東方移人録   作:移り人

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第五話

 紫さんに連れられて、スキマと呼ばれるあの空間を潜ったのだが、ぶっちゃけかなり気持ち悪かった。四方八方どこにでもある謎の眼がこちらをずっと見てくるのだ。あの時はもうとにかく早く外に出れないかと、本気で願い続けていた。幻想郷には碌な移動手段が無いのだろうか……そう思わずにはいられなかった。

 

「さあ着いたわ」

 

 其処にあったのは、俺がずっと行きたいと思っていた人里の風景だった。人里の中に入ると、俺の目の前にあるのは昔ながらの日本住宅が立ち並んでおり、どこかで見たかのような、懐かしい感じの風景を見ていると心に来るものがある。

 

「すごいな……」

 

 人は多くはない。だが、みんなが生き生きとしており楽しそうだ。客寄せをしているものや、品物をみているもの、井戸端会議している者もいた。こういう風景を眺めていると、世界が広がるようで楽しくなる。もっとこの地を旅をしてみたい。もっとこの地を楽しみたいと思う。

 

 だが……

 

「本当に良かったのか?」

 

 俺が懸念している事はただ一つ、いま俺が文との約束を破っている事だ。文は俺にせめて中級の妖怪位は楽に倒せるように成ってから外に出ることと言っていた。それなのに俺はまだまだ力不足だ。そんな俺が人里に行ってしまっても良かったのっだろうかと不安になる。

 

「ええ、大丈夫よ。鴉天狗には後で私から説明しておくわ」

 

 それなら良いのか? だが、こちらには泣く子も黙る妖怪の賢者様が居るのだ。危険なことなど起こりうる筈も無いだろう。それならば紫さんの仕事を手伝いに行っても大丈夫だろう。何か問題があるとすれば、文にこの事を伝えていない事だが、紫さんが説明するから問題は無い。

 

「そうか……よし、俺は何をしたら良い」

「そうね、とりあえず着いてきてくれるかしら」

 

 そう言って、目の前にある他の建物に比べたら一際大きな建物の中に入っていく。逆らうことも無いので、紫さんの後について中に入っていく。中に入ってみると小さな違和感を感じる。汚いわけでは無い、だが明らかにこの建物は人に使われている形跡が無かった。良く見てみると、明かりは一切点いておらず、靴も置いてはいなかった。其処にあるのは一つの箱のみ……

 

「これはいったい……」

 

 良く見てみても俺にはただの箱にしか見えない。箱に何か書いてあるので読んでみると<目安箱>と書かれていた。

目安箱と言うのは、学校などでも見たことが有るが何故ここに?

 

「そう、これが貴方にして貰いたい仕事よ」

「いや、さっぱり分からないんだが」

「しょうがないわね、説明するわよ」

 

 紫さんの説明は簡単な物だった。目安箱の中にあるお願いを叶えてこいとの事だ。この目安箱は里の問題を何時になるか分からないけど願い事を叶えますよといった物らしい。それは俺が叶えても良い物なのだろうか? 基本的にこれは妖怪の賢者に宛てての物なのだ。それは彼女にしか出来ないと言う事を意味するのだから。

 

「それなら紫さんが叶えなくてはいけないんじゃ……」

「そうなんだけどね、家を直してくださいとか迷子を捜してくださいとか。私は便利屋じゃないのよ」

 

 ああ、確かに紫さんが雑用をしている姿は想像が出来ない。というか、組織のトップに当たる人物がそういうことをしていては駄目だろう。と言うか、人里の人間は何をしているのだろうか。仮にも妖怪の賢者をタダで雑用させようとする執念には恐れさえ覚える。怖くは無いのだろうか?

 だが、何で俺が呼ばれたのかがわかった。この目安箱を作ってしまったからには、叶えなければ人里の信頼が落ちてしまう。それは妖怪と人間が共存する幻想郷ではあまりよろしくない。

 

「分かったよ、それで? 肝心の仕事内容は」

「ちょっと間ってなさい」

 

 そう言って、紫さんは目安箱の口の中に手を突っ込むと、一つの紙の切れ端を取り出した。

 

「あら、以外に少なかったわ」

 

 そう言うが、何時叶えられるか分からないものに俺だったら期待をしない。流石に大きな問題がおきたらその限りでは無いが、そうそう起こりうることでは無いだろう。だから適当なお願いを入れるのだとも考えられるが……

 

「移、香霖堂に行ってきなさい」

「はい?」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 俺は人里から離れて、魔法の森と呼ばれる場所を目指して歩いていた。いや、正確には入り口なのだがどちらも同じことだろう。これから行こうとしている香霖堂は其処にある。その立地条件から人里の人間は寄り付かずに、今回のお願いが届いたのだ。

 

 今回の依頼内容は、家の前に外から来たと思われる道具が有ったから、香霖堂で売ってきて欲しいとの事だ。既に紫さんが適正だと思われる金額を目安箱に置いておいたから、売ったお金は今日のお代だと言われていた。

 幸いにも妖怪に出くわすような事無く、香霖堂までたどり着くことが出来た。早くその手に持つ、旧式の電気ストーブを売りに行かなければ行けないのだが、この幻想郷では何の価値も無い物が売れるのかどうか……その手に持つ物を考えながら、香霖堂の扉を開ける。

 

「いらっしゃい」

 

 其処に居たのは、一人の眼鏡を掛けた男性だった。この人が店主なのかと思い、早速中に入ろうとして目の前に広がる光景にその足を止める。

 

「お客さんかい? 少し待っていてくれ。今忙しくってね」

 

 店の中は酷い有様だった。何に使うのか分からない様な物や、昔どこかで見たことのある懐かしいもので溢れ返っており、もはや床が見えない状態になっていた。まるで嵐が来たかのようにぐちゃぐちゃに散乱していたので、人為的にこうなったのだろう。

 

「あー、手伝おうか?」

「助かるよ。一人じゃ手に負えなくってね」

 

 これを見て、なぜ里の人間が此処に売りに行って欲しいと言ったのかを理解してしまった。確かに此処ならば売れるだろう。こんなにもたくさん外の世界の物を集めている店ならば……

 その後も、店主の指示に従いながら効率よく物を集めていく。床にあるのは全て商品らしく、一つ一つ並べて行った。

 

「いやー、それにしても助かったよ」

「ああ、疲れた。自分から言ったにしても客に手伝わせる店主が居るとは」

「ごめんごめん、お詫びにお茶でもご馳走するよ」

 

 それはありがたい。一時間にも渡る作業によってくたびれてしまった。出来るなら喉を潤す為に何か飲み物が飲みたかったところだ。

 お茶を淹れて戻ってきた店主にお茶を貰う。適度な暖かさで丁度良く、疲れた体にはかなり飲みやすかった。

 

「あらためて自己紹介をしようか。僕の名前は森近霖之助だ。君はあまり見ない顔だけど……」

「時風移だ。知らないのも俺が外から来たせいだな、しっていたら逆に驚きだぞ」

 

 約一名程、常識を壊してくれたスキマ妖怪が頭に浮かんできたけれども無視する。

 

「そうかい! 外の世界から来たのか。僕は外の世界に興味があってね、色々と研究しているんだよ。丁度良かった、この電子レンジと言うのはどうやって動かすんだい? 名前と、どんな効果が有るのかなら分かるんだけど肝心の動かし方が分からなくってね。他にもこのパーソナルコンピューターや携帯電話なんかも教えて欲しい。あれは確か電気とか言うものを使うのだろう? だが肝心の電気がこの幻想郷には無くってね、実際どういう物か知りたかったんだよ。まだほかにも……」

 

 やばい、なんかいきなりスイッチが入ったかの用に喋り始めやがった。このパターンだと、何処かで話をとぎらせないとずっと続くぞこれは。流石に帰るのが遅くなるのはこまるので、店主には悪いが話はまた今度にしてもらおう。

 

「あー、店主? 売りたいものがあるのだが」

「あ、ごめん。つい癖が出てしまったよ。それで、何を見せてくれるのかな?」

「これだ」

 

 そう言って、店主の前に電気ストーブを置く。邪魔だったので脇に置いておいたのだが、きずいて居なかったのだろうか?

 

「ほう、これは電気ストーブだね」

「え、わかるのか」

「いや全然。使い方なんて分からないし、分かるのは名前とその道具の用途だけなんだよ。それが僕の能力でね」

 

 あー、つまりこれが何て呼ばれる物なのか、どんな物なのかは知ることが出来るが、使い道が分からないと。だが、使えなさそうに見えて、その実店主にぴったりの能力だろう。外の世界の物は幻想郷では知る機会なんて無いが、この能力ならば知ることが出来る。使い方は名前で考えながら自分で試せば良いだけだ。

 実際にそうやって実用化できた物を、外の世界が好きな店主が売らずにとっておいても不思議は無い。

 

「そうか、幾らで買い取ってくれる?」

「そうだね、電気と着いているからたぶん幻想郷では使えないんだろうけど、手伝って貰った御礼もあるし三千円でどうだい」

「売った」

「まいどあり」

 

 ふう、ミッションコンプリート。思っていたよりも高く売れたのは良い誤算だった。旧式で少しガタが来ているみたいだったのでもっと安いと思っていた。後は店主と話していても良いのだが、家の家事をしなければいけない居候にはそんな時間が無いのが現状だ。

 

「それじゃ店主。忙しいので帰るがまた来るよ」

 

 此処は面白いものが沢山ある。さっき整理をしている時に見たが、外の世界で時代遅れになったものや、生産中止に為ったものなど珍しいものが沢山あったのだ。たぶんほとんど使えないものだろうが、なにか使えるものが有るかもしれない。

 まだまだ面白そうな物が沢山あるのでまた来て見たいものだ。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 そう言うや否や、またも店主は店の奥に戻っていく。いったい奥に何があるのだろうか? いや、考えるのは止めよう。こういうのは不思議にしているからこそ意味があるのだから。

 

「ほら、これを持っていくと良い」

「ん? なんだこれは」

 

 渡されたのは一振りのナイフだった。見た限り普通のナイフに見えるが、刀身が銀で出来ていた。だがなぜ俺に渡したのだろうか? 

 

「僕が作ったマジックアイテムで、そのナイフは力を込めると光を放つんだ。そろそろ暗くなるからね、護身用と今日のお詫びをかねて渡しておくよ」

 

 凄いな、光を放つナイフなんて聞いた事が無い。流石は幻想郷と言ったところか。それにしてもありがたい、素手ではすこし心もとなかったのだ。ナイフならば護身用としても丁度良い。剣なんかを渡されても使える自身は無い。

 

「ありがとう。今度は茶のみ話でもしよう」

「ああ、また来てくれたまえ」

 

 貰ったナイフを一緒に貰った専用のホルダーにしまい、とっさに出せるようにして置く。今日はとても気分が良くなった。人里にも行けたし、店主にはナイフも貰えた。こんなに良い日だからせめて人里まではのんびり帰ろうと思ったのだ。

 

 だがそれが悪手だという事には気付ける筈が無かった。

 




ふう、ついに文の出番が無しになってしまった……だが、つぎこそは(燃
こーりん登場。某ゲームでこの店主には泥棒しようとして殺された良い思い出が……
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