この少年の目はいい。
それは、酒場で初めてあの真紅の目を見た時から思っていたことだった。まっすぐで、しかし臆病なところもある。臆病、それは言葉だけ聞けば良くないが、冒険者にとって臆病な所がある方が生還しやすい。
私自身、ここまで他のファミリアの人間を気に入ることがあるとは驚きだった。何故、ここまで気にいったのかは、私自身にもわからない。ただ...
「僕は...冒険者です」
私はこの少年、ベル・クラネルの成長を見たいと感じた。
ベルは、数十体の《シャドウゴースト》の群れに一人で戦いたいと言ったのだ。彼の装備は支給ナイフ一本だけ。それで、アレを倒し切るのは、とてつもなく難しかった。
いつもならば止めたであろう。しかし、私はこういった。
「そうか。アイズ、手を出すな。これはベルの冒険だ」
「リヴェリア...でも、あの武器でこの数は...」
無論、アイズでさえ私を止めようとした。
「危なくなったら手を貸してやれ。でも、それ以外は見ておいてやろう」
まったく、本当に私はどうしたのだろうか。
ここまで、入れ込むほどの器の持ち主か?ベルは。精神疲弊で倒れるような、駆け出しの冒険者だぞ?あんな数の相手を取れるわけがない。
頭ではわかっている。だが、私は彼の戦いを見てみたかったのだ。
そして...ベルはいとも簡単にその希望に応えた。
「【友を守ると契りをたて全てを切り伏せよ】シュゴテン」
「「!!」」
笑みが思わず顔に出た。それもそのはずだ、彼は魔法を使ったのだ。
ただの魔法ではない。走りながら詠唱するという、並行詠唱をおこなったのだ。
並行詠唱とは、本来立ち止まって詠唱する魔法を、高速移動しながら詠唱するというものだ。しかし、それにはリスクが大きい。
魔法とは失敗や暴発を防ぐために落ち着き、立ち止まってするものである。つまり、行動しながらの詠唱というのは自らの魔法が暴発、失敗する可能性が増えるのだ。
「リヴェリア...あの子」
「ああ、短い詠唱だが、間違いなく並行詠唱だ」
並行詠唱とは、かなり難しい。事実、うちのファミリアのLv.4魔導士でもへこたれるほどだ。
それをLv.1でやり遂げるなど、普通ではなかった。
「...リヴェリア、なにか楽しそうだね」
「...そんなに顔に出してたか?」
「うん。リヴェリア、レフィーヤに訓練教える時と同じ顔してた」
思わず、少し自分の顔を隠した。
「ゴ、ゴホンッ....それでアイズ、お前から見てベルはどうだ?」
「...剣筋も甘いし、速さもまだまだ。ナイフの使い方も自分で編み出したと思うから、隙もある」
「ほぉ...それで?」
アイズがまだ何か言いたそうにしているため、さらに聞き出す。少しアイズは、むっとした顔をするが気にはしない。
「...でも...私はベルは強くなる。絶対に」
「そうか....。ん?」
私は何かに気づき、ベルの方を見ると
「【全てを粉砕せし力よ我が身に宿れ】コンゴウリキ」
さらに激しい戦闘の中で、魔法を一つ発動した。それを見て、さらに驚く。
「っふふ、まったく...惜しいな」
「?」
「もしもフリーなら、全力でうちに勧誘していただろうな。私も、フィンも」
「...そう..かもね」
そして、ベルの戦闘を見続ける。するとその時。
「っぐ!」
「アイズ!!」
「うん!」
背から攻撃を受け、ベルはバランスを崩す。それを見た私はアイズに指示を出し、アイズはベルに向かって凄まじいスピードで走っていく。
(数は...十体か。あの武器で良くあそこまで倒したものだな)
そう感心していた時だった。モンスターの間からベルの顔が見えた。その顔は...悔しい。ただ、その一言を表したようだった。
そして次の瞬間にそれはおきた。突如、ベルを囲んでいたモンスターが吹き飛んだのだ。
「い、いったい...!?」
そこで目にしたのは、先ほどまで雪のように真っ白だった髪が、炎のように赤く染まったベルの姿だった。
その光景に思わず、アイズも足を止める。そして、ベルは私たちに向けてこう言った。
「...悪い、心配かけた。...すぐに終わらす」
先ほどまでの口調とは打って変わり、男らしい口調になっていたが...それよりも気になったのは、彼の持っているナイフだ。
(なんだあれは!?魔剣...いや、さっきまでただのナイフだったはず)
禍々しい靄が、ナイフを包み込んでいた。そして、先ほど吹き飛んだモンスター達が、ベルに向かって一斉に襲いかかる。
「【全てを喰らい尽くせ】...ロードイーター」
だが、それは突如消え去ったのだった。
いや、実際には違う。突然、赤い何かがナイフから出てき、モンスターを飲み込んだのだった。
「なにが...おこったんだ」
私はその状況を理解できなかった。
ふぅ、なんとか終わったな。
「すいません、心配かけました」
「え、あ...だ、大丈夫だった?」
「ああ、問題なかったですよ。...どうしたんだ?俺の顔に何か付いてますか?」
「え、顔というか...髪が...」
髪?
俺はそう言われ前髪を引っ張り、見ると...赤かった。
え?ちょっと待て、俺の髪って赤だったか?いや、それ以前に...俺って俺のこと俺って呼んでたっけ!!?
少し、なにを言っているかわからないが、完全に混乱していた。
「な、なんで..それに何か口調も変わってねぇか!!?」
「べ、ベル?大丈夫か?」
「リ、リヴェリアさ〜ん...なんか髪が赤くなったぁ〜。って、あぁ!!ナイフが壊れてる!!」
「あ、ああ。そのようだな。...何か体に変化などはないか?どこかが痛いとか」
「ナイフがぁ!!ナイフがぁ!!」
「落ち着け馬鹿者!」
そう言ってリヴェリアさんは、俺の頭に拳を落とす。俺はそれをくらい頭を抱えながらおさえる。
「まったく...とりあえずここから出ることにしよう。話はそれからだ」
「うん...」
「は、はい...」
いったいどうなったんだ俺の体。
俺たちはそのままモンスターに出会うこともなく、ダンジョンを抜けたのだった。
「で、改めて聞くが..大丈夫か?」
「...逆に聞くが...大丈夫に見えますか?」
もはや、敬語か敬語じゃないのかわからない口調になっていた。
「だ、大丈夫には見えないな」
「大丈夫?ベル?」
アイズさんはそう言いながら、落ち込んでいる俺の背をさする。
いや、アイズさん?俺別に吐きたいとかじゃないからね?
ここは、ダンションに入る入り口前。周りに人はおらず、月が地上を照らすだけだった。
「とりあえず、もう遅いからホームに戻...れないのかそのままでは」
「はい。説教の時に言った通り、俺のファミリアって俺しかいないので、もしも神様に知れたらめんどくさい...です」
「そう言うが...このようなスキルは私は見たことも聞いたこともないからな。アイズは?」
「私も...」
「マジですか...」
どうする?ヘスティアのことだし、俺が髪赤くなったりしたら「ベル君!!君はいつからそんなやんちゃな子になったんだい!!?」とか言い出しかねない。
あぁ!!マジでどうする!!
「...でも、これってベルの力...だよね?だったら、消すこともできるんじゃ...」
「あ」
そうだ。これってもともと俺の力...ではないが!今は俺の力なんだから消すこともできるはず!!アイズさんあったまいー!
テンションがおかしくなっているが気にしない。
「えっと、どうやって消すのか...消えろ!!」
.....変化なし
「元に戻れ!!」
「「.....」」
「変身!!」
ダメだ。まったく元に戻らない。というか、お二人様?そんな可哀想な目を向けるのやめてもらえませんか?
「...何か、他に思いつかない?」
「って言われても...俺はただ
瞬間、僕の髪が白く染まった。
「戻った...のか?」
「そう、みたいです...」
僕は髪を引っ張り確認する。本当に元の真っ白な髪の毛だったら、
「いったいどうして...」
「まぁ、戻ったのであればいいじゃないか。さてアイズ、私たちも戻ろう」
「え...あ、うん。またねベル」
「ベル、今日はいいものを見させてもらった。...今度また一緒にお茶でもしよう」
「あ、はい!さようなら!」
僕たちは二人に挨拶だけして、二人と逆の方向に歩き出したのだった。
そして次の日ーー
「ん...ふぁ〜...」
「今日はえらく眠そうだねベル君。昨日眠れなかったのかい?」
「え?...あ、そ、そうなんですよ〜」
言えない。魔法が発現して、今日まで待てずにダンションに潜ったなんて口が裂けても言えない。
「ふぅ〜ん...。まぁ、いいや。それよりもベル君!昨日読んでた本を貸してくれよ。今日は昼まで暇なんだ」
「あ、いいですよ。えっと...はい、どうぞ!」
僕は本を手に取り、神様に渡す。今日は夜まで【ヘファイストス・ファミリア】で仕事らしいけど、大丈夫かな?
そんな心配をしていると、神様の肩が震えているのが見えた。
「神様?どうしたんですか?」
「ベル君...これって
なんだろう。すごく嫌な予感がしてたまらない。
「な、なんですかそれって」
「...簡単に言えば、
確か、【ヘファイストス・ファミリア】一級品装備の値段は何千万ヴァリスだった。
「......」
「......」
「......」
「.....僕、今すぐ謝ってきます!!」
僕はダッシュで神様から本を奪い取り、ホームを出ようとする。だが、それを止める者がいた。そう、神様だ。
「なにをするんですか!!?離してください神様!!」
「君は潔癖すぎる!!世界は時として神より気まぐれなんだよ!!?」
「こんな時になに名言生み出してるんですか!!?というか、そんな気まぐれ嫌ですよ!!と・に・か・く!僕は行きますからねー!!」
「あ、べ、ベルくーん!!...」
神様の僕を呼ぶ声を無視しながら、僕はこの本を貸してくれたシルさんの職場、《豊穣の女主人》に向かった。
「はぁはぁ...す、すいません」
「おおう、少年じゃニャいか。おっはー、ニャ!」
掃除をしていた、キャットピープルの少女。確か名前は、クロエさんに迫り、シルさんの場所を聞く。
「シルさんはどこにいますか!!」
「ニャニャ!?朝っぱらからシルにニャんのようニャ?」
「いいですから早く!!」
「は、はいニャ!!?」
僕の焦った顔を見たからか、すぐにシルを呼びに行ってくれるクロエさん。そして、待つこと数十秒。
「おはようございます。ベルさん、私に何か...」
「シルさーん!!」
「ふえ!?べ、ベルさんどうしたんですか!?」
「じ、実は...」
そして、僕はこの本についての事を話す。最初に普通に聞いていたシルさんだったが、だんだん笑顔が硬くなっていった。
「と、いうことです」
「ベルさんなんてことを...」
あっれぇ!?僕のせい!!?
そのあとに女将さんが出てきて、忘れていった奴が悪いと言い、本のことに関しては許してもらいました。
あと、シルさんにバスケットをもらって。