東方移人録   作:移り人

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第四話

 心地良い朝の光が瞼を映し、少しむず痒い。何時もならばこういう場合は二度寝するのがセオリーだが、今日も今日とて家の家事をしなければならないので、気だるい思いをしながらも目を開けて体を起こそうとする。だが、目を開けたときに見えたとある光景により、飛び起きて仕舞う。

 俺の目が捕らえたその姿は、つい先日にであった俺の雇用主でありこの家の主である射命丸文だ。その姿が目を開けた瞬間に視界で一杯に成っていたのだ。そのような事に耐性などは無く、心臓の音が煩く鼓動する。

 

「あ、おはようございます」

「お、おはよう。なんでさっきは顔が近かったんだ?」

 

 目を開けたらそこには美少女が居ました……ありだな。だが、そのシチュエーションのイベントをこなすには俺のステータスがまだ足りなかったようだ。もう少し勇気と寛容さが上がれば何とかなるだろう。

 まあ、そう言う冗談を考える事が出来るほどには落ち着けているみたいだ。

 

「私、朝早起きをしたんです」

「それで?」

「居間に行っても、移が何処にも居なかったんです」

 

 それはそうだろう、今の今まで俺は寝ていたのだから文に出くわす事がありえない。もし出会っていたら、俺は夢遊病者とかの類だろう。

 

「お腹がすきました」

「は?」

 

 唐突に、何の脈絡も無しにぶっちゃけられても意味がわからない。というか其処からどうやったら俺の部屋まで来ることに繋がるんだ。

 

「お腹が空いたんですよ。だから移に作ってもらおうかと思ったのですが、寝ていたので起きるまで待っていました」

 

 さも当然と言われたら納得するしかないが、此処は俺に貸し与えられた部屋で男の部屋なのだと言おうと思ったが、居候にはそんな権限があるはずもなくため息を一つ吐いていた。

 

「あ、なんですかその溜め息は」

「何でもないよ」

 

 そう言いながら俺は立ち上がり、朝ごはんを作るために台所に向かう言にした。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 俺がこの幻想郷と呼ばれる地に来てから数日がたったのだが、まだこの妖怪の山から出たことは無かった。

 文曰く、俺はまだまだ弱いのでもっと練習しなさいとの事だ。せめて中級の妖怪位は簡単に返り討ちにしなさいとも言われたのだが、低級数体なら何とかなるのだが大勢で襲われたら今の俺では一溜まりも無いことが分かっているので、人里に行けるのは当分先になってしまうので殆ど諦めかけていた。

 

 その様な理由があって外に出れない俺が普段何をしているかと言うと、主な仕事は文に言われた様にこの家の家事をしていた。それほど広い家とは言えないが、それでもやる事は山済みで忙しいほどだ。

 

「いやー、移の料理は美味しいですね」

「はいはい、お世辞でも嬉しいよっと」

「お世辞じゃありませんよ!」

 

 そう言って机を叩いている文を見ていると、心が和む俺は正常なのだろうか? それでも、自分が作った料理を少し大げさかもしれないが、美味しいと言ってくれるのは素直に嬉しい。

 次第に皿の中身も無くなって行き、少し作りすぎたかなと思っていた料理が十分足らずで食べ終わるのを見ると、とても人間業には見えなかった。妖怪だけど……

 

「ごちそうさまです、移」

「おそまつさま、皿は流しに置いていてくれよ」

「はいっ」

 

 文が食べ終わったのを見て、俺も速く食べないとと思い食べるスピードを上げるのだが、別におれは人外では無いので食べるスピードが余り速くはならなかった。逆に文が速すぎるだけだが、妖怪と言う者はあんなに食べるものなのだろうか?

 

「では、私は仕事に行って来ますから、後のことは頼みましたよ」

「はいよ、いってらしゃい」

「はい、いってきます」

 

 そう言って文は物凄いスピードで外に飛んでいった。外を覗いてみても文の姿が見えないのでもう遠くに行っているのだろう。流石は幻想郷最速を名乗っているだけはある。

 

「さあてと、俺も仕事をはじめるか」

 

 食べ終わった料理の皿を片付けてから今日やるべきことを考える。部屋の掃除は当たり前で、洗濯、料理などやるべき事が沢山あるが、最も大事な事は能力の練習だろう。これをしなければ、いつまで立っても文の役に立つことが出来ないので、常に能力の事を考えていた。

 どうすれば妖怪にも勝てるのか、スペルカードはどうするかなども考え無ければならなかった。

 

 皿を洗い終えてから掃除に向かうが、これは然程難しくはない。この家は其ほど広くはないので掃除は楽なのだ。だから俺は、丁寧掃除をしながらもスピードを速めて、速く終わらせる事にする。大体の仕事が終われば後は能力の練習を行う。だが、これには一つの大きな問題があった……

 

「ふぅっ!」

 

 俺は出来る限り力を込めるために大きく息を吐き出す。その手に集めるのは霊力と呼ばれる人間に元々備わっている力。それを俺は常人よりも多く持っているらしいので、それを扱う練習をしているのだ。

 霊力をそれぞれの自分に合った形で撃ちだす物を弾幕と言うのだが、これはこの幻想郷において最も一般的な戦い方である弾幕ごっこをするのには絶対に必要な技術なのだ。

 つまり、これが出来るのと出来ないのとでは大きな差になってしまうので、この幻想郷で弾幕ごっこが出来なければ、後は自身の力による解決しか出来なくなるからだ。前の俺みたいに……だが、力のあるものは基本的に弾幕を撃てるので関係ないことだが。

 

しかし……

 

「うぐっ!」

 

 手に集めていた霊力を丸い球体の形にしたところで制御が甘くなり、静かな音と共に集めた霊力が霧散してしまう。

 

「また失敗か……」

 

 これまで何度も霊力を形にすること、弾幕と呼ばれる物を作り出すことに挑戦していたのだが、上手くいっていなかった。それは当然とも言えるだろう、能力を使うのに霊力を使っていたらしいが意識したこともなく、感じたことも無い力を扱うのは未知の経験だった。

 最初の頃は弾幕を形にすることも出来なかったので、形を作ることが出来たのは進歩していると言えるだろうが、到底戦闘には使えそうにもなく、ましてやスペルカードルールなど出来そうにない。

 

「もう一度」

 

 形を自分の思い描く通りに作ろうとするのだが、これがなかなか上手く行かない。今のところ丸い形が一番上手くいくのだが、なぜか違和感が付きまとい弾幕形成の邪魔になる。

 だが、今さら変えれる訳もなく球体の弾幕を作り出すことに専念する。取り敢えず日が暮れるまで霊力の練習をしたのだが、弾幕の形成するのに無駄が有りすぎて一つ作り出すのにも一苦労だった。

 

「なんで上手くいかないのかね」

「それはただ慣れてないだけよ」

 

 不意に聞こえてきた声に戸惑いながらも、警戒心をあげる。此処は妖怪の山だ。そんな所に来られるような奴は殆どいない、何故なら余所者は他の天狗により追い払われるからで。おれがこの妖怪の山に居る時点で可笑しいのだ。

 なのに此処まで来れると言う事は身内か、それとも圧倒的な強者かだ。

 

「誰だ……」

「あら、あの鴉天狗は何をやっているのかしら、私の事を教えていないなんて」

 

 空間に歪みが起きる。その歪みが次第に大きくなっていき、人一人が由に通れる位の大きさになると、空間にスキマが出来る。其処には大量の眼だけがあった。底の見えない異常なまでに広い空間。その中に彼女は居た。

 

「鴉天狗……文の知り合いなのか?」

「そうよ、外来人の時風移くん」

「何故俺の名前を?」

 

 少なくとも俺はこの人に会った事は無い。それなら文が教えたのかも知れないが、なんとなくそれは違うと思う。どこかであの目玉の空間を見たことがあるような気がするのだ。

 

「あら、もう忘れてしまったの? せっかくこの幻想郷に誘って差し上げたというのに」

 

 不意に幻想入りした時の記憶を思い出す。自分の意識が途切れる前に見えたあの光景、それが目の前の空間に重なって見える。しかしなぜ俺はこのタイミングでこの事を思い出したのだろうか、余りにも不自然すぎる。

 だが、先ほどからあの空間の主がこちらを見ながら妖しく笑っているのも気になる。

 それに、俺を幻想郷に誘ったと言っていたが、この閉ざされた世界から自由に出入り出来る存在なんて一人しか知らない。

 

「妖怪の賢者……」

「ご名答。私の名前は八雲紫よ。僭越ながら、この幻想郷の管理者の様なものをしていますわ」

 

 妖怪の賢者本人のお出ましか、それにしても何故八雲さんは此処に来たんだ? 彼女程の人物ならばこんなどうでも良いような人間を相手にしている暇があるのだろうか。

 いや案外ただの暇人かも知れないが。それにしても……

 

「八雲さん」

「何かしら? それと私の事は気軽にゆかりんとでも言ってくれれば良いわ」

「じゃあ紫さんで」

 

 普通にスルーするのね、とか聞こえてくるが気にしない。と言うか俺にそんな事を言う度胸は無い。それに紫さんにゆかりんは合わな……何でも無かった様だ。不意に恐ろしいほどの力を感じたが気のせいだろう。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「何故、俺が霊力に慣れて無いだけだと思えたんだ」

 

 確かに俺は弾幕を作るのにも、霊力を扱うのにも慣れては居ない。だからこそ速く文の役に立つ為に練習をしているのだから。

 だが、世の中にはいくら練習しても上手く行かない事などたくさんある。それなのにこうも断言できる物なのだろうか?

 

「ふふふ、そんなのは簡単よ。人間の中でもかなりの量の霊力を持ち、それでいて力を使って数日で此処まで動かせる様になるのだから。やっぱり私の見込み通りね」

「そうなのか?」

 

 周りに居る比較対象が大きすぎて自分のこと何てまるで分からなかった。ならば何故出来ないのだろうか? 紫さんの事だからおだてている訳では無いだろうが、何かきっかけが有れば……

 

「そうよ、そこで私からお願いがあるのだけれど、私の仕事を手伝ってみないかしら」

「いや、でも俺には文の手伝いが……」

 

 そう、俺にはやることがあるのだ。家の家事もしなければならないし、俺自身の訓練もしなければならない。今のところ時間に余裕をもてないのだ。

 

「大丈夫よ、直ぐに終わる様な物ばかりだし。それに良いのかしら?」

「何が?」

「今の貴方の状況。女の子に養って貰って、まるで外の世界で言うヒモみたいよ」

 

 やばい、フライパンで殴られた様な感じがした。確かに、今の俺の状況って、周りから見たらただ文に養って貰っているだけじゃないか。良いのかそれで。いや、言い訳が無い。

 考えるには五秒も満たなかった、ただただ何かをやらなければ為らないと言う決意を秘めて。

 

「よろしくお願いします紫さん、いや社長!」

「こちらこそよろしくお願いしますわ」

 

 男にはやらなければいけないときがある。それは本当の事だったようだ。

 




今回は紫さん登場ですね。
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