「にしても本当になんだったんですかアレ?」
「あはは...ごめん。僕もよく分かってないんだ」
先ほどの男の提案を断った僕は、ダンジョンに向かいリリと並んで入って行っている最中だった。今回、リリの提案もあって僕自身も初である10階層に足を踏み入れることになった。
リリいわく、僕の腕ならばーーつまりはステイタスならば、10階層までなら行けるらしい。
(でも...10階層か...)
『なんじゃベル、あの牛を恐れておるのか?』
「うわぁ!?」
「べ、ベル様!?どうかしましたか?」
いきなり奇声をあげた僕を心配するリリに大丈夫と伝え心を落ち着かせる。
(いきなり話しかけてこないでくださいよ童子さん!びっくりするじゃないですか!)
『お主がボっとしてるのが悪い。いついかなる時でも気の緩めすぎはいかんぞ?』
そう言われると確かにと納得せざるおえない。確かにダンジョンに入る前とはいえ、気を緩めすぎていた僕が悪いのだから。
『で、ベルよ。お主あの牛を怖がっておるな?』
(....まぁ、はい)
あの牛...それは僕を死の直前にまで追い込んだLv2のモンスター《ミノタウルス》の事をさしていた。そう、10階層からはあのミノタウルスと同じ大型モンスターが出現するのだ。
『我は怖がるなとは言わんよ。だが、戦ってもせんうちに弱気になるのはやめおけ。それは、勝てるものも勝てなくなってしまう呪いじゃ』
(童子さん...心配してくれたんですね?)
そう言うと少し慌てた様子でーー
『ば、馬鹿者!ただ我は我の契約者であるお主が死んでしまったら我はどうなるかと思っただけじゃ!それ以外の意味はない!!』
頭が痛くなるようなほど大きな声をだす童子さん。やはり彼女はなんだかんだいって優しいのだ。
(わかりましたよ。....そうだ童子さん聞きたいことが...)
『あの髪と口調の事じゃろう?ちなみに言っておくと我ではない。だが、知らんというわけでもない』
(でしたらーー)
『しかし、コレはお主が自分自身で越えるべき壁じゃ。よって我はこのことに関しては力を貸さぬ』
(そ、そんな〜...)
童子さんならば教えてくれると思ったのだが、どうやら期待が外れたようだった。だが、童子さんは話し終える寸前にこう言った。
『ベル、我はお主の味方じゃ。きっと...そう、どこまでいっても』
それを最後に童子さんの言葉は聞こえなくなったのだった。童子さんは味方。なんだろう、
その言い方じゃまるで...僕の周りに敵がいるみたいじゃないか。
「ベル様?ダンジョンに入りますよ?」
「え、う、うん。行こうかリリ」
そして、僕達はダンジョンの10階層を目指し潜ったのであった。
「では、よろしく頼むぞチュール」
「はい、わかりました」
ギルド本部から上司に見送られながら、私はそこを出た。今日はバベルで展開している店のチェックに向かっていた。チェックといっても何か不正をしていないかなどの簡単な仕事だった。
(でも、結局ベル君には会えずじまいか〜)
自分が手に入れた【ソーマ・ファミリア】について、少しでも教えたかったのだが、会えないのならば仕方がない。少しため息を吐きながら、私はバベルに向かって足を進めていた。
そして、大通りから中央広場へと足を踏み入れた時だった。
(ん?アレって...)
誰もが目を奪われる金。宝石の如く金に輝く髪に女神顔負けの美貌。このオラリオで知らぬものはいないとされている冒険者、アイズ・ヴァレンシュタインその人が、こちらに歩いてきているのが気がついた。
「お、おはようございます。ヴァレンシュタイン氏」
「....おはようございます」
少し間があったが、それでもペコリと返事を返してくれた。それと、なんだか元気が良さそうだった。実は昨日もヴァレンシュタイン氏を見かけたのだが、その時も機嫌が良さげだった。
「...やっぱり男?」
「え?」
「あ、い、いえ!なんでもないです!!」
どうやら声に出ていたらしく自分でビックリした。どうやら彼女は、これから買い物に向かうらしい。それと、可愛い可愛い弟分のために少しお節介をすることにした。
「ヴァレンシュタイン氏、先日は自分の担当冒険者を救ってくださってありがとうございます」
「....あ、ベルのこと?」
「はい、そのベル・クラ....ってヴァレンシュタイン氏、何故彼の名を?」
「....この前...二日前に会えたから。ダンジョンでリヴェリアと一緒に。その時に...」
二日前、つまりはリヴェリア様から聞いたベル君が倒れていた時に一緒にいたのだろう。今度、ベル君にお説教するために彼女にも話を聞こうとしたのだが...その時、怪しい三人組の男がバベルの前で何か話しているのが見えた。背中には三日月が描かれたエンブレム。【ソーマ・ファミリア】だ。
「おいーーーーしくじるなよ」「わかってーーーーーアーデの奴に」
(アーデ...それって確かベル君のサポーターの名前じゃ)
読心術で遠くから読み取った男たちの会話にあの話していたサポーターの子の名前が入っていた。ただの偶然かと思ったが、彼らの様子を見るところ何かをしでかすように見えたのだった。
私はヴァレンシュタイン氏の方に向き直り頭を下げる。
「無礼を承知で言います。どうか私の担当冒険者ベル・クラネルを助けてはもらえないでしょうか?」
「.....」
「お礼なら必ずしますだから...「いい...よ?」え?」
思いのほか早く返事が返ってきたことに驚き顔を上にあげた。
「...彼には少し興味もある。だから...いいよ?」
なんとヴァレンシュタイン氏は何も聞かず、良いという返事を返してきたのであった。当の本人は当たり前かのようにたたずんでいる。
「よろしいのですか?」
「....うん。私も...彼にもう一度会いたいし」
興味がある、彼にもう一度会いたい。それだけ聞けばいったいどういう事だと勘違いするやつもいるだろうが、事実は全く違う。
アイズは彼の潜在能力に興味があり、そして会いたい理由はあの時に触った髪の毛の感触が忘れられないからだ。
エイナはもれなく頭の中でどういう事だと混乱しそうになったが、とにかくアイズに頭を下げ、ダンジョンに入っていくのを見守った。
現在ベルたちは、10階層にたどり着きあたりを見渡していた。周りは葉のついていない木のような物が立っており、天井は10Mほどの高さがあった。
「にしても霧がすごいな...リリ、離れないでね?」
「....はい」
あたりは霧のようなものが充満しており、少し薄暗く感じた。だが、それよりも気になったのはリリの様子だった。先ほどから平然を保っているが、少し不自然な様子がした。
しかし、きっと何かファミリア内で嫌な事があったのだろうと、聞かない事にした。
「ふぅ〜...さて」
僕は右手にラスト・オーダー。左にヘスティア・ナイフを持ち唱えた。
「【世の理を覆し鬼よ
酒に酔いし我、友と共にこの世を否定せん
ひとつちぎれば恐れられ
ふたつ喰らえば逃げ出され
みっつ引き裂きゃ死合いを望まれたもう
我の名聞きたきゃ目を覚ませ】」
「【オールドシルバー】」
髪は白から銀に変わり、体が軽くなるのを感じる。リリはというと、何か驚くような顔をしていた。
「ベル様、何故今その魔法を?」
「え?いや実は入ってくる前に....ッ!!話はあと、リリは後ろに隠れて!」
その言葉と同時に地面から、モンスターが出現ーー生み出されたのだった。豚のような顔に出ている腹。手には天然武器である棍棒を手に持っている。このモンスターの名は《オーク》。あのミノタウルスと同じ部類に属される魔物だった。
(やっぱり怖い...でも!僕の憧れるあの人たちはこの程度じゃ止まらない!!)
「こい」
『ブモォォォォオオオオ!!』
オークはその言葉を理解したのか、手に持った棍棒を僕にむかって振り下ろしてくる。それを横に飛んで避けた僕は手の平をオークに向けた。
「ライトホーリー!!」
『ブモォ!?』
その瞬間、光の塊が線を描きオークの体を貫通した。やはりこの魔法は貫通力が高いらしい。
だが、腹を貫通されたオークは最後の力を振り絞ってなのか、再度棍棒を振り上げた。その隙に僕はオークに近ずく。
「たりゃぁぁああ!」
『ブモォォォォオオオオ....』
横に一閃。
「リリ終わった...よ」
そして、そこで気がついた。後ろにいたはずのリリがいなくなっていたのだった。それと何かすごい匂いがする袋が数個僕の周りに置かれていた。
その時、また新たに複数のモンスターが現れたのだ。その十数匹。いくら僕でも厳しい数だった。
「ッチ、リリ!!リリ!!どこに行ったの!」
そう叫び周りを見渡していると、突如手に持っていたはずに武器の感触が消えた。驚き思わず振り向くと、そこには崖の上で僕の武器を二本持っているリリの姿があった。
「リ....リ?」
「すいませんベル様。でも、私にはこれしかないんです...」
リリは悲しそうに、辛そうに顔をしかめた。
「それではベル様。もう、会う事もないでしょうが...頑張って逃げてください」
そう言って彼女は僕の視界から消えた。残された僕はポツンと何が起こったのかわからないといったようにその場で立ちすくんだ。だが、背後からは決して少なくない数のモンスター。武器は何もない。
それでもーーー
「....けよ」
『グオォォォオオオオオオ!!!』
「どけって言ってるだろ!!」
そう叫んだ時、凄まじい斬撃がモンスターを二つに分けた。金に輝く髪に今、放ったと思われる剣。そこにいたのは僕が憧れ、目指している人。
「大丈夫?ベル?」
「はぁはぁ....【響く十二時のお告げ】」
息切れをしている中、自らの魔法の詠唱を読み上げる。すると、自分の頭についていたはずの動物のような耳はなくなる。
【シンダーエラ】
自分が唯一所持している魔法である。効果は変身。自分自身が想像したものに返信できる魔法だ。これにより、パルゥムである自分が犬人yのような姿になれたのだ。
(それにしてもベル様...大丈夫かな)
ふと、自分が騙した白髪の少年のことを思い出したが、慌てて首をブンブンと振り忘れようとする。
そうだ、彼も冒険者だ。傲慢で自分勝手な私の大っ嫌いな
そう考えようとした。そう思うようにした。だが、それでも頭からあの声が、あの顔が忘れられない。
「....ベル...様」
ついに私は足を止めてしまった。ここはダンジョン。モンスターが蠢く死と隣り合わせの場所。
だが....
「お、いたいた」
「え?ッキャ!?」
突然背後から襲った衝撃によって前に転がる。倒れた体をできるだけ早く起き上がらせ、その正体を見る。
「あ...あ...」
「さぁ、あの時の借りをたっぷり返させてもらうぜ?」
そこには、モンスターよりも自分が恐ろしがっている
「いやぁ〜以外に早かったですね?」
そう背後から声をかけたのは、自分の知っている顔だった。カヌゥ、自分と同じ【ソーマ・ファミリア】の人間だ。
そして、カヌゥの腕には死にかけの《キラーアント》の死骸。キラーアントは死ぬ直前になると、大量のフェロモンを出し仲間を呼ぶ。
それを知ってか、自分を殴りつけていた男の顔が青く染まる。
「テメッ!!ふざけ...ッチ!!」
周りからカサカサと音が聞こえてくる。そう、キラーアントだ。カヌゥ達は私にこう言った。「助けてやろう。その代わりにお前の金庫を教えろ」
ああ、こんな時でもなんて現金なやつだろう。それでも教えてしまった。助かりたいから?いや違った。
「じゃあ、お前はこいつらの囮にでもなってくれよ」
こうなりたかったらだ。自由に...なりたかったからだ。
カヌゥ達は笑いながら、走って逃げていく。一人、リリはキラーアントの大群に囲まれてしまう。
死ぬのか。こんなにあっさりと。そう考えると思わず笑いそうになる。
(神様、どうかもしもリリに次があるなら....今よりはずっと幸せにしてください)
それと同時に今までの記憶が頭の中に蘇る。本当にまともな人生じゃなかったな。記憶を思い返していくうちに見つけた。見つけてしまった。
白髪の少年の笑顔を
「....ベル...様。...助けて...ください」
誰もいないのに思わず口を押さえた。聞こえるはずもないのに、聞いてくれるはずもないのに。だが、頼ってしまった。自分が騙した相手を。
だが、その帰ってくるはずのない願いに
「うん、助けるよ」
少年は答えた。
「邪魔だ!!」
『グギャ!』
細い道を走り抜ける。モンスターと何回か会ったが、それでも足を止めることなく僕は走り続けた。
遅い。もっと...もっと速く!!
「【迅速に凄惨にあの場に届け】ジンライ」
その瞬間、今までにない速度で自分は走り抜けた。
あのモンスターの群れは通りかかったアイズさんに任せることにした。今度、またお礼をしなくちゃ。
けど今は...
「リリィィィイイイイイ!!」
叫ぶ、探し求めるものの名を。そして聞こえた。
「ベル...様。...助けて...ください」
その声を聞くのと同時に僕はリリを発見しこういった。
「うん、助けるよ」
「ベル...様...ッ!!」
僕を見て、信じられないような顔をするリリに笑顔を一つ向けると、僕は周りの気配に意識を向ける。
「童子さん」
『わかっておる。ゆくぞベル」
「『【血に濁りし呪いよ我は汝を主と認めようゆえに汝よ我に命を預けよ】』」
「『【ジ・オーガ】』」
ドンッと周りの空気が揺れる。重くまるで鉛のようなその空気を感じたのか、キラーアントの大群は飛びかかって来ない。
それもそのはずだ。その空気を作り出したのは...
「こい、僕が相手だ」
この銀色の少年なのだから。
『ギ、ギギャァア!!』
本能、まさしくそう呼ぶに等しいキラーアントの攻撃は今のベルにとって凄く遅く、生ぬるいものだった。
「『爪よ』」
瞬間、飛びかかった数匹のキラーアントはズタズタに切り裂かれた。ベルも手には武器などはない。だが、その代わりにソレがあった。
白く光り輝く長い爪。それでキラーアントを切り裂いたのだった。
「さぁ...」
『ギ....』
「終わりにしよう」
その言葉を最後にベルとリリの周りからは何もいなくなった。
「なんで来たんですか」
「え、でもさっき僕の名前を...」
「っ!!呼んでません!」
「え、でも...」
「呼んでません!!」
「はい!」
さっきの雰囲気はどこにいったのか、そこには正座しているベルと説教をくらわすリリの姿があった。
リリはどうして自分なんかを助けたのか、自分など見捨てればよかったのにと叫んでいる。
だが、それに対してのベルは...
「え、でもリリがそこにいて困ってるんだ。助けないわけないじゃないか」
「ッ!!?」
まさかのカウンターを食らい、顔を赤めるリリ。ベルはそれを見て首をかしげる。
「それと...すいませんベル様。ナイフと剣を取られてしまって...」
「え?ああいいよ。あともうちょっとで帰ってくるから」
「え?...それはどういう...」
すると、リリの背後からカランと音がなる。そこにはなんと先ほどのナイフと剣が落ちてあったのだ。
実は先ほど、戦闘が終わると同時に...
(童子さんお願いします)
『じゃがの〜お主の体から出て行動するのは疲れるんじゃ。なんの見返りもなくするのはの〜』
(今度なんでも一ついうことを聞きますから!)
『よしわかったいってくる』
(え?)
と、いった会話があったのだ。というか冗談で言ったのだが、どうやら童子さんは僕の体を出て少しだけ行動できるらしい。実態は僕以外に見えないようだが。
『ほれ、持ってきたぞベル。まったく...我をこんなことに使うなんてお主が初めてじゃぞ?』
そう言って体の中に戻る童子さんにお礼を一つ言ったのだった。
「さて、じゃあ帰ろっか」
「ですが...」
「...リリ?」
「はい...あいた!?」
僕はリリにデコピンをする。うぅぅぅ...と言ってる姿は可愛かったがそれは置いておく。
「リリ、僕は君のパートナーだ」
「!!」
「僕を恨むなら恨んでもいいよ。でも...それでも、僕は君を許す。何があっても、どんな事をされてもだ」
「...どうして...どうしてそこまで」
どうして?そんなものは決まっている。
「困ってるのがリリだからだよ」
そのあとリリは僕の胸の中で涙を流しながら謝り続けた。それに対して僕はずっとウンと答えるのだった。
そして、次の日。そこには白髪の少年と小さなサポーターの姿があったという。