俺が幻想郷に来てから更に時間が経った。身体は既に動くようになったのだが、完全に魔改造されていた。牙劉の能力を移した影響で身体が動かなく為っていたのだが、やっぱりと言うか身体に変化が起きてしまっていた。
怪我をすれば妖怪特有の治癒能力で直ぐに直ってしまう。俺の腕も例に漏れずに直ぐに完治した。
走れば普通に今まで以上に速く走ることができ、岩を殴ればそれだけで岩を壊すことができた。そして、これが一番の影響だろうが、俺の爪が恐ろしいほどに鋭く為ってしまったのだ。
完全に牙劉が使っていた爪その者ではないだろうかと思うほどに鋭く、日常生活にさえ影響をを及ぼしてくれた。例えば朝起きて、水を飲もうと思いコップを持つとそのコップがばらばらに為ってしまうような物だ。だが、これについては能力で解決する事が出来た。
<伸と縮を操る程度の能力>
これを使うことによって、牙劉は攻撃を繰り出してきていたが、逆に攻撃をしないために能力を使う事にしたのだ。これにより爪の長さを変えて、細かい調整をすることによって何とか元の大きさにまで戻す事ができた。
ここまで言えば分かるだろうが、本当に人間を辞めてしまったみたいだ。半ば妖怪と化した俺は、霊力と妖力の二つの力を扱える様に為っていた……
◆◆◆◆◆◆◆
何時ものように朝が来る。目を開けると少しばかり肌寒い温度を感じる。その寒さを凌ぐ為にずっと布団に包まりたく為ってしまうが、まだ眠っている訳にはいかないので何とか起きる事にする。背を伸ばしてみると、身体がポキポキと心地よい音が鳴り、少しは眠気を抑えられた。
「おはようございます」
「おはよう文」
お互いに朝の挨拶を済ませて、何時ものように朝食を作る。すぐにでも来るであろう文のために朝食の支度を終わらせてから、文と一緒の食卓に着く。
お互いに食べ終わると、文は毎度のネタ探しの為に外を飛び回り、俺はこの家の家事をする為に掃除道具を取りにいく。
何時もの様に家事を終わらせると、俺は毎日の日課にしている能力の練習と弾幕形成の練習を始める。
それが、ここ最近の日常だった……
◆◆◆◆◆◆◆
汗が滴り落ちる。余計な雑念を捨てて、自身の中にある力に意識を傾ける。自分の力を明確にイメージして、その力を手の先に移す。その力を形にしてから、ひし形の形の弾幕に作り出す。
力を形にしたら、更に同じ弾幕を作り出す。何度も、何度も……
作り出した複数の弾幕を近くにある岩に向けて撃ち出し、更に続けて撃ちつづける。すると、次第に岩が削られて行き、跡形も無く消え去ってしまう。
「ふう、だいぶましに為って来たな」
最初のころは弾幕を作り出すことがやっとだったのが、今では確実に作ることが出来るし、複数の弾幕を扱える様にも為っていた。
弾幕を作れるように為ったのは、確実に牙劉の力を移したおかげだろう。あの時に力を明確に意識したおかげで、妖力と霊力を意識できるようになっので、弾幕を作り出すのがかなり楽になった。
「後はスペルカードなんだけどな……」
こんな事を言っては居るが、一応文から貰ったスペルカードの元の十枚のうち、五枚は出来上がっているのだ。逆に言えばまだ五枚しか出来上がっていないと言う事なのだが、普通の弾幕ごっこならば五枚も有れば十分と言えるだろう。だが、戦力が大きいのに越したことはないので今もなお、新しいスペルカードを考えていた。
「もうすぐ何かが起こりそうなんだけどな……」
いや、起こりそうじゃなくて起こる。分かりきったことだが、紫さんが俺を鍛えようとしたのには意味がある。だが俺には何の目的があってこんな事をしたのかは分からないが、俺を鍛えたと言うことは間違いなく荒事に巻き込む積りなのだろう。
「あら、分かっているじゃない」
ああ、やっぱりか……背後から声が聞こえてくるが、振りむかなくたって誰かが理解できる。俺の中で胡散臭い人物ナンバーワンであり、何を考えているのか理解もしたくない妖怪の賢者だろう。
「何のようだ」
「あら、冷たいのね。私と貴方の仲なのに」
どの口が言っているのやら、散々人の事を利用するためにあれこれしてくれた癖に。強いて言うならば、俺にも利が有るのでお互いに利益関係を持つ契約人みたいなものか……
「だれがだ、人に危ない目に合わせておきながら良く言う」
だが、最後のあの戦いだけは認めることは出来ない。俺がその事を口にすると、何処からか取り出した扇子で口元を隠すと怪しげに眼を細める。心なしか、彼女の身体から流れる妖力の量が大きく為った様な気がする。
「あら、でも楽しめたのではなくて」
「ふざけるな。殺して楽しい訳がないだろう」
俺に戦いを楽しむ余裕なんて無かった。怒りに任せて戦い、最終的に俺の手で奴に止めを刺すことになったのだ。もう二度と殺し合い何てしたくも無い。だが、紫さんに対して怒っても何の意味も無いのは分かっている。けれども納得は出来るような物ではない。
「紫さんのせいで俺は……」
「殺したのかしら?」
「そうだよ! 二度と御免だあんな事は」
例え、紫さんの命令だろうと俺は誰かを殺したくは無い。もう俺程度の器ではこれ以上背負い切れそうに無い。
この感情を移すと言う手も有るが、それだけはしたくない。奴を殺した事は俺の責任だ、それを放り投げる事は出来ない。
「そう、御免なさい」
「その事はもう良い」
もう終わったことなのだから……それに紫さんに本当に悪意が無かったのは分っているから。
「だけど他にも、何で文に何も説明していないんだ」
「それが貴方たちの為に良いと思ったからよ。私は貴方に文と仲良くして欲しいと思っているの」
それは本当だろう。だが、同時に本当の事も話していない、真実を真実によって隠す、嘘つきの常套手段だ。
「それでも、人の手のひらで踊るのは趣味じゃ無い」
沈黙がこの場を支配する。紫さんには悪意は無くとも企みが有るみたいだ。それを俺は聞きたかった。
俺の問いに答えるつもりの無い紫さんに、応えるまで話すつもりの無い俺で、まるで千日手の様に為っていた。
「はあ、もういいわよ。移も大まかな事を感づいている訳だし」
「ありがとう、それと企むなら俺に気づかせないようにやってくれ」
「わかったわよ。それじゃ本題に入るわ」
俺は話を真剣に聞く為に意識を切り替える。紫さんから何かしらの頼みごとをされるのだろう、それも荒事の仕事を。別に頼みごとをされるのは構わない。だが、それが半強制的な物なのだから性質が悪い。
「異変を起こしてみないかしら」
はい? いったい何を言っているんだ。絶対に戦闘をしなければ為らないのは分かっていたが、これは予想の斜め七十度位を通り越してしまった。
「紫さん……貴方は管理者だろうに、なぜ異変を起させようなんて……」
これには開いた口が塞がらなかった。警察が強盗をしなさいと言っている様なものだ、幻想郷の管理者としてそれでいいのかと疑問に思ってしまう。
「そうなのよ、聞きなさいよ移。博麗の巫女が居るのは知っているわね」
「ああ……」
「名前を霊夢と言うんだけど、霊夢はね、天才なの」
「天才なのは良い事なんじゃ」
「それが違うのよ、才能が有る故に練習も何もしようとしないのよ。それでいてそこら辺の妖怪なら片手で捻る様に倒して仕舞うから余計に性質が悪いの。それに最近吸血鬼が何か企んでいるみたいだし、それなら霊夢に実践を積ませようと思ったのよ」
「は、はあ……」
なんだこれ、いきなり紫さんが沢山喋りだしたぞ。何て言うか、まるでお母さんの様な口喧しさだ。博麗の巫女もご愁傷様だな。
「そこでよ、大きな異変を解決させる前に一つ異変を解決させようと思ったのよ」
ズビシッと効果音が出そうな感じで此方に指を立ててくる。
「つまり出来レースと」
「平たく言えばそういう事よ」
「つまり今までのことは……」
「全ては幻想郷のためよ」
はあ、結局はそう言う事だったのか。自分の為に何か企んでいたのならばどうしようかと思っていたのだが、幻想郷のためと言うのならば仕方がない……ここは俺にとっても大事な場所だからな。
「わかったよ、俺はどうすれば良い?」
「そうね……取り合えず文にも説明しないといけないから、家で待ってましょう」
「わかった。晩御飯作るが、食べていくか?」
「頂くわ」
俺が文の帰りを待つ間にご飯を作るのだが、紫さんも食べていくのか聞いてみると、了承の返事が返ってくる。お客様が来るのならそれなりの物を出さないといけないな。
「それじゃ行きましょう」
そう言って紫さんがスキマを作り出して此方を誘ってくる。だが……
「俺は自分で帰る」
二度とあのスキマの中には入りたくない。中に入った途端、全ての目と言う目が此方を見てくるのだ。不気味とかそう言う物を通り越して吐き気が沸き起こってくる程だ。
「あら、残念」
とても残念そうには見えない声で言ってくる紫さん。そのままスキマの中に入って消えてしまう。俺も後に続かなければ行けないので瞬間移動を使って家にまで戻る。
また面倒な事に為った……そう思いながらも何処か楽しそうな顔をしている自分には気がついては居なかった。
久しぶりに投稿です。