ここは光源が心もとない、暗く湿った場所だった。
天井に吊るされる魔石灯は一つを除き、沈黙し部屋の所々に闇を作り出していた。
奥には一M四方程度の木箱がありがとう武器が立てかけられている。
そしてさらに、その奥にいくつもの大きな檻が鎖に繋がれ並んでいた。
そうここは、フィリア祭の出し物モンスターの補完場所だ。
「何をしている、次の演目が始まるぞ!?なぜモンスターを上げない!」
この祭の主催者でもある【ガネーシャ・ファミリア】の女性が声を荒げる。それもそのはずだ。出番がもう来ているというのに、まだ地上にモンスターが上がってきていないのだから。
だが、彼女の声に応える者はいない。
「な....おい!いったいどうした」
それもそのはずだ。そこにいたのは、目の焦点が合っていない仲間達が倒れていたのだから。モンスターの毒ではない。まるで...体の糸がきれたかのよ...
「動かないで」
その言葉を聞いた瞬間体が動かなくなる。
そして自分の目をうかがったそこにいたのは『美』そのものだった。
感覚すらマヒするほどの魅了。
抗えない、ありえない、逆らえない、自分自身がこの『美』に反抗するのを否定していた。
「鍵はどこ?」
「..え?」
「檻の鍵はどこかしら」
そういい『美』は手を差し出す。すると自らの手が腰についてある鍵を『美』の手のひらに落とした。
「ありがとう」
その一言で私の意識は切れた。
「ごめんなさいね」
そう言いながら鍵を受け取り、倒れた女性を見る『美』こと女神フレイヤ。
ここ下界で何も力が使えない彼女が?どうやってここに来たかというとーーーー
本当にただそれだけだった。
彼女の道を塞げるものなど少なくともこの付近にはいなかった。
そしてフレイヤは檻の前を歩き...二つの檻も前で立ち止まる。
「あなた達がいいわ」
一つは、真っ白な毛を携えた大猿。名を《シルバーバック》と言い大きな手や足を持つモンスター。
二つは、赤い鱗に纏われたシルバーバックよりは大きさは断然劣るも、強靭な尻尾持つトカゲのような、《レッドテイル》というモンスター。
「出てきなさい」
そう言い鍵を開けると二匹は従うように一歩前に出た。
(あの子もここに来ている)
フレイヤは思うそう、少年ベル・クラネルのことを
(ああ、ダメねもう少し成長を見守りたかったけれど)
フレイヤは知っている。ベルの成長が常軌を逸していることを
(ちょっかいをだしたくなってしまった)
目の前の《レッドテイル》と《シルバーバック》の頬を撫でる。
ああ、なんて私は悪いのかしら。
おそらく今回でもしもベルが死んでしまったりしたら、自分も天界に帰り追いかけるだろう。なんとしてでも彼を...ベル・クラネルを追いかけるだろう。
そして最後にモンスターの耳元で言う。
「小さな
『『グゴオオオオオオオォォォアアアアア』』
雄叫びをあげながら周りの檻も壊し飛び出していった。
小さな
「といっても...その探している子やさっきのアドバイザーくんもだけど、君も案外抜け目がないなぁ」
「な、なにがです?」
「しるもんか!」
そう言い神様はそっぽを向く。
な、何か悪いことでもしただろうか?
ーーーァァ
ん?
「今、悲鳴のようなものが聞こえませんでした?」
「え?」
そしてその声は大きくこう聞こえた。
「モンスターだああああああああ!」
僕達は目を見開く間もなく走り出していた。
見つけた、見つけた、見つけた、見つけた、見つけた、見つけた、見つけた。
あの神に言われた。「小さな
見つけた....逃がさない!!!
その眼に映っていたのは....ヘスティアだった。
「ガネーシャ様、ガネーシャ様!?大変です。一大事です!!?」
モンスターが逃げ出したということで部下の兵はパニック状態ガネーシャもまともな指示を....
「何を隠そう...俺がガネーシャだ!」
「いや、隠せてないし自己紹介してる場合ですか!?」
....いつもどうりだった。
「モンスター達が入っていた檻を脱走しました!」
「え、それまずいだろ?」
「だから、言ってるんじゃないですか!?」
そして見張りの兵が何者かに戦闘不能にされたこと、ギルドにも被害が出ていることから外部からの犯行と考える。
ガネーシャはかんがえこみ低い声でこう聞いた。
「逃げ出したモンスターの数は?」
「は、はい九匹です。中には腕利きの冒険者でもかなわないようなモンスターも」
闘技場ではかくもモンスターを
「よし、大至急モンスター達を追わせろ!他のファミリアと連携して一刻も早く騒ぎをおさめろ!」
「待ってください!確かに今回はこちらの失態ですが、他のファミリアにそんなことをしてしまったら付け入られ...」
その言葉を全て聞く前に、ガネーシャは怒鳴る。
「俺は【
「!!も、申し訳ありません!」
「祭はこのまま続ける。今、闘技場にいる民衆を決して外に出すな。モンスターが逃げ出したということを悟られぬようにしろ。そして...今は、犯人の捜索は良い。全力でモンスターを沈黙させよ!」
「はい!」
この
ギルド側にて
「モンスターがにげたぁぁあ!?」
こちらにも情報が回っていた。
「う、うん整備場から出てくるのを【ガネーシャ・ファミリア】の人が見たんだって。ど、どうしようエイナぁぁーー!!」
今にも泣きそうな目に前の友人をなだめる。
「早く他のファミリアにも連絡とって!ガネーシャ様なら民衆のことの方を優先するはずだから。勝手にしても許してくれるはずよ!」
「そ、そうだね!命の方が大事だもんね!!」
そう言いながら連絡するために向こうの部屋に駆け足で走っていった。
「すいません、なにかあったんですか?」
慌てていると、後ろから声がし振り返る。
綺麗な金色の髪を持ち類稀なる美貌を持つこのオラリオでトップクラスの実力者。
「アイズ・ヴァレンシュタイン...」
誰かがそう声に出した。
アイズ本人は皆ジッと彼女を見るので少し居心地が悪そうだ。だが、今は、願っても無い人物だった。
ことの経緯を言った後にーーー
「ロキ」
「ん。聞いとった。もうデートどころじゃないな。ここでガネーシャに借り作っとこか」
その神の言葉を聞き、この場にいる人がおぉと声を漏らす。
「で、モンスターはどの辺いったかわかるか?」
「はい、ほとんどが東のメインストリート方角に向かったらしいです」
東のメインストリート...知人を探すと言い向かっていったあの少年、ベルがいる方角だ。
「ミィシャ、逃げたモンスターの種類は?」
「え、えーと...確か、ソードスタッグにトロールにシルバーバック..あとレッドテイルだったかな」
友人の言葉に眉間を寄せる。
シルバーバックは11階層。レッドテイルは15階層。トロールとソードスタッグにいたっては20階層よりもっとしたに生息する。
駆け出しの冒険者が敵うわけもない。
(お願いだから無事でいてよ)
そう願うことしかできないのであった。
空気が張り詰める。
『グルルルルルル』
目の前のこいつはシルバーバックは確か11階層に出てくる化け物だ。
エイナさんとダンジョンでの知識をつけていた時に教えてもらった。
自分が到達した階層のはるか下層...今の僕では勝てない。
『ギャ...』
来るっ!!
その瞬間シルバーバックが飛びかかってきた。
僕は神様を抱きかかえ横に飛ぶ。ゴロゴロと二回転ぐらいしながらその突進を避けたが、顔を上げた僕が見たものは、もう一度こちらに飛びかかろうとするシルバーバックの姿だった。
(なんでこっちに!)
僕は後ろにいた神様を右手に制しルートから外れた方向に向かわそうとするが、
『ギャァァァアアアアアア』
雄叫びをあげながらシルバーバックは
「っつ!?なんで神様の方に」
立ちふさがろうとしたがその大きな腕で吹き飛ばされる。
吹き飛ばされ、周りにいた人々は逃げ惑う。
防具の上から食らったがすごい痛みだ。でも...
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びながらシルバーバックの鎖に飛びつく。
力比べなどしない...ただ...今!
シルバーバックが鎖を思いっきり引こうとした瞬間手を離す。するとシルバーバックは転、げそのうちに神様の手を引き大道りから逃げ出す。
「神様いったい何したらあんなに追いかけられるんですか!?」
「知らないよ!ボクと彼は初対面だ!」
路地裏を走り回り出た道は...
「ベルくんここはダメだ!」
「え?」
その言葉の意味を理解した。
ここは《ダイダロス通り》ダンジョンのように入り組んだ場所でオラリオにあるもう一つのダンジョンだ。
すぐに先ほど通った道の反対側に行こうとしたが、モンスターが迫ってきているのがわかり苦虫を噛むようにさらに奥に逃げた。
(逃げ切れた?)
だが、上から突如白い物体が降ってきた。
「ッグ!」
『グアアアアアアア!!!』
ただの威嚇。そう...あの時のミノタウルスと同じように恐怖それが僕を襲った。
(ああ、僕はなんて弱いんだ)
シルバーバックは神様に近ずいていく。
(動けよ)
神様はへたりこむ。
(動けって言ってんだろ)
神様が涙目になっている。
(いつまでそうしてるんだベル・クラネル!!お前は、男だろ!)
「うおおおおおおおお!!」
ナイフを片手にシルバーバックに走り出す。そして背に思いっきりナイフを突き刺した...が
ボキンッーーーー
「ナイフが...折れた?」
シルバーバックはすぐさま腕を横に振るが、それをしゃがんで避け、転がっていた魔石灯を手に取ると、跳躍してシルバーバックの目に押し付けた。
『グギャァァァアアアア!!?』
シルバーバックが悶えている。その隙に僕は神様を手を取り走る。
「ベルくん?おい...いったい」
「......」
そうだ、神様だけでも助かればいいのだ。
その思いで道を曲がったら、十字路の一つの広間のようなとこに出た。おそらく住宅地の区切りだろう。僕はそこにあった隧道菅の檻の中に神様を押し込んだ。
「べ、べルくん!?いったい何をしてるんだい!ここを開けろ!!」
「神様は逃げてください」
「き、君を置いていけるわけないだろ!」
「それでも行ってください!僕はもう...家族を失いたくないんです」
「っつ!」
僕はもう家族を失うのは嫌だ。もう何もできないで見ているだけなんて嫌なんだ。だから...
「大丈夫ですよ神様僕だって隙を見て逃げますよ。ぼくの
なるべく笑顔で僕は話す。精一杯不安にさせないために。
そして、先ほどの十字路に戻る。
レッグにつけていたミアハ製のポーションを一気に飲み干す。体力が回復し先ほどの疲れもなくなった。
そして、路地からシルバーバックが見えた。突き刺さるのは視線。おそらくこの周りの家からだろうだけど...一つだけ違う感じの視線がする。逃げているときもずっと...いったいーーー
『グギャァァァアアアア!!』
「っつ!」
考えるのは後だ!
シルバーバックは、腕を振り回し攻撃してくる。それを僕は避ける。ただひたすらに避けたが、いきなり足が前に来てそれを急いで回避したため、腕の追撃に間に合わなく吹き飛ばされた。
「ぐ、ぐは...はぁはぁ」
(視界が安定しない。そういえば、神様はちゃんと逃げれたかなぁ...ああ、もう少し神様と一緒にーーー)
「ベルくん!」
聞こえるはずのない声がした。いや、違う聞きたかったが聞きたくなかった声が僕の耳に入った。
「か、神様!?」
シルバーバックは神様の姿を見た瞬間飛び出していった。神様はそれを運良く避け、僕のとこまで走ってきた。
「神様!逃げてくださいっていったのに!」
「僕が君をおいて逃げれるわけがないだろう?それにボクを守りたいって?...その言葉そっくりそのまま返すよ」
「!!」
「ボクだって、君を守りたいんだから」
思い出したあの時の言葉「ボクを一人にしないでおくれ」
くそ...どっちがバカだよ...。
「で、でもこのままじゃ二人とも」
「諦めるにはまだ早いぜベルくん」
「え?」
「あ....」
神様が上を見上げてる。上を見たくないが...そこには腕を振り上げたシルバーバックがいた。
『グギャァァァアアアア!!』
「「ほあああぁぁぁぁぁあああ!!?」」
ちょ、神様足早い!?なんで僕の前に我先と走ってるの!!?
さっきの感動のセリフはいずこえ!?
「ふぎゅ!?」
「神様ぁ!?」
盛大に神様がこけた。それはもう綺麗に...言ってる場合じゃない!?
「神様、失礼します!」
「ふにゃ!?」
神様は猫みたいな声を出しながら抱きかかえられた。
おじいちゃんからよく聞いたことがある英雄達が姫を抱きかかえる方法...お姫様だっこ
「すまないベルくん、こんな状況なのに僕は今幸せを感じている」
「何言ってるんですか神様!?」
そして先ほどのダイダロス通りについた。
屋内から視線を感じるが、おそらく家に閉じこもっているんだろう。
そしてーーー
「行き...止まり?」
ここで運に見放された。だが神様の顔はまだ諦めていなかった。
「いいや、好都合だよ。ベルくん君がアレを倒すんだ!」