹だったのか。仕事についてはその通りだろう、だが最後の奴はなんだ? 料理などと聞こえたから俺に主夫をやれといっているのか。

 でも、どれもこれも俺にとって有りがたい話なのだ。居場所のない俺に居場所をくれて仕事をくれる、それに命の恩人でもあり、可愛い女の子なのだ、断れる理由が無い。さらば俺の安らかな日々……

 

「分かったよ。これからよろしく」

「さ、さあそろそろ晩御飯の時間ですね。移さんの料理の腕を見てみたいなとか?」

 

 少し慌てながら話をそらそうとする射命丸さん、もとい文が少し可笑しくて苦笑をしながら指示に従う事にする。

 

 

 幻想郷に来て始めて作った料理は今までで一番上手く出来たと思う。




ふう、やっと一段落です。
これからどんどん東方キャラが出て来ますが、俺の中のヒロインはもちろん文です。
異論は認める。
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